町あかり「私らしく歌いたい」流行歌カバーで得た新たな表現
INTERVIEW

町あかり

「私らしく歌いたい」流行歌カバーで得た新たな表現


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:20年11月08日

読了時間:約8分

 シンガーソングライターの町あかりが10月21日に、昭和の流行歌カバー・アルバム『それゆけ!電撃流行歌』をリリースした。2015年のデビューから歌謡曲のエッセンスを取り入れた楽曲で音楽リスナ ーからミュージシャンまで魅了してきた彼女が届けたのは昭和初期の流行歌。10月28日にはデジタルミニアルバムとして『それゆけ!電撃流行歌』からアレンジ違いのバージョン4曲を収録した『別冊!電撃流行歌』を配信リリース。インタビューでは100曲ほどの候補曲の中から厳選したという15曲の制作背景に触れるとともに、歌唱してみて感じたことや、これからの展望まで話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

歌い方に悩んだ流行歌のレコーディング

「それゆけ!電撃流行歌 」ジャケ写

――お名前が印象的なのですが、本名ではないですよね?

 はい。自分で付けたんですけど、明るい名前が良いなと思いました。その中で覚えやすくて、子どもたちにもわかりやすい名前を考えていて。漢字一文字と平仮名3文字というのも決めていました。それと、松田聖子さんや松任谷由美さん、浜崎あゆみさんとか、名前の出だしの母音が「a」だと良い、というジンクスをどこかで聞いたので、それも踏まえた結果なんです(笑)。

――こだわりがあったんですね。ボツになったお名前もあるんですか。

 雨いずみ、というのもあったんですけど、ちょっとしっとりしすぎかなと思いまして。

――確かに。さて、ジャケ写は漫画家で歌謡曲デュオ・泊や恥御殿バンドでミュージシャンとしても活動されている山田参助さんが手掛けていますが、どんな経緯で描いて頂くことになったのでしょうか。

 私が参助さんのファンだということを色んなところで言っていたんですけど、それを聞いていたディレクターさんがデュエットとジャケ写も描いてもらおうと提案してくれました。今作は100曲近く資料を頂いて、その中から自分が良いなと思った曲をピックアップしていった15曲なんですけど、参助さんとデュエット出来る事が決まって、ワルツ調で可愛いなと思った「花言葉の唄(duet with 山田参助)」をデュエット曲に選ばせていただきました。

――参助さんの歌い方はすごく“味”がありますね。

 今、こういう歌い方される人って珍しいですよね。レコーディングの時も、もう亡くなってしまった大御所の歌手とデュエットしているみたいと、盛り上がりまして(笑)。

――確かに大御所感あります。ところで、今回流行歌をカバーしようとなった経緯は?

 横浜でお店をやっているギタリストの方と知り合いなんですけど、そのお店でライブをした時に横浜にちなんだカバー曲を歌ったことがきっかけなんです。その時に「上海帰りのリル」を歌わせて頂いたんですけど、すごくドラマチックで感激しまして。その後に年末に開催しているクラブのイベントにいつも出演させて頂いているんですけど、いつもと同じじゃつまらないかなと思い、流行歌のカバーをやってみようかなと思いました。あえて流行歌をクラブで歌うというのが面白いなと思いまして。

――面白い組み合わせですよね。

 そのライブを今作をマスタリングして下さった永田一直さんが録音してくださっていて、カバーを「面白いね」と言ってくださって。そのライブ音源を知り合いに配りました。それが流れ流れて、今回のディレクターさんのところにたどり着いて、それを聴いたディレクターさんが「音源化したい」と、連絡して下さったのが今年の初めくらいでした。

――では、ステイホーム期間はこのアルバムの制作を?

 ステイホーム期間は、この前発刊された『町あかりの昭和歌謡曲ガイド』という本を執筆していました。私は70年代や80年代の音楽が大好きで、ネットで調べたり、聞いたりしながら、情報収集した歌謡曲のガイドブック的な作品を書かせていただきました。そこから5月からアルバム制作の準備に入って、6月にレコーディングがスタートしました。

――さて、流行歌という事でどのような事を考えて制作に臨みましたか。

 これまで私が聴いてきた音楽とまた違ってめちゃくちゃ難しくて、どうやって歌うのか、表現の仕方を考えて望んだんですけど、すごく大変でした。こんなに悩みながらレコーディングしたのも初めてで。レコーディングした直後は客観的に聴けなかったんですけど、今はめちゃくちゃ気に入っていて毎日聴いています。数ヶ月経って聴いてみたら、自分の事ではないような感覚もあります。

――新たな発見もありました?

 曲によって雰囲気を変えてみたりしたんですけど、自分で聴いてみて、こんな風にも歌えるんだ、という発見がありましたし、めちゃくちゃ勉強になりました。

――特に歌い方を悩まれた曲は?

 どれも難しかったんですけど、「青い山脈」や「丘を越えて」は特に悩みました。それで出した答えはとにかくまっすぐキレイに歌うと決めて。逆に「東京シューシャインボーイ」は、いつもの私らしく歌えば良いのかなと思ったので、スムーズだったんですけど。

――個人的には「アイレ可愛や」の歌も良かったです。

 ありがとうございます。ちょうど参助さんがこの曲のレコーディングの時にいらっしゃって、この曲を気に入って下さいました。オリジナルの笠置シヅ子さんの魅力もたくさん詰まっている曲なんですけど、笠置さんのマネをするというわけではなく、私らしく可愛らしく歌いたいなと思いました。流行歌はこれまでに沢山の人がカバーされている曲もあるので、オリジナル以外の歌も聴いて参考にしたり。あと、キーをどうするか、というのも悩みました。キーによって楽曲の雰囲気がすごく変わってしまうので。「上海帰りのリル」は深い、重い感じにしたかったので自分の限界の低さに挑戦しました。

――どの曲もかなり昔の曲なんですけど、古さを感じさせなくて新鮮に聴けました。ところで「港が見える丘」のアナログ盤のジャケ写とCDブックレットの中に町さんのレトロなお写真がありますけど、これは?

町あかり

 これ、地元の証明写真で撮影したものなんです。ディレクターさんが証明写真で撮影してきてほしいと頼まれたんですけど、口のパターンを変えて6枚撮ったんです。これがまたけっこう大変でして、30分くらいかかりました(笑)。

大衆的なものにしていきたい

「別冊!電撃流行歌」ジャケ写

――10月28日に『別冊!電撃流行歌』として今作の別アレンジのバージョンがデジタルリリースされますね。

 アレンジ違いで色々何種類かやっていて、最初はどのバージョンを収録するか決めずに19曲をレコーディングしました。それで、アルバムに入らなかったバージョンを『別冊!電撃流行歌』としてリリースすることになったんです。これがまためちゃくちゃ面白い作品になっていて、「サーカスの唄 別冊 ver.」は特に気に入っているアレンジなんです。

――別冊という表現もいいですよね。

 雑誌の付録みたいで可愛いですよね。『それゆけ!電撃流行歌』の方も参助さんがいるときに色々考えてついたタイトルなんです。

――レコーディングはどんな感じで進んで行ったのでしょうか。

 4日間で19曲をレコーディングしました。なかなかしんどかったです(笑)。疲れすぎて笑いが止まらないという変なモードになってしまって。

――それは大変でしたね。でも、今回の経験がオリジナル曲にも反映されていきますよね。

 反映されていくと思います。まだ本格的にオリジナル楽曲は作っていないんですけど、どんな曲ができるのか今から楽しみなんです。意識的に変えていくことはないと思うんですけど、自然と何かが変わっていくんじゃないかなと思います。

――これからどんなカバーをやってみたい、とかありますか。

 成瀬英樹さんとやっている筒美京平さんのカバー企画はもっとやっていきたいと思っています。筒美さんの楽曲は昭和の歌謡曲だけではなく、TOKIOさんの「AMBITIOUS JAPAN!」とか幅広いじゃないですか。私はそういった楽曲はこれまであまり歌ったことがなかったので、もっと歌ってみたいと思いました。「AMBITIOUS JAPAN!」はこの前カバーしてみたんですけど、すごく面白かったし自分はこういう歌い方もあるんだなと発見もありました。

――筒美京平さんの楽曲で特に気に入っているものはありますか。

 岩崎宏美さんの楽曲は特に好きなんです。私のお葬式には「未来」という曲を流してほしいなと思っているんです(笑)。その理由は『町あかりの昭和歌謡曲ガイド』に書かれているので、是非手に取って頂けたら嬉しいです。

――さて、これからどんな未来への展望がありますか。

村上順一

町あかり

 来年はたくさん曲を作りたいのと、また本を執筆したいと思っています。あと「Japan Expo」というイベントがパリであるんですけど、今年参加する予定でした。コロナ禍で来年開催されるのか、まだどうなるかはわからないんですけど、延期になっている予定としてあるので楽しみなんです。そして、河崎実監督の映画に主演で出させていただくんですけど、来年から撮影が始まるので新しいチャレンジもしつつ、頑張っていきたいです。

――世界というのも目標として見据えている部分はあるのでしょうか。

 もっと広がってほしいなと思ってまして、いままでやってこなかったんですけど、歌詞も英語で書いてみたいなと計画しています。

――それは町さんとしてチャレンジになりますね。最後にシンガーとしての今の目標や夢はありますか。

 自分の作った楽曲を大衆的なものにしていきたいと思っています。それはずっと思っていることで、その一心で音楽活動をしているところがあります。音楽を聴いていて楽しいなあとか、心が救われる時というのは沢山あると思います。自分もそういう体験はあるので、それを私の曲を聴いてくれる人に与えられたらいいなと思っています。

(おわり)

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村上順一
村上順一

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