KYONOが、ソロ2ndアルバム『S.A.L』をリリースした。1980年代からバンド活動を始め、その後MAD CAPSULE MARKETSを経て、2000年代にはWAGDUG FUTURISTIC UNITYとして活動、30年以上に渡ってラウドロックシーンを牽引し、影響を受けたバンドは数知れず。前作にはMAN WITH A MISSINのTOKYO TANAKA、SiMのMAH、RIZEのJESSEがゲスト参加。今作には、Dragon AshのKj、10-FEETのTAKUMAが参加し、Kjは自らを「MADチルドレン」と名乗るほど。ラウドロックのカリスマが、コロナ禍に何を思い楽曲で何を語ったのか。今作の制作の裏側や、渦中でどんな思いだったのか聞いた。【撮影・取材=榑林史章】
俺の中でKjのイメージって、すごく明るくてキャッチー
ーー『S.A.L』というタイトルですが、これはどんな意味で付けたんですか?
「S.A.L」は、Stem Data、Artistry、Loud Musicの頭文字を取って付けました。去年の暮れに「S.A.L」と「IN THE MORNING」を作って、今年の1月にライブをやった時にこの2曲も披露したんです。それで今回のアルバムタイトルを考える時に、この「S.A.L」という曲名がアルバムにもピッタリだなと思って付けました。
ーーStem Dataというのは、デジタルレコーディングで使われる音のデータのことですよね?
そうです。今までもデータをやりとりしてレコーディングをすることはあったけど、今年はコロナ禍ということもあって、そういうデータをやりとりするレコーディング方法がメインになっていて。こういう風に作っていたんだよと、今作のレコーディングの状態を表す意味を込めています。
ーーゲストを迎えた楽曲は、そういうやり方で?
「THE WAY feat.Kj (Dragon Ash)」は自粛期間が明けてからレコーディングしたので違うんですけど、「STAY GLOW feat.TAKUMA (10-FEET)」は、完全にデータのやりとりでした。こっちでデモを作って、こことここを歌って欲しいという指示と共にメールして。TAKUMAは京都にある自分のスタジオで歌を録って、歌のデータだけ送ってもらってという感じです。TAKUMAは「言ってもらえれば直すので要望を言って欲しい」と言ってくれていたんですけど、最初から完璧だったので一発OKでした。すごくTAKUMAらしくて、曲と上手くハマってイメージ以上の仕上がりになったなと思います。
ーー『S.A.L』の「A」=Artistryは、芸術性ということで。
より芸術性の高い作品を目指しました。単なる歌ものの音楽ではなくて、よりアートなイメージを持って作ったと言うか。もともと自分が好きな音楽って、ジャケット写真やMVなどのアートワークも含めて、全体にアートを感じるものが好きなんです。音を聴いて絵や映像が浮かぶものと言うか。自分でもそういう作品を作りたいと思っているし、実際に今作の曲も、作りながら絵や映像的なイメージがあった曲が多かったし。トータルで見て、ペンキや絵の具で自由に塗りたくったような作品にしたいと思いました。
ーージャケットのデザインも、ONE OK ROCKやでんぱ組.inc、嵐などのアートワークや、ファッションブランドも手がける河原光さんが描いていて。
そうなんです。河原さんに自分のイメージをお伝えして、それ汲んでデザインしてくれました。すごく格好良くて、僕の音とすごく合っているものになりました。
ーーセックスピストルズなどのパンクロックしかり、70年代のハードロックのジャケットアートもそうだし、もともとロックは、アートやファッションと音楽が三位一体になったものですよね。
そうですね。つまりカルチャーなんですよ。僕はそういうものを見て聴いて育ったから、ロックはそういうものだという考えが、好きということを越えて、つねに自分のどこかにあるんでしょうね。
ーーカルチャーという面では、「THE WAY feat.Kj(Dragon Ash)」のMVにスケートボードやBMXをやっているシーンも出てきていて。1990年代末〜2000年初頭の、ストリートカルチャーが体現されていると思いました。
楽曲としても完全に90年代末のカルチャーをイメージしていたから、映像でもエクストリームな感じを落とし込みたいという話を監督に話して制作しました。絵の雰囲気としては、晴れの日の海が見える道を、鼻歌を歌いながら歩いているイメージがあったんです。でもその時期は毎日雨だったから、すごく心配だったんだけど、たまたまその日は朝からすごく晴れてくれて。イメージした以上のMVに仕上がりました。
ーー普段の行いが良かったんですね(笑)。
そうですね(笑)。
ーー「THE WAY」は楽曲的に、静と動が行き来するような感じがあって。
これはKjが参加してくれるということで、Dragon AshっぽいけどDragon Ashには無い感じで、そこに自分の要素をプラスして、明るい曲にしようと思って作ったんです。
俺の中でKjのイメージって、すごく明るいんです。存在もキャッチーだし。そういう彼の持っている良さを、最大限に引き立たせる曲はどういうものなんだろうと思って、そこから考えていったんです。Aメロなんかは、彼がゆったり散歩しながら鼻歌で歌っているような感じが良いなと思って、それで実際に散歩している時に浮かんだメロディをスマホに録っておいて。それを聴きながらギターを弾いて、「こんな感じが良いな」なんて思いながら、ベースになるものを作っていったんです。
ーー前作『YOAKE』は打ち込みがけっこう全面に出ていましたけど、今作は特に「THE WAY」などは、むしろバンドサウンドが中心という印象でした。
今回はよりシンプルに音数を少なくして、あまり整えすぎないようにしようと思って作りました。良い意味でざっくりと言うか。デジタルでは作っているけど、デジタル感があまり出ないように意識しています。「THE WAY」なんかは、それが顕著に出ています。でも実は、サビはベースを2本重ねていたりするんですけどね。
ーーKjさんとはKYONOさんがMAD CAPSULE MARKETSの時代からの付き合いですよね。
そうですね。当時はレコード会社が同じだったし、担当ディレクターも同じ人だったという繋がりもあったから、交流はすごくありました。
ーーKjさんとのレコーディングは、自粛期間明けだったということですけど。
2月くらいに曲の話をして、デモを聴いてもらって。4月にレコーディングする予定だったんですけど、自粛期間で延期して。自粛が明けた6月に、あらためてスケジュールをもらってレコーディングして、そのあとにMVの撮影をしたという流れです。
ーーKjさんとは直接レコーディングを?
自粛が明けたとは言え、まだ余談を許さない状況だったからデータのやりとりでも良いなと思っていたんだけど、Kjから「直接ディレクションして欲しい」という要望があったので、密にならないようにとか細心の注意を払いながら、ブースと調整室に別れてトークバックでディレクションをしたという感じです。特典DVDに収録されているKjのインタビューコメントを見たら、「タイガー・ウッズと一緒にコースを回っているみたいでうれしかった」と言ってくれていたんだけど、タイガー・ウッズは言いすぎじゃないかって(笑)。でも、なるほど面白いことを言うなって思いました。彼独特のワードが満載で、あのコメントは面白かったです。
ーーレコーディングでも、そういうKjさんらしさは爆発していた?
たくさんありましたよ。ここでは言えないですけど(笑)。
無意識に自粛期間やコロナ禍に感じた気持ちが表れている
ーー「STAY GLOW feat.TAKUMA(10-FEET)」は、データのやりとりだったということですけど、MVはどのタイミングで?
これも6月に撮影して、TAKUMAが京都から来てくれて。映像チームはけっこう忙しい人たちなので、スケジュールを合わせるのが大変でした。自粛明けで動き始めた人が多かったから。
「STAY GLOW」は、夜の街がキラキラしたイメージを持っていたので、それを伝えたら監督さんが、そこからイメージをさらに広げて、役者さんを使ったストーリーを考えてくれました。
ーー10-FEETとも旧知の仲で。
そうですね。知り合いの洋服ブランド繋がりで、10-FEETのマネージャーと俺のマネージャー同士の仲が良いとか、けっこう昔から縁があるんです。MADでツアーを回っていた時代に、広島のお好み焼き屋でばったり会ったこともあって。だから10-FEETとも20年以上の付き合いになるんじゃないかな。
ーーまた「SAILING THE LIFE」はCGのMVで、昔のMADのMVにもよく出てきた白いアンドロイドも出てきて。歌詞にも<Mad crowd>と出てくるのもあって、MADチルドレンは歓喜するっていう感じですね。
(笑)。去年の9月にライブDVD『KYONO LIVE -The Beginning of Dawn-』を出した時に、特典として2曲の新曲のMVを制作して収録して。今作で収録している「DRIVE」と「SAILING THE LIFE」がそれです。MVは、no TOKYOというバンドのドラマーで、映像もやっている熊野くんが、曲のイメージでその特典用に作ってくれたもので。自分からは、こうしてほしいということは何も言ってなくて、唯一ライブシーンを混ぜたいという話をしたくらいかな。
だから曲自体は、去年の6月くらいに作っていたんです。おととし1stアルバム『YOAKE』を出して、去年3月〜4月にワンマンライブ『YOAKE RELEASE PARTY -The beginning of dawn-』をやったんですけど、東京公演にRIZEのJESSEがゲストで出てくれて。その時のライブ映像も今回のアルバムの特典DVDに収録していて、めちゃめちゃ熱くて格好いいライブになったので、ぜひ見て欲しいです。
ーー前回のアルバムからの流れがしっかりあって、全部がこのアルバムに繋がっているわけですね。
そうなんです。けっこう飛び飛びではあったけど、前作以降わりと時間をかけて作っていた感じですね。
ーー今作の特典のDVDにそれらのMVやメイキングも全部入ってて。
今の時代はみんな映像ありきで曲を聴いている感じがあって。全曲MVを作りたいけど、そこまでやると大変なので。でも本音は、全曲MVを作って、映像盤の作品も出したいくらいです。
ーーこの春〜夏は、コロナ禍でバンドシーンは大変だったと聞きますが、KYONOさんご自身はどんな風に受け止めていましたか?
3月以降のイベントやライブは全部中止になりましたね。SHADOWSとの対バンや、渋谷で開催を予定していた自分のワンマンも中止になって。でも幸い今作のレコーディング期間だったから、発信することはできなかったけど、そのぶん籠もって作ることに集中できました。
ーーコロナ禍で感じた思いを、歌詞に込めたりとかありましたか?
そうしようという意識はなかったです。コロナの前から作り始めていた作品だし、それとこれは分けて考えていました。もちろん大変な状況だったので、外出を控えて手洗いうがいマスクといろいろ気をつけていましたけど、たまに散歩するくらいで、でもその散歩の中で「THE WAY」のようにメロディが浮かんだりということもあったし、散歩しながら出てきたメロディはけっこう多いです。
ーーでも歌詞を読むと、「光」「輝き」「スタート」とか、明るく前向きな言葉が全体的に多いと思いました。
やっぱり作品として残すものだから、10年後に聴いた時にも普通に違和感なく聴けるものを作りたいと思っているんだけど、やっぱり無意識に出ていたりするのかな。自粛期間などで動けない時期もあった中で、少しでも前に進みたいと思う気持ちが、自然と自分の中にあったのかもしれないです。ちょっとでも自分が、ポジティブになりたいという気持ちが表れたんだと思いますね。まだまだコロナ禍ではあるし、前向きな姿勢でやりたいという希望とか理想を、自分にも言い聞かせていたところがあったんだと思う。
ーー「THE WAY」では、サビに<Don't lose the pressure!!>(プレッシャーをはねのけろ)というワードが出てくるし。
確かにそうですね。ちょっとでも元気になれば良いなという気持ちが、世の中に対しても自分に対してもあって、それが言葉になったんだと思います。
ーー「WIPE OUT」なんかは、ジャンプやモッシュの絵が浮かんで、ライブに行きたくなりますね。歌詞もけっこう強めだし。
ライブをイメージして作りました。それに歌詞は、ニュースなんかを見て、正義感の強い人が出てきて、その正義感が時には暴力や悪になっているんじゃないかと思ったんです。正義感を持つことは大事だけど、度を越すと逆に悪になったり。じゃあそもそも正義って何だろうみたいな。そういう自分の中の疑問が、素直に出ちゃったみたいな。人間ってこういうところあるよな、みたいな。
今話しながら思ったけど、自粛期間やコロナ禍から、やっぱり自然と影響を受けていて。意識しなかったと話したけど、その時期に作ったいろんな曲の歌詞にはやっぱり反映されているみたいです(笑)。今の時代はみんな忙しいから、ゆっくり歌詞を読みながら聴くって出来ないと思うけど、もし時間があったら、そういう聴き方をしてもらえたらうれしいかな。英語もネットですぐ翻訳できるし。いろいろ感じてもらえたらって思います。
ーー時期がきたら、ぜひライブでも聴きたいですね。
やっぱりライブを前提で作ってはいるので、生で見て聴いてほしいですね。もしかしたら配信ライブをやるかもしれないけど、どういう形であれ、このアルバムのライブはやりたいなと思います。あと今後の展望としては、今は映像に興味があるので、MVを自分で監督したり編集するのをやってみたいと思っています。やりたいことがまだまだありすぎて、ちょっと時間が足りないくらいです。
作品情報
KYONO
『S.A.L』
10月21日発売
ミュージックセキュリティーズ
VCCM-2120,2121/3,500円(tax in)CD+DVD
■収録曲
01. S.A.L
02. STUCKED SYSTEM
03. THE WAY feat.Kj (Dragon Ash)
04. STAY GLOW feat.TAKUMA (10-FEET)
05. DRIVE
06. WIPE OUT
07. IN THE MORNING
08. SAILING THE LIFE
09. PHASE
10. WONDERFUL WORLD
11. THE WAY (KYONO Ver.)
12.STAY GLOW (KYONO Ver.)
■DVD収録映像
01. THE WAY feat. Kj (Dragon Ash)
02. STAY GLOW feat. TAKUMA (10-FEET)
03. BREED feat. JESSE (RIZE / The BONEZ) LIVE at WWWX
04. KYONO × Kj (Dragon Ash) Exclusive Interview
05. KYONO × TAKUMA (10-FEET) Exclusive Interview
06. THE WAY feat. Kj (Dragon Ash) MAKING
07. STAY GLOW feat. TAKUMA (10-FEET) MAKING