TRI4TH「ずっと捕まえられないスピード感で」常に挑戦を続けるバンドの矜持
INTERVIEW

TRI4TH

「ずっと捕まえられないスピード感で」常に挑戦を続けるバンドの矜持


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:20年10月09日

読了時間:約13分

 5人組ジャズバンドのTRI4THが10月7日、メジャー3rdフルアルバム『Turn On The Light』をリリース。本作は、HIP HOPシーンからSANABAGUN.のリベラルa.k.a 岩間俊樹氏をfeaturingした「The Light feat.岩間俊樹(SANABAGUN.)」、日本を代表するSKAパンクバンドKEMURIのHORN隊とコラボした「For The Loser feat.KEMURI HORNS」、ジャズの名曲「Moanin'」のSKAカバーなど、これまでのインストジャズの枠を超えたボーダレスな全11曲が収録。“混沌とした世の中を照らすような作品になるように”という意味が込められた本作の話題を中心に話を聞くとともに、メンバーにそれぞれのこだわりや今後のビジョンを語ってもらった。【取材=平吉賢治】

自分達の現状の最高傑作

『Turn On The Light』ジャケ写

――9月1日のブルーノート東京公演の感触はいかがでしたか。

伊藤隆郎 約半年ぶりに人前で演奏ができて素直に嬉しかったです。お客さんがいる状態と画面の向こう側のみなさんにも感じて頂けるという、新しい一歩が踏み出せたんじゃないかなと思っています。

――本作について、前回インタビューで「3枚目はホップ・ステップ・ジャンプの“ジャンプ”にあたる」と仰ってましたが、完成していかがでしょうか。

伊藤隆郎 メンバー全員であらゆる知恵を出し尽くしてトライしました。1、2枚目のアルバムは自分達5人だけで完成させたけど、3枚目で集大成になる作品ができたらいいなと。そんな中でSANABAGUN.さんからMCの岩間俊樹君を迎えた楽曲と、KEMURIさんのホーン隊をフィーチャリングした楽曲の2作品を主軸に、あとは自分達が大切にしてきた「Fiesta」やジャズの名曲「Moanin'」をカバーさせて頂いたりと、隙のない一枚、自分達の現状の最高傑作ができたと思っています。

――特に力を入れた点は?

織田祐亮 KEMURI ホーン隊のみなさんと一緒に作らせて頂いた「For The Loser」は、計5人のホーンセクションという今までで最大の編成でお届けしているんです。AセクションはTRI4THがアレンジ、BセクションはKEMURI ホーン隊だけで演奏、CセクションをKEMURI ホーン隊とTRI4THが入り乱れて一緒に演奏とか、普段やらないアレンジだけど、どうやったらお互いの個性を1曲に込められるかと話してKEMURI ホーン隊のみなさんにもお知恵を頂き、結果とても素晴らしいものが出来たと思っています。

伊藤隆郎 この曲に関しては、いかにJ-POPシーンに食い込んでいけるかとか、そういった垣根を超えたいと意識するところがあって。TRI4TH流の歌ものをいかに完成させるかというところをKEMURIホーン隊のみなさんにご協力して頂いて、さらに豪華な1曲になったと感じています。

――藤田さんが力を特に入れた点は?

藤田淳之介 全体のジャンル感が幅広く、それぞれの演奏も色んなアプローチがあるんです。サックスの音色でも今まで使っていなかったサブトーンやドラムのマイキング、ベースの音作り、ピアノも別の鍵盤を使ったり、技術的にも自分達の持ちうる可能性をちりばめて、細部も楽しめる味わい深い作品だと思っています。今回はコロナ禍でいつもより考える時間があったんです。

竹内大輔 確かにアレンジを詰める時間がとにかくありました。ピアノのバッキング一つとっても1カ月くらいやってきたのを「やっぱ違うな」と変えたり。一音一音ベースラインを決めるとか、ジャズというよりポップス的な作り方もしたし「どこまでやったらずっと聴いていても違和感がなくなるようになるか」と、みんなで詰めました。

――ポップ感については関谷さんも意識したところがあるのでしょうか。

関谷友貴 あります。前作の録音後にウッドベースともう一度見つめ直して、120年前のオールドのウッドベースを買ったんです。前回まではロックフェスでも、ウッドベースでもロックミュージシャンとやりあえるようにサウンド作りをしていったんです。今回はそのサウンドに加えて、もう一度ウッドベースの生鳴りの素晴らしい音を昇華させて表現しようとチャレンジしました。

――今作は全てウッドベース?

関谷友貴 全曲そうです。でも同じ音色感ではなく、マイキング(マイクの設置位置や角度など)やエフェクターの使い方を1曲ずつ変えてます。

――個人的には11曲目「EXIT」のベースサウンドが印象的です。

関谷友貴 ありがとうございます。これは今回一番試みたかったサウンド感です。改めて制作期間を何カ月もとって、メンバーでいい曲を作ってアレンジして、この曲を一番よい形でアウトプットするにはこのサウンドだと満足しています。

――ちなみに素朴な疑問ですが、インストゥルメンタルに曲名をつける着想は?

伊藤隆郎 みんな作ってくる時に仮タイトルをつけてくることも多々あります。その音楽とフィックスしていればそのままいったりするけど、作っていく中で曲調が変わって「これ違うな」と変わる時もあります。本作の「Sailing day」は最初「Kaminari」というタイトルでした。現状のアレンジに辿り着いてレーベルの方と相談して「せっかく素敵な曲に仕上がったのに『Kaminari』でいいの?」というディスカッションがあって(笑)。インストゥルメンタルだからこそオーディエンスのイメージは無限だと思うので想像してくれるものは幅広いと思います。

新しい自分達が提示するTRI4THらしい曲

――本作は“混沌とした世の中を照らすような作品になるように”という意味が込められているそうですが、現在のコロナ禍にもかかるのでしょうか。

伊藤隆郎 コロナ禍前からこのアルバムに向いていたけど、制作中に世の中がどんどん変わってきて緊急事態宣言で一旦作業が完全に中断したんです。そこを乗り越えたというところで言うと、こういう時期に作ったからこそ自分達にとって忘れられない一枚になると思うし、そんな中で制作に入っていたのでアルバムのコンセプトとしても、これが世の中に出る時に少しでも多くの人に楽しんでもらえたらなと思って作りました。「The Light」という曲名や「For The Loser」に関しても、自分達の背中を押すような楽曲を作りたかったという部分と、その楽曲が応援歌としてたくさんの人に届いたらいいなという気持ちが凄くあったので、そういう点ではこういう時期に作ったからこそのアルバムじゃないかなと思います。

――制作面はいつもと異なる進行?

伊藤隆郎 リモートで各々が家にいながら楽曲のプリプロを進めたりと、今までにない作業工程でした。逆にそういう逆境の中であってもトライできることもあると感じて、離れてでも制作は続けていこうという一つの過程が得られたので、これからに活かせるんじゃないかなと思います。

――リモート作業でいつもと違うと感じた点は?

織田祐亮 じっくり判断することができたので、そういった意味でも凄くよい作品作りに繋がったと思っています。

藤田淳之介 一旦作業が中止するというのは冷静になれるのもあって、最後の一押しのバリエーションが広がった部分は凄く大きかったです。

竹内大輔 録ったものを聴く機会が多くできたというのもあります。今までだと3日間に集中して録り切るという感じでしたけど、今回は期間が空いて次にレコーディングスタジオに入ったのが2、3カ月後とかだったので、どうしても家に持ち帰って冷静に振り返られるじゃないですか? それもあって、聴き方やアンサンブルの仕方にも影響したかなという気がします。

関谷友貴 コロナ禍前に作っていた曲で主要曲を固めて、すっぽり空いた時間でアルバムに足りていない必要な曲をと、一枚を通してより楽しめるようにしました。例えば僕が原曲を作った「Sailing day」は何回もアレンジし直して半年くらいかけているんですけど、それは今回しかできなかったと思います。最初は激しいSKAチューンだったけどみんなの意見を聴いて少しずつ形が変化して、最終的にはおしゃれなメロディな曲になりました。

――「Sailing day」について、前回インタビューで伊藤さんが「自分達らしさ、ポップさで今のTRI4THとしてうまく表現できた」と仰っていましたが、それは時間があった上でブラッシュアップしたという感じでしょうか。

伊藤隆郎 もともとサビのメロディはメロウでしっかりしていて。SKAチューンだったというところなどはアルバムを通して他にSKAの曲があるのでバランスを見ました。どうやったら新しく自分達のインストゥルメンタルとしてのTRI4THらしい1曲になるかというところで、ピアノだけのイントロの部分や間奏の部分など、キャッチーなメロディやパーツがどんどん出来まして。大事なメロディがサビ以外でどんどん増えてきたんです。この曲に関してはインストゥルメンタルだけで新しい自分達が提示するTRI4THらしい曲というのが上手く完成したと思っています。

 J-POPリスナーが僕達の音楽を聴いても自然に入れるというところは凄くみんな意識して取り組んで、今回3枚目で今まで挑戦してきたことが自分達らしく完結できたんじゃないかなと思っています。「ジャズって難しい音楽」と捉えられがちだったりするけど、僕達は「踊れるジャズ」というのを掲げてずっと活動してきたし、ジャズを聴いたことがない人でも「カッコいい音楽なんだな」と伝わればと思ってロックフェスなどでもジャズという看板を超えていけるように自分達が楽曲と向き合ってきた部分があるんです。

――本作ではジャズのカバー「Moanin'」がありますが、この楽曲を選んだ意図は?

伊藤隆郎 元々数年前からカバーしてきた自分達が大切にしてきた楽曲でもあるんです。ジャズを知らないリスナーにとっても、タイトルは知らなくてもどこかで耳にしたことがあるというくらい有名な楽曲だと思うんです。そういう曲のジャズらしさも残しつつ、もっと踊れて楽しい感じ、僕らはSKAの部分も大事にしているのでそれらをいかにブレンドできないかなとトライしました。

――そのブレンド具合が絶妙でした。ジャズとSKAの部分でミックス面も変わっていて。

伊藤隆郎 狙ってそういうトライをしました。前回に引き続き今回サウンドメイクしてくださった方のアイディアで、ミックスの段階で明らかにイントロのジャズの部分と本編のSKAの部分との音色の違いを出したり。「当時のJazz Messengersの音をリアルに再現してみようと思った」と、本人も仰ってましたし。時代を行き来しているような、1曲を聴いていて旅をしているような感じの面白いミックスになっています。きっと凄くわかりやすく伝わると思うので、注目して聴いて頂けると嬉しいです。

――本作の「Moanin'」を聴いた後に原曲を聴いたら、原曲へのリスペクトを感じつつもTRI4THらしさを感じました。ジャズの名曲を掘り下げる役割も担っているかと。

伊藤隆郎 「原曲を聴いてみよう」と思って聴き比べて頂けるとジャズへの入り口にもなるというか。「TRI4THはこういう曲が好きだからもっとArt Blakeyの曲を聴いてみよう」とか、「マイルス・デイヴィスとか名前だけ知ってるけど聴こう」とか、色んな入り口になれることが僕達の役割なのかなと思っているので、そういう風に思ってくれて嬉しいです。

柔軟な姿勢をこれからもずっと磨き続ける

――「The Light」について織田さんは「僕らもHIP HOPを演奏するのは初めて」と、前回インタビューで仰ってましたが感触はいかがでしたか。

織田祐亮 この曲も制作に長い期間がかかりまして。最初から岩間さんに歌って頂くのは決まっていたけど、インスト部分などに関してはメンバーで非常に長い時間をかけて作り上げました。TRI4THじゃないとできないHIP HOPサウンドになったと思います。岩間さんも素晴らしい歌詞をつけてくださって、ちょうどみんなが会えない時期に、デモにラップを入れてくださったものを聴いて凄く染みるものがありまして。僕が好きな歌詞、<いつだって目の前のオーディエンスはともに戦う表現者>という部分は今、正にライブで声が出せないとか、他のお客さんと距離をとるとか、今までと違う問題とみんなが向き合って心に抱えるものがあると思うんです。そういったことを考えた時に胸に刺さるというか。タイミング的にも、きっと運命的に出来上がったものなのかなと思っていました。

――HIP HOPサウンドはビートとベースが要となるとも思われるのですが、この曲はドラムサウンドもHIP HOP寄りと感じました。

伊藤隆郎 レコーディングに入って音のテイストを探っていくんですけど、その中で音を出した段階でエンジニアさんから「もっとスネアやキックをバツバツのサウンドにしたら面白いんじゃない?」という提案があって、お互い作業しつつ、試行錯誤して出来上がった感じです。

――細部へのこだわりはベースでも?

関谷友貴 HIP HOPのベースってシンセベースやエレキベースが多いと思うんです。僕はTRI4THでは絶対ウッドベースと決めてバンドのカラーとして表現しているんですけど、ウッドベースはサスティーン(音の余韻)が伸びなくて。最初はエフェクターでシンセベースみたいな音作りだったけど、「もうちょっとウッドベースの生鳴りのよさを使ってみたらどう?」と提案して頂いたんです。それで最終的にMIXが完成したサウンドを聴いたら、低音だけ歪ませてサスティーンを持続させて、高音の方は生鳴りの空気感をウッドベースで表現するという、信じられないようなサウンドを作ってくださったんです。これはTRI4THでチャレンジしたHIP HOPサウンドになったと思いました。サウンドカラーがお気に入りの一作です。

――竹内さんの新たなアプローチなどは?

竹内大輔 TRI4THでのピアノの役割ってガンガンに弾くみたいな激しい曲が多かったんです。でも今作はバリエーションがより広がっていて、良い意味でそこまでガンガンにやらなくてもバランスがとれているのが全体的にあると感じます。フレーズに関しても「そこまで展開させない」と考えながらやったところはあるかもしれないです。「The Light」に関しても、基本的にはずっと同じバッキングでベースも同じフレーズをやっていてピアノも似たような感じなんですけど、主役はちゃんといて、その後ろでちょっと僕も遊んでる感じにできたかなと思っています。

――基本的にループで、その中で少し変化をつけるのはHIP HOP的と感じます。

竹内大輔 そうですね。一時期はもっと展開をつけようとも思ったけど最終的に色々やって、そうする必要はないと思い今の形になりました。

――藤田さんの新たなアプローチとしては?

藤田淳之介 色々あります。例えば「Fiesta」のイントロ部分とかSaxが酔いどれな感じを吹いていたりするんです。今まで「ジャズたるものはカッコよくなければ」みたいな部分が自分の中であったけど、今回はとにかく聴き映えが面白い方がいいんじゃないかというのもあって、ピッチベンド(音高を連続的に変化させ音程をコントロールする信号)をかなりかけるとか、歌うように吹くというのを重要視しました。「Moanin'」とかだと、TRI4THの楽曲は基本的に音量が大きいので、ジャズで言うところのサブトーンはほとんど使わないんですけど、イントロ部分ではジャズのサウンドの作り方をしっかりとして、SKAの部分では音を張った別の奏法で吹いているという。

――本作は曲毎に様々なアプローチがありつつも、聴き手としては心地よくストレートに入ってくると感じます。

藤田淳之介 それは嬉しいです!

――最後に、TRI4THの今後の展望についてお伺いします。

伊藤隆郎 今作は初めてしっかりフィーチャリングで岩間君を迎えて自分達のことを歌ってくれて、代表曲のようなものを生み出せて一つ到達できた気持ちがあります。僕達はインストゥルメンタルバンドなので一つ壁を感じていたところがあるというか、もしかしたらバックバンドとして捉えられがちというか、そういったちょっと恐怖みたいなところもあったけど、今回一つ乗り越えることができたことは、フィーチャリングアーティストを迎えても自分達のサウンドを確立して打ち出せたという自信にも繋がっています。次は若い世代や同世代など色んな方とのコラボや、新たに歌ものとして挑戦したいという想いもありつつ、逆に絡んだことのないようなインストゥルメンタルの他の方を交えて新しい世界を探ってみてもいいかなと思います。

 興味がおもむくままに、やりたいことはいっぱいあるので、いつまでも変わり続けていける感じで音楽的な好奇心をどんどん形にして、「次はこう来たか」というような、ずっと捕まえられないスピード感で変わり続けていけたらとても面白いバンドになるんじゃないかなと思います。結成15周年、みなさんがずっと応援してくださったおかげでここまでこれましたし、そんなTRI4THを期待している部分と、まだまだ新しい側面をどんどん放っていける柔軟な姿勢をこれからもずっと磨き続けていくことができたら、面白いアルバムを作り続けていけると思っているので、次の作品も期待していてください。

(おわり)

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