ASCA「一人じゃない」コロナ禍で気づいた信じる気持ち
INTERVIEW

ASCA

「一人じゃない」コロナ禍で気づいた信じる気持ち


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年10月09日

読了時間:約11分

 シンガーのASCAが11月4日に、ニューシングル「Howling」をリリースする。表題曲の「Howling」は10月4日に先行配信され、同日放送が開始されたアニメ『魔法科高校の劣等生 来訪者編』OPテーマとしてO.A中。シングルには約3年前から存在していたと言うバラードナンバーの「ハイドレンジア」や、ライブを想定したロックチューン「OVERDRIVE」、アニメ盤には『魔法科高校の劣等生』の後期オープニングテーマに起用されたGARNiDELiAの「grilletto」をカバー。インタビューでは「人生で初めて悔し泣きした」と話す、コロナ禍で気づいたことや、「Howling」の制作背景などASCAに話を聞いた。【取材=村上順一】

人生で初めて悔し泣きした

――YouTubeの人気コンテンツ「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスを拝見させていただいたんですけど、出演されてみていかがでしたか。

 出演させていただいたこと自体がサプライズでした。ファンの皆さんも「まさか」と言った感じでした。私もずっと見ていたので、私が出ていいんでしょうか、という気持ちで歌ってました。憧れがありましたし、一発勝負というのがいいなって。歌手冥利に尽きるなと思いました。あの白い空間はテレビとも違いますし、ライブとも違い特殊な緊張感があります。

――貴重な経験だったんですね。経験といえば5月に「天秤-Libra-」という楽曲で西川貴教さんとのデュエットもありましたが、こちらはいかがでしたか。

 デュエット相手に私を選んでいただけたというのも、生きていて良かったと思いました。お話をいただいたのは昨年でした。中学生ぐらいの時に西川さんの歌声と出会いまして、「もう何者なんだろう?」と衝撃でした。歌は日本人離れしていましたし、中性的な感じもありながら男性のパッションを感じる、これまで見たことがない生物のように感じて、一瞬でファンになってしまいました。今の私は西川さんの歌やパフォーマンスに影響を受けているなって、MV撮影をご一緒させていただいて改めて気づきました。

――と言いますと?

 運命的なものを感じたことがあって、ASCAとしてデビューする前、事務所の社長さんから“女性版西川貴教”を目指そうとお話をしていことがあったんです。それもあって、西川さんの存在は私にとって切っても切れないんです。

 自粛期間に入ってしまい、自分のスケジュールは無くなってしまったんですけど、自粛明け最初のお仕事が西川さんとでした。ずっと家にいたので体が鈍ってしまっていて、このままでは、ストイックに鍛えられている西川さんの隣には立てないと思い、人生で一番と言っていいほど筋トレをやりました。そして、自分自身と向き合わせてもらった期間でもあり、人生の転機となった出来事でした。

――西川さんは周りを巻き込むエネルギーに溢れていますよね。

 そうなんです。すごくモチベーションを高めていただけて。自分の100%を自然と引き出されているといいますか、私もすごく歌で引っ張ってもらって「天秤-Libra-」では120%を出せたと思っています。

――その経験が活きているのか今作「Howling」もエネルギーがすごいですよね。

 ありがとうございます。今回アニメ『魔法科高校の劣等生 来訪者編』のオープニングテーマなのですが、来訪者編はアンジェリーナ=クドウ=シールズというキャラクターがストーリーの肝になってくるので、アニメサイドから歌詞の視点として「アンジェリーナのことを書いて欲しい」とリクエストをいただきました。それでアンジェリーナを意識して原作を読ませていただいたんですけど、彼女は最初からずっと強くて、そういう部分は私にはなかったので憧れました。でも、彼女は自分で決めた道を歩いているわけではなくて、敷かれたレールの上を葛藤しながら歩いています。そこに私は共感しました。

――歌詞はご自身のことも重ねていますよね?

 はい。コロナ禍で思うように生活できていない人もいると思いますし、まだ元の状況に戻れていない人もたくさんいると思います。作詞を始めたタイミングも自粛期間に突入した頃だったので、しばらくみんなに会えない、歌を届けられないんじゃないか、と感じたタイミングでした。自分たちで決めることができない、そんな状況にいるみんなに対しても、何かメッセージを伝えたかったんです。アンジェリーナや司波達也もそうですし、思うように声を上げられない時代だからこそ、みんなと声を上げられるような曲にしたいと思い、タイトルも「Howling」になりました。

 この自粛期間は活動ができないことに悔しさがすごくあって、人生で初めて悔し泣きしました。自分のツアーが中止になったり、イベントもたくさん決まっていて、海外で歌わせていただく予定もあったので…。その反面、こんなに涙が出るくらい自分は歌が好きなんだ、ということに改めて気づきました。そこから今できることはなんだろうと考えました。

――その歌詞の中で<進み続けろ>や<信じ続けろ>など「続けろ」という言葉が多く出てくるのですが、「続ける」ということはすごく意志が必要だと思います。ASCAさんは歌い続けるためのモチベーションはどんなところにありますか。

 モチベーションになっているのは昨年の12月に、初めてツアーを行ったんですけど、そのときに来てくださった皆さんが一緒に声をあげてくださって、もうパワースポットみたいでした。その体験が自粛期間での私の燃料みたいな感覚があって、筋トレもそうですけど前向きになれたのは、ツアーの思い出がモチベーションにつながっています。

――人からもらうパワーはすごいですよね。

 本当にそう思います。一人じゃ絶対無理だなと思いましたから。一人になってみて、一人じゃないということに気づかされました。ファンの方はもちろんですし、スタッフさんもそうです。見えないところでサポートしてくれていて、見守っていてくれていたんだなって。自粛前はわかっていても、しっかり向き合う時間はなかったんです。今回そことしっかり向き合えたから、歌詞にもある<独りじゃないだろ>は意味を持って歌えたと思います。

――<未開の地へと一歩踏み出せ>というのも印象的ですが、今のASCAさんの未開の地とは?

 たくさんありますけど、一言で言うなら未来が未開の地という感じです。私にとっては未来には希望しかないと思っています。皆さんが今作ってくれている環境で歌わせていただいている限りは希望しかないと。応援していてよかったと言ってもらえるように、もっと大きな会場で歌うことや、テレビ番組に出演することも未開の地であり、新たなステージに行くことにつながっていきます。未来への希望や自信がこの部分に表れているのかなと思いました。

――最後の<信じ続けろ>は自分自身に言っているようでもあり、この曲を聴いている方たちにも言っているような感覚がありますね。

 聞いてくれている皆さんに言っているようで自分にも問いかけていて、信じて欲しいと言う気持ちがあるんです。なぜならみんなのおかげで私自身も信じることができました。みんながいなければ出てこなかった言葉かもしれません。

――「Howling」での新しい試みはありますか。

 アニメタイアップ曲としては初めて、弦を入れなかったことです。昨年のツアーを一緒に回って下さったギターのSakuさんにこの曲を作っていただいたんですけど、お互いライブの余韻がずっとあって。それでお客さんと一緒に楽しめる、声を出せるような曲にしたいよね、とお話ししていました。バンドサウンドで声が全面的に聞こえてくるような新しい楽曲になっていると思います。

完璧じゃなくても良いんだ

ASCA

――ライブを想定したアレンジなんですね。ライブといえば「OVERDRIVE」もかなりライブで盛り上がりそうです。

 この曲は重永(亮介)さんに作って頂きました。実はこの曲の間奏部分は最初もっと短かったんです。デモを聴いていたら、「ここでみんなで声を出したいな」と思いました。会場を2つに分けて、コールして最後に一つになるみたいなイメージが湧きいてきたんです。それで「間奏をもっと長くして欲しい」、とリクエストさせていただいたんですけど、そういったことは初めてでした。私は間奏は短い方が好きだったんですけど、ツアーを回ったことで視野が広がりました。今度いつみんなと声を出せるかはわからないんですけど、未来への楽しみを先に用意しておきたいなと思いました。

――タイトルや歌詞にはどのような想いが込められていますか。

 「OVERDRIVE」はしゃかりきに突っ走っているような歌詞になっていて、ASCAとしてデビューして、ここまで走り続けてきたことをタイトルにしました。歌詞にある<壇上へ登り続けた代償は 脆い自分と闘い続ける事だった>というフレーズは自分自身との戦い、葛藤がすごくあったところからでてきたフレーズです。

 それは、結局これまでの私は自分自身のことしか考えていなかったんです。視野が狭かったことに気づけたのはみんながいたからなんです。<幻の向こう側へ 君を連れていくよ>という幻は、ライブができた時のことかもしれないですし、目標とするステージに立てた時のことだったり、そういった景色をみんなに見せたい、という希望を込めた楽曲になっています。

――その葛藤というのは、<完璧ばかりを求めないで>というところに掛かっていて。

 はい。ステージに立つと緊張で何も頭が回らなくて上手く行かないこともありました。でも、歌い始めれば楽しんでくれているお客さんがいたり、バンドメンバーやスタッフもライブが終われば「最高だったよ」と言ってもらえて、完璧じゃなくても良いんだと思えるようになって書けた歌詞なんです。

――シンガーだとライブでのパフォーマンスもそうですけど、MCで悩む方もいますよね?

 そうですね。MCに関しては一言一句メモに書いて覚えて話していました。それが正しいし完璧なことだと思っていたんですけど、初ワンマンの時に台本にないことを喋ってみたんです。そうしたらこっちの方がみんなに届いている感じがしました。その時に思った気持ちを話す方が楽しんでもらえることがわかって、肩の力が楽になった感じもありました。

――さて、カップリングの「ハイドレンジア」はバラードということもありASCAさんの表現力が堪能できます。

 ありがとうございます。この曲はデビュー前からあった曲で、3年ぐらい温めていました。ずっとこの曲が頭から離れなくて、どうにかしてリリースしたいと思っていました。それは曲を作って頂いたSakuさんもずっと言っていて悲願の一曲なんです。私も3年間プリプロした音源を聴き続けていて、もっとここはこう歌いたいとイメージを膨らませていました。

――念願の一曲ですがレコーディングはいかがでした?

 Sakuさんも私もこの曲が大好きなので、レコーディングはかなり難航しました。3年も温めていたのでお互いのこだわりがあって、なかなか先に進まなくて(笑)。今回のシングルの中では一番時間をかけました。セクションごとに分けて録ったんですけど、一文字ごとにこだわってレコーディングしたぐらいの感覚なんです。

――並々ならぬ想いが込められているわけですね。ちなみに歌詞は当時と変わっているのでしょうか。

 プリプロの段階で出来ていたのが1番だけでした。そこはSakuさんが書いているんですけど、私はその歌詞がすごく気に入っていて、この歌詞をいかに壊さずに続きを書けるか、というのを心掛けて私は2番を書かせていただきました。ちょうどこの歌詞を書いていたのが梅雨の時期で、ジメジメした中で書いていたので、タイトルのハイドレンジア=紫陽花というのも相まって思い出深いです。

――この歌詞はSakuさんの実体験からなんでしょうか。

 いえ、Sakuさんは想像でこの歌詞は書いたと仰っていました。好きな人の気持ちがこちらに向いていなくて、そのことに気付いてしまって悲しみを感じ絶望している、2番ではそのことにどうして気付いてしまったのか、という回想シーンとなり時間が戻るんです。ここは実体験も織り交ぜながら書いていきました。あと、ポイントとして1番のサビの終わりが<雨に流れてよ藍の花>、2番が<雨に溺れてよ哀の花>、3番が<雨に抱かれてよ愛の花>とちょっと前向きな歌詞になっていっているんです。希望を持って終わりたかったので、心理描写を雨と花で表現しているんです。

最高の場所、景色まで連れていきたい

――さて、「grilletto」はGARNiDELiAのカバーですね。

 この楽曲はアニメ盤の方に収録させていただくんですけど、このCDを手に取ってくださった方に『魔法科高校の劣等生』の世界観を楽しんでいただきたい、と思い選曲させていただきました。私はGARNiDELiAさんがすごく大好きで、何度もライブも観させていただいてリスペクトしています。

――では、この曲をプライベートで歌っていたり?

 いえ、今回初めて歌わせていただきました。レコーディング中ずっと言っていたことがあって、この曲をライブでメイリアさんは踊りながら歌っているんですけど、もう本当にすごいなと。実際に歌ってみて改めて凄さに気付いて。あとメイリアさんのフェイクがあるんですけど、そこはリスペクトを込めて、何度も挑戦した部分なので注目してもらえたら嬉しいです。

――この曲をライブでもし披露することになったら、ASCAさんも踊りながら歌う感じでしょうか。

 来世はダンサーになりたいくらいダンスが好きなので踊ってみたいんですけど、まだ踊らないと思います…。いまの私は歌に集中したいです。いつか、「踊ってもいいよ」という日が来たら踊るかもしれないです(笑)。

――きっとリズム感が良いと思うので、良いダンスが踊れそうな気がしています。

 本当ですか! リズムといえばTeddyLoidさんにこの曲をアレンジしていただいて、デモと完成系がすごく変わったんです。レコーディングのディレクション、テイクを選んでいく作業を一緒にしていたんですけど、私が選ぶものとTeddyLoidさんが選ぶテイクは全く違うので、私とTeddyLoidさんでは歌の捉え方が全然違うことに気づきまして。

――どんな違いがあったのでしょうか。

 私はリズムに対してタイトな歌を選んでいたんですけど、TeddyLoidさんは「ASCAちゃんらしさが出ている声のニュアンスを重視したい」と仰っていて。それでテイク選びをお任せして完成したものを聴いたときに、歌も音として捉えているんだなと感じました。例えばイントロで私の声を切り貼りしているんですけど、それも面白いなと思いました。

――声のアナグラムみたいで面白いですよね! では、最後にファンの方々にメッセージをお願いします。

 自粛期間で自分自身と向き合うことができて、一人じゃないということに気づけて歌えました。今じゃなければ生まれなかったシングルになったと思っています。いつみんなと会えるかはまだわからないんですけど、会えたときのために一緒に声をあげられる楽曲を作りました。私は音楽活動に希望は捨てていないですし、自分自身を信じることができているのはみんなのおかげなので、最高の場所、景色までみんなを連れていきたいと思っています。みんなの側にこの楽曲たちがあってくれたら嬉しいです。

(おわり)

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