DATSが25日、配信新アルバム『School』をリリース。トラックメイクを手掛けるMONJOE(Vo/Syn)を中心に2013年結成されたDATSは、結成翌年にはSUMMER SONIC主催の一般応募による出演オーディション「出れんの!?サマソニ」でクリマン賞を受賞。2018年6月、本編の全曲リミックスを付属したダブルアルバム『Digital Analog Translation System』でメジャーデビュー。『School』はバンド内で共通する懐かしさや青春を感じさせる“School感”にこだわって制作されたという。MONJOEに本作について中心に、変化する時代の空気感などもあわせて話を聞いた。【取材=平吉賢治】
新たなDATSとしての一歩
――MONJOEさんはどういった音楽を聴いてきましたか。
最初は中学時代に(米バンド)ニルヴァーナを聴いたところから始まって、それがバンドをやるきっかけにもなりました。そこから90年代の(英バンド)オアシスや(英バンド)レディオヘッド、(米バンド)レッド・ホット・チリ・ペッパーズなどを聴いて音楽にどっぷり浸かるようになりました。そこから色んな音楽を聴くようになって、時期によってはプログレッシブロックやエレクトロミュージックなど、今は雑食というか色々なものを聴いています。
――どのような聴き方をしているのでしょうか。
ストリーミングで色々なものが聴けるので、自分から聴きにいくというより、流れてきたものを聴くような感じです。
――サブスク音楽配信サービスがおすすめしてくる音楽は鋭いところを突いてきますよね。
例えばSpotifyのアルゴリズムにハマッちゃうと、あれはあれで色んなものを教えてくれて最高なんですけど、同じようなものを聴いちゃうところもあると思うんです。だからある程度聴いたら意識的にそうじゃないのを自分から取っていくんです。そうしないと延々と同じようなものばかり聴くことになっちゃうので。
――先ほどエレクトロミュージックも聴くとおっしゃっていましたが、どういったものを聴くのでしょうか。
最初はレディオヘッドがきっかけでした。初期は90年代のオルタナティブロックのサウンドアプローチだったのがどんどんアルバム毎に電子音を取り入れていって。
――レディオヘッドは2000年頃からエレクトロ要素が広がっていきましたね。
その辺のアルバムを聴くようになってから、レディオヘッドのメンバーのトム・ヨークやジョニー・グリーンウッドなどが影響を受けているアーティストたちに興味を持つようになりました。そこから掘っていって高校の時にはリアルタイムで出てきた新しいものから、90年代にヒットしていた(英アーティスト)エイフェックス・ツインや(英アーティスト)スクエアプッシャーなどWarp(英レコードレーベル)とかのエレクトロを聴いていました。
――そのあたりの音楽は、最近の世代の音楽にどう影響をおよぼしていると思いますか。
最近のバンドとかはエレクトロミュージックにどっぷり浸かってきたわけではないけど、自然とエレクトロ的なものを使いこなしているというのは世代的な特徴なのかなと思います。
――アウトプットが早いような感じ?
普通にシンセサイザーとか使いこなしているみたいな。「こういう感じの曲がイケてるから使った」というか、そういうテンションで曲作りしている方はわりと多いなと思います。
――MONJOEさんの場合は聴き込んだうえでのアウトプットと。
DATSではあまりそういう要素をそこまで落とし込んでいるわけではないんですけど、自分はそういうものが趣味でした。
――ところで、9月4日におこなった東京・Ginza Sony Park主催のリモートライブ配信企画「Park Live」の感触はいかがでしたか?
ライブ自体が久しぶりでした。4人で会うのもリハーサルも9カ月ぶりだったから「新しくバンド組んだんじゃないか?」というくらいの感覚でした(笑)。ぶっちゃけライブの出来自体はメンバー全員満足していないんですけど、7曲中6曲が今作収録曲で、改めてそれらの曲をやってこれから新たなDATSとしての一歩を歩んで行くということは再認識できました。
――そんな本作『School』について、こだわった点などは?
サウンドアプローチよりも歌メロに意識をおいた作り方をしたと思っています。1曲1曲のメロディに寄り添ったアレンジを各々が考えて、結果的にこういう形になりました。
――制作はどのように進むのでしょうか。
土台は僕が作って、その上に細かいアレンジをみんなにそれぞれお願いするという形です。
“School感”を意識
――全体的なコンセプトやメッセージ性としては?
音的なアプローチで言うと“School感”というのを意識しています。“School感”というのは僕らの中での標語なんですけど、「なんかこの音Schoolっぽいよね」みたいな“School”というワードに含まれる要素があるんです。例えば「青春感」とか「懐かしい感じ」「学生時代」「キラキラしている」「エモ」とか、そういう色んな要素を“School”という一つの言葉がまとめてくれていて。
それってけっこうDATSらしいというか、DATSといえばそういう要素の塊なんじゃないかなと、みんなの共通認識として持つようになったんです。SpotifyやApple Musicなどでみんなのおすすめの曲を聴かせ合っている時に、「これSchoolっぽいよ」とか「これはSchoolじゃない」とか、自分達で仕分けができるようになってきたんです。
――“School感”の仕分けは、共通認識がないとできないことですね。
「Schoolだ」「Schoolじゃない」って、それが何なのか自分達でも細かくわかっていないにも関わらず仕分けができるというのは、バンド内での一つの核となるものを作るにあたって大事なキーポイントだと思うようになったんです。この“School感”というのを頼りにしてアルバムを作ってみようと思いました。
元々「DATSといえばこういう音」ということに対して、そこを突き詰めていないというのが特徴でもあり昔からの課題みたいなところがあったんです。今作からはあえてそういうある種の型みたいなものを作りたいと思ったので、それを頼りに一回作ってみようという流れになりました。
―― “School”というワードに付随するあらゆる要素を型にしていくと。
それがサウンド的な意味での“School”で、言葉としての“School”は、諸説あるんですけど語源が古代ギリシャ語で「暇」らしいんです。何故かと言うと、古代ギリシャの貴族達は奴隷制度があったため暇があったと。あくせく働かなくてもよかったから、暇を持つ優雅な遊びとしての教養を身につける意味で“School”というらしいんです。その意味を調べた時に、ちょうどアルバムを作った時期はコロナ禍になり始めた頃で、ステイホームとか緊急事態宣言でリモートも盛んになってきて、自分達もライブができなくて暇になった時期ということもあり、そういう意味でもこの言葉は自分達的に運命的なものを感じたんです。これからのDATSという意味でもあるし、今作のメッセージ的なものもこの言葉でまとめられるなと。
――自身と現在の時期的なことも併せ持ったタイトル名なのですね。
そうです。暇だから教養を身につけられるというのは今でも大事なことかなと思っていまして。暇がないと音楽も聴けないというか、人生を豊かにさせるようなものを享受できなくなってしまいますから、そういうものを大事にしたいと。けど、こういう状況によってどんどん現実というものが切り捨てられそうな流れになっているじゃないですか?
――かなり大きな時代の転換期とも感じます。
「明日は我が身」じゃないですけど、自分達に暇がないとできないものを享受できない立場になってしまうというか。そういうものも伝えられたらいいなという想いは込めています。
――確かにある種の暇、空いた時間がないと得られない教養や娯楽などがあって、今の時期はそれを受けるタイミングとして“School”という感覚はありますね。
本当にそうだと思います。
――非常に深い意味の『School』というタイトルだったのですね。ジャケットのデザインは通学中の2人という感じ?
これは映画『キッズ・リターン』(北野武監督)の印象的なシーンをリファレンスとして挙げてもらったんです。最初は青春をテーマでお願いしてたんです。青春ってどうしてもキラキラ感とか恋愛や男女をイメージしがちなんですけど、あえて男女ではなくて男と男で示せるのが凄くいいなって思っていまして。それで今回akaさんというイラストレーターさんにそういうお願いの仕方をしました。
――なるほど。収録曲「Showtime」のMVでは悪魔のような描写の者と女性が様々なかたちで向き合うという風に感じましたが、どういったことを表現されているのでしょうか。
ttps://www.youtube.com/watch?v=_vJf38Lp5CI
あれはディレクターのOSRINのアイディアが強いんです。悪魔が彼女に対していたずらしたりするんですけど、最終的には自分とこのまま付き合っていたら彼女は幸せになれないから、あえて自分との記憶を悪魔の魔法やいたずらで彼女の頭の中から消し去って、最後には自ら消えてしまうという男の意地みたいなものをOSRINは表現してくれました。
OSRINなりに僕の歌詞を読んでそういう表現にたどり着いたと思うんですけど、元々「Showtime」という曲に関しては口喧嘩の話で、喧嘩していたらヒートアップして、その喧嘩は些細なことから始まっているのに「何でこんなにお互いヒートアップしてるんだろう?」という風に冷静になってしまっている自分みたいな。冷静にも関わらず意地でヒートアップしてもっとキツい言葉をかけてしまったり、そういう様がなにかのショーを観ているような、というので「Showtime」になったんです。これを言うと、あまり今回のMVのストーリーとは別ベクトルというか。
――歌詞とリンクしているのかなと思ったら、そうもとれるしそう捉えられないとも感じますし。
そうなんです。それが凄く面白いなと思って逆に僕は好きで。より表現作品として深みを持てるというか、解釈がわかれるというのはいいことだと思ってまして。とは言え「Showtime」の空気感や大きな意味でのテーマはちゃんと統一できている作品になっていると思います。手応えとしてはお気に入りです。
葛藤、意地と現実の狭間で何ができるのか
――今作は8曲収録ですが、この他にも収録曲の候補はあったのでしょうか。
去年、土台となるものをひたすら作った上で “School感”の仕分けをして、School認定されたものが集まったという感じです。去年ライブなどでけっこうやっていて、リリースはしていないけどもはやライブの定番となりつつある曲もいっぱいあって、本当はそういうものも出そうかと考えていたんですけど、“School”という新たな基準をつくってから、「Schoolじゃない」という理由でことごとくそれらの曲が葬られたというか。どこかのタイミングで出るかもしれないし、機会があればライブでやるかもしれないですけど、とりあえず今の自分達のモードとしては“School”だと。これが自分達の大きな核となったと思っているので、それにたどり着けたという意味で新しくバンドを始めたみたいな感覚があるんです。
――「暇」「余暇」という語源を持つ“School”に繋がるのですが、家で過ごすことが多くなったコロナ禍という状況下で生じた空き時間などでMONJOEさんが新たに気づいたことなどはある?
やっぱり人と会っていない時間が続くと色々考えたりしたり回想したりするじゃないですか? 周りの人のこととかも考えたりしていて、自分の今までのスタンスがこれでよかったのかとか、自分を見直す期間になったというか。それは、世の中がコロナによって分断が始まったことで、特にSNS上での大きな動きが多発したことに影響されたと思います。
――SNS上でトピックへの反応が大きくなった?
ソーシャルイシューとしてのトピック、しかも信じられないような出来事がこのコロナ禍のタイミングでたくさん起きたと思うんです。大きな流れが発生するたびに、そのトピックに対しての自分の考え方やスタンスがあって、疑問を持ったりするじゃないですか? 「こういう風に言っているけど自分はこう思う」とか、そういう自分の考え方に向き合う時間が多くなったかなと。家でSNSを見る時間は増えたと思うんです。それはある意味、こういう時期にSNSがあってよかったなと思うと同時に、SNSとの向き合い方も今一度考えさせられる出来事も多かったり。負の感情の掃き溜めみたいになっていたりもすることも感じたりしたのでそれは今作にも影響していると思います。
――ある種、時代、この時期を表した作品でもありそうですね。
結果としてそうなってたらそれはそれでありがたいです。
――今後のDATSの活動の展望は?
ライブができない状況なのでどうなるかわからないですけど、その代わりとなるのが配信ライブとかになってくると思うんです。でも、自分達としては配信ライブのよさみたいなものがまだあまり見出せていなくて。音がラインに乗ってPCやモバイル機器などから流れる時点で「ただの音の出力信号と変わらないじゃん」というのもあって。ライブと同じ価値基準、同列で語ることはできないと思っていて。ただのコンテンツとして消費されてしまうからライブに配信でこだわる意味というのが自分としてはあまり見出せていなくて。ファンの方々は観たいと思って頂けているのかもしれないですけど、僕らがやりたいのはそういうかたちではないというか。
――また新たなスタイルが生まれてくる?
そうだと思います。実際、ライブ配信自体も一周まわった感じがあって。最初にやったのが話題になったりしましたけど、もしかしたら今はそれしかやることがないからやっているというバンドもいるかもしれないし…自分はいちリスナーとしてライブ配信を観ないし。だったらそういう人を巻き込むためにはもっとアイディアとか工夫しなきゃいけないし。演出や仕掛けを凝るとか、WONKさんとか3DCGでやっていましたけど、それくらいのことをやれないと、ぶっちゃけやる意味がないとも思っていて。そこを考えていかなきゃいけないなというのと、あとは何も影響なくできることとして音源を作るということは問題なくできるので、そこはスピード感を早めていきたいと思っています。
――現在の状況をふまえた上で深く向き合っているのですね。
考え方がちょっと変わってくるというか。プロである以上は活動において利益を上げないといけないので、そういう意味ではどんどんストリーミングにおける数字を上げていく競争は激化すると思うんです。バンドが持つ形態とはまた別のベクトルで考えないといけないなと思います。ある意味ユーチューバー的なベクトルで物事を考えていかないといけない時代になっているのかなとも思っています。でも、そこに屈したくないというところもあります。その葛藤、意地と現実の狭間で何ができるのか考える期間だと思ってます。
(おわり)