INTERVIEW

竜星 涼

「常に新しい竜星涼を届けたい」コロナ禍で向き合った「自分とは」


記者:鴇田 崇

写真:

掲載:20年09月08日

読了時間:約8分

 古川雄輝と竜星涼がダブル主演・初共演を果たした癒し系“純愛BL映画”『リスタートはただいまのあとで』が公開中だ。本作は小さな田舎町を舞台に、都会の生活に疲れ挫折中の狐塚光臣(古川雄輝)と、田舎暮らしで優しい熊井大和(竜星 涼)が出会い、正反対のふたりの関係の変化を描く物語だ。その公開を記念して、竜星涼にインタビューをした。

 竜星涼は『獣電戦隊キョウリュウジャー』でドラマ・映画ともに初主演を飾り、パリ・コレクションにも華々しくデビュー。ディズニー映画『トイ・ストーリー4』では人気キャラクターのフォーキーの声を務め、今年は三谷幸喜作・演出の舞台『大地』や主演映画『ぐらんぶる』も公開になるなど、今まさに最旬の俳優だ。「この作品も含めて、新しい竜星涼を常にみなさんに届けようと思ってやっています」と意気込みを語る、若手実力派俳優の素顔に迫った。【取材・撮影=鴇田崇】

出来る限りの準備、撮影地にもなじむ

――熊井大和という役柄はおっとりしている男子でしたが、ご自身と比べて演じる上ではいかがでしたか?

 彼と似ているかどうかは考えなかったのですが、田舎暮らしの青年ということで、僕は育ちはほぼ東京なのですが、親が山形出身ということもあって、農家のおばあちゃんちにもよく行っていました。それはこの映画の長野の風景よりももっと田舎のところで、小さい頃は遊びだけじゃなく、農作業を手伝って駆けまわったりしていたので、その当時の思い出が今回の役柄のイマジネーションにつながったとは思っています。

 特に大和が持っている人に対してのテリトリー、ちゃんとバリアを張っている部分では、共感するというよりは、それって人間誰しもが持っているものだと思っていました。生い立ちは人それぞれだけれども、彼のキャラクターを作っていくうえでは、ほかの作品よりも時間をかけましたね。

――彼はとても純朴で、田舎で懸命に暮らしていて、優しい人物として観る人の印象に残りますね。

 それこそ方言であるとか、出来る限りの準備をして、彼の持ち味、武器を作っていった感じはあります。あと地元の方々とご飯によく行ったりしていて、長野の上山田温泉街で撮影していたのですが、2~3週間、現地で知らないお店に入って大将と仲良くなり、そこからいろいろな人たちと触れ合って、気づけば知らないおじさんが4~5人一緒に歩いているみたいな(笑)。そういう状況でずっといたので、そういうところで地元の人になるのは地元の人を知るじゃないけれど、それで雰囲気が出ていればよかったなと思いますし、なにより地元の方々の優しさ、愛というものを感じた期間でした。帰りなどはわざわざ見送ってくれて、僕も一軒一軒、東京に戻る前にあいさつして回った思い出がありますね。

性を超えた人間ドラマ

――本作は宣伝上、BLというキーワードがありますが、今言われていたように人と人との物語であり、愛と優しさの物語であるという側面が濃いかと思いますが、いかがでしょうか?

 僕自身もこれは人間ドラマであると思っています。そもそも人を好きになることって、こういうことなのかなって、すごく純粋なラブストーリーだなと思って受け止めています。どちらかというとこれまでの日本のBL作品というものは、この作品でいう結ばれた後のストーリーが多かったですよね。でもこの作品はそれまでの、友だちから恋人になるまでの、その過程というものを、すごく長いこと時間をかけて丁寧に描いていると思ったので、それは同性であろうがなかろうが普通にあり得る起こり得ること。観ている人たちに普通の恋愛としてそこにあるものであるということを、少しでもみんなが思う世界になれば素敵だなと思いました。

(C)2020 映画「リスタートはただいまのあとで」製作委員会

――撮影現場では、どのように共演者のみなさんと、そういう思いを共有したのですか?

 僕自身は作品の話をみんなでするほうではなくて、台本のセリフも変えないタイプなんですけど、基本的に受け取ったセリフをどう調理して出すかは僕たちの仕事だと思っています。それで監督から何も言われなければ、監督の思いと一致していると思ってカメラの前に立っているところはあります。後は共演者の方々から投げかけられるものをどう返すかは、その都度次第ではあるので、そういう意味では事前に相談して作ったりせず、自分の中で思ったメッセージを伝えていければと思っています。

――その共演の古川雄輝さんの印象を教えてください。

 最初にお会いする前からクールな印象がありましたが、作品に入った後は監督とディスカッションをよくされている姿を見ていて、情熱的な方なんだなあと思いました。

ロックな魂で乗り切ることも

――さて、エンタメ界は厳しい状況が続いてはいますが、その渦中にいる方としてどういう思いで仕事に臨んでいるのでしょうか?

 今舞台をやっていて、この仕事をしている者としては苦しかったこともありましたが、こういう時だからこそ時代背景を伝えていくことが、僕たち俳優の仕事でもあると思ったんですよね。そういう問題を提示することで風化しないというか、浮き彫りになっていくと思うので、そういう作品を僕たちも作り続けて、伝えていく必要があると思います。

 僕たちはお客さんがいる限り、観てくださる人たちがいる限り、その灯はなくならないと思うので、やり続けなければいけない使命感も生まれている。だからこそちょうど僕はパルコ劇場で舞台を上演していますが、ある意味演劇では、僕たちが初陣を切るような感覚で大きく踏み出した。そろそろ40公演近く東京では数えますが、それは非常にありがたいことでもあると同時に、その出演メンバーとして誇りも持っています。

竜星涼

竜星涼

――映画、演劇、そして音楽も制限はありますが、エンタメが心の糧になっている人はたくさんいますよね。

 僕自身、音楽においても、音楽がないと生きていけないような人間なので、つねに音楽があふれている世界に自分がいたいと思うし、逆に自分が勇気をもらったりします。自分のテンションを上げてくれるのは、音楽だったりしますよ。

――竜星さんでもそういう時があるんですね(笑)

 ありますよ(笑)。疲れが溜まっている時とかは、矢沢さん、長渕さんを聴いてロックな魂で乗り切ったりします。でも音楽って面白くて、それだけでも全然変わるし、やっぱり僕は大事だと思いますね。それは作品の中でもそうだと思うんですよ。映画の中で音楽流しっぱなしはよくないけれど、キーになるところでかかる音楽ってすごく印象深いし、そういう作品は総合芸術として絶対に必要だと思うので、音楽があるほうが豊かな気持ちになりますよね。

――それぞれどの曲がお好きなのですか?

 長渕さんは小さい頃は「ひまわり」をよく聴いていて、矢沢さんの場合は都会的で、いつどれを聴いてもおしゃれ。どの年齢になっても、今の僕たちが聴いていてもおしゃれだし、特にピアノやサックスが入ってくるので、ちょっとジャズっぽかったりもする。長渕さんは、長渕さん自身が詞を書いていることもあって、人生経験を語られていることが多いので、すごく魂をつかまれます。

俳優とは何なのか、向き合った自粛期間

竜星涼

――また一方で昨年、映画『トイ・ストーリー4』で先割れスプーンのおもちゃ、フォーキーの声を担当され、ディズニーのファミリーでもあるわけですが、そこには責任のようなものも出てくるとは思いますが、仕事への意識も変わったのではないでしょうか?

 『トイ・ストーリー4』だけの話ではなくて、今回のコロナ禍での自粛期間があったので、いいきっかけにもなったところがあって。いままではずっと前だけを見ていて、進み続けることしかできなかったけれど、一度足を止めて、俳優とは何なのか? 僕にとっての仕事は何なのか? そういうことを、ちょっと改めて見直す時間があったんですよね。それが僕にとってはいいタイミングになりました。直後に入った舞台が、三谷幸喜さんの三谷流俳優論というようなものでもあったので、余計にそういうことは考えました。今言われたような責任についても、より深く感じるようになったりましたね。今置かれている環境や社会などを全部ひっくるめて、何かこう伝えていく。残していくことが大事かなと思っています。

 それまでは俳優という仕事が自分に向いているのかなとか思った時期はありましたけど、改めて俺はこれでやっていくぞ、求められる限りは、という覚悟みたいなものは、この期間に生まれたかなと思いますね。

――はたから見ていると順調そのものに見えますが、人知れず悩まれていたとは意外でした。

 それはありますよ(笑)。若いうちに人から評価されて賞をいただいたり、人気・知名度という意味で、たくさんの作品で主演することで得る自信も、もちろんあると思う。僕は、そういう道を辿っていないということも含めて、自信が持てなかったんですよ。でもそれは、演劇というものに触れていくうちに、たくさんの素晴らしい先輩たちがそのことを評価してくれて、見ている人は見てくれていると思いました。そして引っ張ってくれた。そういう経験をしたので、ほしかった自信を手に入れられたんです。それからだんだんと変わっていけた気がしていますね。

――それが結実して、今年の夏は映画も連続公開していますよね。

 本当にこの夏は、いろいろな姿の僕を観ていただく機会が映画だけでもあると思います。この作品も含めて、新しい竜星涼を常にみなさんに届けようと思ってやっていますので、その中で人と人とのつながり、人が人を好きになるという物語を今度はお届けできることになりました。誰しもが持っている悩みを、この作品を観ることで自分と向き合う時間にしていただいて、前に進んでもらえたらうれしいなと思います。

竜星涼

竜星涼

(おわり)

ヘアメイク: TAKAI
スタイリスト: 山本隆司

映画『リスタートはただいまのあとで』
シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開中!

古川雄輝 竜星涼
村川絵梨 佐野岳 / 中島ひろ子 螢雪次朗 甲本雅裕

監督:井上竜太
原作:ココミ著書「リスタートはただいまのあとで」(プランタン出版刊)
配給:キャンター

https://restart-movie.com/
(C)2020映画「リスタートはただいまのあとで」製作委員会

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