アイドルグループAKB48、派生ユニットDiVAの元メンバーで、現在は女優として活躍の場を広げる秋元才加が、現在公開中のアクション映画『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』でハリウッド映画デビューを果たした。本作は、1993年の第1作目以来、トム・ベレンジャーの代名詞的な人気を誇る『山猫は眠らない』シリーズの第8弾で、秋元は謎の暗殺者、ユキ・ミフネで強烈な存在感を残す。
近年ではマーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のマンティス役の日本語吹替えも担当した秋元だが、海外進出は夢であったという。さかのぼればAKB48在籍時代にファンの海外進出エールも受けていたそうで、「このタイミングで出演することもできたので、応援してくださった方の夢も叶ったのでうれしく思っています」と語る。そして夢を叶え順調に仕事をこなす一方、くじけそうなときにはAKB48の<ある曲>に勇気づけられたりもすることがあると教えてくれた。「期待とイメージを楽しみながら裏切っていけたらいいなと思っています」と仕事への決意新たにする彼女に、映画のこと、現在の胸中などを聞いた。【取材・撮影=鴇田崇】
実弾のガントレーニングも
――激しいアクションが見ものの作品ですが、シーンの撮影のために特殊な練習をしたのでしょうか?
ものすごく特殊ではなかったと思いますが、アクションシーンのトレーニングは4日間ほどお時間を作ってくださって、主役のチャド(チャド・マイケル・コリンズ)さんと一緒に合同で練習をしました。実弾のガントレーニングもスケジュールに組み込まれていて、SATの方々が射撃訓練している横で、警察のOBの方々がさまざまなライフルなどの使い方を教えてくださって。いろいろと練習はしました。
腰をちゃんと落として、前傾で撃たないと振り回されてしまうんですよね。脚を広げて、しっかりと構える。持ち方、構え方までしっかりと教えてもらったので、今後チャンスは少ないかもしれないですが、実際に実弾でトレーニングをしたことが、日本での何かの作品にいきてくればうれしいなとは思いました。
――実弾で練習とは本格的ですね!
立ったまま撃つやり方、座って撃つやり方、伏して撃つやり方、いろいろと教わりました。銃の構え方にいたるまで、手取り足取り教えていただきましたね。やっぱりスケールがまったく違いますし、警察の方々とか本職の方じゃないですか。そういった方々に教えていただくことでよりリアリティーを追求できるし、こういうトレーニングを組み込んでいただけるハリウッドっていいなって、個人的には思いました。日本だとおそらく限界がある銃の練習も、ちゃんと物の重みを感じて、実物を触り実弾を撃つことで、自分の中で現実味が増したので、お芝居がしやすくなりました。また、そういう環境を与えてくださったからには、ちゃんとお芝居に還元しないといけないなとも思いましたね。
――今回は暗殺者の役柄でしたが、彼女を踏まえてこの世界観にはどういう感想を持ちましたか?
台本を読み進めている限りでは、一応日本人で…と自分の中で組み立ててはいたのですが、衣装合わせでこのビジュアルになった時に、どういうお芝居をしたらいいか、一瞬わからなくなったんですね。実際に生きていて、顔に赤い線が入っている人っていないじゃないですか。衣装もそうでしたが、アメコミのキャラクターっぽいなとも思いました。でも人間としてリアルにお芝居をしたらいいのか、キャラクターとして立ち居ふるまったほうがいいのか、ちょっと迷ったんです。
そうしたら、監督(カーレ・アンドリュース)がアメコミの漫画を描いている人だったんです。だからおそらくそういう要素をわたしが感じたのだろうし、今回の「8」までいろいろな試行錯誤があり、ここまでにシリーズが成長したのだと思いますが、すごい試みをしようとしているんだなって思い直しました。今まで観てきた作品と全然毛色が違ったので、参考になる人がいなかったんです。わたし以外みんなリアルな人間なので、そこは迷いました。
――秋元さんが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』でマンティスを演じていることを知って、その方向性に?
それはない…と思います(笑)。ただわたし自身もキャラクターしやすい、アイコンにしやすいビジュアルになるだろうとは思っていたのですが、そもそも『山猫は眠らない』シリーズにこういうキャラクターがいたっけ?と自分の中でも疑問と葛藤があって、それで監督とお話をしました。自分が思うミフネを相談して、進めましたね。
――最終的にどう落ち着いたのですか?
人間性の描写などはまったくなかったですし、そこも求められているとは思いませんでした。自分の中ではぼんやりとはありましたが、今回新しいキャラクター、アイコンとして画面に映っている時の説得力と、アクションと、どの海外圏の人にも伝わる英語で発音しようと思っていたので、細かい心情は重要視しなかったんです。でも監督が言うにはチャドさんが動であれば、静の部分を担ってほしいということでした。海外の方がイメージする武士・忍者なのだと思います。アクションのシーンでは、何かものを投げていたりするんですよ。ちょっと忍者っぽいツールで、アクションも和を感じるものになっていたりするのですが、わたし自身合気道をやっていたので、海外の人が思うアジア人、日本人像みたいなもの、それはステレオタイプではあると思うのですが、それが望まれているのであれば、ハリウッドは初めてだったこともあり期待に応えたいと思いました。重々しいというか、重厚感を意識して動いてはいました。
輝けるところで輝きたい
――もともと海外進出に興味があったそうですが、その理由は?
漠然としたものはあったんです。もともとわたしはダブルで、母親がフィリピン人なので、海外作品に出られたらうれしいなとは思っていましたが、絶対に進出を果たしてみせるというほどではなかったですね。日本でも自分のやりたいお芝居などが少しずつできるようになってきたところなので、無理やり方向転換をして…という感じでもないんです。チャンスがあったらうれしいなとぼんやり思っていたところに急に今回の話をいただいて、めぐりあわせは不思議だなって思いました。でも、デビュー当時にファンの方々にいつかハリウッド作品に出られたらいいねとよく言われていたのですが、当時はまさかこういうことになるとは思ってもいなかったですね。このタイミングで出演することもできたので、応援してくださった方の夢も叶ったのでうれしく思っています。
――とてもいいエピソードですね。しかし、ファンの方はどうしてまたそういうことを言っていたのでしょうか?
AKB48在籍時に海外公演によく行っていたのですが、実はわたし、海外人気がやけに高かったんですよね(笑)。日本ではすごく声援が大きいわけではなかったのですが、海外で人気のメンバーを聞くと、あっちゃんとさやかみたいに名前が入ってきていた。日本で人気のパフォーマンスとビジュアルなどが、まったく違うと思ったんです。20歳そこそこで、そのことには気づいていました。海外のディレクターさんと番組でお仕事をする機会もあったのですが、わたしをチョイスしてくれたり、そういうことが続いたんですね。だから漠然と輝けるところで輝きたいとぼんやり思っていたので、それをファンの方が感じ取っていたと思うんです。
――余談ですけど、今年の春にワンダーウーマンのコスチュームを着て踊っている動画をTwitterで観た時、すっごく似合っていると思いました。
コスチュームに負けない個性は持っていると、つねづね思ってはいます(笑)。舞台やミュージカルでは衣装負けしちゃう、かつらが似合わないとか、よくあることなんです。映画『媚空 -ビクウ-』などではアーマーを着ていましたが、衣装に着せられているようなことにはあまりならない個性があると自分でも思っていて、当時雨宮慶太監督が見出してくださったことは、すごくうれしかったですね。おそらくわたしはキャラクター化しやすいと思うのですが、逆を言うと普通の女の子の役ができないんです。『ギャラクシー街道』が一番普通に近いイメージです(笑)。
――その悩みは昔から言われていますよね。
そうなんです。でもようやく最近、顔つきがやわらかくなってグループに在籍していた時よりかは細身になったので、役の幅も広がりました。普通の女性の役もできるようになってきたんです。いろいろなところで、いろいろな面が見せられたらいいなと思っています。
――映画『媚空 -ビクウ-』の時、すでに完成した世界観の中にスンナリ入っていけたすごさを感じましたが、それは今回の『山猫は眠らない』も同様なんですよね。
すごくありがたいことだと思っています。GAROは、GAROというジャンルというか、すごく愛されている世界観があって、そこにキャラクターがいる、そういうコンテンツに出させていただきました。実はAKB48の時には「ウルトラマンサーガ」にも出させていただいて、幅広くいろいろな場所に声をかけていただいているんです。
――前述のMCUのマンティスもそうですよね。
確かにそうなんです。好きな人はすごく好きな世界に節目で参加させていただいていて、だから今回の『山猫は眠らない』もハリウッド進出の一作目として、すごくわたしっぽい展開だなと思いました。熱量が凄まじい人たちに愛されている作品に出ることは、本当にすごくうれしいです。この積み重ねが、大切な時間、経験になっていけばいいなと思っています。
理想に近づいている、初心に戻る曲
――先ほど自分のやりたいお仕事ができるようになったと言われていましたが、それは具体的にはどういう意味でしょうか?
AKB48のグループ在籍時は舞台の仕事が多かったのですが、映像の仕事、ドラマ、映画でお芝居を学びたいなと思っていたんです。でも当時は舞台向きだよねって言われることが多くて、それが悔しくも感じていたんです。表現者としては舞台、映像と分けてほしくなくて、欲張りなんですけどどっちもできるようになりたいんです。そのどちらにもそれぞれの素晴らしさがあるじゃないですか。なかなか映像の機会もなかったりして悩んでた時期もあったのですが、だんだん積み重ねで映像のお仕事も増えてきました。舞台、バラエティー、映像と自分の中ではほどよいバランスで、自分が望んでいた設計、理想には近づいてきているなと思っています。
――その夢を目指す過程でくじけそうになった時など、音楽に救われたようなエピソードはありますか?
すっごく落ち込んだ時は、2PACの「Life goes on」を聴いています。どんなことがあっても時間は流れていく、人生は流れていくという歌詞。辛くて大変な時でも時間は止まらないよなって、自問自答する時に、この曲を聴くことが多いですね。わたしは両親に相談したりとか、そういうことはしないので、音楽に相談しているようなものなんです。励まされています。わたしにとって音楽はすごく大切です。
――AKB48在籍時代の曲を聴いたりはしますか?
します。最近、ちょうど外苑通りを歩いている時に、たまたまシャッフルでAKB48の曲がかかったんです。それも公演曲で、「君が星になるまで」というシングルカットになっていない曲。たぶんご存じなくても無理はないのですが、“君が星になるまで僕は見守り続けている、どうか輝いてほしい”という意味の歌詞があって、これはたぶんデビュー当時、秋元さんからのエール、そしてファンの方からのエールだったと思うんです。踊っているわたしたちを星に見立てて、ひとりひとりスターになってほしい、そういう曲があるんですよ。そういう解釈でわたしは聴いているのですが、この曲を聴くと初心に戻るというか、基本的にAKB48の曲を聴くと、初心に戻ります。不安になった時に仲間の声を聞くと、すごく安心するんです。すごく特殊な体験だと思うのですが、安心しますよね。
――ほかのメンバーの方も同じ気持ちかも知れないですよね。
デビュー当時の曲なので真空パックされているような感覚で、あの曲を聴くと当時の自分たちに戻るような気がします。まだまだ子どもの声をしていると思いながら(笑)。音楽なのですが、アルバムのページをめくっているみたいな感覚になり、みんなが励ましてくれているから、よし頑張ろうと思う。大事な曲なんです。
――素敵なエピソードをありがとうございました。今回の映画を機に今後、こうなりたい、変わりたいみたいな夢はありますか?
つねづねデビュー当時から言っているのですが、ふり幅がある俳優になりたいと思っているんです。特にミフネのような役を演じた後に、今度はすごく優しいお母さんとか、え?こんな役もやってるの?と思われることが、けっこうわたしの中では理想なんです。期待とイメージを楽しみながら裏切っていけたらいいなと思っています。
(おわり)
映画『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』
8月14日(金)より、劇場公開
出演:チャド・マイケル・コリンズ、秋元才加、トム・ベレンジャーほか
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://www.sniper8.jp/
(C)2020 Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc. All Rights Reserved.
ヘアメイク:中畑 薫
スタイリスト:加藤万紀子