5人組バンドNovelbrightが27日、1stフルアルバム『WONDERLAND』をリリースした。昨年7月から1カ月半の間に5大都市をまわり、売上と投げ銭だけで生活する『どチクショー路上ライブ TOUR』を開催。その様子がSNSに投稿されるとたちまち話題となり路上ライブに人が殺到し各地でのインストアライブではCD在庫切れ続出と快進撃を見せた。先月4日からはオンラインでライブに参戦できる「バーチャルライブTOUR~ライブできないので部屋でやります~」を開催。Novelbrightの沖聡次郎(Gt)と山田海斗(Gt)に本作について話を聞くとともに、自粛期間に感じた新たな活動の可能性などについて語ってもらった。【取材=平吉賢治】
ツアーの手応えとブレイクの心境
――『EN. -アンピリオド-』リリースワンマンツアーは追加公演含む8カ所全てソールドアウトという反響でしたね。手応えもあったのではないでしょうか。
山田海斗 前回のツアーでここまで色んな人達に聴いてもらえました。今までできなかった大きな会場も埋まって凄く嬉しいと思っています。「しっかり僕らの良さを伝えなければ」という思いがあったので、追加公演もしっかりセットリストを考え直したり、より良いライブを届けられるようにとライブ毎にやっていきました。
沖聡次郎 会場に来てくれた人達の半分以上が初めてライブに来るお客さんだったんです。ワンマンなのにある種、特殊な空間というか(笑)。「どんなものなんだ?」というお客さんが多かったので、それに対してどう心を掴んでいくライブにするかということで、スタジオの練習やミーティングも凄く濃いものにしました。
――Novelbrightは2019年の夏頃から一気にブレイクしましたが、心境の変化は?
沖聡次郎 「いつかもっと大きいステージへ」という気持ちはもとから大きくて。支えてくれる人が多くなったことによって、コンポーザーとして作る楽曲への責任感やみんなに届ける想いの大きさが変わりました。自分の責任で人の人生を変えてしまえるような影響力になってしまうというのが驚きで。そこはポジティブに、意識を持ってやっています。
山田海斗 色んな人に好きになってもらえたのが凄く嬉しいです。僕らの曲がTVやSNSなど色んなところで流れて注目して頂ける機会が増えたので、ライブでもしっかり見せていけるように頑張らなきゃなという気持ちです。
――さて、最近の活動『バーチャルライブ TOUR~ライブできないので部屋でやります~』はどういった内容でしょうか。
沖聡次郎 新型コロナウィルスの影響による自粛中でライブができない状況で、応援してくれているみなさんにどう音楽を届けるかと考えました。音楽活動はしつつ、より時代に合った広いことをしていかなければと思ったんです。「ネット、SNSを使ってライブを届ける」という根本で始まりました。もともとSNSを多く使った活動をしていたので、自然とそういう話になったしスムーズに進みました。
山田海斗 ライブができなくなってから、3週間くらい毎日アコースティック体制でやったりして、緊急事態宣言後は、密な体制にならないように2人体制や個人のInstagramライブとかで配信しました。それによってファンのみなさんが楽しんでくれたと感じました。うちにいる時間が多くなったので、決めた時間に僕らが配信することによって、習慣化してくれて楽しんでもらえたんじゃないかなと思います。
――自粛時期ならではの取り組みですね。それでは本作『WONDERLAND』についてですが、コンセプトは?
沖聡次郎 現在のNovelbrightのメンバー体制初のフルアルバムで曲数も多いので、「Novelbrightの出せる楽曲の幅の広さを出したい」というのが念頭にありました。そのなかでどういった曲を作っていくかというのは、メンバー間でしっかり考えて悩んで作りました。レコーディングのギリギリまで選曲会議をして直前に差し込まれた曲もあるんです。1曲1曲がちゃんとした色を持っている12曲のアルバムになったと思います。
――確かに各曲のアンサンブルもアレンジもカラフルと感じました。制作面については沖さんと山田さんが楽曲の土台を作って、ボーカルの竹中(雄大)さんがメロディと歌詞を乗せるというスタイルと前回インタビューでお伺いしましたが今作でも?
山田海斗 はい。同じやり方です。
――3曲目「君色ノート」は、どのような着想で出来た楽曲でしょうか。
山田海斗 1曲、Novelbrightらしい爽やかなポップスを作りたいと思った時にイメージしたのが、僕達の青春時代のポップスなんです。2000年代くらいの懐かしいテイストがあると思います。「そういうポップスをNovelbrightがやったらどうなるんだろう?」というところから制作しました。
――制作はスムーズにいった?
山田海斗 聡ちゃんがトラックを作ってそれをちょっと変えたりはしましたが、ほぼそのままでアレンジに進んで流れるようにスムーズにいきました!
――スムーズにNovelbrightらしい楽曲が出来た、というのもあってリード曲にしたのでしょうか。
沖聡次郎 僕達はリード曲を決める時、最初からこれにしようというのはなくて、アルバム曲全部出揃った段階で「これ」という曲を決めます。話し合った時にメンバー全員が「君色ノート」を挙げたんです。
――満場一致だったのですね。8曲目「夢花火」ですが、ノスタルジックな音像で90年代テイストも感じる楽曲ですね。この楽曲はどのように出来たのでしょうか。
沖聡次郎 「90年代」というのはまさしくという感じです(笑)。コード進行や展開がいなたい90年代の雰囲気を出したバラードです。今の時代に聴けるドラマチックでエモーショナルなバラードを作りたいというより、原点回帰というか現代の日本のバラードのルーツのテイストにしたいと最初に思いました。前作と作り方が変わった点は、ピアノのアルペジオなどの部分が綿密にできたかなと思っています。懐かしくて聴き馴染みがあるけど、新しいNovelbrightの楽曲になったと思います。
――「夢花火」はCMタイアップ曲で、CMに出演した橋本環奈さんがNovelbrightさんをフェイバリットとして挙げたと聞きました。
山田海斗 CMが決まった時に橋本環奈さんがTwitterでつぶやいてくれたんです。僕らもそれを見て凄く嬉しい気持ちになりました。
ルーツ音楽と新しいものも取り入れてハイブリッドに
――5曲目「おはようワールド」は様々なアプローチが聴けるトラックですね。鋭いキメが多かったり凝ったアレンジだったりと。
山田海斗 この曲は僕が駅から家まで歩きながら帰る間に全部構想が頭の中で勝手にできたんです。
――“降りてきた”という感じですね?
山田海斗 そうかもしれないです(笑)。
――ここまで複雑で豊かなアプローチがよく降りてきましたね(笑)。
山田海斗 なんで降りてきたのか僕もわからないんですけど(笑)。キメとか拍子が変わったりする部分なども全部浮かんだので、帰ってすぐに録音しました。頭に浮かんだものをそのまま打ち込んだという感じです。
――アイディアがそのまま形になった楽曲なのですね。7曲目「夜空に舞う鷹のように」の方も凝ったアレンジですね。こちらはどのような着想で出来たのでしょうか。
沖聡次郎 以前の曲の再録です。これは当時の悔しい気持ちがあった出来事があってできた曲なんです。これもフッと降りてきて出来たような曲です。
――けっこうインスピレーションで楽曲が出来ることが多いようですね?
沖聡次郎 そうです。逆に根詰めてやってもなかなか進まなくて…ちょっと休憩した時にいきなり別の曲が浮かんだりすることが多いです。
――なるほど。10曲目「candle」は海斗さんが作詞ですが、どんな想いで書いた曲でしょうか。
山田海斗 これは女性目線の歌詞です。好きだった人を違う男性に重ねて、いけないとわかっていても「好きじゃないのにその人と一緒にいる」みたいな何とも言えない女性の感情をロウソクに見立てて書きました。
――「私、この人とずっと一緒にいていいのかな…」という女性の悩みは確かに聞いたことがあります。
山田海斗 そういうことです(笑)。
――その次の曲、「Prologue ~Before the dawn~」はインストゥルメンタル楽曲で、和訳だと“夜明け前”というサブタイトルが意味深ですね。
沖聡次郎 この曲は最後の12曲目「時を刻む詩」に繋がるんですけど、「時を刻む詩」はこれまでの軌跡を書いた曲です。僕達がライブでお客さんに来てもらえず全然芽が出なくて、そこから路上ライブをして頑張って、そこで応援してくれる仲間やファンの方々が出来て、それで今こうやって色んな人に認知してもらえるバンドになったという。「Prologue ~Before the dawn~」に入っている雨風の音と足音は、路上ライブをしている時の「まだ何も先が見えない不安を抱えながらも前を向いて歩いている」というイメージで入れました。「朝焼けになる前」みたいな感じで作りました。
――まさに“Before the dawn”ですね。アルバム全体の音像についてですが、お二人のギターパートのPAN(音の定位)が左右にクッキリ分かれているのがよくあって、こういったアプローチからも90年代テイストを感じました。
沖聡次郎 僕らがああいう風にやりたくて(笑)。あのギターの振り方はメンバーは最初知らなくて、楽曲が出来上がってからメンバーが聴いて「ギター左右でわかれてない?」って言われて「いや、これがええねん!」って(笑)。
――細かい部分かもしれませんけど凄く好きなアプローチです(笑)。さて、「君色ノート」のMVについてですが、美術室での様子や就活のシーンが見られました。どのようなメッセージが込められているのでしょうか。
山田海斗 就活や仕事の場でも落ち込んで悩んだりして、色んなことを人に言われて“自分らしさ”というのがなくなってしまったりする人に頑張って行こうというメッセージ性があるMVです。
――“らしさ”というのは大切ですよね。Novelbrightでの“らしさ”を感じるスタンスは何でしょうか。
沖聡次郎 時代と真逆なようなアプローチとかが多いんですけど、それって僕達が生きてきた時代の音楽だったりするので、新しいものも取り入れてハイブリッドにいくんですけど、根本は90年代や2000年代だったり僕ら世代の音楽のルーツを取り入れたバンドかなと思います。
山田海斗 僕も聡ちゃんとあまり変わらない感じですけど、みんなに聴いてもらうものなのでちゃんと聴きやすいように作ったり、「どういうのがみんなが好きか」というのを考えたりします。僕らの好きなものを好きになってほしいので。僕らの好みの音や構成でしっかりとアプローチして曲にするというのが僕らのやり方です。
ミュージシャンとしてプラス面もあった自粛期間
――Novelbrightがこれから新たに取り入れたい手法やアプローチは?
沖聡次郎 エレクトロな要素や、映画のサントラ的なスケールの大きいアプローチをしたいと思っています。次のレコーディングでは弦をオーケストラで録ってみたいというのもあります。まだ手を出していない新しいこともチャレンジしてどういう化学反応になるのかというが楽しみでもあります。
山田海斗 僕も色んなことに挑戦したいと思っています。今作っている曲もEDMっぽさも入れつつというのもしていたりします。今までは王道なメロディの歌ものバンドというのをあえて前面に押し出して曲作りをしていたので、これからもっと別の部分を出していく予定もあります。王道ではないけどしっかり音楽が出来た頃のニュアンスを取り入れていきたいと思っています。
――確立された昔の音楽の部分やルーツを大切にしつつも新たなアプローチをしようと。最近新たに注目している音楽はありますか。
沖聡次郎 映画音楽など、旋律を強調することにプラスしてモダンなものが入っている音楽が最近多いので、そのへんを深く追求したいなと思っています。そのあたりのニュージャンルがトレンドです。
――今後の作品の新たな表情に期待が持てますね。ところで、自粛期間特有の環境で得たものはありますか。
山田海斗 自宅でオンラインミーティングをしたり曲を作ったり練習したり…「人に会えない」ということが今まで当たり前ではなかったので、その当たり前がなくなった時に、オンラインで「こういうことができるんだな」ということに気づけました。それはこういう期間だからこそだと思います。
沖聡次郎 音楽的にミュージシャンにとって大きな期間だと思うんです。僕の予想だと自粛期間明けのリリースには名盤が多くなるんじゃないかなって思います。
――プラスな面もある期間でもあったと。
沖聡次郎 普段見えなかった部分が見えたり気づけたりできた期間だったので。もちろんライブができなかったりとマイナスな部分もあるんですけど、それ以上に得られたものもあったと思います。
――最後に、これからの展望について教えてください。
沖聡次郎 今見えているものよりも大きいものを作っていかなければいけないと思っているんです。応援してくださっているファンの方々に届ける想いも何倍もリアルに感じないといけないと思うので、そういう気持ちの変化があります。しっかりとやっていきたいと思います!
(おわり)