LOVE PSYCHEDELICO「積み重ねてきた結果」20年で辿り着いた音楽とその未来
INTERVIEW

LOVE PSYCHEDELICO「積み重ねてきた結果」20年で辿り着いた音楽とその未来


記者:榑林史章

撮影:

掲載:20年04月08日

読了時間:約15分

 LOVE PSYCHEDELICOが3月25日、シングルコレクション『Complete Singles 2000-2019』をリリース。4月21日にデビュー20周年を迎えることを記念するCD4枚組の豪華版。2000年のデビュー曲「LADY MADONNA ~憂鬱なるスパイダー~」以降のシングル表題曲とカップリング曲を網羅しており、彼らの世界観を堪能できる。デビューから20年、彼らは何を大事にして活動を続けてきたのか? LOVE PSYCHEDELICOの飽くなき音楽へのこだわりについて語ってもらった。また、4月20日から放送されるテレビ東京系ドラマBiz『行列の女神~らーめん才遊記~』のオープニングテーマとなる新曲「Swingin’」についても制作エピソードなどを聞いた。【取材=榑林史章】

グッとくるかどうかが判断基準

『Complete Singles 2000〜2019』ジャケ写

――20周年を迎えるということで、改めて思うことはありますか?

KUMI 思っていたよりもあっと言う間でした。若い頃は20周年だと聞くと「すごいな」と思ったけど、いざ自分が20周年を迎えると、すでに30年、40年と長く活躍されている大先輩が大勢いらっしゃって。なので、キャリアを積んできたなというような気持ちはありません。

NAOKI 2月に出演させていただいた佐野元春さんのイベントは40周年だったし、ザ・ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・クラブ・ハーツ・バンド』の50周年記念盤がリリースされたのも数年前、ザ・ローリングストーンズにいたっては50周年をとうに越えていますからね。それに比べればまだまだ青二才です(笑)。

――そういう先輩にならって、40年、50年を目指していきたい?

KUMI 続けることが目標ではないけれど、これからも続いていくとは思いますね。

NAOKI 先のことはそんなに考えないけど、音楽をやるということがやっと日常の一部になってきたな、というのはありますね。

KUMI やっと自分の生き方と音楽が、自然とひとつになったなと思います。

NAOKI だから以前に比べると「アルバムを作るぞ」とか「新曲を書くぞ」という衝動がそんなに大事件ではなくなったというか。こちらから考え込まなくても自分の生活から音楽が逃げなくなりました。きっと近いうちにアルバムを作ると思います。

――20年のなかでは音楽と向き合うことが楽しいときもあれば辛いときもあり、今はそれも含めて寝食と変わらないものになっている、という感じでしょうか。さて、今回リリースされる4枚組アルバムを聴くと個人的に「変わってないな」と思うのですが、お二人としてはどう思われますか?

KUMI 変わった変わらないにもいろいろあると思うけど、当時やりたかったことや、やろうとしていたこと、そういったものはあまり変わっていない気がしますね。

NAOKI 変わったとすれば、2005年に自分たちのレコーディングスタジオを作ったことは、ターニングポイントになったとは思います。2007年にリリースした4thアルバム『GOLDEN GRAPEFRUIT』から自分たちのスタジオで作っているんだけど、それ以前とそれ以降ではサウンドに違いがあるかもしれませんね。

KUMI サウンドはより自分たちの“好み”になりました。自分たちのスタジオを作ったことで、エンジニアリングも自分たちでやるようになったし、最近(2017年の7thアルバム『LOVE YOUR LOVE』以降)ではミックスまでやっているので。

――“好み”というのは、具体的に言うと?

KUMI 自分たちが、グッとくるかどうかなんですけど、新しいことをやるにしても、まずはそれを判断基準にします。ひとつアイデアが出れば実際にやってみるんですけど、グッとこなかったから結局そのアイデアは止めてしまうこともあります。

NAOKI 例えばスネアの音の長さとか、同じコードでもドミソなのかミソドなのかといったヴォイシング(和音を構成する音の並び方)とか、そういう細かいツボの話になるとデビュー当時から僕らは好みが確かに一貫しているところは感じますね。

――その根本にあるのが、お二人が影響を受けた音楽ですね。

KUMI 70年代の西海岸のサウンドには強く影響を受けていると思います。

NAOKI よく僕らの曲を聴いて「ビートルズを感じる」と言ってくださる方もいて、ビートルズからももちろん影響を受けているんですけど、たぶん一番影響を受けているのは、70年代のウエストコーストの音楽です。特にイーグルスを筆頭にした、アサイラムレコードのアーティスト達の影響は大きいですね。

KUMI その時代のサウンドは今でも私たちの憧れであり、自分たちのルーツにもなっていると思います。

NAOKI スケボー、スノボー、サーフィンなど季節によっていろいろ楽しむ人もいるけど、滑るスポーツなら全部好きというわけじゃなくて「サーフィンが良いんだ!」という人もいるじゃないですか。それってスポーツとしてだけじゃなく、見える景色や海の香りなども含めてサーフィンしかやらないと言っていると思うんです。

 僕らもきっとそれと同じような感覚で、西海岸のロックしか表現したくないわけじゃないけど、なぜその手法にこだわるのかと言ったら、風の匂いや音楽から感じられるその西海岸のムードやマナーが自分たちにフィットするからで。仕上がりの方向性や表現の手法に時にはルール、もしくはルーツ音楽のマナーが存在してアレンジの可能性が限定的になることが例えあったとしても、その曲がその曲らしく仕上がればそれで良いんじゃないかって思っています。

――自分たちの憧れを追い求め、こだわり続けている。それが音楽に表れているからこそ、長年応援してくれるファンがいるんでしょうね。ファンの反応はどのように受け止めていますか?

NAOKI SNSなんかを通じて自分たちよりもっと目上のファンの方が、「懐かしい」といった感覚で反応してくれることも多い一方で、最近は20代の若いファンの方が、親の影響もあると思うけど子どものころから聴いてくれていて、「新しさを感じる」といった反応もあって。そういう両極端な反応があるのは、LOVE PSYCHEDELICOのとても面白いところかもしれませんね。

スピーカーを作って二人でツアー

『Premium Acoustic Live “TWO OF US” Tour 2019 at EX THEATER ROPPONNGI』(DVD)

――今回はCDの他に、昨年のアコースティックツアー『“TWO OF US” Tour 2019』を収録した映像作品と、昨年行ったスタジオライブの模様を収録したアルバム『“TWO OF US” Acoustic Session Recording at VICTOR STUDIO 302』のアナログ盤もリリースされますね。そのきっかけになったのが、2008年にアメリカに行ったことだそうで。

NAOKI それまではずっと、バンドというスタイルで音楽を表現していたんですけど、アメリカに行ってから初めて二人でアコースティックライブをやるようになって、それが昨年の『TWO OF US』というアコースティックツアーとレコードを出す原点になりました。

KUMI 二人だけだと自分もちゃんと演奏をしないと成り立たないから、そこから私としてもより楽器と向き合うようになって。ロスには良い楽器屋さんもたくさんあって、ギターを買ったり、マンドリンなどギター以外の楽器にも興味を持つようになりました。それで日本に戻ったときには自分たちのスタジオがあって、日常的に音を鳴らせる環境があったので、いろいろな楽器を弾き始めるようになりました。

――昨年『“TWO OF US” Tour 2019』を拝見させていただいて、ふたりで演奏したことで音はミニマムになったぶん、やりたいことが濃密に表現されたものになったという印象でした。

NAOKI バンドを離れてもう一度二人に戻って演奏する“TWO OF US”という形は、音楽家としてもすごくしっくりくるものだったんです。ここからまた何か新しいものが広がっていくかもしれないですね。

KUMI 6月から開催する全国ツアー『LOVE PSYCHEDELICO 20th ANNIVERSARY TOUR 2020』は、バンドでツアーを回ります。去年は二人でツアーを回った上で、またバンドに戻ることで、きっとまた新しい視点が生まれると思うので、今からとても楽しみにしています。

NAOKI 去年のツアーのために作った会場用のスピーカーを持って、今度はバンドで回れるのもすごく楽しみですね。

――昨年のツアー『“TWO OF US” Tour 2019』では、NAOKIさんが設計に携わったスピーカーが使われていて、「そのスピーカーはどんなものなのか」と興味を持って足を運んだ熱心な音楽ファンも大勢いましたね。

KUMI たぶんこれまでのライブでは経験したことのない音像で、私たちの音学を楽しんでくれたのではないかと思います。より良い音のためにスピーカーを作る、こういった機会に恵まれたのはミュージシャンとしてとても幸せなことだと思います。

――オーディオマニアの方で、そのスピーカーが欲しいと言う人はいなかった?

NAOKI さすがに、そういう人はいなかったです(笑)。そもそもライブ会場用に設計しているから、下のウーハー部分だけでひと部屋埋まるくらいの大きさだし、その上にさらに2メートルくらいの縦長のスピーカーを5本ぐらい積んだものが、左右にあるわけで(笑)。パワーもあるので、とてもじゃないけど普通のスタジオでは鳴らせなくて、レコーディングスタジオのビクタースタジオでも試聴が難しかったんです。

KUMI スピーカーの試聴をするだけのために、わざわざホールを借りたんですよ(笑)。

――そのスピーカーで、今度はバンドサウンドが聴けるということで、とても楽しみですね。20周年の話に戻りますが、20年のなかで印象に残っている曲などはありますか?

NAOKI 今回は、『Complete Singles 2000-2019』のDisc 3とDisc 4にカップリング曲も収録していて、自分たちでもじっくり聴く機会がなかった曲も結構あったので、僕としてはそれがすごく新鮮でしたね。ライブではどうしても表題曲を演奏する機会の方が多くなるし、カップリング曲はずいぶん演奏していなかったり、中には一回も演奏したことのない曲もあって、懐かしさもありました。

――作るときの考え方として、表題曲とカップリング曲に違いはありますか?

KUMI 自分たちのなかでは、あまり分けて考えていないです。ただ作っているときは意識していないけれど、カップリング曲をこういった形でまとめて聴くと、全体的にリラックスしたムードがあるなと思います。「良いね、この感じ」と思いました。

NAOKI 作っている時点ではそれが表題曲になると決まっていないですからね。最終的にその曲が選ばれて映画やCMなんかで使われて、あとからこういう形で聴くと「やっぱりシングルっぽいな〜」と想い出を含めてそういう気持ちになったりしますけど。

――カップリング曲では、カバーを定期的にやっていますね。

NAOKI そうですね。13thシングル「It's You」に収録した、エリック・クラプトンのカバー「Lay Down Sally」なんか、僕はすごく好きですよ。5thアルバム『ABBOT KINNEY』には、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルのカバー「Have you ever seen the rain?」が入っているし、14thシングルは、ジョン・レノン&オノ・ヨーコの「Happy Xmas (War Is Over)」だったしね(「Beautiful World」との両A面シングルとしてリリース)。

――カバーをやるときは、どちらかから「そろそろやろうか?」みたいに声をかけるんですか?

NAOKI 何かアレンジのアイデアを思いついたときに、という感じです。昔はシングルがマキシシングルという形態だったから、何曲かまとめて自由に作れることが多くて、「じゃあ、あの曲をやってみたいね」という感じで「Lay Down Sally」なんかはやることに決まったんじゃなかったかな。

KUMI でも今は、シングルはCDでリリースする形が減って、配信で1曲のみということが多いですから。カップリングでカバーをやる機会が減っていますけど、またやりたいですね。

スタイルに囚われずやっていきたい

『20th Anniversary Special Box』ジャケ写

――アナログ派のお二人としては、配信のデジタルシングルに対してはどういう考えですか?

KUMI スピーディーで良いと思います。パッと曲を思いついて、それをパッと世の中に届けることができる。その1曲を世に出すために、もう1曲用意してCDにしてという手間がないので、そのスピード感は好きです。そういうやり方があるのは、ひとつの在り方としてすごく良いと思います。

 でも、それしかないとなったら話が変わってきますよね。配信はイージーに聴ける反面、音質の部分で音楽をちゃんと楽しめるというところまでは達していないから。情報として聴くには良いけど、音楽本来の豊かさを楽しんでもらうためには、やはりアナログレコードなどで聴いてもらうのも良いのではないかなと思います。私たちは定期的にレコードも出しているし、CDも配信もあって、聴いてもらう選択肢は、常にこちら側からいろいろ提示できたらいいなと思っています。

NAOKI 僕らがInter FMでやっている番組『Third Stone From The Sun』では、曲を流すときは全部アナログレコードをかけています。でも、配信の良さって海の向こうのインディーズアーティストでもすぐに聴けることで、我々の若いころに比べたらすごく羨ましい環境だと思います。昔はお小遣いを貯めてレコードを買って、ハズしたと思っても、せっかくお小遣いをためて買った一枚だから、何とかそのレコードの良いところを見つけてやろうと思って、すり切れるくらい聴いていましたから(笑)。

 今の若い方は本当にたくさんの音楽を聴くことができて、すごく良いことだなって。そのぶん音楽がビジネスにならなくなっている面もあるけど、それとこれとはまた別の話で、きっと新しい音楽の在り方が生まれてくるいい機会なんだとも思います。

――4月20日から放送のテレビ東京ドラマ『行列の女神~らーめん才遊記~』のオープニングテーマ「Swingin’」(4月15日にDigital Singleとしてリリース)を手がけていますね。この曲は、もともと作っていたものですか?

NAOKI 曲のアイデア自体は去年の夏くらいに思いついて、そのときにOKAMOTO'Sのレイジくんに来てもらってドラムを叩いてもらったんです。それからツアーの合間に少しずつ進めていました。

KUMI それで年が明けた頃にドラマのお話をいただいて、作り始めていたこの曲が合うんじゃないかと。

――シナリオとか原作を読んで、改めて仕上げた?

NAOKI 曲は10年残るものだと考えて作っているので、あまりタイアップにとらわれて作るという考えは昔からなくて。映像クリエイターも僕達音楽家も今の時代の同じ空気を感じて作っていれば、自然と今のムードを反映した共通項が滲み出てくるものだと思ってるんですよね。だからあまり作りながら過度には気にしないですね。

KUMI ドラマに寄りすぎてはいないけど、まったくそのことを意識していないわけではないから、放送が始まったときに、ドラマと曲がどういう化学反応を起こすのか楽しみですね。

NAOKI ドラマでは女性が前を向いて歩んでいく感じがあるんですけど、この曲からもそういう部分を自然と感じてもらえるんじゃないかと思います。個人的にはBメロが好きで、バックにメロトロンの音が入っているところとか、全体にユーモアを感じる曲だなって自分たちでは思っています。

KUMI メロトロンは本物がスタジオにあったんですけど、ちょうど修理に出していて、今回は初めてソフトを使いました。でも、決して悪くなかったです。

NAOKI 普段使っているメロトロンは『Complete Singles 2000-2019』の収録曲だと「Place Of Love」でKUMIが弾いてます。歌の後ろで鳴っているチェロの音がメロトロンです。メロトロンって、磁気テープに人間が演奏した音が録音してあって、鍵盤を押すとそれが再生される仕組みだから、録音時のバイオリンのかすれとかチューニングの悪さもそのまま録音されていて、チューニングが悪いんです。修理中ということで今回初めて使ったのが「M-Tron」というソフトなんですけど、ソフトなのに本物そっくりでチューニングまで悪いんですよ(笑)。そこは「直しておいてくれよ」って思ったけど(笑)ソフト音源は音色が豊富でこの曲では助かりました。

KUMI チューニングが悪いのがメロトロンの味で、メロトロンは味が命だから(笑)。

――ドラマの題材がラーメンだけに…

KUMI (笑)。

NAOKI 化学調味料(デジタル)はその「M-Tron」だけだったね。あとは楽器も機材も全部アナログで録りました。あと個人的に思ったのは、ここ最近の音楽ってギターの音数が少なくて飽和していない感じがあって、そういう影響も自分には少しあるかなって。

――飽和していないというのは?

NAOKI ギターの音が中心になくて、ビートと歌で持って行く感じがあると言うか。「Swingin’」はギターの役割りがそれほどメインではないので、意識はしていなかったけど、どうしても今を生きているので、どこかで影響を受けていたのかもしれないです。

――じゃあギターがまったく入っていない曲も、いずれはあるかもしれない?

KUMI あるかもしれないです。

NAOKI ジョン・レノンの「imagine」にしても「Mother」にしても、ギターが入っていないけどロックだと思う曲はいっぱいあるから。あまりスタイルに囚われず、やっていきたいですね。

(おわり)

作品情報

3月25日発売
LOVE PSYCHEDELICO

シングルコレクション『Complete Singles 2000-2019』
4CD / VICL-65323~6 4000円+税

映像作品『Premium Acoustic Live “TWO OF US” Tour 2019 at EX THEATER ROPPONGI』
Blu-ray Disc / VIXL-301 6000円+税

アルバム『“TWO OF US” Acoustic Session Recording at VICTOR STUDIO 302』
アナログ / VIJL-60222 2500円+税

BOX SET『20th Annivesary Special Box』
4CD_Complete Singles+Blu-ray+LP+譜面集+トートバッグ+Box / VIZL-1728
1万5000円+税
4CD_Complete Singles+DVD+LP+譜面集+トートバッグ+Box / VIZL-1729
1万4000円+税

公演情報

LOVE PSYCHEDELICO 20th Anniversary Tour 2020

6月21日 東京 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
6月26日 北海道 札幌市教育文化会館
7月4日 愛知 名古屋市公会堂
7月10日 福岡 福岡市民会館
7月14日 大阪 オリックス劇場
7月18日 高知 高知県立県民文化ホール オレンジホール
8月26日 富山 富山県民会館
9月4日 静岡 静岡市清水文化会館マリナート 大ホール

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