3月28日に最終回を迎えたNHK連続テレビ小説『スカーレット』で、川原武志(伊藤健太郎)の親友の一人、宝田学を演じた大江晋平(20)。2018年公開の映画『焼肉ドラゴン』で俳優デビューを飾り、映像作品2作目で“朝ドラ”の出演を射止めた注目株だ。ダンス好きの一面もある彼はどのような人物なのか。【取材・撮影=木村武雄】
戸田恵梨香、伊藤健太郎から学び
人懐っこく明るい性格だが「実は頭が固くて…器用な方ですが飽き性でもあって。その一方で一つの事に凝り固まって考えてしまう性格でもあります」と笑む。そんな考え方を変えてくれたのは『スカーレット』だった。
遡ること約2年前。『焼肉ドラゴン』の制作会見で井上真央や桜庭ななみは口を揃えて「人懐っこい性格」とその人柄を紹介した。
大江晋平、20歳。『スカーレット』では、主人公・川原喜美子(戸田恵梨香)の長男・武志(伊藤健太郎)の親友の一人、宝田学を演じた。
同じ武志の親友、永山大輔を演じた七瀬公とは出身地が一緒だったこともあって、撮影の帰途をよく共にしたという。出演シーンが多い伊藤とは会って3日後に話す機会に恵まれた。「同級生がファンで…と伝えたら困った顔をされて(笑)それはそうですよね。でもそこからいろいろと話せるようになりました」。人懐っこさが浮かぶ。
そんな伊藤や、戸田の背中に多くを学んだ。
「シチュエーションや場所など使えるものは全て使って、空間や空気感を自分のものにされていました。とてもパワーがあって、役作りでちゃんと落とし込んでおかなければできないことで、すごく感銘を受けました。戸田さんは前室で大島優子さんと談笑していたのに、スタジオに入った瞬間に“戸田”さんが消えて喜美子の目つきになっていて。僕も皆さんのようになりたいと思いました」
運が良かった、ダンスから俳優の道へ
映像作品2作目にして“朝ドラ”出演を射止めた大江。もともと芸能界に興味はあった。東方神起が好きな母の影響を受け、小学6年頃からはダンススクールに通うようになり、ヒップホップやジャズ、コンテンポラリなど様々な種類のダンスに励んできた。
過去にはダンスボーカルグループのオーディションも受けた。ただ、芝居のレッスンを受けていく過程で演じることの魅力に惹かれ、俳優の道を志すことを決めた。2018年に上京し、その年の6月公開の映画『焼肉ドラゴン』で俳優デビューを飾る。
「僕は本当に運が良いと思います。『焼肉ドラゴン』のオーディションでは、演技審査がたまたまなくて面談でした。もし演技審査が行われていたら落ちていたと思います」
『焼肉ドラゴン』で大江が演じたのは、舞台の中心となる一家の末っ子で、学校でいじめられて心を閉ざす、難しい役。「それまでお芝居はしたことがなかったので右も左も分かりませんでした。ですので全力でぶつかってみようと。演じるのに必死でした」
自身に手応えはない。しかし、体当たりに挑んだ演技は好評を得た。一家の長女を演じた真木よう子は「とてもデビュー作とは思えない。芝居の間合いが良いのはダンスをやっていたからかな」と称えた。
桜庭ななみと思わぬ再会
それを経て迎えた『スカーレット』。連続テレビ小説への出演は目標だった。「もっと経験を積んでからではないと出演が決まらないものだと思っていましたので、ダメ元で臨みました。でもこんなにも早く叶うとは夢にも思いませんでした」と驚き、「やっぱり運が良いんだと思います」
驚いたのは大江だけではない。『焼肉ドラゴン』では“家族”だった桜庭ななみは、『スカーレット』では喜美子の4歳下の妹、川原直子を演じた。現場で“思わぬ”再開を果たした桜庭は驚きつつも喜んでくれたという。
「スタジオでお会いしたら『え! 何でいるの!?』と驚かれて、まさか僕が出演するとは誰も想像していないから驚きですよね。でも喜んでくれて。昔の話もして。こうしたところで再びお会いできてホッとしました」
撮影初日は「もちろんプレッシャーもありましたが最初だけでした。共演者の方やスタッフの方々がフレンドリーに接して下さったので楽しくできました。第1話から見ていますからもう一視聴者の感覚で、川原家のセットを見たときは感慨深くて…撮影が終わってもしばらくいました」
「自分だと思った」、演じた宝田学
自身は「明るい」と語る大江。その性格は宝田学に重なった。「最初『自分だ』と思いました。七瀬君にも『学って晋平やん』と言って下さって。そうした面を残しつつ役作りをしました」
ただ異なる点もある。「僕は頭が固い性格で考えすぎてしまうタイプ。二つの事を同時に出来ない。でも学はそれが出来ている。友人もそう、交際している芽ぐみちゃん(村崎真彩さん)にもそう、家業の米屋も器用にこなしている姿を見て、自分よりもスペックが高いと思いました」
自身にないものは「心情を作って表現するようにしました」。右も左も分からず必死に食らいついた『焼肉ドラゴン』の時とは違う。足りないピースをしっかりと埋める。そうして作り上げた学は、武志、大輔と対峙して完成した。
学を好演した大江だが、周囲からは「考えすぎる」性格を指摘される。
「少しは頭を空っぽにした方がいいと言われます。芝居では考えたものを相手がやってくれるとは限らないですし、もし想定とは違うものがきた時に柔軟に対応することができないこともあるので、余白を設けるようにしたいと思っています」
『スカーレット』の現場で学んだことは沢山ある。なかでも「しっかりと役柄を落とし込んだうえでのびのびと楽しむ」ことは肝に銘じているという。「不安よりも自信を持っている方が魅力的に映ると思います。だから考えて考えて楽しもうと思うようになりました」
ダンスは心を解放してくれる
ドラマも最終回を迎えた。終盤では、武志の前に白血病という試練が立ちふさがった。「その事実を知り暗いことに引っ張られてしまいますが、いつも変わらずに接することで取り戻していく。武志が明るく保てていたのは学と大輔の存在も大きかったと思います。やっぱり友人の存在は大きくて、武志はすごく幸せだったと思います」
大江自身も友人は「宝」と語る。「悩んでいたら僕は手を差し伸べたい。宝であり、仲間であり、ライバルです。僕自身も支えていますし、支えられています」。彼を支えるのは友人だけではない。「音楽は僕にとって開放できる手段です」
好きな音楽はK-POP。「皆はBTSをK-POPのアイドルとして見ていますが、僕はアーティストだと捉えています。しかし彼らは今も握手会を行っているし、ファンとの距離は近い。そのバランスが人気の秘密の一つだと思います。それと、彼らの音楽が世界で支持されている要因の一つに、世界とのバランスがあると思います。世界のトレンドを入れつつ、僕らが馴染みのある音楽の要素も残している。それに加え…」
K-POP評に熱が入る。
「すみません! しゃべりすぎました!」
音楽に合わせて体を動かすことが「幸せ」とも語る。「ストレスが溜まった時は夜の公園で踊っていて。家だと縮こまってしまって…。嫌なことを解放して踊る。リフレッシュすることができるんです。音楽がなければ僕の頭はもっとカチコチになっていると思います」
そう笑顔で語る彼に聞いた。「もともと夢だった音楽の道。いずれは…?」
「実は…僕、歌が下手なんです。今からバックダンサーもできませんしね。お芝居の道をしっかり歩んでいきたいです」
そうハニカミながら目標を口にした大江。その表情に「学」を見た。
(おわり)