シンガーソングライターの平井堅が3月27日、あいみょんとのコラボ曲「怪物さん feat.あいみょん」を配信リリースした。5月13日からデビュー25周年イヤーに突入する平井にとって2020年初の配信リリースと共に、シングル「魔法って言っていいかな?」以降のリリース楽曲もサブスク配信がスタート。サブスク全楽曲解禁で改めて触れる平井堅作品の奥深さ、歴史を紐解くと共に、「平井堅はなぜ名曲を生みだし続けられるのか」という点を考察する。【平吉賢治】

 「平井堅はどうして名曲を生みだし続けられるのか」――。それは、「どんな曲調の楽曲を歌っても平井堅のカラーに染まる」さらに、「良曲を良い声で高い歌唱力で情念深く歌っているから」という2点だろうか。いずれも、きっと誰でも導き出せる理由かもしれないので、この2点を細かく考察していきたい。

 1点目、“平井堅のカラー”について考えた時、こんなことを思い出したのだ。デビュー40年以上のキャリアを持つある歌手がインタビューで「歌手としてプロフェッショナルというのは『この曲って、この人が歌うとこんなに良い曲なんだ!』って思ってもらえること」と、語っていたことがあった。これを平井にスライドして思い返してみると、具体的な例があった。それは、昨年5月22日に日本武道館公演で行なわれた『Ken’s Bar 20th Anniversary Special !! vol.4』での一幕。

 この日は先にリリースされた「怪物さん」でフィーチャリングするあいみょんもスペシャルゲストとして出演し、平井はセットリスト曲目をあらゆるバリエーション編成で披露した一夜。

 ライブ中盤、平井が転換時にサブステージからメインステージに移動するシーンがあった。「無言で手を振りながら拍手に包まれ笑顔でクールに歩く」という感じがきっと普通なのだろうか。しかし平井は、「なんとなく歌った」という感じで、童謡「とおりゃんせ」をアカペラで歌いながら移動していた。

 それを聴いた時、率直に「この曲、こんなに良い曲だったのか!」と心に響いた。その感想が個人的なものだけでないことは、「とおりゃんせ」を歌い終わったあと武道館中に響いた歓声と拍手がそれを物語っていた。

 平井堅名義の作品はもちろん、「どんな曲を歌っても平井の歌手としての地力の高さが歌唱として反映し、“平井堅のカラー”に染まる」ということを強く感じられたエピソードだ。

 そうなってくると、「平井堅はどうして名曲を生みだし続けられるのか」ということがみえてくる。2点目、“どんな良い曲なのか、どんな良い声なのか”について。それは、「平井堅はどんな音楽でも対応可能な、音楽家として非常にフレキシブルなレンジを持った歌手だから」ではないだろうか。

 1995年のデビュー曲から最新曲まで、平井の楽曲の多彩さは多岐にわたる。特に目立つ代表曲を並べると、「楽園」「瞳をとじて」「POP STAR」。もちろんほかにもたくさんあるが、この3曲を親しまれている平井堅楽曲として挙げて差し支えないのではないだろうか

 注目したいのは、これらの3曲はジャンル的にバラバラという点だ。「楽園」はR&B調の美メロチューン。「瞳をとじて」は美しい旋律の豪華バラード楽曲。「POP STAR」は正にタイトル通り、といった楽曲。外国人の知り合いに「J-POPってどんな音楽?」と聞かれたら「POP STAR」をまず推したいくらいとびっきりのポップソングだ。

 ここまで極端に音楽性が分かれた各楽曲が全てヒットとなる歌手は稀有だろう。そして「大きな古時計」のようなスタンダード楽曲でも、平井は至高の歌声と歌唱で聴き手を魅了する。

 「歌唱力が高い」「良い声」ということはもちろん大きいだろう。平井が名曲を生み出し続けられる理由とは、そういった実にシンプルな理由だろうと思われる。もちろん、そのシンプルな部分を掘れば理由はいくらでも出てくる。しかし、「“こう”だから平井堅作品は良い」と、特定の言語化をかわされるような部分にこそ、プロフェッショナル所以、平井堅作品の奥深さを感じる。

 平井の楽曲は、平井の深い情念が歌として表れ、聴き手の心情とシンクロするように包み込むのだ。

 最新曲「怪物さんfeat.あいみょん」は、近代的なシンプルな音像とハウスビートが光るクールな曲調。やはりどんな曲調であっても、フィーチャリングであいみょんという強い魅力のカラーの歌手とのマッチングでも、平井の歌唱のポテンシャルが存分に味わえる。途中でボーカルにエフェクトがかかっていてもごく自然なスパイスとして楽しめる。これは平井堅という歌手の屈強な土台があってこそ感じさせられるアプローチだろう。

 平井堅作品の奥深さとは、全方位にアプローチする音楽家としてのポテンシャルの高さ、どんな曲調でもウェルカムであること、自身の人間性を歌として出力されることから、「どんな曲調の楽曲を歌っても平井堅のカラーに染まる」「良曲を良い声で高い歌唱力で情念深く歌っているから」という点に繋がる。

 本作へのコメントとして平井はあいみょんのことを「ソングライティング、声、は勿論のこと、ビジュアル、歌唱時のオーラ、所作、表情を見た時に、あ、全部揃ってる人 見ーっけ。と興奮したことを強く覚えています」(一部抜粋)と述べているが、それは、平井自身にも言えることではないだろうか。

 もっともっと、平井堅作品に対して深く感じられることがみなさんにとって多種多様あると思われる。サブスク全楽曲解禁となった今、それをあらゆる観点で感じること、楽しめる環境になったことに、歓喜の声を上げたいところだ。

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