(K)NoW_NAMEが、現在放送中のアニメ『ドロヘドロ』(TOKYO MXほか)でオープニングテーマとエンディングテーマ、BGMを含めた本作の楽曲制作、全てを担当した。アニメは、林田球氏原作漫画のアニメ化。魔法によって顔をトカゲに変えられた記憶喪失の男が記憶を取り戻すために奮闘する姿を描いた。音楽をプロデュースする(K)NoW_NAMEは、オープニングテーマ「Welcome トゥ 混沌」と「D.D.D.D」など6つのエンディングテーマを手掛けた。作詞に携わったボーカルの立花綾香とNIKIIEは「挑戦だった」と振り返った。オープニングテーマは2月に発売済みだが、エンディングテーマを収録したアルバム『混沌(カオス)の中で踊れ』は今月25日に発売される。今回は立花綾香とNIKIIEにインタビュー。昨年末に行われたレーベル初のフェスや自身の変化などを含め聞いた。【取材・撮影=木村武雄】
家族感があったレーベルフェス
圧巻の歌声を見せる立花綾香とNIKIIEだが、そのスタイルは対照的だ。同じ力強さも感情をむき出しに歌い上げる立花綾香に対して、相手を包むような優しさで力と成すNIKIIE。その異なる個性がこのユニットでは融合され、アニメの世界を紡ぐ役割の一つになる。昨年末に行われたTOHO animation RECORDS初のフェス『TOHO animation RECORDS the LIVE 2019 Winter』でもその世界を広げていた。
――TOHO animation RECORDS初のフェス、いかがでしたか。
立花綾香 今までワンマンしかやったことがなかったので、他の方とやれて楽しかったです。
NIKIIE 私も楽しかったです。レーベルメイトという一体感もあって。
――お客さんによって引き出されたものは?
NIKIIE お客さんの熱量で自分たちから出てくるものも変わるのであの時もすごかったです。
立花綾香 1曲目とかドキドキしますよね。
NIKIIE そうそう。お客さんはどういう人たちだろうと出るまでは不安もあります。私達のことを知らない人もいたと思いますし。でも1曲目からすごく盛り上がったので安心しました。
――1曲目はNIKIIEさん、いなかったですよね。
NIKIIE 最初は2人で歌って、次に3人で歌って、私がソロ曲2曲歌って、新曲みたいな感じでした。2曲分お休みもあったから、より緊張しました。みんな入れ替わり立ち替わりなので、その間に緊張してしまう。
――一方、レーベルメイトとやって引き出されたものはありますか。
立花綾香 言葉にするのは難しいですが、いつもと違いました!
NIKIIE 確かに違いました! ステージに上がる前や下りた後に茶々を入れてくるんですよ。送り出してくれたり、来てくれたりするのでやっぱり嬉しいです。MCでも「今日はアットホームだね」という話がありましたが、みんなで応援し合う感じがあったから楽しかったです。
――観客も大盛り上がりだったので歌っている本人たちも気持ち良かったのでは。
立花綾香 単純に曲数が少なかったということもあって最初から最後まで全力で出し切れたというのもあります。ワンマンはワンマンの楽しさがありますし、フェスはフェスの良さもある。どれもやっぱり歌っていて楽しいです。
――ところで2人とも低い声が印象的ですね。
NIKIIE 実は、綾香ちゃんは私よりも高いんですよ。地声で到達するところが。
立花綾香 ほぼシャウトですけど。無理矢理に出しています(笑)。
NIKIIE 歌い方もあって、私は裏声とかを使うタイプなので、張って落としてという感じなんです。なので曲によってその割り振りに違いがあるのかなと思います。
――それぞれソロとしても活動されていますが、ソロとユニットでの違いは?
立花綾香 ユニットだと求められるものが違います。まずアニメ作品に寄り添うことが第一にあって、作品の色によって変えています。
NIKIIE ユニットの傾向としては、『サクラクエスト』を除いては割と男気を求められます。楽曲によって母性的なものもあるんですけど。
――では今回の「Welcome トゥ 混沌(カオス)」(ドロヘドロ)は男気が出ている?
立花綾香 ロック調だけど『Fairy gone フェアリーゴーン』のように死ぬ気で戦ってという感じではないと思います。
挑戦だった作詞――ドロヘドロ
――「Welcome トゥ 混沌(カオス)」を初めて聴いた時の印象は?
立花綾香 歌詞は私が書いているんですけど、まずメロディだけを頂きました。歌の出だしにある、シャフトしている男性の声とシンセのメロディだけで仮歌もない状態。これを聴いた時に「どうしたら良いのだろうか」と考えました。何回も聴き込みましたし、本も読み込んで、そこから感じたものを当てはめていきました。
――読み込んだという話ですが、原作の印象は?
立花綾香 物語の大まかな流れ、主人公のカイマンが自分の正体を知っていくというのは理解できていましたが、読み進めていくうちにだんだんと謎がわかってくるストーリー構成なので最初は理解するのに時間が掛かりました。何度も読み返していくうちに、カオスのなかにある世界観やキャラクターの奥行きも見えて、その深さが面白いと思いました。
――そうしたなかで歌詞に落とし込んでいくのは難しそうですね。
立花綾香 最初にテーマ性と言いますか、意味を設けた内容で歌詞を作ったのですが、「違う」と。「カオスな感じにしたいから、言葉を文章として意味を持たせなくていい、言葉遊びや語感を大事にして下さい」と言われました。それで、アニメのなかで使われるセリフ、言葉を当てはめていきました。
――ということは音の響きを重視に?
立花綾香 そうです。
――NIKIIEさんはこの曲を聴いてどう感じましたか。
NIKIIE 最初は何の言葉を歌っているんだろうと思いました(笑)。歌詞を見ないで聴いたら、日本語なのか、英語なのか分からなくて。私はエンディングテーマの「D.D.D.D」と「SECONDs FLY」の歌詞を担当しましたが、その頃はまだ取り掛かる前だったので、「Welcome トゥ 混沌(カオス)」を聴いた時に「こういう世界観で行くのか」と、お手本を聴かせもらったという印象です。
――ということは「Welcome トゥ 混沌(カオス)」が軸になった?
NIKIIE 曲によってテーマが違うので、書き方は変わりますが、どういう世界観で、どういう歌詞なのかというのが分からない状態でしたので、オープニング曲が出来たことによってイメージが湧いたというのは確かにあると思います。「なるほど! 文字通りカオスだな!」と思いましたし、アニメにもぴったり。
――立花さんが作詞を手掛けた中に、エンディングテーマの「Who am I?」がありますね。これは曲調が違います。
立花綾香 「Welcome トゥ 混沌(カオス)」と一緒で、当てはめていきました。
――NIKIIEさんは「D.D.D.D」をどんな風に書いた?
NIKIIE 呪文や魔法の言葉をサビに入れてほしいと言われましたので、まず造語を作っていってから他の部分も書いていきました。呪文は一発OKだったけど、それ以外のAメロBメロ等の部分が全然違うと言われて。何度もやり直して大変でした(笑)。
――<クソみたいに最高の世界>というのが印象的ですね。
立花綾香 私も思いました。NIKIIEさんが<クソみたい>って歌っている! って。
NIKIIE ハッとする汚い言葉と言われたんですよ(笑)。
立花綾香 ハッとしたー!
NIKIIE でも普段わりと使うんですよ。マジクソとか(笑)。
立花綾香 言わないようなイメージありますけどね(笑)。
――ギャップが…(笑)。話を聞くと今回の作詞は挑戦だったようにも感じますね。
2人 挑戦でした!
NIKIIE 書き終わった後に、日本語ってこんなに沢山あったんだって。その後、自分の曲作りが楽になりました。
立花綾香 私もです。こういう表現があるんだとか、こういう言葉を使っていいんだって。
それぞれの意識変化と歌
――(K)NoW_NAMEの活動やこうしたアニメ作品の音楽づくりに携わることで、ソロに還元されているものはありますか。
立花綾香 作品に携わることによって、色々な人の力で作り上げていく過程が見られるので、ネットでネガティブ発言を見ても以前は傷ついていましたが、あまり気にしなくなりました。これだけの人が関わって良いものを作ろうとしていることに自信と誇りが持てて、価値観は変わったと思います。
――それが歌に影響を与えることは?
立花綾香 あると思います。責任感がより強くなりましたし、自分が歌うことでアニメを思い出していただけるとも思っています。ソロとは大きく違うところです。
――ロックは自分の内側のもの、感情がダイレクトに出せるので、意識変化は大きく影響を与えると思います。
立花綾香 こういうふうに聴いてほしいという気持ちが、感情になって歌に表れることはあります。アニメを思い出してほしいと思いながら歌っている分、熱も強くなると思います。
――NIKIIEさんから見て綾香さんの変化は。
NIKIIE 綾香ちゃんのイメージは、一言でいうと文学少女。今はこうして表現ができているけど、出会った時はおとなしくて、品があって、余計なことを言わない子だった。でも、戦闘シーンの楽曲とかを歌うと、爆発する声のパワーに圧倒されて。楽曲の力によって、存在がロックになり、お前ら付いてこい感、それこそ男気が出てきていると思います。
――お前ら付いてこい感は、自信も重なって?
立花綾香 そうだと思います。それを言うことでお客さんが盛り上がってくれるということを確認しているから、自信になっていると思います。
――逆に立花さんから見てNIKIIEさんの変化は。
立花綾香 最初はおおらかで自由奔放な感じでした。今もですけど、色々な人に対しての接し方も平等で。でも楽曲においてはすごく厳しい。ライブを作っていく上で必要な存在だと思っています。全体をすごく見ているし、影のボスです(笑)。
――“影ボス”がライブで大事にしていることは?
NIKIIE やっぱりお客さんが軸にあると思います。リハ中に気になるのは「間」や「抜」。客観的にお客さんの目線で見ているからそういうところに目が行くんだと思います。曲順も、どう感情が動いていくかを考えながら作っていますし。
――NIKIIEさんの歌はとても優しいですが、(K)NoW_NAMEのライブにおいてはどういう役割があると思いますか。
NIKIIE ずっとアゲアゲなライブは難しいと思います。その逆のずっと聴かせるライブも難しいと思うんです。私は、盛り上がり切った時に、我に返るセクションだと思っています。
――ピアノを弾き語りますが、ピアノ自体は歌を歌わなくても映像が浮かぶ。どういう風に考えながらやっていますか。
NIKIIE (K)NoW_NAMEの楽曲は、物語先行で作られるので、ピアノのフレーズが先に決まっているんです。それをさらって歌いながら弾く感じです。だから歌う時は分離しているかもしれないですね。ソロの時のように、「こういう景色にしたい」とか「自分の想い」を入れることは出来なくて、景色も出来上がっていて、歌の世界観も出来ているので、それは崩せない。
――その狭間で個人を出していくというのを聞くと、また面白いかと思います。
NIKIIE 今ピアノで歌っている歌を、ピアノを弾かないで歌ったら、また違う歌の表現ができるのではないかと、そこに可能性も感じています。歌だけに専念するのもライブでチャレンジしてみたいですし。でも逆に、言葉に込めすぎないから良いというのもあるかもしれないですね。
――聴いている人の余白になるということですね。改めて今作は自分にとってどういう作品になったのかを含めて、読者に一言。
立花綾香 自分にとっては挑戦でしたし、自分自身の表現の幅も広がりました。遊び心を入れた歌詞や気持ちを上げたい時にさらっと聴ける曲というのも初めてです。是非たくさん聴いてほしいです!
(おわり)