tricot「力が抜けた自然体」新たなステージで真摯に向き合えた音楽の多様性
INTERVIEW

tricot「力が抜けた自然体」新たなステージで真摯に向き合えた音楽の多様性


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:20年01月25日

読了時間:約14分

今作にみられるtricotの制作面の変化

――今作のテーマ、コンセプトは何かあったのでしょうか。

中嶋イッキュウ アルバム単位では特にテーマなどはなかったんです。結果的に最後のほうに「真っ黒」という曲が出来て、その時にみんながピンときました。「あふれる」はシングルでも出たので、アルバムのタイミングでもう一つ代表曲的なのがほしいとなった時に「真っ黒」は、ほぼ満場一致だったんです。それくらい強い曲なのでアルバムタイトルになったんです。

――「真っ黒」にはどんな想いが込められていますか?

中嶋イッキュウ いつもそうなんですけど、歌詞は音を聴いて浮かんだ言葉を並べたり、妄想力を一番大事にしているんです。歌詞を書く時は自分の経験よりも、どれだけ妄想できるかが自分の特徴だと思っていて。

――それを聞くと、全ての収録曲に対してそう思えます。

中嶋イッキュウ なんというか、“無敵感”みたいなのは大事にしているんです。2番のサビの<何を盗られようが 無くなることはないわ>というところなどは、どこか強さがほしいというのがあって。それがこの曲の良いところだと思います。タイトルが「真っ黒」って、ネガティブイメージのほうかと思うけど、そこに落ち着かずにその先がある感じにしたかったんです。

――確かに、音を聴かずにこの歌詞を読むと言葉が綺麗だと感じます。

中嶋イッキュウ でも、ちょっと悪い言葉も使いたかったので<万引き>という言葉を入れたり。キーワードでもあるんです。

――<れっつらごー>という言葉も印象的で。

中嶋イッキュウ これ、そもそも誰の言葉なんでしょうね? スロバキアツアーに行った時に、現地のドライバーに<れっつらごー>という言葉を覚えさせていました。「『Let’s go』ってあるやん? 日本では『れっつらごー』って言うねん」と嘘を教えて(笑)。

ヒロミ・ヒロヒロ 頑張って「レツラゴー!」って言ってたね(笑)。あれ可愛かった。

――「低速道路」の<神戸ナンバー>というフレーズも印象的です。

中嶋イッキュウ 2ndフルアルバムの「神戸ナンバー」という曲の最後に<神戸ナンバー 思い出すわー>とあるんです。それを今作の「低速道路」では4年越しにもう一回使ったんです。だから古くからファンの方は「おおっ」となるかもしれません。しかもフェイドアウトしかけのところで入るので宝探しコーナーみたいになっています。昔書いた歌詞から派生して作ったので、最初に出したミニアルバムの『slow line』という曲の歌詞の一部も入っているんです。

――そういった楽しみかたもあるのですね。制作はどのよう進んだのでしょう?

ヒロミ・ヒロヒロ 基本的にはギターリフを弾き始めたものにドラムとベースを乗せて、スタジオでセッション的にやるのが基本です。今作では1曲まるまる作るのではなく、ざっくりとしたワンコーラスなどにボーカルがなんとなくメロディをつけて進めるという風に、ちょっと変わりました。今回はわりとフワッとしていても全然ありなのではないかと。気になればあとから詰めるという作り方でした。

――その点は本作で変化した点なのですね。ギターリフはどのようにして出来るのでしょうか。

キダ モティフォ イメージがあって作る場合もあるし、その場でパッと浮かんだものをみんなで広げていくこともあります。全部テーマを決めて出てきたフレーズではないというか。

――キダさんのギターは誰にも真似できないという印象があります。

キダ モティフォ ギターから始めても、ドラムとベースが入ることによって全然違うものになるんです。「そういうアプローチもあるのか」と、気づきがあったりして、さらに違う展開のフレーズが出てきたりします。そういう感じでtricotの曲はコロコロ展開が変わったりするんです。

――tricotの楽曲展開は複雑なものが多いと感じるので、何度も聴き返して「ここは変拍子で」など、理解する楽しみがありますね。

キダ モティフォ 1曲のなかでも色々違いますもんね。

――その点は今作からというわけではなく、tricotの一貫したスタイルかと。

中嶋イッキュウ 自然とそうなっているというか。今回はそこまでコロコロ変わってないかなと思っていたんですけど。

吉田雄介 そうでもないなという(笑)。

中嶋イッキュウ これはただ自分達が慣れてしまってバグってしまっただけかもしれません。

――楽曲の拍子などをしっかりと理解しようとしたのですが難しかったです…特に7曲目「順風満帆」が。

中嶋イッキュウ やっぱりそれですか(笑)。

ヒロミ・ヒロヒロ 自分達でもパニックになりながら作りました。

キダ モティフォ これはてこずりました。

ヒロミ・ヒロヒロ 自分でも解析できないかもしれないです(笑)。

中嶋イッキュウ イントロから作ったんだっけ?

――最初は3拍子、あるいは6/8拍子?

吉田雄介 3拍子でいいと思います。4分音符をどれにするかにもよるんですけど。

キダ モティフォ Aメロは5/8と6/8拍子なんです。

吉田雄介 でも、ドラムはそうやって動いていないんです。録る側からしたら最悪なドラムを叩いているので(笑)。

ヒロミ・ヒロヒロ そういうのを入れるのが多いかもしれません。ドラムはずっと3拍子系で動いてて、こっちは4拍子とか。

――それで拍子の迷子みたいになってしまうんですね。

中嶋イッキュウ 惑わせる系が多いんです。

――「あふれる」は7拍子と4拍子?

吉田雄介 イントロは奇数だっけな…自然にやりすぎてよくわからなくなってきた(笑)。

ヒロミ・ヒロヒロ 歌は普通の拍子で、イントロは7拍子なんです。

――拍子をカウントしながらの演奏と思っていましたが、自然にやっている?

キダ モティフォ カウントしながらやっていないんです。

ヒロミ・ヒロヒロ フレーズで覚えちゃっているのかもしれません。感覚でやっていて、「ここはギターを聴きながら」という感じでやっています。

――「秘蜜」のベースラインは特に印象的です。中盤はノイジーな展開だったりと。

中嶋イッキュウ 曲の中盤はノイジーになりがちです(笑)。「ワンシーズン」もそうですし。

――それでもサビはキャッチーだったり、アクセントの妙があったりと。ところで、10曲目から12曲目にかけては綺麗な流れという印象を受けました。

キダ モティフォ 10曲目「危なくなく無い街へ」は最初のほうに出来た曲で、後半に11、12曲目が出来たので、作った段階では別だったんです。繋がりも考えてなくて。曲順を考える時にこうなったという感じでした。

――アルバムの流れとして気持ち良いと感じました。

キダ モティフォ もともと11曲目「真っ白」はなかったんです。「真っ黒」を作ってから、その前に何か入れたいと思って、「真っ黒」に繋がるイントロをということで「真っ白」を入れました。

――レコーディングはどのように進行しましたか?

中嶋イッキュウ ボーカル以外は一発で「ドン」です。クリックなしで、スタジオライブみたいな感じです。

吉田雄介 クリックを作るほうが大変なので(笑)。

中嶋イッキュウ 「危なくなく無い街へ」と「真っ白」だけクリックを使いました。

――それもあって、10曲目で雰囲気が変わったと感じたのかもしれません。

中嶋イッキュウ そうかもしれません。そこで“整った”というか。

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