緑黄色社会「更に上の景色を想像させたい」野望にも正直に突き進む力強さ
INTERVIEW

緑黄色社会「更に上の景色を想像させたい」野望にも正直に突き進む力強さ


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:19年09月19日

読了時間:約12分

「気持ちを吐き出すエモさ」

――今作「想い人」は“リョクシャカ史上最もエモい”ということですが。

小林壱誓 色んな方面の“エモい”があると思うのですが、この曲に関してはより情熱的なエモさというか。

長屋晴子 今までの曲には感傷的になるエモさもあったし、この曲で言うと「気持ちを吐き出すエモさ」だと思います。

――エモいという言葉、使いやすいですよね。

長屋晴子 便利ですよね!

――感情的、感傷的、情熱的、叙情的…色んな場面で使えるフレーズですよね。どんなときによりそう感じますか?

穴見真吾 同級生に子供ができた時とか…。

――具体的ですね(笑)。

長屋晴子 想像と全然違った(笑)。

peppe 昔の記憶とかにも感じるよね。

穴見真吾 そう、時空を超えたものにエモさを感じますね。

長屋晴子 懐かしい感じとかね。

――「懐かしい」という気持ちはどうしてグッとくるのでしょう?

長屋晴子 私達の思う懐かしさって学生時代の頃のことだと思うんですけど、その時期は多感だし色んなことが初めてで、印象に残っていることが多いからでしょうか。でも私達が40歳くらいになって、ここ最近の記憶が蘇ったときにそう感じるのかと思うと分からないですけど。

――多感な時期に体験したことの特別感、というのは確かにありそうですね。さて、「気持ちを吐き出すエモさ」と表現された今作のコンセプトは?

長屋晴子 “人と人”というところが大きなテーマです。原作や映画から受けたイメージでもあるんですけど、今回は先に小林が作曲した曲があったんです。まずワンコーラスがあがってきて、その段階で“想い人”という仮タイトルが付いていたんです。映画の世界観もそうなんですけど、タイトルがメチャクチャ良いなと思ったので、その“想い人”というフレーズから歌詞を広げていきました。

――着想として作曲の段階であったものが広がったという感じでしょうか?

小林壱誓 でも、「僕がどういう気持ちで」というのは長屋には伝えていなかったんです。基本的にはベラベラ喋っちゃうんですけど、この曲に関しては作った経緯を絶対に話してはいけないなと思って。自分がどう思って書いたという先入観を与えてしまうと思ったのでタイトルだけを付けて渡しました。そうしたら長屋がそのタイトルだけで気持ちを汲み取ってくれて。

――普段の制作ではそういうことはない?

小林壱誓 そもそも僕が作曲で長屋が作詞というペアが初めてなんです。

長屋晴子 それでも違うペアでもイメージを伝えてもらうことはあまりないです。「こうして欲しい」という要望はあまりなく、自由にやらせてもらうし、仮タイトルを活かすときもあれば全然違うものにするときもあります。今回は気持ちが一致したなと思いました。

――説明なしに感情が伝わったのですね。

小林壱誓 だから出来上がって長屋が歌詞を書いたものの歌入れを聴いたときはエモかったです。

――今作は映画『初恋ロスタイム』の内容に寄せた部分もありますか?

長屋晴子 寄せたんですけど「寄せ過ぎても」という気持ちもありました。そこだけでとどめたくなくて。映画を観て「良い映画だな」で終わるのではなくて、そこで感じた気持ちを何かに昇華してほしいのと同じで、曲も「映画にピッタリな曲だな」だけでは終わりたくなかったんです。

――何かプラスアルファが必要だった?

長屋晴子 具体的に歌詞を映画に寄せたのではなく、大きなテーマで寄せたんです。歌詞もストレートだし、誰にでも共感されるものだと思うし…<あなた>と<誰か>という言い方をしているんですけど、これは私の中では母を思って書きました。きっとみんなそれぞれあると思います。<誰か>という言い方をしても、きっと誰かが思い浮かんでいるんじゃないかなと。断定ではなくて想像してもらいたかったので、寄せ過ぎずにしました。

――<誰か>という対象を聴き手に委ねたと。こういう場合、peppeさんは誰を思い浮かべますか?

peppe <あなたをずっと守った背中>という部分で母の背中の情景が思い浮かびました。いつも一緒にいるから母の存在についてはあまり考えないんですけど、こういう曲を聴いて初めてに近いくらい、今までの母と自分との関係や時間を考えて泣きそうになったりして…自分は窮屈にされた記憶がなく自由にやらせてもらったので、それを何も言わずに我慢してくれた部分はたくさんあると思うので。

――“大切な誰か”を思い浮かべるのですね。穴見さんは?

穴見真吾 <背中には見えない傷がある>という歌詞から連想するのは、スタッフさんやアレンジャーさんとか、先輩のミュージシャン達です。色々なバッシングを受けながら新しい音楽を作ってきてくれた人など、芸術家もそうかな、そういう方々が浮かびました。

――最初は受け入れられなかった、という傷でしょうか。

穴見真吾 例えば売れているミュージシャンがいて、その人にも売れていない時期があって、そこをなんとか乗り越えたというか。そういう風に思うんです。

――大きく「乗り越えた」と思った出来事はありますか?

小林壱誓 人間関係でしょうか。「この先バンドどうしていく?」という話し合いをしたこともありました。それで周りで支えてくれた人達とか、僕らのことを親身に客観的に見てくれている人達が、それぞれ色んなポジションでいてくれなかったら空中分解していたのかもしれないし。そういうことだと思います。人のおかげで乗り越えられました。

――「想い人」のアレンジはどのように進行していきましたか?

peppe デモで流れている空気感を変えずにアレンジャーさん(Naoki Itai)と作っていきました。

穴見真吾 コードとリズムはそこまで変わっていないんです。

小林壱誓 デモにはピアノもストリングスも入っていなかったんですけど、そこをアレンジャーの方が広げてくれました。

――コードなどはデモの段階からほぼ変わっていないんですね?

小林壱誓 そうですね。セブンスのコードが入ってくるとか、細かい部分くらいです。

穴見真吾 イメージが出来上がっていた感じです。

長屋晴子 そこに付け加えてもらった感じで、それも何も壊さず、むしろ美味しくなったというか。

――アレンジでガラッと変わったというよりは、最初の状態の曲が持っているものを膨らますという感じだったのですね。

長屋晴子 色んなパターンがあるとは思うんですけど、今回に関してはこのやり方が最適だったなと思います。たぶんアレンジャーの方もすんなり感じたんだと思います。

――作曲者の意図がすぐに分かったのでしょうね。レコーディングはいかがでしたか?

穴見真吾 peppeは一瞬だったよね。ほとんど一発というか。

peppe うん。「想い人」は早かった。こういうタイプの曲が自分の得意分野だというのも大きいかもしれません。

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