感謝しかない――、藤重政孝 デビュー25周年 大病で変わった意識
INTERVIEW

感謝しかない――、藤重政孝 デビュー25周年 大病で変わった意識


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年09月15日

読了時間:約7分

 俳優で歌手の藤重政孝が、公開中の映画『みとりし』で、櫻井淳子演じる妻・良子の最期を看取る幸平を熱演した。1994年に「愛してるなんて言葉より…」で歌手デビューして以降、数々のヒット曲を生み出し、TBS系『新婚なり!』など連続テレビドラマにも数多く出演、90年代、00年代と人気を集めた。16年7月放送のTBS系『爆報!THE フライデー』では、その後は飲食業も従事していたことなどが明かされていたが、現在は俳優と歌手に加え、演出家としても精力的に活動している。『みとりし』は、一般社団法人日本看取り士会の会長・柴田久美子氏著書の『私は、看取り士。わがままな最期を支えます』が原案。交通事故で娘を亡くし喪失感のなかにある榎木演じる柴久生が看取り士になり、最期を迎える人々と向き合っていく物語。藤重自身も撮影前に大病を患い入院。その経験によってナチュラルに物事を考えられるようになったという。今年デビュー25周年を迎え「今は感謝しかない」と語る藤重の思いとは。【取材・撮影=木村陽仁】

自身に重ねた役柄

『みとりし』場面写真。藤重政孝、櫻井淳子

――藤重さんが演じた山本幸平は良子(櫻井淳子)の夫で、後に良子は乳がんを患います。役作りはいかがでしたか?

 今回は役作りをしなくても臨めたというか、自分自身も結婚して、妻がいて、子供がいて、役柄のシチュエーションと重なるところがあったので、それだけでも入り込むことはできました。苦労はしたけど、苦労はしなかったというか。撮影現場に行く手段として、ロケバスか自分の車かという選択肢がありましたが、僕は自分の車で行くことを希望して。あの役は自分が運転する車のなかで世界観を作っていかないとできないと思ったんです。自分で運転して事故でも起したものなら撮影にも迷惑をかけてしまう。ですので、普段は、本番の時は舞台でもこうした映画の撮影でも車で行かないようにしているんですが。

――印象的なシーンが最期を迎えるために“看取る練習”をしているところでした。村上穂乃佳さん演じる高村みのりが妻の代わりになっていました。

 榎木さんにリードしていただいたシーンでもあるんです。映像は面白いもので、前後の画によって同じ顔でも全然違って見える。例えば、座っている普通の表情でも、この前にお墓のシーンが流れるのか、パーティーのシーンが流れるかによって、この顔が全く違って見える。そういうことが映像なので、このシーンに関しては「もうわかりません」ということしか考えていませんでした。

――感情が高ぶって途中で投げ出すところもそうしたイメージでしたか?

 (高村みのりを)妻に見立てたときにどうなるんだろう、とそれしか考えませんでした。意外と僕のなかではシンプルな気持ちでした。このシーンに限らず全体的にそうした気持ちで臨めていて、どっぷり役につかっていた期間でもありました。父親として、妻が死を迎えるなかでこれから父と子供と生きていくという、それしか考えていなくて。すんなり世界観がイメージできましたし、実際に家に帰れば妻や子供がいるし。これで妻がいなくなったらどうするかと。妻には申し訳ないけど(笑)。素のままを持っていこうという感じでしたので、そうした意味では恵まれていました。ただ、これが看取られる側だったら演じるのは大変だったと思います。看取る側の方が何となく実感ができたというか。

『みとりし』場面写真。藤重政孝、村上穂乃佳、榎木孝明

――あのシーンはジーンときて僕も泣きましたが、撮影現場で監督も泣かれて、それをみて原案の柴田さんも泣かれたようですね。

 そうでしたか。柴田さんとは今も連絡は取り合っているんですよ。そもそも撮影現場がすごく和やかでした。プロデューサーがいて、監督が現場を仕切っていて、榎木さんがいて、穂乃佳ちゃんもいて、いろんな空気を作っていく人たちがいるなかで、ものすごく温かい、柔らかい空気が流れていて暗くない。それは柴田さんが作ってくれていて、不思議なんですけど、あの方が撮影現場に来て「アハハ」と笑うと涼しい空気が流れるんですよ。撮影は6月、7月の暑い時期におこなわれたんですけど、スッと涼しい風が。

――そんな柴田さんと接してみて得たものはありますか?

 シンプルに言えば、もっと優しく生きよう、と思わされます(笑)。柴田さんのやりとりを見ているだけで、もう少し優しく生きなきゃなと感じさせられてしまう方です。プロデューサーの嶋田さんと柴田さん、榎木さんとその日撮影で泊まるので、ご飯を道の駅でとったんですけど、柴田さんのこれまでの壮絶な人生を聞かせてもらって。でもそれを柴田さんは面白おかしく話されていて、辛いことも楽しいエピソードに変えてしまう、ポジティブな方なんですよ。いつも一緒にいたとしたら、僕は自分が苦しいかもしれないです。柴田さんは大きて柔らかい、それと比べてしまうと自分が持っている固さや弱さ、醜さが照らされて恥ずかしくなってしまう。柴田さんにはそうさせる、これまでの大きなバックボーンがあると思う。もっともっとお話を聞きたいですね。

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藤重政孝

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