アナログカッティングマシンを使用しレコードに直接録音するダイレクトカッティングの実演会が7月30日、都内のキング関口台スタジオでチェリストの辻本玲らミュージシャン4名を招いておこなわれた。

ダイレクトカッティングに使用したVMS70

 近年、アナログレコードの出荷数が上り調子で、多くの音楽ファンがレコードに注目している。それを受けて2年ほど前にソニー・ミュージックスタジオがアナログカッティングマシンを導入したのも記憶に新しい。そして、今回キングレコードは過去に自社で使用していたカッティングマシンを復活させた。

 実演会は2部構成で1部ではダイレクトカッティングについての説明とデモンストレーションがおこなわれた。

 ダイレクトカッティングはテープやデジタルファイルなどの途中変換を介さずに、スタジオの生演奏を直接ラッカー盤と呼ばれる少々柔らかいレコード盤に溝を掘っていく手法で、大編成の生演奏でおこなえるスタジオは、英・アビー・ロード・スタジオと、このキング関口台スタジオの2カ所のみだという。

 倉庫に眠っていたアナログカッティングマシンであるVMS70を、キングレコードOBの青木輝彦氏、ノイマン社カッティングマシンの元代理店でテクニカルサポートエンジニアを担当していた原 正和氏に修理を依頼したという。さらに日本コロムビアの冬木真吾氏など様々な人々の力を借り、1年半を掛け28年ぶりに復活を遂げた。

 今回使用するVMS70と現在修理中のVMS66の2台がキング関口台スタジオの2階に設置され、地下1階にある天井高10メートル、数十名が同時録音可能な第1スタジオと直接繋がっている。

キング関口台スタジオ・第1スタジオの様子

 キングレコード株式会社・代表取締役社長の村上 潔氏は「歴史的1日になる」とコメント。

 百聞は一見にしかずという事で、チェリストの辻本玲がJ.S.バッハの「プレリュード」を演奏しダイレクトカッティングの実演、デモンストレーションをおこなった。緊張感の走る中、見事な演奏を披露。ダイレクトカッティングは録った後の編集処理が出来ないため、曲間も含め編集なしの一発勝負。その空気間は、ミュージシャン、エンジニアともに非常に緊張感のあるものだという。そして、その演奏をカッティングしたラッカー盤の試聴をおこなった。その録音されたものを聴いた辻本は「レコーディングは雑味を削ぎ落としていくのが一般的だと思うんですけど、このダイレクトカッティングには良い雑味が沢山あって良い」と評価。チェロ特有のみずみずしい低音の艶やかさに取材陣も耳を傾けた。

オンデ・マルトノ

 第2部は辻本も含めたミュージシャン4人が、それぞれの楽器を使用し実演会をおこなった。同スタジオ内に設置されたモニターで、ラッカー盤に溝を刻んでいく様子もリアルタイムで確認出来る。このラッカー盤がマスターとなりプレスされるという。

 トップバッターは再び、辻本が務め「プレリュード」「サラバンド」「ジーグ」、2人目はバイオリニストの米元響子がストラトヴァリウスの艶やかな音色でイザイの「亡霊の踊り」「フュリ(復讐の女神).アレグロ・フリオーソ」を奏で、3人目はピアニストの上原彩子がチャイコフスキーの『くるみ割り人形 Op71より「花のワルツ」』をダイナミックかつ繊細な演奏を聴かせ、4人目は電子楽器のオンド・マルトノ奏者である大矢素子がラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」を、ポルタメントを駆使したなめらかなパフォーマンスし、それぞれの楽器の特性を最大限に活かした演奏をラッカー盤に封じ込めた。

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