いま、注目を集めるOfficial髭男dism。先日リリースした、映画『コンフィデンスマンJP』主題歌「Pretender」で、オリコン週間ストリーミングランキング(5月20日~26日付)自身初の1位を獲得。今週付で24週目を迎える同ランキングで、1週目から23週目までの1位を独占していたあいみょんを抑えての獲得で、同ランキング2組目の1位獲得アーティストとなった。

 昨年はテレビ朝日系『ミュージックステーション』への初出演も果たし、今年7月には武道館公演も決定。まさに今最も快進撃が止まらないバンドと言えるだろう。

 彼らの楽曲を魅力は尽きないが、何よりも魅力的なのは藤原聡(Vo/Pf)が手掛ける、一度耳にしただけでハッとするような印象深い歌詞の言葉選びだ。「Pretender」をはじめ、「ノーダウト」「Stand By You」といった3曲の代表曲を例に挙げ、その歌詞の魅力に触れる。【五十嵐文章】

『Pretender』

 美しいギターのアルペジオとシンセサイザーが基調のサウンドが印象的な、最新曲『Pretender』。“ロマンス”がキーワードとなっている映画『コンフィデンスマンJP』のストーリーともリンクする、叶わぬ恋が丁寧に描き抜かれた物語性の高い歌詞が特徴的だ。

 “悲しいラブストーリー”を描いた切ないラブソング、というとどうしても「ありがち」「ありきたり」といった印象が強くなりがちだ。ともすれば、よくあるJPOPとして埋もれてしまいかねないテーマ性を持った歌詞だが、ここに藤原はさりげない仕掛けを施している。それは、巧妙に仕込まれたライム(押韻)だ。

 特に目を見張るのが、サビの<その髪に触れただけで 痛いや いやでも/甘いな いやいや/グッバイ>から<「君は綺麗だ」>への展開。一見何の変哲もない言葉たちでも、藤原の伸びやかな歌声とメロディによって真の美しさが引き出されるよう、計算しつくされた言葉たちが並んでいるのだ。

 絶妙なライムによって、“ありきたり”な恋物語は一瞬にしてOfficial髭男dismにしか描き出すことのできない“王道”の恋物語へと変貌する。

『ノーダウト』

 オートチューンのかけられたボーカルやキャッチーなシンセ、そして軽やかなピアノのリフが一度耳にすれば忘れられなくなる、Official髭男dismの代表曲。当時インディーズでリリースされたアルバムの収録曲だったものがメジャーデビューに際してシングルカットされたものだが、インディーズリリースだったとは思えない程の完成度に加え、不敵な程痛快なテーマ性がインパクト大の楽曲である。

 <まるで魔法のように簡単に広まってく噂話/偏見を前にピュアも正義もあったもんじゃない>

<仕方ない どうしようもない/そう言ってわがまま放題大人たち/どうぞご自由に 嫌ってくれて別に構わない>

 ワンフレーズ目から強烈なインパクトを残す挑発的なフレーズは、「どんな世間の声にも左右されずに自分たちのショーを続ける」といった、彼らの決意表明のようにも聞こえる。
この楽曲でも藤原は、歌詞に巧妙なライムを仕掛けている。言葉遊びのように縦横無尽に駆使されたライムは、小気味良い横ノリのサウンドに勢いを持たせる役割を担っているようだ。BPMの速さに頼らず、言葉の楽しさでオーディエンスの身体を揺らすソングライティングスキルの高さを感じる1曲だ。

『Stand By You』

 上品なピアノサウンドがメロウな雰囲気を醸し出す、リスナーの間でも根強い人気を誇る楽曲。『Pretender』にもつながるような王道のラブソングでありながら、人生賛歌のような壮大な広がりをも持つ歌詞が印象的な1曲だ。

 この楽曲の歌詞に隠されたライムは、『ノーダウト』などの楽曲とは一線を画す役割を果たしている。この楽曲の中でのライムはオーディエンスを踊らせるための仕掛けではなく、リスナーの耳を一瞬でとらえ、物語へ引き込むための巧妙なトラップだ。

 「Stand By You」というタイトルに込められたテーマは「君に寄り添う」。普遍的なテーマであるがゆえにオリジナリティに欠ける印象になってしまいかねないが、この楽曲に描かれるのは、確実に藤原にしか描けない言葉たちである。

 <涙のターミナル><未来がハイになる><君と歌になる>といったすべてのセンテンスがキャッチフレーズのようにインパクトを残し、耳を奪い、目を奪い、1曲聞き終える頃には忘れられなくなっている。ハンドクラップや重層的なコーラスなども相まって、陶酔感すら感じられる不思議なロマンチックさあふれる楽曲である。

魅力の根源

 Official髭男dismの楽曲の歌詞の魅力の根源には、歌詞に巧妙に仕掛けられた“ライム”があった。楽曲によって全く異なる役割を担うライムは決してテクニカルな印象を残すものではなく、どこまでもキャッチーでありながら、時に感情的・感傷的でもある。それは、彼らが駆使するテクニックのすべて――それは歌詞においてだけでなく、サウンド面に関しても――楽曲の中に描かれる物語にリスナーを惹き込み、想像力を刺激することで歌詞に描かれた言葉以上の意味をリスナーに感じ取らせるためのスイッチとして存在しているからであると考えられる。

 Official髭男dismの楽曲の歌詞が私たちの心を掴んで離さないのは、“歌詞以上”の物語がそこから透けて見えるからかもしれない。

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