繋がれる数々の名曲『童謡の声』

 童謡が誕生して100年が経つ。大正時代に広く歌われるようになった童謡。一般社団法人日本童謡協会によれば、大正7(1918)年創刊の児童雑誌『赤い鳥』で「童謡」という言葉が発表されてからの年数だという。そうした節目の年に、俳優や声優、歌手など各分野のアーティストが童謡を歌ったアルバム『童謡の声』が11月21日に発売される。「しゃぼん玉」「赤とんぼ」「ちいさい秋みつけた」など、誰もが知っている「あの曲」をそれぞれのジャンルで活躍する面々が歌い上げる。歴史と共に生き、現代も生き続ける名曲たちを新しい時代へと繋ぐ作品。その『童謡の声』について少しばかり紹介したい。

各分野のプロが歌う童謡

 『童謡の声』は、歌手、俳優、声優と、様々なジャンルのプロの声の持ち主たちが歌う“現代の童謡”だ。表現者として各方面で活躍する彼らがその文脈を解釈し歌い上げる。その様々な歌唱の彩り、そして「今しっかり聴くとこういう歌だったんだ」という新たな発見がある一枚である。改めて童謡を聴くこと、そして、今作で初めて童謡に触れるというこどもたちがいるとしたら、永く記憶に残る作品となるかもしれない。各収録曲について触れていきたい。

◎浜辺の歌 / 濱田岳

 大正5年(1916年)発表のこの曲では「しのばるる」「もとおれば」など、現代では通常使用されない文体の歌詞で歌を聴くことができる。“童謡らしい”とも受け取ることができる「メロディに対しての言葉数の少なさ」に、現代俳優の濱田岳の言葉回しの味わい深さが混ざり合っている。

◎いぬのおまわりさん / 神谷浩史

 現代音楽調的なピアノの伴奏に、声優の神谷浩史の抑揚溢れるドラマチックな歌唱。童謡の持つ表題性が色濃く表れ、思わず、いぬのおまわりさんが感情豊に立ち回る姿が目に浮かぶようだ。

◎しゃぼん玉 / 遠藤憲一

 「しゃぼん玉の素朴さと儚さを感じながら、ただただ心をこめて歌いました」とコメントする遠藤憲一の魅力溢れる低音ボイスが印象的だ。しゃぼん玉の軌跡を追うような歌唱が、じっくりと、どこか儚く響く。この曲は一見、明るい曲調に感じるが、実はしゃぼん玉が割れるという儚さを歌っている。割れないでほしいという子供の願い、「風風吹くな」というところにフォーカスしているように見える心情も溢れ、遠藤憲一の「心をこめて」という思いが表れている。

◎赤とんぼ / 尾崎裕哉

 美しい和音展開に漂う尾崎裕哉の歌がどこか切なく、浮遊するように響く。童謡の魅力はもちろん、尾崎裕哉の男らしく澄んだ声の魅力にも引き込まれる一曲だ。

◎椰子の実 / 比嘉栄昇(BEGIN)

 島崎藤村作詞の同曲は、現代語ではない歌詞で歌われる。「『旧の木は生いや茂れる』の島で 生まれ育った身として『椰子の実』を歌いました」という比嘉栄昇の歌は、波に流れる椰子の実に魂を乗せ、その実に想いを馳せるように、童謡の情景を鮮やかに誘う。情緒たっぷりに歌う比嘉栄昇の声は優しく響き、そして、生まれ育った島を想う慈愛に溢れているようだ。

◎月の砂漠 / 小倉久寛

 “温かい「月の砂漠」”。どこかミステリアスで、マイナー調の同曲だが、俳優・小倉久寛の歌う「月の砂漠」は体温があり、こどもに歌で読み聴かせるような感触がある。物語の世界に浸るような気持ちにさせてくれる歌唱だ。

◎夏の思い出 / つるの剛士

 数ある童謡の中でも、すこしポップス寄りなメロディの「夏の思い出」。つるの剛士の明瞭な歌い回しと適度な“間”が、この童謡にピッタリとはまっている。

◎やぎさんゆうびん / 柳楽優弥

 思わずやぎさんが頭に浮かぶようなピアノの導入。読まずに食べてしまった手紙の行方は? その手紙の内容は? そんな歌詞の内容がイメージされるように、柳楽優弥の歌に“童謡らしい”感情が乗っている。また、この曲が“歌デビュー”となった柳楽優弥の記念すべきテイクだ。起承転結・感情の起伏がダイナミックな柳楽優弥の歌唱は、役者ならではの技を感じられるものだ。

◎七つの子 / 山崎育三郎

 「いつも優しく温かい詩とメロディが、いつまでも人の心の中に残りますように」という山崎育三郎のメッセージは、歌として曲に優しく籠っている。メロディは知っているが歌詞の内容についてはそこまで、という方に、温かい歌詞の中身までしっかりと伝わるようだ。

◎ちいさい秋みつけた / 石崎ひゅーい

 心に呼びかけるように歌う石崎ひゅーいの「ちいさい秋みつけた」。どこか西洋風のメロディと<だれかさんが>という部分と<ちいさいあき>の部分を繰り返す箇所は、感情たっぷりに歌う石崎ひゅーいの歌唱スタイルと絶妙に混じり合い、この童謡の新しい表情を見せてくれる。

◎めだかの学校 / 黒羽麻璃央

 全編を通して、めだかの姿を音にしたようなピアノの旋律。そして、黒羽麻璃央が丁寧に言葉を紡ぐように、水面を撫でるような歌声で、童謡におさめられためだかたちの姿を表しているようだ。

◎夕焼け小焼け / 川畑 要(CHEMISTRY)

 童謡ながらもどこかリズミカルな歌唱の「夕焼け小焼け」。ブラックミュージックやダンスミュージックを得意とする川畑要の歌唱がみせる、「現代的な表現の『夕焼け小焼け』」とも感じられるかもしれない。

これからも繋がれていく童謡

 『童謡の声』は、誰もが知っている“あの曲”を新しい時代へと繋ぐ一枚。童謡から感じ取れる、万人の共通したイメージに照らし合わせたようなメロディ。歌詞。それらは、いずれも日本の風土、季節、文化、心に寄り添っている。冒頭の一小節を聴くと、つい続きのメロディを口ずさんでしまうような親しみやすさ。それは、年月が経っても色褪せず、日本人のDNAに、深く優しく刻まれている。そして、時代の移り変わりと共に、『童謡の声』と共に、日本の童謡はこれからも繋がれていくだろう。【平吉賢治】

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