日本人の音楽を世界に、黒船 ジャズに奄美と津軽三味線の要素を
INTERVIEW

日本人の音楽を世界に、黒船 ジャズに奄美と津軽三味線の要素を


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年10月09日

読了時間:約12分

歌詞の意味が伝わらなくても格好いい音楽

関谷友貴(撮影=冨田味我)

――では新作の話に戻ります。「CARAVAN」の日本語によるカバーがユニークでしたね。

関谷友貴 せっかくジャズのスタンダードをやるなら黒船しかできないものをやりたいなと思っていたんですよ。なので「CARAVAN」を日本語訳して、それをさらに奄美弁に翻訳したんです。

里アンナ かなり難しかったですね。メロディが結構短い曲なんですけど、日本語訳は言葉数が多い。それを奄美弁に直しても、そのままじゃ当てはまらない時もあるんです。うまく元の意図をくみ取って奄美弁にするいい言葉はないかな、という作業でした。

 私も奄美の言語についてはネイティブではないので、聴きとることはできても、考えながらでないと話せないんです。難しいところは母に聞いたりして。メロディに乗せた時にハマるかどうかもあります。ただ英語でも、標準語でも、奄美の言葉をメロディに乗せる冒険を形にできて面白いなと思えました。

――このカバーは過去にも挑戦したそうですが、今回成功できた要因は?

関谷友貴 最初は英語でやったんですよ。

里アンナ それがハマらなくて。英語でさらに島唄の節回しで歌うのが私自身も気持ち悪かったです。アクセントも違くて、メロディに乗らないという感じがありました。

関谷友貴 ありましたね(笑)。今回は「なぜアンナちゃんに歌ってもらっているのに、英語で歌わなくちゃいけないのか」というところからのスタートでした。僕も10代の頃、リチャード・ボナというベーシストがルーツであるアフリカの言語で歌う姿に感銘を受けたんですよ。だから海外に発信しても、日本人が聴いても、歌詞の意味が伝わらなくても、格好いい音楽は格好いいという気持ちはずっと自分の中にありました。そこで今回再チャレンジしてみたら、できました。

――なるほど。他にも印象に残っている曲などありますか。

関谷友貴 「塩道長浜」という曲はアレンジするに当たって、まず奄美で3拍子はありえないんです。

里アンナ 3拍子が一時的に入る曲もあるんですけど、3拍子が基本の曲はありません。私がこの曲を推薦したのに、ちゃんと歌ったことがなくて(笑)。というのも私は奄美の北の出身で、そこでは歌わない曲だからなんです。島唄では違う地域の歌を歌うのに抵抗があるんですよ。だから、歌ってこなかった。でも好きな曲で、多分友貴くんも好きそうだなと思って推薦したんです。でも初めてカウントをしながら歌ってみたら、おかしいなと(笑)。

関谷友貴 いつもアレンジには余白を残しているんですけど、本当に理解してもらうのが大変なんです。

里アンナ だいたい島唄の曲って慣れているので、譜面見なくても歌えるんですが、これに関してはみんなガン見(笑)。

関谷友貴 なので演奏するのを嫌がられる時もありましたが(笑)。今回新しいアレンジも加えたら、みんな気に入ってくれましたし、思い入れの強い曲になりましたね。

――里さんの思い入れのある曲は?

里アンナ 友貴くんのオリジナル楽曲「FAMILY」です。とても難しいし、収録曲のなかで1番違ったテイストですし、方言でもない。なので「どう歌いきったらいいんだろう?」と何度も話し合った曲ですね。こういう楽曲は自分の納得できる感じでレコーディングに臨まないと不安になるんですけど、録音が迫っている時に曲を渡されたんですよ(笑)。

関谷友貴 黒船の今のメンバーでやったことはなかったんですけど、初期にインストで演奏していた曲なんです。知り合いがそれに歌詞を付けてくれて。もう10年以上前なんですけど、このメンバーでもう1回やりたいとお願いしたんです。

里アンナ この曲が1番のチャレンジでした(笑)。歌詞というよりも、この歌詞をどうメロディに乗せて伝えるのか、というところの不安が大きかったです。

――この曲のスムースに聴こえつつ、転調していく難しいサビを歌うスキルに驚かされました。本当に奄美の方はみなさん歌がお上手ですよね。

関谷友貴 伴奏がほぼ無い中で歌う音楽ですからね。

里アンナ 基本的に、奄美にある楽器は三線と「チヂン」と呼ばれる太鼓なんです。両方ともコード楽器ではないじゃないですか。それにお互いに聴きあいながら演奏しないといけない。三線の人が歌手に合わせることが多いですが、どれだけ寄り添えるかが大事なんです。先ほどもお話してましたが、お互いの呼吸を感じながら進んでいくのはジャズと似ているかなと感じますね。

――それから「Birdland」もなかなかチャレンジングな編曲でした。

里アンナ 曲を作る時は私の歌いやすいキーと、津軽三味線の弾きやすいキーのどちらを優先するか迷うんですが、この曲も色々な話し合いがありました。

関谷友貴 譜面を4パターンくらい作っていって「このキーはどう?」「これは?」と皆に相談して。今ではセットリストの最後の方に持ってくるくらい盛り上がる曲になりました。アレンジに関しては、いつもギリギリのやりとりが多いんですよ(笑)。そういう時はピアニストの竹内大輔がまとめてくれたり、持ちつ持たれつ。彼は唯一絶対音感を持っていて、歌と津軽三味線のよいバランスのキーを提案してくれるので、とても助かっています。

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