People In The Box、独自の哲学貫くステージで10周年の軌跡辿る
全国ツアー『10th Anniversary「Things Discovered」release tour』のファイナル公演のもよう
3人組ロックバンドのPeople In The Boxが6月3日、東京・新木場STUDIO COASTで、全国ツアー『10th Anniversary「Things Discovered」release tour』のファイナル公演をおこなった。新木場STUDIO COASTでのライブは、2015年の『空から降ってくる vol.8 〜正真正銘の全国ツアー!これ以上の全国ツアーってある?ねぇー?ねぇぇぇーーー?編〜』のファイナル公演以来、2年ぶりの開催。この日は、1月に発売したアルバム『Things Discovered』の収録曲を中心に新曲4曲を含むセットリストで、CDデビュー10周年の軌跡を噛みしめるようなステージを見せた。アンコールは演奏曲をじゃんけんで決めるという、最後まで彼ららしいスタイルを貫いた公演となった。
今日は悔いが残らないように、楽しもうぜ
会場が暗くなると、時計の秒針のような音が会場に響く。まるで、彼らの10年の時を刻むようなSEに歓声が上がる。
青色の照明が彼らの背中を照らし、1曲目の「月曜日 / 無菌室」からスタート。スローテンポなロックナンバーで、3ピースとは思えない音の厚みが印象的だ。波多野裕文(Vo、Gt)の歌声を合図に、一瞬の静寂が訪れたあと、山口大吾(Dr)のドラムと、福井健太(Ba)のベース音がそれを破る展開が曲に緩急を与え、観客は彼らの世界に引きこまれていく。
続いては<さぁ、行こうぜ>という歌詞で始まる「木洩れ陽、果物、機関車」。突き抜けるような感覚を与えるサビの転調が、雲ひとつ無い五月の青空のように心地いい。テンポを落とし、リバーブの深いボーカルの響きが陶酔させる。
3曲目はTVアニメ『東京喰種 トーキョーグール』のエンディング曲としても知られる「聖者たち」。マイナーで激しく浮遊感のある曲調が夜の雰囲気を醸し出すと、割れんばかりの拍手が会場を包んだ。
MCでは波多野が「今日って案外ファイナル感がない。いつもだったら作品を作って育ててきて、ここで完成という感覚があったけど。『Things Discovered』というアルバムは、自分たちにとってなんだったのだろう? と。そう問いかけるアルバムだったと思うんです」と言い、これまで作ってきたアルバムと新作の違いを話す。
さらに、「だから今回は自分たちを捉え直す、みたいなツアーだったと思っていて…。ひとまず今日は悔いが残らないように、楽しもうぜ。今日は、過去10年の選りすぐった曲と、新しい曲と、実験的な曲と、ピープルの全部が見れる日なので、最後まで楽しんで帰って下さい」と話し、「馬」に突入。福井のベースラインが跳ねるように上下するこの曲で波多野は、手綱を引っ張るでもなく、身を預けるように伸びやかな歌声をこだまさせる。
1曲を挟み、その後の6曲目は「ニムロッド」。アップテンポで、ラップのように言葉をカチカチとはめていく軽快なリズムが小気味良い。メンバー3人の息が合った演奏で、観客は縦ノリで盛り上がる。
新曲やります!
曲が終わり一息つくと、山口が唐突に「ココアってあるでしょ。チョコレート的な味がする。…冬ってココア目立つよね。いろいろ考えているとさ、“ミロ”っていう飲み物あるでしょ。あれ、何で出来ているんだろうって、ふと思って。調べると麦芽飲料って書いてあるんだよね…。新曲やります!」と脈略の無い話から新曲演奏を宣言、会場が笑いとザワつきに包まれる中、新曲を披露した。
9曲目の新曲の前に挟んだMCで波多野は「東京でやってない曲を優先的にやると、どうしてもポカーンとされてしまう曲がちょっと…」と言うと、山口が「新曲ってそもそも聞きたい?」と問いかける。
波多野が「聞きたくないよね?」と自嘲気味に笑うと観客から「聞きたい!」という声が。「新曲は“聴きたい”って言われると本当にやりたくなくなる。“聴きたくない”っていう声がすごくほしいです」と波多野のあまのじゃくな発言が飛び出すと、観客から「聴きたくなーい」という声が飛んでくる。
すると「聴きたくないよね、新曲…。じゃ、新曲やります!」と波多野が裏切り、観客から歓喜の声。People In The Box特有の観客との掛け合いの妙が垣間見えたところで、波多野はギターを置き、赤いキーボードを弾きながら、新曲を披露。
10曲目の「プレムジーク9月/東京」は、エレキベースの音色がまるでウッドベースのように聞こえるフリージャズ的な冒頭。電子ピアノの音色が美しく優しい質感の曲で、メンバーに柔和な表情が浮かぶ。
さらに1曲挟み、12曲目の疾走感あふれる「セラミック・ユース」まで駆け抜ける。13曲目の「maze」、続く「矛盾の境界」はどちらもハードなロックテイストの曲。攻撃的な演奏が赤い照明と相まって刺激的に脳裏を揺らす。
ここで、「みなさん、こんばんは!」と山口の急に弾けたハイテンションなコールに「こんばんは」というレスポンスが返ってくると「あぁ、気持ちいい。しっかり調教されてる!」と、山口がコミカルに放言。福井が「今日はじめてしゃべります。こんばんは!」と続く。「はい、拍手」と山口が煽り、会場に拍手が響く。
俺らはやりたくないことは一切しない
ブックカバーや、様々なグッズをオフィシャルグッズで作ったという話から、8月2日にライブDVD『Cut Five』をリリースすることを発表。DVDには今年1月に東京・めぐろパーシモンホール 大ホールで開催されたワンマンライブ『空から降ってくる vol.9 〜劇場編〜』の模様が全曲にわたって収録されるという。さらに特典映像として、山口によるスペシャル映像「ダイゴマンが行く!」シリーズの最新作「空から蕎麦が降ってくる」が収められるとのこと。
その後のMCで「残すところあと3曲」と紹介されると、変拍子の「市民」がカットインして鬼気迫る演奏が会場を飲み込み、歓声が上がり間髪入れずに「旧市街」へと続く。ベースのリフから始まるマイナー調のこの曲はAメロとともにポエトリーリーディングで始まる。シンプルな3人編成だからこそのメンバーの超絶技巧な演奏が光る。
そして黄色い照明に照らされたステージで「翻訳機」を披露。終焉を惜しむようにメンバーが丁寧に紡ぐ一音一音は、映画のエンディングのように感動的。<楽しいね>という歌詞を残し、ステージを去っていく彼ら。どこからともなく歓声があがりアンコールの拍手は鳴り止まない。程なくして、再度登場したメンバーたち。
波多野が、観客が手を上げている写真をステージ上から撮り、「これでオレが自撮りしてたら怖いよね」と笑いを誘う。波多野は「今日にいたっては新作のツアーでもない中、みんなよく来てくれたね。すごく嬉しいです。告知もしなくなって久しいんだけど、俺らはやりたくないことは一切しない。ステージセットとかいらんやろ?(笑)」と彼らの哲学を貫いてきた日々を吐露する。
山口は「どこのライブハウスでも3人がこの距離感を保ってきた。国立競技場とかでライブした場合、お客さんからしたら迷惑ですよね…この距離感保っていたら“小っちゃ!”って(笑)」と笑い、波多野は「自分たちはまだ何かの途中だって感じがすごくする」と、今後の展望について語った。
そして、この日のラストを飾るアンコール曲のラストはメンバーそれぞれがやりたい曲をじゃんけんで決めるという彼らのルールで決めた。福井が勝ち、「新市街」でこの日のステージを終えた。やりきった感のあるメンバーたちの表情から察する未来はきっと明るい。創作意欲あふれる彼らの動向から今後も目が離せない。
(取材=多司真咲)
セットリスト
People In The Box
「10th Anniversary『Things Discovered』release tour」 2017.06.03@東京・新木場STUDIO COAST 01.月曜日 / 無菌室 ENCORE EN1.新曲 |