Panorama Panama Town「音を減らしたかった」制約から生まれた新たな音
INTERVIEW

Panorama Panama Town

「音を減らしたかった」制約から生まれた新たな音


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年11月27日

読了時間:約10分

 神戸出身のオルタナティヴロックバンド・Panorama Panama Townが24日、ミニアルバム『Faces』をリリース。メンバーは岩渕想太(Vo)、浪越康平(Gt)、タノアキヒコ(Ba)2014年に結成、2017年にミニアルバム『PANORAMADDICTION』でメジャーデビューした。今作『Faces』はFODドラマ『ギヴン』主題歌「Strange Days」 FODドラマ「ギヴン」劇中バンドthe seasonsへの書き下ろし楽曲 「Melody Lane」のセルフカバーを含む全7曲収録。これまでとは一味違ったPanorama Panama Townが味わえる1枚に仕上がっている。インタビューでは、2021年で変化した意識、それが反映されたミニアルバム『Faces』の制作背景、今年中にやっておきたいことなど3人に話を聞いた。【取材=村上順一】

それぞれの意識の変化

『Faces』ジャケ写

――2021年、皆さんどんな変化がありました?

浪越康平 僕はアレンジ力が上がった一年でした。自由度が増したと感じていて、これまでは自分が決めたルールみたいなものに縛られていたかなと。それは他のバンドのサポートをしていたことが影響しました。いろんなやり方を知ることが出来たのは大きかったです。

――サポートしたことによってPanorama Panama Townの強みもわかったのでは?

浪越康平 そうですね。ギターがバントサウンドの中で立っているところや、今回の「Faceless」やインディーズ時代の「MOMO」のようなラップはやっぱり僕らの強みだなと思いました。あと、僕らはファンキーなグルーヴを全員持っていて、それをファンクとして見せるだけではなく、いろんなジャンルに転嫁出来るのは僕らの強みで「世界最後になる歌は」のような曲のテイストは、これからもしっかり持っていたなと思いました。

――逆にここが弱かったと、思ったところも?

浪越康平 良いところでもあると思うんですけど、ギターを歪ませ過ぎたり、メロディアスではなかったり。なのでもっとメロディアスでも良い部分もあったりして。それは歌にも言えるし、ベースにも言えることなんですけど。個性はあるけどそれに縛られ過ぎているところもあって。

――それで自由度が増した、という結果に繋がったんですね。岩渕さんは?

岩渕想太 ドラマ『ギヴン』の主題歌を作る話をいただいてからアルバムを作る作業が続いていたので、今年は沢山曲を作った一年でした。その中でもこれまで何かを狙って、こういう曲を作りたいと思って制作した事がなかったんです。でも、今回は主題歌を作る時はそれが出来ました。お題があるのが楽しかった。

――これまでも「ラプチャー」とかテーマ曲の制作はあったじゃないですか。

岩渕想太 あの時は目掛けて作ってはいたんですけど、とにかく沢山作ってどれがハマるかみたいな感じで。今回はより明確なイメージを持って作れたと思っていて。

――岩渕さんは外に出て、そこから刺激を受けて曲を書くイメージなんですけど、コロナ禍であまり外に出ることも出来なかったと思うんですけど、曲作りは苦労しませんでした?

岩渕想太 とにかく音楽、新譜を沢山聴きました。あとは散歩してましたね。最初は浪越が家に来てそこでどういう曲をやりたいか話して、そこから散歩に出てアイデアが出てくるまで家に帰らないみたいな。なので、今作は散歩して出来た曲が多いかもしれないです。「Strange Days」は散歩から出来た曲です。

――アルバムを通してメロディアスだなと思ったのですが、それは浪越さんの影響も?

岩渕想太 それはドラマ主題歌の影響が大きいかも。確かにしっかりとしたメロディを作ってもいいんじゃないかなと思えたところもありました。メロディを何通りも考えて作ったので、これは初めてのことでした。昔は声で特徴を出すこととか考えていたんですけど、今は良いメロがあればいいと思えてきて。

――意識の変化があったんですね。タノさんはこの一年振り返るとどんな年でした?

タノアキヒコ 良い意味で焦りがなくなってきた1年でした。これまではずっと余裕がなくて焦っていたんですよ。変な欲があったりしたんですけど、それがどんどんなくなってきて。今はPanorama Panama Townに一番貢献できるようなプレーがしたいと思っています。自分の中で軸が定まった1年でもありましたし、やっとベーシストらしくなれてきたのかなと。

――これまでは自分の中でベーシストらしくなかった?

タノアキヒコ 楽曲の根幹が決まればベースとして支える感じではあったんですけど、それがブレてしまったりすると正解がわからなくなってくることもあって。でも、色々定まってくるとシンプルにやるべきことが定まってくる感じがあって、曲の重心が見てくるんです。

 僕も浪越と同じようにサポートをする機会があって、そこでベーシストの役割を実感できました。自分の中で良い音というのをもう一度見直してみたり。なので今作で音作りが変わったところもあって、自分がいる帯域を今までよりも考えるようになりました。

――それ今作を聴いて変わったことの一つだと思いました。以前はエッジの効いたロックベースという感じだったんですけど、曲によって丸みを帯びていたりサウンドの変化があるなと。

タノアキヒコ 前はリッチな音が好きだったんです。でも今は曲によって一番格好いい音を探すようになりました。今回使用したベースも「Strange Days」はいつものメインで使っているジャズベースで、他の曲は借りたプレジションベースで弾いています。

――そういえば今回、受注生産限定盤のグッズはロングスリーブTシャツじゃないですか。今回これに決まったのは? ミニアルバム『GINGAKEI』の時は手染めのTシャツでしたけど。

浪越康平 毎回、手作りで何かやりたいというのがあるんですけど、だんだんネタ切れになってきて。

岩渕想太 今回はすごくて、シャツにプリントするのとそこに判を押すという今までやってきたことの集大成になっています。

タノアキヒコ 前は型は用意してもらっていたんですけど、判の型も自分たちで作っています。

岩渕想太 今回は『Faces』というタイトルなのでそれぞれの顔、字を彫るというのがあって。色も自分で作るので、今まで以上に手作り度は上がっていると思います。

――やっぱり大変でした?(※取材日は10月下旬)

浪越康平 今、型を作る途中で練習中なんです。まだ1枚試しにやってみただけで本チャンはこれからなんです。難易度はかなり高いなと感じています。

岩渕想太 しっかりできれば、ここまでの集大成に相応しいものになると思います!

7曲それぞれバンドの顔になる曲を

――『Faces』というタイトルをつけた経緯は?

岩渕想太 全曲揃ってから付けたタイトルなんですけど、「Faceless」の歌詞で「Faces」という言葉が出てくるんですけど、それがいいなと思って。今は顔なしで人を判断されているけど、実際はみんなちゃんと顔があって生活もあるんだというテーマなんです。なので、7曲それぞれバンドの顔になる曲を作ろうという思いもありました。

――「Faceless」はSNSのことを歌っている部分も?

岩渕想太 そこはあまり考えてはいなかったです。確かにSNSもそうですけど、コロナ禍で顔を見ずに判断する人が多いなと感じたことが大きくて。職業や世代で一括りにされてしまったり、顔と顔の対話というのがないなと思い、歌詞にしました。

――ということは、「Faceless」がリード曲に?

岩渕想太 特にリード曲とかは決めていなくて。ただ「King’s Eyes」でミュージック・ビデオを撮影するので、自然とこれがリード曲になるのかなと。

――個人的にこの「King’s Eyes」は、新しいPanorama Panama Townが見れた気がしたんですけど、そういう意識で?

岩渕想太 僕の中では新しいものを作ろうという感じよりも、こうしたら面白いんじゃない? という集合体だと思っていて。浪越が中心となってアレンジした曲で、2曲が一つになっているんですけど、デモから結構変わった曲です。

――浪越さんはアレンジをどのようなイメージで仕上げて行きましたか。

浪越康平 僕の中では新しいものにしたいという意識はありました。僕が弾いているギターフレーズは岩渕が考えていたもので、そこから「さあどうしよう」となって。ギャング・オブ・フォーみたいな感じにしたいというのもありましたし、ベースがしっかり休符があるものにしたいと思って。あと、この曲は岩渕のギターカッティングがすごく合うなと思って。岩渕の持ってるポストパンク感というか、不器用な人物像がこの曲には合うんです。

タノアキヒコ ギャング・オブ・フォーめちゃくちゃ聴きました。最初はもっとケバい感じのアレンジと言いますか、それを削ぎ落としていった感じです。ベースも音の長さ、音価も考えて色々試しました。

――ベースすごく印象的ですよね。さて、「Seagull Weather 」はちょっと今作の中では傾向が違った曲ですけど、この曲を入れた意図は?

岩渕想太 収録曲を一通り作り終わってから、まだハマっていない曲があって、いくつか作って提案した中で最後に思いついた曲なんです。ディレクターさんがこの曲を入れてみたらどう? と言ってくれて。僕の中ではトーキング・ヘッズの歌ものというイメージで作っていました。この曲が入ることで前後にある「Faceless」と「Algorithm」も活きてくるなと感じていて、息抜きの曲でもあります。

タノアキヒコ この「Seagull Weather 」の雰囲気は僕らが昔から持っていたニュアンスだと思っていて、その要素が入っている曲も入れた方が良いなと思って。毎回アルバムではメロウな曲を入れているので、今回も自然とそうなった感じがしています。

――そして、「100yen coffee」は散歩しながらできた感じもありますね。

岩渕想太 そうです。煮詰まった時に夜に散歩するんですけど、自分だけ取り残されているような感じがしました。その気持ちを歌詞に落とし込みました。

――自販機で100円の飲み物見つけるとちょっと嬉しいですよね。ちなみに浪越さんとタノさんは散歩します?

浪越康平 寝れない時とかします。

タノアキヒコ 深夜の3時くらいにする時もあります。割と徘徊するの好きです(笑)。

――ミニアルバムの締めとして収録されている「Melody Lane」はセルフカバー曲ですけど、さなりさんが歌っているバージョンとはアレンジが違いますよね。さなりさんのバージョンはPanorama Panama Townが演奏しているわけではないんですよね?

岩渕想太 僕らが演奏していますよ。

――えっ! 全然人格が違う演奏じゃないですか。ギターソロなんてタッピングしてるし。

浪越康平 タッピング、やりたかったんです(笑)。遊びでやったことはありましたけど、公では初めてやりましたね。

タノアキヒコ 『ギヴン』のキャラクターがやりそうなことをイメージして演奏していて。

岩渕想太 リクエストも特になかったんですけど、めちゃくちゃ考えました。

――アルバムに収録したバージョンのアレンジはどう考えて制作していったんですか。

岩渕想太 けっこう試行錯誤しました。「Strange Days」が先にできていて、アルバムの方向性も決まりつつあったので、そこにどうやって「Melody Lane」をはめていくかというのがありました。アルバムの裏テーマじゃないですけど、どれだけコードをジャカジャカ弾かないかというのもあって。でも「Melody Lane」はジャカジャカ弾くイメージで作っていたから、アルバムのテーマに合わせたアレンジにするのが難しくて。

――その制約、ただの足枷にしかならなそうですけど(笑)。

浪越康平 それがやってみたかったんです。

岩渕想太 とにかく音を減らしたかったんですよ。「Faceless」はもともとパワーコードでガンガン弾く感じのアレンジだったんですけど、それを解体していって。「Algorithm」もそうでした。

タノアキヒコ ここまで厳しい制約を設けたのは初めてでした。

――それによってこのアルバムのカラーが出来上がっているんですね。

岩渕想太 前作『Rolling』と比べると違いがよくわかると思います。「Sad Good Night」の次に「Strange Days」の制作に入ったんですけど、「Sad Good Night」の進化したものを作ろうという気持ちで望みました。なので、この2曲を比べてもらうと僕らの変化がわかるんじゃないかなと思います。

――では、最後に今年も残り少ないですけど、年内にやっておきたいことは?

浪越康平 ギターの練習なんですけど、今年定めた目標をまだ達成していなくて。弾けるようになりたい曲がいくつかあるんですけど、その曲を敢えて練習せずに他のことをやっていく中で弾ける状態にしたいと思っています。

タノアキヒコ 今年中に新しいベースを見つけたいです。今年、新しい相棒を見つけようと思って、買う寸前までいったんですけど、僅差で他の人に買われてしまって。そこからなかなか探せずにいたんですけど、なんとか今年中に見つけたいです。

岩渕想太 僕はバラード曲を作ることです。それは今年の初めに目標としてバラードを作ろうと考えていたんですけど、まだできていなくて。BPM100くらいで作りたいと思っています!

(おわり)

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