「苦楽を共にできる音楽を」MOSHIMOの今に迫る
INTERVIEW

MOSHIMO

「苦楽を共にできる音楽を」MOSHIMOの今に迫る


記者:村上順一

撮影:冨田味我

掲載:21年08月09日

読了時間:約12分

 MOSHIMOが8月4日、メジャーデビューフルアルバム「化かし愛」をリリース。MOSHIMOは福岡で結成され、2016年5月にデビューシングル「猫かぶる」をリリース。2020年8月に地元九州時代から旧交のあった、汐碇真也(Ba)と高島一航(Dr)が正式にメンバーとして加入。今作は、様々な恋愛における「シーン」をリアルに赤裸々に切り取った楽曲を中心に、ファンへの想いを重ねた楽曲や、MOSHIMOらしさ溢れる12曲を収録。インタビューでは新加入したメンバー2人に迫りながら、彼らがメジャーデビューアルバムで表現したかったことなど、多岐に亘り4人に話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

発信力、強さが今後より求められるようになってくる

――メジャーデビューされますが、どのような流れがあったのでしょうか。

岩淵紗貴 前のメンバーが脱退して、所属していた事務所も離れることになって。それでKOGA RECORDSのKEYTALKと仲がよかったので相談して、KOGA RECORDS内にMOSHIMOのプライベートレーベル「Noisy(ノイジー)」を設立して、前作『噛む』をリリースしました。それと同時に、コロムビアさんも一緒にやって頂けるということになって、今回のメジャーデビューのお話に繋がりました。

冨田味我

岩淵紗貴

――活動休止しているバンドもいる中で、メンバーが増えて新たにスタートを切って。

岩淵紗貴 めちゃくちゃ感謝しています。今回のアルバムの時もリリースが決まってバタバタだったので制作を2人にすごく助けてもらって。何より自分の中で一番納得のいく作品を今のメンバーで作ることができたので凄くよかったなと思います。

――汐碇さんと高島さんはお2人と一緒にやっていて手応えは?

汐碇真也 楽しく制作もライブもできているので凄く心地よい空間で楽しいです。

高島一航 バンドに誘ってもらってすぐにコロナ禍になってしまって、その中で僕と真也さんは8月に正式メンバーになるんですけど…それでコロナ禍があるからライブができなくて、自然な流れでYouTubeで配信したり、ストレスも本当にない状態でそのままアルバムを作ったという感じです。けっこう周りのバンドさんも解散したり脱退されたりと、悲しいニュースはありましたが、僕らはそんなに悲壮感はなかったです。もちろんライブはやりたいんですけど。

――制約がある中でライブの見せ方を変えなければいけない、という部分もあると思うのですがライブで工夫していることは?

岩淵紗貴 これまでのMOSHIMOのライブってコミュニケーションをとるというか、お客さんも声を出すし、質問をして曲中も普通に喋ったりする感じだけどそれもできないし、じゃあ騒げるかというと騒げないので身振り手振りで楽しめたりとか、ライブのあり方もけっこう変わってきているのかなと凄く思っていて。自分が歌っている時とかやっている時、純粋に楽しむというのもあるんですけど、「これが私たちです」って一方的に投げかけるほうが、観ている人が今MOSHIMOってこんな感じで動いているんだ、こういうことを言いたいんだ、こういうバンドになろうとして進んでいる、というのを伝えられるんじゃないかなと思っていて。もちろん一体感も楽しみたいんですけど、自分たちの「一方的にこう思っているよ」という発信力、強さが今後より求められるようになってくるんじゃないかなと思っています。

――実際にライブを何本かやられて一瀬さんの手応えは?

一瀬貴之 みんな会えなかったので久しぶりにライブに来てほっとしている顔をしているし、声が出せなくても自然と体が動く、そういった意味では一歩ずつですけどみんなと再会できてよかったなと思います。メンバーも変わってまだ行けていなかったところもあって、最近行き始めてようやく新しいMOSHIMOのよさみたいなものをお客さんも気に入ってくれたり、一航や真也さんがこういうキャラクターなんだと認識してもらってファンになってくれたり、そういうところに出会うことがあって凄く嬉しいです。

冨田味我

一瀬貴之

――新メンバーのお2人はどういうキャラなんでしょうか。

一瀬貴之 説明するのが難しいんですけど、一航は一見悪そうに見えるんですけど、実はキチっとしていて真面目です(笑)。時間にも細かいよね。

高島一航 僕は集合時間より異様に早く来るという癖があって。昔、演奏の仕事を一人でやっていた時に、前日にBARで知り合った男の子とメチャクチャ盛り上がって、レコーディングに2時間遅刻したんですよ。翌朝プロデューサーからの着信がもう、すごくて。顔面蒼白でスタジオに行って、最初の30分正座ですよ(笑)。普段は優しいプロデューサーがこんな顔するんだ…」と。もうあんな顔見たくない、ってところから早く行くようになりましたね。

――汐碇さんはどんな方ですか。

岩淵紗貴 バンドの中でバランサーという感じがします。

一瀬貴之 ベースっぽいよね。プロデューサーの方ってベースが多いですよね。真也さんは格好いいじゃないですか? 格好いい人って近寄りづらいけど真也さんはフレンドリーで親しみやすいです。歳上なんですけど、メチャクチャ無礼なことを僕は毎日しています(笑)。

汐碇真也 この2人(一瀬と高島)は無礼者です(笑)。

高島一航 そこに俺は入れんでほしい(笑)。

――はは(笑)。いい4人が集まりましたね。

岩淵紗貴 本当そうです。わたしとイッチー(一瀬)がけっこう突進型なのでメチャクチャバランスをとってみんなのコミュニケーションを調和してくれるし、一航は本当に真面目で根がしっかりしているんです。金銭面や時間とかそういうところが私とイッチーが凄くルーズなので助けてくれます。

――メンバーとして誘った経緯にはそういった性格的な部分も?

岩淵紗貴 もともと知り合いだったので、そういうところで信頼は凄くありました。

一瀬貴之 真也さんはバンドをいくつかやっていて、ベースの音が好きで「フレーズ格好いいな」と思っていたのでそれもあって最初お願いしました。最初はちゃんと崇めていたんですけど…だんだん今のような無礼な感じになって。

高島一航 イジらせてくれるとなって(笑)。

汐碇真也 ナメてかかってきた(笑)。

最近は怖いものがなくなってきた

――アルバムタイトルの『化かし愛』にはどういった想いを込めたのでしょうか。

岩淵紗貴 「化かし愛のうた」がリード曲になって、タイトルも夏っぽくていいんじゃないかというところからです。あと、制作期間中に色んなことをバタバタしているなかで考えることがあって。仕事をしていたりその他の人間関係だったり、恋愛面とかでも見つめ直すことがたくさんありました。今まで自分の思っていることを人に素直に伝えられなかったし、角が立つから言うのをやめていたんですけど、そうやって人の顔色をうかがって進んでいくのに凄く疲れて...。

 今の時代って、人に言えないことがダメみたいな風習がたくさんあると思うけど別にダメじゃなくて、それぞれの正義感があって生きて進んでいるわけで、それを自分で否定するようなことはしたくないし、そういう音楽をしたくないと思って、「化かし合いは嫌だ」という意味と「建て前上、隠さなきゃね」という意味も込めてつけたタイトルでした。

――人というところが大きかった?

岩淵紗貴 私の中でコミュニケーションは凄く大事です。人が嫌いでもないし、だからこそ付き合う人は選ばなきゃと思って生きてきているので。でも、周りの人が驚くことが今までたくさんあったので言うのをやめていたんですけど、最近は怖いものがなくなってきたのでいいやと思って(笑)。

――周りから「最近変わったね」と言われることも?

岩淵紗貴 あまり変わったとは言われないですけど、私4年間ひきこもりだったんです。もともと音楽を始めたのも、自分の言葉で伝えられないから歌詞や曲を書き始めたというのがきっかけで。そこから、これじゃ世の中生きていけないよなと、コミュニケーションをとって伝えないと人には気持ちは伝わらないなと思い始めて元気になりました(笑)。

――本作で特にお気に入りの曲やこだわった点は?

汐碇真也 1曲挙げるとしたら「蜂蜜ピザ」が好きです。けっこうギリギリに出来た曲で、いいバラードが出来ないからと作り直して出来た曲なんです。次の日にレコーディングでバタバタの中で録ったんですけど、完成したものを聴いてみるとその時の想いも演奏に乗せられている感じがあって凄くいいなと。

冨田味我

汐碇真也

岩淵紗貴 1日で4曲くらい作ってほとんどボツにしたよね?

一瀬貴之 前日の夜中くらいから作って次の日ちょっと寝てまた作って、夜中に窓をずっと開けっ放しにしてやっていたから警察が来ちゃいまして。それくらい作業に没頭していました。

岩淵紗貴 いいかも、と思っていたメロディが結局ボツになったり…。なんとなく曲が弱いな、みたいなものがあって。

一瀬貴之 3パターンくらい出したよね。

――岩淵さんのお気に入りや新たな一面を出した、という曲は?

岩淵紗貴 「以心伝心ディストーション」です。「化かし愛のうた」もそうなんですけど、MOSHIMOの軸みたいなものを作ってくれた1曲で、陰の支える人みたいな楽曲だと思うので、私の中で思い入れのある1曲になりました。東京に出てきて色々あったなと思いながら作った曲で、歌詞は色々あったこと、私は好きな人とケンカがあまりできなくて、自分の気持ちが伝えられなくて逃げたりもしたけど、やっぱり会うとドキドキするし好きだ、みたいな感情をストレートに書くことができました。

 でも、もうこれは終わらせないと何もいいことがないと自分でも客観的に見てわかっているんですけど、好きという感情は理屈じゃないなと思いながら作った歌です。それを元気に歌いたい、この曲のような恋をしている人もいると思うので、そういう人に響いてくれたらいいなと思います。

――高島さんが気に入っている曲やこだわりの点は?

高島一航 僕は「断捨離NIGHT」が特に気に入っています。リード曲をどれにしようという話をしていた時に、僕は密かにこの曲を推していたんですけど。

一瀬貴之 言ってよ(笑)。

高島一航 自分の感覚が一般的なところと逸脱しているという自覚があるので推さなかったんですけど(笑)。Bメロの<4年半付き合った感情>というところからの歌詞が凄く言葉の表現としていいなというのと、<ベッドに>というところでボーカルがちょっと裏返るんですけど、その歌いかたがハマッていて「めっちゃいいじゃん」と。あと、サビのギターのフレーズです。ギリギリのメロディラインというか、それがあるとないとではエモーショナル感が全然違うと思っていて、そのギターのフレーズが凄く好きということもあり、「断捨離 NIGHT」は俺の中のリード曲です。

冨田味我

高島一航

――一瀬さんは?

一瀬貴之 「飛んで火に入る夏の虫」です。恋愛ソングが多いんですけど、この曲はそう言った感じではない曲です。イントロのベースは真也さんがもともと別の曲で作ったものがあって、それを使って曲を作りました。僕は格好いいベースの曲が好きということもあり、これがお気に入りです。

――イントロのベース格好いいです! ちなみに今作での新たなチャレンジとしては?

一瀬貴之 今までやってきたことをわりと全部取り入れていて、それこそ「青いサイダー」や「神様ちょっと」は、前身バンドCHEESE CAKE時代によくやっていたようなテイストの曲だったり。MOSHIMOになって「飛んで火に入る夏の虫」や「蜂蜜ピザ」みたいな曲を入れてみたりとか、今までのことを全部さらいつつ、今のメンバーでブラッシュアップしていくことは新しい挑戦でした。

自分にない目線を持っている人の視野にダイブできるか

――ラブソングが多い印象を受けましたが、ラブソングにこだわる理由としては?

岩淵紗貴 単純に恋愛を通して学ぶ事が多いから好きなんです。特に人と話すと自分にない価値観だったり、絶対自分じゃ付き合わないぞというタイプと付き合ってたりするから面白くて(笑)。「そこに惹かれるの? 私は絶対無理だわ」と思うけど、それを聞くのが面白いし、どうやったら自分にない目線を持っている人の視野にダイブできるかなと考えたり。自分じゃなかなか経験できないだろうし、でもその世界が見たくて。

――「3年前に別れた彼はどっかの誰かと結婚したらしい。 何とも言えない何とも言えない何とも言えない敗北感の歌」は人から聞いたエピソードを描いたもの?

岩淵紗貴 半々です。SNSを見て嫉妬している人って多いじゃないですか? 例えば前の恋人が結婚して幸せそうだった、みたいな。嫉妬でもない、でも人のハッピーだからそれを皮肉というのはどうなんだろうと、自分の中でみんな葛藤しているんですよね。それが悶々とするし、嫉妬に変わるというのがあって。人の幸せを見るのは嫌でもないんですよね。そんな気持ちを持っている自分も格好悪いし、でも言いたいけど本当は言えないし、みたいな。そんなのがあるんだろうなと思って書いた曲です。

――それにしてもタイトル長いですよね(笑)。

岩淵紗貴 タイトルをどうするとなって、テーマになっている敗北感の歌というよりもわかりやすいかなと思って。曲の尺が1分と短くてタイトルが一番長いというギャップのある曲に、なりました。

――最後に収録されている「調子どう?」なのですが、これはファンの方に向けた曲?

一瀬貴之 そうです。ツアーを久しぶりにやる時にムービーを作って、その時に「みんな最近どうしているんだろう?」と思ってその場で書いた楽曲なんです。せっかくだからフルで作りたいねとなって、ファンへ向けて「最近どうしているかな」という気持ちで作りました。

岩淵紗貴 ライブでもなかなか会えないし、リリースも1年半近くなかったんです。だから音源もなかなか出せていなかったし、「MOSHIMOなにやってんの?」みたいな空気感があったと思うし、だからこそ、色々お互い困難や人生の分岐点にいると思うけど「楽しんで進んで行きたいね」、「みんな元気してる? 私は元気だよ」みたいなメッセージソングにしたいなと。

――アルバムの曲順はいかがでした?

一瀬貴之 そんなに悩まずにできました。

岩淵紗貴 「調子どう?」がラストなのは決まっていて。今はサブスクで聴いてくれる人が多いので、最初のほうにMOSHIMOらしさが一番詰まっている曲をもってきて、そのあとに遊びじゃないですけど「こんな表情もするんだ、こんなところもあるんだ」みたいなのを出せるように選んだよね?

――みなさんの意見も反映されている?

高島一航 僕自身のこだわりはなかったんです。というのもMOSHIMOのダルマがあったとして、そこに目を入れるという行為は、岩淵の歌詞、言葉、世界観なので、彼女の考えかたが反映されるほうが正解だと思っていて。曲順に関してはノータッチでいこうと。

汐碇真也 僕は最初と最後がキッチリ決まっていればいいなと。最初に出してもらった段階で最初と最後の曲が固定で決まっていたので中はお任せしようかなと。

――さて、MOSHIMOはこれからどんな姿をファンの方に届けていきたいですか。

岩淵紗貴 みんなが応援してくれたおかげでメジャーデビューという大きなものが決まりました。変わらない軸は持って次の制作にも入りたいです。うまく自分のやりたいことや、今本当に思っていること、苦楽を共にできる音楽を作っていきたい、葛藤だったり、苦しいこともあるけど「頑張って笑顔でつき進もうぜ! 細かいこと気にすんな!」みたいな、そんなライブと音楽を作っていきたいです。あとは、もうそろそろハッピーな恋愛ソングを書きたいです(笑)。

(おわり)

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