Maison book girlが16日、ヒューリックホール東京でワンマンライブ「Solitude Hotel 6F yume」を開催。11月21日に発売した最新アルバム『yume』の楽曲を中心にステージを展開。冒頭から最後を繋ぐようなセットリストで幻想的な世界観を見せた。11月25日に東京・日本橋三井ホールでおこなった2部制のワンマン公演「Solitude Hotel 6F hiru」と「Solitude Hotel 6F yoru」から続くコンセプトの演出で観客を魅了した。【取材=長澤智典】

夢の世界

コショージメグミ(写真=稲垣謙一)

 夢とは不思議なものである。馴染み深い人から、意外性を持った人物、面識はあるが、そこまで交遊は持ってない人たちまでもが、繋がっているようで支離滅裂な夢の中という物語に登場しては、不可思議な出来事を描いていく。その出来事が印象深いほど、目が覚めた瞬間、その夢の景色が頭の中へ残像として色濃く残っている。

 大概の夢は、理屈や常識をどこか逸脱した歪な物語を成している。枠に縛られないその自由さが、夢に惹かれる理由なのかも知れない。あなたは、どうだろうか?

 この日の舞台には、前回に観た夕焼け空の背景と、2つの赤いベッドが据えられていた。暗くなった場内。ここは、お馴染み“Solitude Hotel”の6階にある「yume」と名付けられた部屋の中。

 「fMRI_TEST #3」と題したノイズ音に導かれ、部屋の扉が開くと同時に、白い寝間着姿の4人の女性たちが、ゆっくりと中へ入り、二手に分かれ、ベッドで眠りについた。

 やがて打鍵するように流れだした「夢」の音に刺激され目を覚ました4人は、ベッドの上から這い上がるように部屋の中央へ。いや、これもまた彼女たちが見ている夢の中の風景なのかも知れない。夢を重ねるように見る、新たな夢。夢と現実が交錯しているような、夢の世界。これまでに描いてきた物語も、そして今も、4人はまだ夢の途中と語るように、優しく戯れるよう穏やかな声で「夢」を歌い紡いでいた。

 ふたたび舞台は暗転した世界へ。朝を告げるような小鳥の囀り。窓は、たくさんの水滴で埋めつくされていた。ポツポツと滴る水の音。そんな雨の朝の風景を切り取るように響くシャッター音。「ELUDE」を通した音の情景が、夜が明けたことを、夢の中で微睡む4人に伝えていく。

 黒い衣装姿に着替えた4人は、蒼い色が支配した世界へ足を踏み入れた。弦楽の響きに合わせ流れだしたのが、「レインコートと首の無い鳥」。4人は演奏に合わせ、舞台の上をゆったりと舞う。その背景には、蒼く染まった雨が透明な水を浸食してゆく様が映し出されていた。その色は、いくつもの色を重ねながら、どんどん黒く濁していく。それは、人の心も黒く浸食し、聡明さを濁していくというメッセージ。

 振りしきる雨、水滴だらけのガラスの奥に映し出されたのは、人物を描いた絵画…それとも写真? 「YUME」の演奏が、強い水滴を打ちつけるように心を濡らしていった。そして…。

 降り注ぐ雨の音に導かれ、夢の中で溺れた4人は、そんな濁った風景の中でさえ楽しく微睡むように「おかえりさよなら」を歌いだした。歌の中の住人となり、無邪気に戯れる4人。その歌声と演奏は、触れた人たちの心へ、雨上がりの晴れた景色さえも映し出していくようだった。

繰り返す夢

Maison book girl(写真=稲垣謙一)

 仄かな明かりのような「GOOD NIGHT」の調べに乗せ、幻灯機を用い、両手を使い影絵遊びに興じるメンバーたち。スクリーンには影絵や、モノクロのネガフィルムなどが映し出されていく。その風景や音楽は、次第に夢という時空を歪ませ、いろんな時の流れの扉を繋ぎあわせていった。

 舞台上には、夏の終わりの景色を思い返すように「不思議な風船」を朗読する4人の姿があった。それもまた夢の中の一つの風景。彼女たちが語る少女の物語は、時空を歪ませた中から見えてきた、それぞれの幼少期の姿。それとも…4人は淡々と語り続ける。少女と風船にまつわる不思議な物語を。

 流れだした「fMRT_TEST #1」と「fMRT_TEST #2」と題したノイズ音。その音の続きを成したのが…青い闇の中へ、雷鳴にも似た姿を持って幾筋もの光が射し込んでいく。4人は、心を軽やかに弾ませながら「言選り」を歌いだした。光を抱いたメンバーたちの歌声とは裏腹に、舞台にはどんどん黒が、闇が浸食し続けていく。いつしか4人は、黒い夢の世界へ閉じ込められてしまう。

 開く扉。その向こうには赤い光の世界が広がっていた。背景に映し出されていた白い壁も、「SIX」の音色に合わせ、心を浸食されるよう赤い色に染め上げられていく。

 流れだしたのは、「狭い物語」。背景には雄大な景観が広がるが、でも、彼女たちは赤いベッドが2つあるだけの狭い「yume」という部屋に閉じ込められていた。その世界から外へ飛びだそうと、心だけでもこの空間から解き放とうと、4人は「狭い物語」を憂いを持った声で歌い続ける。

 刺々しい音の響く「MOVE」が描き出したのは、モノクロな世界。そんな白黒な世界へ色を与えるように、4人は「ボーイミーツガール」を歌いだした。軽快に弾む演奏と歌声、彼女たちが歌を通して見ていたのは、少女時代の自分たちの姿。青春という眩しい輝きを人生の制服として身につけていた時代の、在りし日の姿。過去と現在がパラレルしていく、それもまた素敵でノスタルジックな夢の世界だ。

 優しく、少し乱れるように鳴り響く鉄琴の音の上で、4人が優しく歌をハミングしていた。「PAST」が告げたまどろみの風景。やがて演奏は、「rooms」へ。狭い部屋の中でさえ自由を謳歌するように、一気にテンションを上げ歌い騒ぐメンバーたち。これもまた、彼女たちが見ている夢の途中の景色。解放されたい気持ちと幽閉された心情が錯綜しながら、4人の神経を「rooms」が明るく狂わせていった。

 じんわりと流れるピアノの音色、メンバーそれぞれにマイクをリレーしながら「MORE PAST」を歌いだす。その歌声は過去を慈しむように、懐かしさを愛おしむように、消えゆく記憶を名残惜しむようにも耳に響いていた。

 ふたたび4人は、「十六歳」を歌いながら軽やかに舞い踊りだした。少女特有の閉塞感と無邪気な自由さを両手に抱えながら、雨の中でさえ無邪気にはしゃぐ明るさと解放感を持って、4人は歌うことを謳歌していた。それはまるで、悲しい気持ちさえ無垢な笑顔に変えるようだった…。

  通りすぎる電車の音が鳴り響く。それは突如目の前を覆った「NIGHTMARE」。やがて4人は、みずからの心を偽るように、作り笑いを浮かべながら「影の電車」を歌いだした。<笑って 笑って>と響く歌声が、悲しい痛みを持って胸に突き刺さる。それはまるで、青春の蹉跌のようだ。

 ふたたび物語は、冒頭を飾った「fMRI_TEST #3」へ。4人は、またもベッドへ潜りだす。そして流れだしたのが、「夢」。ベッドから起き上がった4人は、夢の中、ふたたび描き出された夢の風景を楽しむように、<ゆめ おきて まだゆめの途中>と微睡むような優しい声で「夢」を歌っていた。

 舞台上で歌いながらはしゃぐ4人。その姿は強制的に幕を閉める形で閉じ、夢を目撃していた我々は、現実の世界へと戻された。

 この夢は覚めることはない。延々と何度も繰り返される。覚めない夢だからこそ…つねに夢の途中にいることで、きっと彼女たちは無垢な姿のまま、これからもいろんな色に染まり続けるのだろう。そして、ふたたび無垢な色を取り戻しては、またも染まってと、終わらない夢の中で過ごしていくのかも知れない。

 4人の夢に紛れ込んだ人たちを素敵な夢の住人として招き入れては、それぞれの心の中にいろんな夢の種を植え、最後に会場の明かりを灯しては、現実の中へ送り出していくことを、彼女たちは繰り返し続けていく。

VJ / レーザー / 特殊効果 / 演出:huez
リキッドライティング / OHP:ハラタアツシ
写真:稲垣謙一

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