KIRINJI、新レーベル「syncokin」から届けるニューアルバムの意義
INTERVIEW

堀込高樹

新レーベル「syncokin」から届けるニューアルバムの意義


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:23年09月28日

読了時間:約11分

 KIRINJIが、新レーベル「syncokin」第一弾となる オリジナル・アルバム『Steppin’ Out』(9月6日発売)をリリースした。レーベル名の『syncokin』は、新古今和歌集から取り、堀込高樹が命名。 “刺激的で浪漫的な新旧様々な音楽”を幅広く取り入れ、今の KIRINJI が発信する。その第一弾アルバム『Steppin’ Out』は、昨年6月に配信された「Rainy Runway」、ドラマ「かしましめし」主題歌の「nestling」に新曲7曲を加えた全9曲入り。 アルバム全体を通して、これまで以上にポジティブなワードが散りばめられた歌詞の世界観と生楽器を随所に取り入れたサウンドが印象的な1枚になっている。インタビューでは、新レーベル「syncokin」を立ち上げた理由、ニューアルバム『Steppin’ Out』の制作背景について堀込高樹に話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

自分でコントロールしたい

村上順一

堀込高樹

――ニューアルバムは新レーベル「syncokin」からのリリースですが、どのような経緯で作られたレーベルなのでしょうか。

 作品を自分でコントロールすれば常にNo1プライオリティですし、KIRINJIぐらいの規模であればインディーズでもできるんじゃないかというのもありました。小さいレーベルであれば、作った曲をすぐにリリースすることもできるんじゃないかと。

――ホットな状態ですぐ届けられるといったメリットがあります。

 サブスクリプションが中心になっているいまの時代と合っているのかなと思って。また、パッケージも自分たちでコントロールしたいなと思って。それで今回は紙ジャケにしたり、凝った限定盤を作ったというのもそういうところからです。

――CDはファングッズになったと言っている人もいたり。

 最近よく聞きますよね。それもあってグッズとして嬉しいもの、楽しいものにしたいというのもあります。

――「syncokin」というネーミングはすごく考えられたとお聞きしています。

 「シンコキン」という音自体はパッと出てきました。シンプルに響きがいいなと思って。ただ、「syncokin」の意味合いと表記に関しては考えました。今の時代に生きる今の人々の生活にフィットする音楽を作りたいという気持ちと合う名前になりました。

――新しい音楽も古い音楽も取り込んで、今の音楽として響かせようという意味は、今の堀込さんのマインドをすごく反映しているなと思いました。今のところKIRINJIさんのみのレーベルですが、今後アーティストが増えていく予定もあるのでしょうか。

 まだ考えていないのですが。その場合、やっぱり僕が関わった方がいいんですかね?

――関わっていただけた方がうれしいです!

 それは責任が重いなあ(笑)。

――楽曲提供もされているので、その延長線上でいけるのかなと勝手に思っていたのですが...。

 KIRINJIのレーベル「syncokin」から出るとなると、KIRINJIという名前が必要になってくるし、そのアーティストにとってそれがいいのか、悪いのかみたいなこともあると思います。KIRINJIが好きな人、おそらくそういう層に向けた音楽になっていくと思うので、そこに向けてやるのもどうかなと思うところもあったり。レーベルカラーみたいなものはできると思いますが、KIRINJIのお客さんが聴くみたいなカタチには、いまのところしない方がいいかなと思っています。当分はライブ盤とか僕の音源をリリースすることになるんじゃないかな。

――さて、ニューアルバムのジャケ写がすごく興味深いのですが、どのようなイメージを投影させたのでしょうか。

『Steppin’ Out』ジャケ写

 これはデザイナーの大島依提亜さんから紹介していただいたみっちぇさんというイラストレーターの方の既存作品に、新たに人物を描きこんでいただきました。大自然がバックですけど、幾何学的、人工的な感じのスケール感の大きな風景を描かれる方です。ジャケ写では見えていないけど、横にも続きがあります。

――それは見られないんですか?

 通常盤の歌詞カードが折りたたみ式なんですけど、それを開くと、ジャケ写の全景がわかるようになっています。

――すごく神秘的で惹きつけられるものがありました。今回のアルバムのテーマにも合っているのかなと。

 そうなんですよね。荒野に踏み出した的な感じがある。

――本作全体から堀込さんのボーカルにかける思いを感じました。

 それは良かったです。弾き語りのツアーから積極的に自分の歌に取り組んでいました。ここ最近は歌をちゃんと歌おうと心がけていて、レコーディングもこれだったらOK候補になるなと、そこにたどり着くまでの時間が今回は早くて、割といいテイクがたくさん録れたんです。いろいろ試行錯誤できる幅が広がった気がしています。おそらく歌い慣れてきたってことですけど。

――堀込さん、ボイストレーニングをされた経験は?

 去年の1月くらいかな? ちょっとやってみようかなと思ってボイトレにいきました。鼻から息が抜けているから、鼻をつまんで発声したり、アタックのある声を出す方法、舌の使い方など、基礎的なことをしばらくやっていました。そうこうしているうちに忙しくなってしまい、レッスンにいけなくなってしまって。

――「Runner’s High」はそのアタック感がすごく出ていると思いました。

 その時に習ったことを弾き語りのライブですぐに試せたので、それが良かったのかなと思います。

――堀込さんの中で、歌に注目してもらいたい曲を挙げるとすれば?

 まずは「Runner’s High」はしっかり歌えたので、聴いてみてほしいかな。今までに近いスタイルだと「指先ひとつで」は表情がよく出たなと思っています。

――「指先ひとつで」は、フィンガースナップの動作につながる冒頭の歌詞がすごく印象的でした。

 曲自体がフィンガースナップで始まってますからね。

――音と言葉のリンク具合も聞きどころですよね?

 「Runner’s High」の最後は朝の風景なのですが、そこで聞こえる鳥の声は、2曲目の「nestling」=雛鳥にかかっていたりします。

――「Runner’s High」は1曲目にすごく相応しいと思いました。このアルバムを体現していると言いますか、そういった感覚があります。

 アルバムを作るにあたり、割と早い段階でできた曲でした。はじめは生のリズムセクションで、ベースも誰かに弾いてもらおうと考えていたのですが、作り込んでいくうちに生じゃなくてシンベの方が面白いかもと思いました。

 イントロがちょっとエレクトロな感じですが、曲が進んでいくとこれソウルっぽい曲だったんだ、というのが新鮮で面白いかもと思って。後半のファンクセクションは始めはなかったのですが、エレクトロのアルペジオが後半も続いてもいいなと思い、このカタチに落ち着きました。

――それで6分43秒という長さになって。

 イントロも割と長いじゃないですか。このイントロに対応させようと思うと、アウトロも長くしないと全体のバランスとしてあんまりだなと思って。また、歌詞がなかなか思いつかなかった。この構成に準ずる歌詞は何かなと考えたとき、ジムにあるランニングマシンを思い出しました。最初は4kmぐらいのスピードで歩き出して 6km、8km、10kmと徐々にスピードを上げていくんですけど、この感じがこの曲の盛り上がりに相似しているなと。とはいえ、僕はランナーズハイになったことはないんですけど。

――なかなかなれることではないですよね。

 そこまでいかなくても運動して気持ちが高ぶっていつも以上に喋るとか、そんなに面白くないギャグでも笑ってしまうみたいな感覚、気持ちや肉体がすごく高ぶってる感じを歌にしてみたら面白いかもと思い書いてみました。

SE SO NEONには奥行きがある

村上順一

堀込高樹

――4曲目の「説得」はご自身に言い聞かせている歌詞ですか?

 そうかもしれない。たとえば何か依頼が来ると面倒くさいと思うことって往々にしてあるじゃないですか?

――あります(笑)。

 ありがたいけど面倒くさい、できれば断りたいみたいな気持ちもあったり。とはいえ、こういう人って実際多いだろうなと思って。だから誰かが背中を押してくれたらいいのにみたいな内容の歌詞になっています。

――面倒くさいと思いながらも結局やりますよね?

 そうそう。文句言いながらやります。だったら初めから気持ちよくやればいいのにと思うわけです(笑)。

――あはは。さて、「ほのめかし feat. SE SO NEON」は、韓国のSE SO NEONとのコラボ曲です。コラボすることになった経緯はどのようなものだったのでしょうか。

 SE SO NEONの曲は昔から聴いていて、僕がパーソナリティを務めているラジオ番組の『NEW MUSIC, NEW LIFE』(α-STATION FM京都)でもSE SO NEONの曲をよくかけていました。お世話になっているプロモーターの方がSE SO NEONにも携わっていて。その方と昨年末に「いつか対バンでもできたらいいですね」と話したのが最初でした。今年の3月にSE SO NEONと直接話す機会があって、その時にこの曲に彼女のボーカルが乗ったらかっこいいかなと思ったんです。それで、持ちかけてみたらOKが出て、参加してもらうことになりました。

――SE SO NEONのどのようなところが魅力だと思ますか。

 今回、ギターは弾いてもらってないんですけど、ライブ映像を見て思ったのはギターがすごい。ロック魂が溢れていて、僕が好きな感じのロックでした。そうこうしてるうちに彼女がソロ曲を出しまして、それはボーカルに徹していました。SE SO NEONとは違うタイプの曲もやっていて、いろいろなジャンルの音楽に興味があることが伝わってきて、単にギターを弾いて歌う女性というだけではなく、とても奥行きがあっていいなと思いました。

――リモートでのやり取りだったと思うのですが、最初に彼女が歌った音源を聴いた時はいかがでした?

 彼女はデモと本チャンの歌の差があまりない方でした。なので、収録した音源は、デモと本チャンのテイクが混ざっています。

――リクエストは特にされてないんですか?

 2番のヴァースのメロディーは、「やりたいようにやってください」と伝えて彼女に考えてもらいました。歌詞に関しては、僕のパートはできていたので、そこから連想するものをということを伝えて、最初は韓国語でお願いしたのですが、日本語も混ぜてくれました。<既読スルーしないで>というのがそれなのですが、そんな言葉知っているんだって(笑)。

近年稀に見る危うさ

村上順一

堀込高樹

――すごいですね! さて、「seven/four」はタイトルからもわかりますが7拍子のインスト曲です。7拍子は 4/4+3/4 の組み合わせ、3/4+4/4 の組み合わせで 7 拍子という捉え方をされることが多いと思うのですが、それを感じさせない流れだなと思いました。

 僕はあまり深くは考えていないのですが、メロディーによっては4/4+3/4という形のところもあれば、3/4+4/4 のところもあるような気がしています。メロディーの流れに従っていたので、どこで区切るとかあまり考えていなかったかもしれない。

――タイトルはストレートですよね。

 インストはタイトルをつけるのが難しいんですよ。リスナーに余計な情報は与えたくないなと思いシンプルにつけました。

――この曲をここに挟んだ意図、どのような効果を狙われているんですか?

 「ほのめかし」がエレクトロニクス中心のサウンドで、「I □ 歌舞伎町」(※□は白抜きハートマークがホーンセクションが入っていたりして、並べると落差が大きいなと思いました。音響的、編成的に繋がるもの 、それを繋ぐための曲が必要だと思いました。

――インタールードですね。

 そうそう。とはいっても2分40秒くらいありますけど。昔で言ったら音響派とか今だとBADBADNOTGOODとか最近のジャズの音像に近いかな。そういうコンテンポラリーなものを目指して作りました。

――続いての「I □ 歌舞伎町」は歌舞伎町を舞台にしようと思ったのはどのような経緯があったのでしょうか。

 もともとはトー横キッズから着想をえました。それは近年稀に見る危うさといいますか。そこに集まる男性というのも実は寂しい人たちだったりするんだろうなと思いました。世の中に出るタイミングが就職氷河期と重なってしまい、そこからうまくいっていないという人は、僕の世代からちょっと下くらいにたくさんいると思います。2 番の歌詞は男性の視点に移るんですけど、1 つの風景の中に若い女の子とおじさんがいる感じになっています。

――なぜこのタイトルにされたんですか?

 歌舞伎町に行くとわかるのですが、「I □ 歌舞伎町」と書かれた看板がドーンとあって、それが割と映えスポットみたいになっているみたいで。ちょうどトー横キッズが集まっているところからすぐ見えるんですけど、すごく象徴的だなと思ったので、このタイトルにしました。

――考えさせられますよね。

 あそこにいる子ども達ってちょうど僕の子どもと世代が同じなので、他人事でもないかなと。それこそ子どもたちの同級生があそこに混ざっていてもおかしくないですから。

――さて、「不恰好な星座」は人が亡くなられたことが感じる歌詞ですが、どなたに向けて書かれたのでしょうか。

 ちょうどアルバムを作っているときに、高橋幸宏さん、坂本龍一さん、バート・バカラックなどたくさんのミュージシャンが亡くなられて。僕が憧れていた人が亡くなっていく。その想いを歌にしようと歌詞を書き始めました。自分が見上げていた人たち、それを星に見立てて、一つひとつその星たちが消えていく。それはすごく寂しいなと思うけど、いま生きている人はその星が消えた星座を見ながら、そこにまた美しさを見出していくといった曲になりました。

――曲調も印象的です。

 こういった内容の曲はミドルチューンやバラードになりがちなのですが、個人的にそれは良くないなと思ったので、ちょっとアフロ・ファンクみたいなリズムが立ったものにしようと思いました。リズム隊は千ヶ崎(学)くんとGOTOくんで録ったのですが、普通の生演奏という感じになってしまったなと思い、ドラムは生かしたのですが、ベースはほとんどが打ち込みになりました。

――そういえば、限定盤にはこのアルバムのデモ曲とInstrumentalが収録されていて、新しい試みですよね?

  限定盤を今回作ったのですが、パッケージとしての面白さ、楽しさにこだわったものも作りたいなと思って。デモ盤は今まで出したことはなかったし、Instrumentalと3 枚組というのもいいなと思いました。デモを聴いてから本チャンを聴くのも面白いと思うので、いろいろ楽しんでもらえたら嬉しいです。

(おわり)

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