ISEKI「キマグレンの延長線上にいたい」デビュー15年いま思うこととは
INTERVIEW

ISEKI

「キマグレンの延長線上にいたい」デビュー15年いま思うこととは


記者:村上順一

撮影:

掲載:22年10月29日

読了時間:約9分

 元キマグレンのISEKIが、来年デビュー15周年を迎える。2008年2月に「あえないウタ」でメジャーデビューし、同年リリースした「LIFE」が大ヒット。『第59回NHK紅白歌合戦』にも出演し一躍時の人に。人気を博しながらも2015年に解散を発表し、活動の幕を閉じた。翌年ISEKIはソロアーティストとして活動を再開。並行してキマグレン時代から行っていたイベントブッキングの業務も行なっている。アーティスト、ミュージシャンという地の利を活かしたブッキングで、他のイベントでは見れないようなアーティストたちのライブを展開し、イベンターとしての才能も発揮している。インタビューでは、会社経営者という側面を持つISEKIが、今どのような考えで活動を続けているのか、15周年を目前にキマグレンのサウンドを改めて掘り起こすと語るISEKIに話を聞いた。【取材=村上順一】

好きなことをやれる環境ができてきた

ISEKI

――デビューから間も無く15年、キマグレンでデビューされてソロ活動、さらにイベンターとしての一面もありますが、どのような経緯があったのでしょうか。

 いろんな人の力を借りて、一番上まで押し上げていただいて、キマグレンは解散しました。結成する前は、海の家や会社をクレイ(勇輝)と2人で経営しながら同時進行でアーティスト活動も行なっていて、ソロになって音楽だけでは食べていけないと思った瞬間があって、そこから変わっていきました。

 自分ができることは何だろう? と考えた時に、イベント企画をずっとやってきていたので、その会社を大きくして力をつけていこうと思いました。なので、近年はアーティスト活動ではなくイベント企画の方に9割くらい時間を割いています。今いろんなところからお仕事をいただけるようになって、それがアーティスト活動にも波及してきました。ここから音楽活動が主流になっていくのも良いですし、別の事業にいくのもありかなと思ったり。でも、音楽を続けたいというのが核にはあります。

――音楽を続けるための会社なんですね。

 そうです。趣味でもいいから音楽を続けようと思ったんです。そこまでいかないと続けられないなと思いました。

――クラウドファンディングの存在も大きかったとお聞きしています。

 アーティストとしてお金を作り出すのが難しかったので、クラウドファンディングをやってみました。僕が始めた時はまだそこまで主流ではなかったので、どうなんだろう? と半信半疑でしたが、迷っている場合でもなくて、アーティスト活動を行うことが重要だと思い、やってみたら、いろんな方に支援していただいてインディーズ盤を制作することができました。そこから新たな人と繋がることができ、好きなことをやれる環境ができてきました。自分がやりたくないことはやらなくてもよくなりました。

――理想ですね。今、NFT(非代替性トークン)も注目されていますが、ISEKIさんはどんな印象を持たれていますか。

 音楽に関しては著作権の関係もあるので、まだ時間がかかると思っています。でも、NFTを使って新しいアイデアを出す人が絶対出てくるんです。それもあっていま勉強をしておいた方がいいなと思っています。そして、それをさらにアップグレードしたサービスも出てくると思うので、NFTを今から勉強しておかないと、それにも対応できないと思っています。

――デジタルのサービスが進化してきて、置いていかれる人も出てきますよね。

 僕らの世代はけっこう厳しい人多いと思いますよ。音楽一本で食べていける人は本当に一握りです。僕もそれをやりたかったけどできなかったので、色々やっているんですけど、トップアーティストの方達はそれをチームで出来るので、デジタルでも多角的に見せられると思います。

――もし、ISEKIさんが今20代でゼロから音楽活動を始めたとしたら、どんなやり方をされますか。

 20代かあ。たぶん音楽やりながらバイトしてるんじゃないかな。ただ、ライブハウスとかに出演して見つけてもらおうという感じではないと思います。それって受け身だと思うんです。今の子たちは自分から発信している人が多いので、チャンスも多いんじゃないかなと思っています。なので、僕もTikTokとか色んなものに挑戦していたと思います。でも、20歳の頃の自分だと自らそういう気持ちにならないと思うので、一緒にいたクレイが「やろうぜ」と言ってくれていたと思います。僕は彼から行動することや前を向くということを教わってきたので。

15周年に向けてキマグレンのサウンドを掘り起こす

ISEKI

――色んなプラットフォームがあって選択するセンスというのも問われている時代だと思います。それには自分のことをよく知らなければいけないなと感じているのですが、ISEKIさんは自分を知るためにやったことはありますか。

 僕はビジネスや哲学、心理学の本を読むのが好きなんです。30代になってソロになり、今の自分に需要があるものは何だろうというのを一番考えました。その中でイベントのことだったり相談に乗ることが多かったんです。例えば白馬を盛り上げたい、音楽フェスをやりたいといった相談を受けて『HAKUBA ヤッホー! FESTIVAL』を立ち上げたり。その時にこの人たちに求められているのだったら、それを一生懸命やってみようと思いました。

 ほとんどの人は音楽をやった方がいいと言っていた中で、「ISEKIはイベントのブッキングとかをやった方がいい」と、2人だけ言ってくれたんですよ。そこから僕はすごくイベントブッキングを意識するようになりました。そこから実績もできて、自分の音楽活動にも経費を回せるようになりました。でも、自分の音楽活動に関しては赤字でもいいと思っています。自分のお小遣いで会場を借りたり、もう趣味ですよね(笑)。

――そういうスタンスになっていったんですね。

 そこと向き合うのは時間がかかりました。音楽は自分がずっとやってきたことで、いけてるなと感じる瞬間もあったんです。でも、若い人たちが出てきて、自分ができると思っていても、「あれ、ダメかも」と思う時もあるじゃないですか。もう音楽を辞めたいと何度も思いました。そこでメンタルをやられてしまうよりは、違うことを始めて新しいことをやり続けるしかないと思いました。

――音楽も続けながらブッキングもやる原動力は「好きだから」というのが強いですか。

 そうですね。イベントを立ち上げて、ブッキングが成功すると達成感はあります。一種の博打みたいなものなんです。自分が好きなアーティストにオファーして、組んでいくのはすごく楽しいんです。でも、お客さんが10人くらいしかいないとしても、自分がステージに立って歌うライブが恋しくなってきます。やっぱり歌が好きなんでしょうね、パソコンを打ちながら、自分が歌が好きだということに気づくんです。そこからモチベーションが上がって曲を作ったりして。

――15周年、ここから音楽活動も活発になっていきそうですか。

 いま考えているのは音楽活動と企業経営者は切り分けないといけないなと思っています。経営者の仕事が増えすぎてしまって、音楽に割ける時間がほとんどなくて。なので、今は仲間に窓口になってもらったりしているのですが、テレビ出演をした時もスムーズだったので、誰かにお願いするのもすごく大事だなと思いました。そこは任せて僕は音楽制作やライブに頭をもっていこうと思っています。

 今、少しずつ制作もしていて、来年15周年に向けてキマグレンのサウンドを掘り起こそうかなと考えていて、「LIFE」を一緒に作ったGIRA MUNDO(ジーラムンド)と作っています。そして、プロデュースしていただいていたシライシ紗トリさんにもお願いしたいなと思っています。キマグレンのプロデューサーだった森田(和幸)さんともいつかまた一緒にやりたいなと。海、夏、キマグレンという自分の音楽のルーツを辿りたいと思っています。キマグレンというとクレイとISEKIというイメージもあったので、避けてた部分もあったんですけど、15周年だし僕がキマグレンに育ててもらったというのもあるので、その延長線上に自分がいたいと思いました。

――キマグレンのサウンドが現代に蘇るのが楽しみです。

 人は10代から20代くらいまでにかけて聴いた音楽が最高だと感じる研究結果も出ていますが、40代、50代で大ヒットを出すというのも不可能ではないと僕は思っていて、もちろん確率は低くなってきますけど、まだまだ諦めず頑張りたいと思います。

――ISEKIさんも、もれなく10代に聴いていた音楽は最高で。

 絶対的に『CHAGE and ASKA』という存在がありますね。先日もテレビにASKAさんが出演されていて、やっぱりすごいなと思いました。

――今年は「TORCH」という楽曲もリリースされましたが、今の時代にあった歌詞でグッときますね。

 ありがとうございます。作詞家の方に書いていただいたんです。プロデューサーのシライシさんにも協力して頂いて。共作という形に近いですね。そして今回、「アルペンアウトドアーズ(Alpen Outdoors)」さんとのタイアップが決まりまして、11月後半から来年にかけて展開される予定です。

失敗の先に成功があるというのを実感している

ISEKI

――さて、ISEKIさんは今の音楽シーンはどのように感じていますか。

 すごく面白いと感じています。自由度が高いと言いますか。ミニマムにもできますし、チャンスはすごく多いなと思っていて。ユーチューバー、ボーカロイド、歌い手と呼ばれる人が出てきたり、自分から発信して自分のやり方でやっているじゃないですか。色んな音楽を融合させているし、天才がたくさん出てきてるなと感じています。

 僕自身もプレイヤーではあるのですが、リスナーなんですよ。イベント企画する中でプラットフォームを作りたいというのがあって、そこに色んなアーティストが出てくれたら嬉しいですし、多様性のある今の流れはすごくいいなと。あと、顔出しをしなくても大丈夫というのは、プライベートも守られてアーティストとしては良い時代が来たなと思っています。

――ところで、ISEKIさんはアーティストの方との親交はもちろんですけど、起業家や実業家の方など幅広い人とお話しされていると思います。その中で感銘を受けた言葉などはありますか。

 ありきたりな言葉ではあるのですが、「失敗は成功の素」です。それはやってみてわかったのですが、失敗の先に成功があるというのを実感しています。色んな人に求めていただけるというのは、僕の中で成功なんです。歩いていて「こっちには進めなさそうだな」と道を変えて遠回りしても、最終的にそこにたどり着けるかもしれないので、失敗は失敗ではないと思えるようになりました。とはいえ、まだまだ成功とは言えませんけどね(笑)。

――成功するまでやればそれは失敗ではないとお話ししている方もいました。

 そうなんですよ。ただ僕はすごく弱い人間だなと思っていて、皆さんと同じように落ち込むし、いつも「これでいいんだろうか」と思うんですけど、その時は失敗でもいいと思っています。時間が経った時にあれは失敗ではなかったんだと思えればいいのかなって。

――考え方一つで変わりますよね。さて、12月には3年ぶりとなる『エアトリ presents 毎日がクリスマス 2022』が行われますが、どんなライブになりそうですか。

 「こんなに近くでこのアーティストを観れるの?」という2マン企画を作りたかったんです。過去の例で言うとスキマスイッチとsumikaの2マンを400人くらいのキャパでやりましたが、チケットがすごい倍率でした。あと、座ってみれるというのがこの企画の特色で、横浜の赤レンガ倉庫でクリスマスというシチュエーションもすごくいいんです。今回もプレミアムなステージが目白押しです。僕がいいライブ、いい音楽だなと思うアーティストに出ていただきたいなと思っています。あとは今年5月に開催した『HAKUBA ヤッホー! FESTIVAL』も来年やります。まだブッキング中なんですけど、色々と楽しみにしていただけたらと思っています。

(おわり)

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事