BURNOUT SYNDROMES、変化を感じさせた「花一匁」のMV撮影に密着
INTERVIEW

BURNOUT SYNDROMES、変化を感じさせた「花一匁」のMV撮影に密着


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年02月07日

読了時間:約7分

 スリーピースロックバンドのBURNOUT SYNDROMESが2017年12月某日、都内で、新曲「花一匁(はないちもんめ)」のミュージックビデオ(MV)の撮影に挑んだ。MusicVoiceではその現場を独占取材。撮影を通して新曲に込められた意味を探った。【取材・撮影=村上順一】

 同曲は、テレビアニメ『「銀魂」銀ノ魂篇』のエンディングテーマ。彼らが掲げる「青春文學ロック」が根幹にありつつも新たなステージに立ったと予感させるロックチューンで、2018年2月7日にニューシングル(同名)としてリリースされた。1月26日にはリリースに先行してMVも公開されたばかりだ。

 彼らの楽曲には様々な伏線が引かれていることも魅力の一つで、タイトルにもそのような傾向がある。今回の楽曲に関しては、インパクトのある自分たちらしさを求め、フロントマンでボーカル&ギターの熊谷和海が考えていたところにフッと降りてきた言葉だといい、彼らのプロデューサーである、元SUPERCARのギタリスト・いしわたり淳治も、その言葉のインパクトに一発OKを出したという。

 2ndシングル「ヒカリアレ」でのMVの撮影では校舎の中でバンドシーンを撮ったが、今回は都会のビル群に囲まれた屋上に、楽器や機材を持ち込んで挑んだ。その模様をレポートしながら新曲の魅力に迫ってみたい。

表情からも意識が変わってきている

撮影のもよう

 師走に入り、寒さもより厳しくなったこの頃。撮影がおこなわれたこの日は、冷たい風によって体の芯まで冷え切っていた。正午になり、メンバーは控え室で、撮影のためのメイクや衣装合わせをおこなっていた。その場で何着かフィッティングをおこなう。なかでもニューギターを引っさげて撮影に臨む熊谷は「刀っぽいイメージが『銀魂』にも合うし、新しいギターを買うと良いことが起こるんです」と自身のジンクスを語った。

 実はこの日、撮影で使用はされなかったがベースの石川大裕も新しい楽器を購入し持参していた。Gibsonのサンダーバードがトレードマークだが、購入したのはYAMAHA製。新しいサウンドを追い求めて、今後のレコーディングで活躍すると語っていた。ドラムの廣瀬拓哉は撮影場所となる屋上に行き、一足早くドラムをセッティング。MVの撮影だがライブさながらに真剣にセッティング。「何センチかずれただけでも違和感があります」と妥協なく進める姿が印象的であった。

 MVの撮影とともにこの日はジャケ写、アーティスト写真用の撮影も同時におこなっていった。通称、アー写と呼ばれ様々なシーンで使われる素材で、オフィシャルサイトなど様々なところで使われる。カメラマンとともに何回も撮影してはPCのモニターで表情などを確認する。この間もスタッフと青春文學ロックのイメージなどを考察、熊谷は衣装を2パターンほど試し、赤の差し色が入った衣装を着用。様々なポーズをとりながら撮影は進行していった。

石川大裕

 気温も低く屋上ということもあり寒さが厳しかった。メンバーも撮影の合間には防寒着でしっかり暖をとる。BURNOUT SYNDROMESのデビュー前からアートディレクターを務める、川本拓三氏は写真を通してメンバーの変化をこう語った。

「メンバーも成長の途中で、それが写真からも伝わってきました。青春文學ロックという言葉をあえて出さなくても、彼らからそれが滲み出てきていて、写真の表情からも意識が変わってきているのを感じました」

 続いてはMVのバンドシーンの撮影へ。今回はバンド初の屋外での演奏シーン。メンバーもビル群に囲まれ新鮮さを感じながらの撮影。360度を使いカメラマンが動きながら様々な角度でメンバーを捉える。確認待ちの時に石川がリズムをとりながら動いているのが印象的だった。これから始まる本番への空気感はライブにリンクする緊張感を感じた。

楽曲から刀を感じた

撮影のもよう

 彼らの音楽には“応援”というテーマがある。それを今までも映像や写真にも反映させてきた。そのなかでも今回ヒロインには一本芯の通った自分自身を持っている女性をイメージし、新進気鋭の若手女優・モデルの伊吹捺未を起用した。過去作品では、どこか影のある女の子、その子達がBURNOUT SYNDROMESに救われているというストーリーがあった。だが「花一匁」はその今までの作品のストーリーとはまた角度を変えたという。熊谷は「『花一匁』は今までの応援歌の一歩先に進んだものになったと思います」と話す。

 映像ディレクターの千葉崇志氏は楽曲を聴いて“刀”が見えたと語る。

「今までは過去を引きずっている少女がテーマにありました。でも、今回は外に向かっていく力を楽曲から感じました。心の中に刀のような一本の芯があり、意志を持って世界と戦う、過去を引きずりながらも未来へ向かっていく少女の2面性を出しています。子供から大人への変化がテーマなんです」と、外に向かっていく力を感じたということもあり、バンドシーンを屋外での撮影場所に選んだという。

モニターチェック

 童謡・花一匁は2組に分かれて、歌を歌いながら歩きメンバーのやりとりをするという遊びだ。花を一匁(尺貫法における質量の単位)買う際に、値段を割引されてしまう売り手側と、安く買えて嬉しい買い手側の様子が歌われているという。熊谷はその花一匁について、無情だと話す。多くは語らなかったが、それはきっと花一匁という遊びが幼少時代に訪れる、いわばヒエラルキーの走りとも言える事柄に由来するのではと推測する。<あの子が欲しい♪>と優劣をつけられる残酷さや、無情さもある。

 このBURNOUT SYNDROMESの「花一匁」の根底には、そのヒエラルキーにも屈せずに立ち向かっていく勇気を歌っていると考える。子供と大人の境界線を軸にして、花一匁の揺れる動きと連動し、境界線を行ったり来たりしているかのような不思議な時間軸を感じさせる。

 撮影は微調整を繰り返しながら進んでいく。今回屋外での撮影にあたり、意外な盲点だったのはモニター音。通常MVはリップシンクと呼ばれる、あらかじめ収録された音声をスピーカーから音源を流しながら、それに合わせて撮影していくのだが、屋外のため、風で音が流れていってしまい上手くモニターができないという難しさがあったと廣瀬は話した。熊谷も「曲の完成までに100パターン以上あった歌詞が出てきてしまうことがあるので、歌詞を間違えないようにするのが大変だった」と、制作段階での試行錯誤の名残が感じられた。

パラメーターの比率が変わる撮影

撮影のもよう

 屋内と屋外での違いの一つに日の落ち具合も良い相乗効果を生んでいた。完全に陽が落ちきる前に撮り終えなければならないが、そのプレッシャーと緊張感のなか、テイク数を重ねていく。特に熊谷は千葉氏から目線やアクションなど細かいところをアドバイスされ、自身の考えと擦り合わせていく。石川も自身の動きを確認しながら、廣瀬は屋外ということもあり最小限の音量でパフォーマンスしなければならないため、音のミュートについてスタッフと相談。しかし、パフォーマンスは出音とは反比例させ、激しくしなければならないという。

 熊谷はライブとMV撮影の違いについて、「僕にはパラメーターがあって、その比率が変わるんです。例えばライブでは演奏5でパフォーマンスが5、MVでは演奏とパフォーマンスが1:9、レコーディングはその逆で9:1など、全く意識が変わります」と撮影に臨む比率を語った。石川と廣瀬はライブよりはクールに、かつデフォルメされたアクションを心がけていると話す。

 続いては熊谷のみでのソロ撮影。そこから伊吹捺未も参加し再度バンドシーンの撮影。先にも書いたが、今回の楽曲のテーマにも“応援”というキーワードがあり、BURNOUT SYNDROMESと少女が、お互いを高め合うようにパフォーマンス。泣いているばかりでは成長は出来ないという強いメッセージが感じ取れるシーンだ。

説明を受ける熊谷

 ついに撮影はクランクアップ。「花一匁」のMVでバンドが登場するシーンは無事に撮り終えた。この作品は今まで内側にあった感情を解き放つものになり、ライブでも盛り上がり必至のナンバーになると、メンバーも撮影をおこなったスタッフも同じ感覚をこの曲に抱いたはずだ。BURNOUT SYNDROMESの武器をさらにブラッシュアップした「花一匁」。彼らが外側に放出するエネルギーをライブハウスで浴びるオーディエンスの姿が想像できる。

 2月21日には2ndフルアルバム『孔雀』のリリースも決定しているBURNOUT SYNDROMES。刀は何度も焼きを入れることで強く強靭になっていく。3人もまさにその焼き入れしている真っ只中。刀の波紋のようにその形を変え、「花一匁」を皮切りにアルバムでも新たな表情を見せてくれることだろう。

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