酸欠少女さユり、“夜明けの”宣戦布告　全てをぶつけた新宿公演

　２.５次元パラレル・シンガーソングライターの酸欠少女さユりが11月３日、東京・新宿ReNYでワンマンライブ『酸欠少女さユり 夜明けのパラレル実験室 in 新宿 〜ここに宣戦布告編〜』をおこなった。12月7日にリリースするRADWIMPS・野田洋次郎が楽曲提供、プロデュースの新曲「フラレガイガール」など全16曲を披露し、独特な世界観で観客を圧倒した。

ヒミツも共有、現実のさユりとファンが繋がったステージ

　ステージの真ん中には、ギターを下げてフードのついた赤いポンチョを着た、裸足のさユり。おもむろにギターを鳴らし、ギターのボディを叩いて１曲目「かさぶた」が始まった。すごく小柄で華奢な彼女の、どこからそんな声が出るの？　と思うほどエネルギーを持った歌声が、一瞬で会場を惹きつける。ファンは彼女の歌と歌詞を、ひと言も聴き漏らしたくないといった感じで、小さく身体を揺らし、首をタテに揺すってリズムに乗った。

　この日のライブは、昨年８月のデビューシングル「ミカヅキ」を始め、新曲「フラレガイガール」とそのカップリング曲「アノニマス」にいたるまで、全16曲を披露。配信限定シングル「るーららるーらーるららるーらー」では、アッパーなサウンドに乗せて、どうしようもない気持ちを吐き出す。

　アニメ『僕だけがいない街』のエンディングテーマとしても話題を集めた「それは小さな光のような」では、下を向いて頭を激しく揺らしながらギターを弾きまくった。背伸びをするように息を吸い、息を吐き出すように歌った「光と闇」。「knot」では、感情の高ぶりが身体に伝わるように飛び跳ねて歌い、観客もそのリズムに乗ってさユりの音楽と同化した。

　「こっぴどくフラれてしまった女の子が前を向いて進む歌です。みんなにどんな風に受け取ってもらえるか楽しみです」と、紹介した新曲「フラレガイガール」。シンセとピアノの神秘的な音と共に、震えるように繊細な歌声が響き、バンドの音が積み重なるたびに歌声もどんどん熱を増していった。その「フラレガイガール」のカップリングに収録される「アノニマス」では、冒頭に大人気スマホゲーム『消滅都市』とのコラボ映像が流れ、鋭く激しく、そしてエモーショナルな歌が会場に響いた。

　「私はずっと自分のことを好きになれなくて、自分は出来損ないだと思っていた。それでも明日は来るし、そんな自分でも好きになれるように、この曲を作りました」という、言葉と共に歌ったデビュー曲「ミカヅキ」。自分だけではどうしようもない現実のもどかしさを受け止めようと、ファンはジッとステージを見つめて聴き入った。

　「しゃべるのが上手くないので……」と前置きをしたMC。この日はちょっとしたヒミツも明かしてくれた。「レコーディングのとき、スタッフが体毛の話をしていて。その中に耳毛が生えてきたという人がいたんです。そのときは私、話に入れないから聞いていただけだったけど、実は私、首に生えているんです！　毛の濃いゾーンが喉にあって。でもそれって、歌を始めてからだから、きっと喉を守るために生えたのかな？って(笑)。毛の話とかって、人にはなかなか言えないよね。でも今日、初めてみんなに話しました。みんなも毛が生えたら教えて！」とヒミツの共有によって、より一体感を増した場内。メンバー紹介でファンの声が小さいと「そんなのでいいんですか？」と、ファンをはやし立てる場面も。

　「日々苦しいことがあって、押しつぶされそうになって、もういいやと思うときが来るかもしれない。でも、もう少し頑張れるかな、もう少し生きてみようかなって。そんな朝が来るように、あなたがそんな朝を迎えられるように歌いたいと思います」と、最後に弾き語りで披露した「夜明けの詩」。左足のかかとを浮かせ、姿勢は前のめり。声をかすれさせながら、それでもかまわず歌い続けた彼女。そして最後に「今日はありがとう。明日もどうか、生きていてください」と語りライブの幕は閉じた。

　2013年に上京してデビューするまでには、新宿で路上弾き語りもやっていたというさユり。息苦しいほどの世界に押しつぶされそうになりながら、心の叫びが言葉をつむぎ、それが口をついで溢れ、気がついたときは歌っていた。それから数年、ここ新宿で再び声を上げた彼女。そこには自分をさらけ出しぶつけ、うれしそうに目の前のファンに語りかける彼女がいた。幽霊でも2.5次元でもない、現実のさユりが、ここに宣戦布告した。（取材・榑林史章）

セットリスト

酸欠少女さユり「夜明けのパラレル実験室 in新宿 〜ここに宣戦布告編〜」

11月３日　新宿ReNY

01.かさぶた
02.るーららるーらーるららるーらー
03.プルースト
04.それは小さな光のような
05.光と闇
06.knot
07.フラレガイガール
08.アノニマス
09.いくつもの絵画
10.ミカヅキ
11.蜂と見世物（サーカス）
12.人間椅子
13.ふうせん
14.オーロラソース
15.ちよこれいと
16.夜明けの詩