ロックバンド・神はサイコロを振らない(神サイ)が3月17日、メジャー1st シングル『エーテルの正体』をリリース。柳田周作(Vo)吉田喜一(Gt)桐木岳貢(Ba)黒川亮介(Dr)の4人編成。2020年7月にリリースされたデジタルシングル「泡沫花火」でメジャーデビューし、同年11月には1st Digital EP『文化的特異点』をリリース。今作『エーテルの正体』はデビュー後初のフィジカル作品で、テレビ朝日系NUMAnimation『ワールドトリガー』2ndシーズンEDテーマ「未来永劫」、日本テレビ新春ドラマ『星になりたかった君と』主題歌「クロノグラフ彗星」、FODオリジナルドラマ『ヒミツのアイちゃん』主題歌「1on1」など、タイアップ作品を含む全4曲を収録。インタビューでは、楽曲が生まれた瞬間、様々なサウンドプロデューサーを迎え制作された今作で得た新たな表現方法、神サイが抱える想いなど、多岐に亘りボーカル柳田周作に話を聞いた。【取材=村上順一】
テーマがある中で自分の人生観、自分の色を落とし込めるか
――昨年はライブ、イベントが中止になってしまったり、残念な1年になってしまいましたね。
ライブがなかなか出来なかったんですけど、くよくよしていられない、前を向くしかないなと思いました。もちろんライブが出来るのが一番なんですけど、ライブを楽しみにしていてくれた皆さんも落ち込んでいて、その中でせめて僕たちメンバーが率先して前を向けないかと。ライブが出来ないならそれ以外の方法でどう音楽を届けるか、を考えました。
――その思いが「未来永劫」という曲にも出ているんじゃないかなと思いました。
「未来永劫」はアニメ『ワールドトリガー』のお話しを受けて書いた楽曲なんですけど、登場人物に焦点を当てて書いていたつもりが、バンドメンバーや地元の親友たち、ファンの方など自分支えてくれている人たちのこと、結果自分に纏わることを書いていました。今回4曲とも自分のことを歌っているということに気づいて、それが面白いなと思ってるんですけど、元々アニメが持つテーマがある中で自分の人生観、自分の色もどう落とし込めるか、というところで楽しく制作することができました。
――タイトルの「未来永劫」は最初から決まっていたんですか。
いえ、ギリギリまで悩みました。この歌詞からいろんな情景が思い浮かんで、桜だったり、卒業シーズンにすごくピッタリな曲だなとも思いました。ノスタルジーに焦点を当てつつも、全てを包括する言葉が良いなと思い、未来永劫という言葉に辿り着きました。
――レコーディングはいかがでしたか?
僕らは普通1日で全部録り終える感じなんです。きっちりとプリプロをやっていくのでレコーディング自体は早いんです。 例えばお昼に入ったら夜の7時までにはだいたいギター、ベース、ドラムは録り終えて、そこからボーカルを取って日にちが変わるぐらいまでには帰れたらいいなというスケジュールなんですけど、「未来永劫」は歌が始まったのが夜の11時ぐらいで結果的に録り終えたのが午前3時ぐらいでした。
――いつもレコーディングが早い神サイがなぜそんなに時間が掛かってしまったのですか。
ギターの音作りでした。 今回アンプを6台ぐらい用意したんです。それを試していたら時間がかかって、どれがいいのか分からなくなってきてしまって...。音が決まってからもこの曲はギターが4本くらい重ねているので、そこからまた時間が掛かりました。この曲はミディアムテンポということもあり、リズムがシビアだったので、そこでも神経をすり減らしながらのレコーディングでした。 でも、この苦労があったからこそ思い入れが強い曲になりました。
――さきほど卒業というワードが出ていましたが、柳田さんの印象的な卒業は?
中学生の時の卒業式がすごく印象に残っています。もう卒業してから10年以上経つんですけど、当時の友達といまだに連絡も取っていて。恋愛は途切れてしまう傾向が強いけど、友情はずっと続くなと思っています。
――高校、大学は?
僕は工業高校の建築科に進んだんですけど、本当にやりたいことではなかったのか、そこにはまらずでした。大学はプログラミング、情報科に行ったんですけど、その時もこのままこれを仕事にしていくのか、という疑問もあって。卒業という意味では中学の時が印象的なんです。
――大学の時は音楽で食べて行こうとも思っていなくて?
全然考えていなかったです。仲間内でバンドをやっているのが楽しかったんです。もともとはギターだったので自分が歌うなんて思っていなくて...。これでご飯を食べていくなんて想像もしていなかったです。
――歌うタイミングはどんな感じだったんですか。
大学1年生の時、当時ツイキャスで、仲間が弾き語り配信をしていたので、それをたまたま見ていたら、弾き語りがすごい楽しそうに見えて、そこから弾き語りを始めてみました。それで僕もツイキャスをやってそこがボーカリストとしてのすべての始まりだったと思います。そこから仲間がたくさんできて大阪や東京に行って一緒にライブをやるようになっていって、今に繋がっているという感じなので、人生というのは本当にどうなるかわからないなと思います。
伊澤一葉のプロデュースで得られたグルーヴ
――さて、今作はサウンドプロデューサーが曲によって違うというのが面白いなと思いました。これにはどんな意図があったんですか。
そもそもシングルを作ろうと思ってレコーディングをしていたわけではなかったんです。純粋にこういう曲を作りたいと思って作っていた曲達なんです。なので、その曲に合ったプロデューサーさんと共に制作をしてこうということで、こういう形になりました。 それで4曲揃ったのでシングルとしてパッケージしてみようという話になったんです。
――様々なサウンドプロデューサーとやられてみてどんな発見がありましたか。
「未来永劫」と「1on1」を プロデュースしてくださった小山さんはミニアルバム『ラムダに対する見解』に収録されている「夜永唄」からのお付き合いなんです。MEGさんも前作のEP『文化的特異点』から一緒にやらせていただいていて、今回初めて「プラトニック・ラブ」という曲で東京事変やThe HIATUSで活躍されている伊澤一葉さんにお願いしました。伊澤さんはプロデュース業が本業ではなくアーティストをやられている方なんですけど、それがめちゃくちゃ面白かったんです。最後のサビのバックに僕が想像していなかったピアノが入ってびっくりしました。
――どんなピアノだったんですか。
ピアノは3連で入ってるんですけど、良い違和感と言いますか、それがまたハマってるのが本当にすごくて。 レコーディングの前日に伊澤さんと一緒にスタジオに入って音出ししたんですけど、その時も伊澤さんが指揮者みたいに中心となって、新しいグルーヴが生まれていく、それもまたすごく面白くて、良い経験ができたなと思っています。僕らは結構ガッチリアレンジを決めてレコーディングに臨むんですけど、伊澤さんは「フレーズは決めなくていいよ」とおっしゃっていて。演奏しながら感じたことをフレーズにして行けばいいとお話ししてくださって。なのでレコーディングは自分の感情が赴くままに演奏したという感じなんです。
――歌のレコーディングはいかがでしたか。
伊澤さんがボーカルディレクションをして下さったんですけど、アーティストならではのOKテイクが出るといいますか。普通だったらピッチ感がいいとか発音や発声がすごく綺麗とか、そういうところでOKが出るんですけど、その歌詞が呼んでいる表現というところに重きをおいてくださって、選んでいる感じがしました。
僕は「プラトニック・ラブ」をどうやったら悲しさや切なさを表現できるか、というところにこだわっていて、なかなかグッとくる表現が出来なかったんです。それをみた伊澤さんが「すごくオーバーに歌っているけど、心を無にして虚無な感じで歌ってみたら」とアドバイスをくださったんです。それで歌ってみたら悲しく歌おうとしていた時よりも不思議なことに悲しく聞こえたんです。 自分にはなかった表現を伊澤さんに引き出していただきました。
――「プラトニック・ラブ」は「夜永唄」のアフターストーリーなんですよね。
はい。この曲は「夜永唄」のずっと先の未来を歌っていて、時間で言ったら10年ぐらいは経っている感じなんです。 未来のことを歌っている曲ではあるんですけど、今の自分の心情を歌っていて、今の自分と未来の自分をマッチさせるイメージで書いた曲なんです。
――今回のシングルはバラバラに作ったといえども、時間というテーマがあるような気がしていまして、すごくコンセプチュアルだなと思ったんです。その中で「クロノグラフ彗星」は特にそれが強い曲だなと思いました。これは前回のインタビューの時に SFっぽい曲が出来たとお話していたんですけど、この曲のことだったんですよね?
そうなんです。この曲は『星になりたかった君と』というドラマの主題歌なんですけど、台本をいただいて読んでみて、僕はSFがすごく好きだったのですごく嬉しかったんです。もう擦り切れるぐらい台本を何度も読んで作った曲です。この作品の中でクロノグラフ彗星という彗星が出てくるんですけど、 主人公とヒロインが初めてその彗星を発見して、月日が流れてその二人が同じ夢を見るんですけど、そこに焦点を当てました。
それを僕らも一緒で、ファンの方々やスタッフの皆さんも同じ夢を見てくれていると思うんです。それって本当にすごいことだなと思っていて、これだけ世界中にたくさんの人がいる中で、ひとつの光に向かって皆の気持ちが向かっていることが奇跡的なことだなと感じているんです。ドラマと自分たちの世界観を上手く融合させた曲にしたいなと思いました。
――このひとつの光からシングルのタイトルでもある「エーテルの正体」に繋がっていくところもあったわけですね。
「未来永劫」と「クロノグラフ彗星」は特にこのタイトルに結びついた要素は強いです。 この2曲は特に僕たちらしさが出ていると思いますし、光というところでもこの2曲だなと思います。
「ありがとう」を伝えに行きたい
――「1on1」はFODオリジナルドラマ『ヒミツのアイちゃん』の主題歌ですね。これはどのように制作したんですか。
このドラマはバスケが関係していることもあって、曲もバスケに関するタイトルになりました。登場する男の子と女の子はすごく対照的な二人なんです。この対照的な2人を楽曲にするとなった時に、曲の中で面白い仕掛けができないかなと考えました。それで考えたのがボーカルとギターは生なんですけど、ドラムとベースを敢えて打ち込みにしました。この二極化でこのドラマの二人の関係性を表現できないかと思ったんです。歌詞の方で一番は男性目線で書いていて2番から女性目線にしてみたり。
――バンドのフレキシブルさを感じさせますね。
昔は結構それでメンバーとぶつかってたこともあったんですけど、 最近は作品が良くなればどんなことでも取り入れる方向になってきています。僕らはライブで再現出来ればどんな方法でもありなんです。僕の中でもどうしてもイメージした音を具現化したいから、メンバーに付き合ってもらってる感じもあるんですけど、今はメンバーもその決められた枠組みの中でどう自分を表現するかというところに重きを置いているんです。
――そのサウンドの温度感が良いと言いますか、 打ち込みにしたことで歌とギターのアナログさと、打ち込みによるリズムパートの無機質さが際立ってますよね。
そうなんです。イントロにギターのカッティングが入ってるんですけど、人間味を逆に出したいなと思って、ちょっとノイズっぽい感じの音が入っちゃったりしてるんですけど、それをあえて消さずに使っているんです。
――歌はいかがでしたか。
歌はすごい苦労した部分があります。2番の A メロの歌い出し<私が私じゃないみたい>というところは女性視点に移り変わるとこでもあるんですけど、ここでどれだけ女性っぽさがだせるかがキモになるなと思って、この一行だけで100テイクぐらい録り直しました。 特にお尻のビブラートがどうしても綺麗にはまらなくて...。最後の最後にクリックを外して歌ってみたんです。 オケだけ聴いて歌ってみたら最後のビブラートがバッチリハマりました。その瞬間は 本当に嬉しかったです。
――今回、1stシングルなんですけど、柳田さんが初めて買ったシングルCDは覚えていますか。
覚えてます。小学生の頃に買ったEXILEの「EXIT」です。「女王の教室」というドラマのエンディングで、そのドラマが好きだったこともあって購入しました。そこからけっこう邦楽の人気アーティストを多く買って、かなり聴いていましたね。
――ポップスも聴いていたんですね。
バンドにハマり出したのは中学3年くらいからで、それまではポップスを多く聴いてました。僕は歌に重きを置いているですけど、そういう小学生の時の原体験が影響しているのかなと思います。サウンドもすごくこだわるんですけど、リスナーの多くはメロディを聴くと思うので、そこでどれだけ勝負出来るか、みたいな感覚はあります。
――それが神サイの特色にもなっていますよね。さて、5月からツアー『Live Tour 2021「エーテルの正体」』も始まりますが、どんな意識で臨みたいと思っていますか。
僕らがワンマンで最後にやったのが渋谷WWW Xで、次はどこでやろうか、出来るのかと楽しみにしていました。今回福岡と東京はZeppのステージに立てるというのはバンドとしてすごく嬉しいです。こんな状況なので100%やれるかどうかはまだわからないんですけど、気持ちとしてはしっかりやり遂げたいと思っています。そして、イベンターさんだったりスタッフさんが「ライブをやろうよ」と僕らにすごく懸けてくれているのが伝わってきます。待ってくれている人が沢山いるので、メジャーで活動できているのも皆さんのおかげなのでしっかり、「ありがとう」を音楽を通して伝えに行きたいです。
――地元の福岡からスタートするのも意味が?
はい。福岡は神サイを育ててくれた街なので、まず一発目は地元からスタートしたいという思いはありました。地元のライブハウスも閉店してしまったところもあって、ちょっとでも全国を盛り上げたい、という気持ちを持ってツアーを回れたらと思ってますので、「エーテルの正体」を確かめに来てもらえたら嬉しいです。
(おわり)