AKB48G“ミューズ”の軌跡:Nona Diamonds

矢野帆夏(STU48)

「私のアイドル人生が変わった」


記者:木村武雄

掲載:21年06月25日

読了時間:約8分

<AKB48G“ミューズ”の軌跡:Nona Diamonds(4)>

 AKB48国内6グループから最も魅力的な歌い手を決める『第3回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦』のファイナリスト、池田裕楽(STU48)、野島樺乃(SKE48)、岡田奈々(AKB48/STU48)、山内鈴蘭(SKE48)、矢野帆夏(STU48)、三村妃乃(NGT48)、秋吉優花(HKT48)、古畑奈和(SKE48)と、審査員特別賞の山崎亜美瑠(NMB48)によるユニット「Nona Diamonds」が「はじまりの唄」でデビューする。作詞・作曲は決勝大会の審査員を務めたゴスペラーズ・黒沢 薫。「9つのダイヤモンド」を意味する造語を冠したユニット名には「一人一人の歌声がまるでダイヤモンドのようで、これからも磨いていき、まわりの楽器と共にキラキラと輝いてほしい」との思いが込められている。今回、MusicVoiceでは9人のインタビューを連載。歌に見出された“ミューズ”はどのようにして輝き出したのか、その軌跡を辿りつつ「はじまりの唄」、そして歌への想いを聞く。【取材=木村武雄】

矢野帆夏、歌のはじまり

 第1回大会は7位。優勝候補の一角と目された第2回大会はケガで無念の決勝大会欠場となった。「悔しさ」と「あの場所でもう一度歌いたい」という想いを胸に約1年を過ごしてきた。そして、いま、彼女はそのステージに立っている。

 「すごくホッとした気持ちになりました」

 決勝大会本戦で歌った曲は、渡辺美里の「My Revolution」。

 イントロが奏でられ始めた途端、それまで笑顔だった表情は凛々しく変わった。

 「当初は第2回大会で歌うはずだった別の曲を選曲していました。でもファンの方から『矢野ちゃんに重なるし、勇気をもらえると思う』と薦められ、それまで知らなかったんですけど聴いてみたら本当にそうだと思って、今度はこの曲を歌っていろんな人を勇気づけたい、この曲で1位を獲りたいと思って変更しました。」

 この曲の一節に<夢を追いかけるなら たやすく泣いちゃダメさ>とある。夢を追いかける主人公が、それまでの自分を変え、力強く歩き出すさまを描いている。

 前を歩きだすため――。彼女にとって必要な曲だった。

 「私、あまり悔しいと思わないタイプでした。グループのなかに競争があるわけではないけど、選抜に入れなくても悔しいとはあまり思っていなくて。でも歌のことに関しては、悔しい、悲しい、嬉しいという感情を人よりも何倍もあるんだということに気が付いて。大会の結果もそうですし、練習でもうまく出せないことがあると本当に悔しい。本当に歌が好きなんだなって思います」

 それほどまでに、第2回大会の無念の欠場は悔しかった。

 そして満を持して臨んだ第3回大会、優勝したのは後輩の池田裕楽。

 「もちろん目標は1位だったんですけど『瀬戸内に優勝のトロフィーを持って帰りたい』とずっと言ってきたので、結果は6位だけど池ちゃんが1位を獲ってくれたから、STU48としてそれが達成できたと思うし、知って頂く機会にもなって良かったと思います。でも優勝を目指していたから本当は悔しい。だけど気を使わせても良くないから池ちゃんの前では涙を出しちゃいけないと思いました」

 順位が発表された時、彼女の目には光るものがあった。それを流すまいと必死にこらえ笑顔を作ろうとしていた。だが、程なくして後ろを振り返り、しばらく前を向くことはなかった。

 「あの時のことって、あまり覚えていないんですよ(笑)」

 悔しさはその人を伸ばす原動力にもなる。

 彼女の歌は安定感と透明感がある。審査員を務めたゴスペラーズの黒沢薫は「中音域の安定感がずば抜けている」と高く評価した。

 「どちらかと言うと、低音域よりも中・高音域が自分に合っていると思っていて、選曲もずっとそうしてきました。なので、黒沢さんに言われて自信がもてるようになりました」

 歌手を目指していたわけではないが、歌うことがもともと好きだ。

 「第1回大会に立候補した時は、まだSTU48で選抜に1回も入っていなくて、選抜の16人の中に入らないとCDに声は乗らないし、いろんな所で歌いたいのにそうした機会も少ない。この大会で出たら歌える時間が少しでも作れると思いました」

 過去に矢野は、歌唱力決定戦が「私のアイドル人生を変えた」と語ったことがある。その言葉の通り、この大会をきっかけに矢野の名前は知られ、そして、選抜入りもしていく。

 「本当に感謝しています。周りからは『矢野ちゃん自身が勝ち取ってきたからここまでこれたんだよ』と言われますが、こうして結果が残せる環境があることがすごくありがたいことだと思っています。いまの私があるのはこの大会のおかげです」

 矢野にとってはまさに、この大会が「My Revolution」のようなストーリーを作り出した。

 「こうした歩みでなかったらきっと、この大会で歌うこともなかったと思いますし、この曲にも出会えていなかったと思います。本当に感謝しています」

 「歌に助けられてきた」とも語る彼女。いまその歌の道を謳歌している。

「第3回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦 ファイナリストLIVE」より

 ここからは一問一答。

歌唱力決定戦、笑顔の裏側

――決勝大会の歌唱、それまで笑顔なのに、イントロが流れた途端に表情がガラリと変わりますね。

 ファンの方にもよく言われます(笑)すごく緊張しているので顔が強張らないようにしているというのもありますし、歌を教えてくれている方に、歌う時は頬を上げると声も変わると言われたことも含めて、楽しむことを意識してステージに立っているんですけど、いざ音楽が鳴り始めたら真剣になるというか、気持ちが切り替わるといいますか、無意識になるのでああいう顔になっていると思います。あれが何も作っていない本当の素の私の表情です。

――歌っている時はその世界に入り込んでいますか?

 歌に入り込んでいます。審査員の方が見ているので「苦手なところでミスしないように」と思ったらすごく緊張してくるんです。決勝大会の時は特にプレッシャーもあって冷静になれなくて。自分の歌を評価されると思って歌うのと、ファイナリストライブのようにのびのび歌うのとでは全く違います。

――普段、歌う時はどういうことを意識されていますか。

 今回の決勝大会予選では、aikoさんの「KissHug」を歌わせていただきましたが、歌詞の解釈はそれぞれあると思いますが、恋愛を描いた曲だと思ったので、主人公の気持ちに1回なってその主人公が言葉を発するように歌っています。それはどの曲も意識しています。ただ、「My Revolution」は自分と重なるところが多かったので、自分の想いが出ていました。

――第1回大会と第3回大会では見える景色は変わりましたか。

 全然違って見えました。第1回大会は客席も見る余裕もないぐらい緊張していましたが、第3回大会はわりと冷静に客席も見たりしていました。

はじまりの唄、涙した「歌いたかったんだ」

――最初に聴いた時の印象は?

 たぶんみんなが言っているかもしれないですが、アイドルソングではないという印象でした。歌詞と歌割を見たときに、ソロパートがあることがすごく嬉しくて。黒沢さんが歌詞を考えて歌割りも決めているということを知った上で歌詞を見たので「こういうふうに見てもらえているんだ」って嬉しく思いました。

――なかでも印象的なのは?

 いくつかありますけど、<そうか 私 きっと><歌いたかったんだ>というフレーズです。そこの歌詞は「自分の解釈で歌っていいんだよ」と言われたんですけど、「ここは、(私が)歌うことが好きということを知った上で私にしてくれたんですよね?」と聞いたら「その通りだよ」って言ってくれて。「第2回大会ですごく悔しい思いをして、それでも第3回大会に立候補したということは、きっと矢野さんは本当に歌を歌いたかったんだろうなと僕はすごく感じたから、この歌詞を割り振りました」と言われた時、本当に嬉しかったです。エピソードというか、思い全部が歌詞に入っているので涙が出ました。

――歌う時はどういうことを意識されましたか。

 大会では、誰かの歌をカバーで歌わせていただくので、オリジナルのように歌うことを意識していました。でも「はじまりの唄」はオリジナルだから「気にすることなく自信をもってそのまま歌えばいいよ」と言われ、そのままに歌いました。それと黒沢さんに「安定しているね」と言われ、嬉しかったです。

――それは自信になりますね。

 そうですね。褒めるだけじゃなくて的確にアドバイスして下さるので、すごく嬉しいです。音程はいいけど、もう少し思い立ったように感情的に歌ってみたらと指導してくださって、最初の時もよりも良くなって言われて嬉しかったです!

――指導のなかで今後に生かせることは?

 あまりアクセントをつけるタイプではなかったんですけど、「もうちょっとアクセントを付けて歌ってもいいんだよ」とアドバイスされて、それも次に生かしたいと思いました。普通に上手く歌うだけじゃなくて、自分っぽいアクセントの付け方とか、ちょっと感情を入れて歌うことに意識したいです。曲からもちょっと成長した私の歌声が聴けると思います!

ファイナリストライブ

――ファイナリストライブで三村妃乃さん(NGT48)と「再開」を一緒に歌われましたね。

 この歌を妃乃ちゃんと歌いたいと伝えて、引き受けてくれました。とても難しい歌ですが、一緒に歌えて良かったです。新潟と瀬戸内はすごく離れていて一緒に歌う機会はなかなかないので、貴重なコラボだからこそ、ファンの方に喜んでいただけるかなって思いました。それと、妃乃ちゃんは楽譜が読めるのでその点でもとても勉強になりました。私は聴いた音をそのまま発しているので正確ではないところもあって。妃乃ちゃんに1文字1文字、確認してもらえて本当にありがたかったです。

――それと岡田奈々さんと池田さんとで「ペダルと車輪と来た道と」を歌いました。池田さんはこのファイナリストライブを見てSTU48に入ろうと思ったそうです。

 このイベントをきっかけにアイドルになった子が出てきたんだと嬉しくなりました。それに、たくさんのメンバーがこのイベントに立候補してくれた方が嬉しいです。この場所で池ちゃんと歌えたのも嬉しいですし、Nona DiamondsにSTU48から3人が入っていることも嬉しいです。

――ことあるごとにSTU48の名前が出てきて、矢野さんはグループを優先していますね。

 意識していないんですけど、メンバーからも言われます。卒業したメンバーや年上のメンバーからも「もっと自分のことを考えなよ、もっと自己中になっていいよ」と言われます。すごくありがたい言葉だなって思います。でもたとえ一人で戦う歌唱力決定戦も、グループがあってのことなので、自分のことよりもSTU48として何か爪痕を残したいと思っています。

――そんな矢野さんにとって歌はどういう存在?

 生きがいです。大げさかもしれないんですけど、どんな時も嬉しい気持ちの時も嫌なことがあった時も、歌を絶対に聴きますし、移動中や休憩中もイヤホンして聴いています。何度も助けられているから、生きるために絶対に必要なのが歌だなって思います。

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