バンドサウンドに磨きをかけたパフォーマンスで魅了した白波多カミン with Placebo Foxes

バンドサウンドに磨きをかけたパフォーマンスで魅了した白波多カミン with Placebo Foxes

 白波多カミン with Placebo Foxesが去る16日、東京・渋谷のTSUTAYA O-nestで、アルバム『空席のサーカス』(3月23日リリース)のリリースツアーファイナル公演をおこなった。これまで展開してきた自主企画『涅槃』は、対バン形式を採用していた彼らだったが、当公演はこのバンドでの初のワンマンライブ。ツアーでさらにバンドサウンドに磨きをかけた彼らのパフォーマンスは胸に迫ってくる様だった。このライブの模様を以下にレポートする。

 天気はあいにくの雨模様。しかし、この日は白波多カミン with Placebo Foxesにとって初めてのワンマンライブ。フロアは開演時間になると満員。オーディエンスはどんなステージを展開するのかと、期待に胸を躍らせているようだった。

 ほどなく、メンバーの白波多カミン(Vo、Gt)、濱野夏椰(Gt)、上野恒星(Ba)、照沼光星(Dr)が入場。いつもの通りSEなどは流れず、メンバーがそれぞれサウンドチェックをしてから、ステージが始まった。

 ノイジーなイントロからはじまったのは「姉弟」。ツアー前よりもバンドの音圧が増しているようだった。カミンは感情を表さず、生きたドールの様にマイクに向かい、言葉を送り込む。かと思えば、髪を振り乱すワイルドなギターソロが狂気を感じさせた。

 カミンは京訛りで「ありがとう」とつぶやくと、「すきだよ」を演奏。以前よりも余裕のある演奏を見せ、自由落下のように曲を進行させる、ゆったりとゆったりと。カミンは乱れた髪の毛を気にするそぶりも見せずに、淡々とした様子で演奏を続ける。

 次に届けたのは、ベースのループで始まるイントロがミステリアスな「あたまいたい」。薄い紫色の照明がカミンを照らす。ギターの存在感あるサウンドと、一歩一歩踏みしめて行くようなサビが心地よい。間奏のギターノイズもグランジを思わせるようにダウナーに響き渡る。今回、ギターの濱野は音作りも演奏も見せ方も、以前とは別人かと思うほどの独特の世界観を見せた。楽曲がエンディングを迎えると、間髪入れず「おかえり。」のイントロが接続される。全員一斉にスイッチを入れる様なサビも息がぴたりと合った。

 次の曲間でカミンは「『空席のサーカス』っていうアルバムを出しました。それのリリースツアーファイナルです。最後まで喰らって帰ってください」とトゲトゲしい言葉ながら可愛い表情を覗かせた。この日の5曲目は「くだもの」。カミンは、アコースティックギターに持ち替えて歌い始めた。かなり削ぎ落としたシンプルな演奏で、カミンの声にのる歌詞と声の透明感と鋭さが強調されていた。オーディエンスは、彼女の声に完全に支配されてしまっていた。それは拍手を忘れてしまうほどで、まるで音や言葉に身を委ねて、楽しんでいるようだった。

 カミンは「しばらくこのバンドではライブが決まっていません。しかと目に焼き付けて下さい。帰ったらまた夢に出てきます」と話してから、ギターを降ろした。続いてスタンドマイクで歌うのは「ハロースター」。ずっと同じ音で固定されたベースが効果的に響く。リズムが食い込むタイミングに合わせて、手をふって合わせるカミン。最後のリフレインへの積み上げ方も自然で、力強い。曲のエンディングで、ステージの赤い照明がふっと消えていった。

 カミンが「嫉妬というエグい感情ですが、曲調はダンスです」と言い始めたのは、バンド唯一のミディアム4つ打ちダンスチューン「嫉妬」。ワウの効いたギターカッティングに自然と心が躍る。2コーラス目のブレイクでもカミンの声が映えるドキッとするアレンジ。サビが反復されるシンプルなメロディが耳に残って離れない。最高のダンスミュージックに会場から拍手が沸いた。

 その後「サンセットガール」、「普通の女の子」とアコギが映える楽曲を2曲続ける。明るめな曲調でも猥雑な言葉が無邪気に響くことで、明暗以外の第3の印象を生み出す。カミンの歌と世界観はやはり特別だと言わざるを得ない。

 次に不意を突く爆音イントロで「バタフライ」を披露。毎回ライブで演奏するこの曲も1つ上のレベルのアンサンブルへ駒を進めていた。あどけない声質ながら安定感を増したカミンのボーカルと裏腹に力強くグルーヴしていく楽器隊。同じサビが繰り返される度に熱量を上げた伴奏が彩られていく。

 カミンが「また会いましょう。ありがとうございました」と挨拶し、本編最後の「なくしもの」を演奏。透明感のある歌の後ろで、空間系で個性的なギターが舞う。前衛的になりすぎず、クールで良いバランス。2コーラス目から演奏がぐっと一つにまとまる。“空席のサーカス”という、アルバムタイトルにもある印象的なパンチラインが聴こえる。残響で塗りつぶす宇宙的なインタールード。無重力の中でぷかぷか浮いてる気分にさせる。音が途切れ、耳鳴りが残る中、本編を終えた。オーディエンスからこの日一番の拍手が起こりやがてアンコールの手拍子へと変わる。

 ほどなくしてステージに戻るカミン。「ほな、カミンの弾き語りコーナーします」と呟いて髪を耳にかけた。方言混じりでMCする姿はとても可愛らしい。と思った途端に「君の唾液が~」と歌い始めるから油断ができない。このギャップがいやらしくなく、心に迫ってくるのが彼女の魅力だ。

 さらに、弾き語りで上京してきた時に作ったという「わたしの東京」を披露。曲が終わるとメンバーがステージに戻ってくる。ベースの上野が登場し、饒舌なMCを始める。口数少ないカミンとのギャップがまた面白い。メンバーにもオーディエンスにも笑顔がこぼれる。そして、「せーの」というカミンの合図で演奏が始まった。3拍子系の「生命線」では「今すぐに会いたい」と何度も繰り返す。ドラムの絡み付く様なビートと時折切り込むフィルインが胸に響く。

 マイクをホルダーから引き抜いたカミンがメンバー紹介をしてから、ロックチューン「今すぐ消えたい」でこの夜を締めた。彼女は気だるく拍手を煽ってから、曲間のブレイクで右手を高く挙げると1人で先に退場していった。そこからバンドが高速テンポでアウトロを展開。この日のライブは終幕となった。バンドとして新たなレベルに進んだことを証明した、このツアーファイナル。白波多カミンwith Placebo Foxesの今後の進化に期待感が募る。(取材・小池直也)

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