朝倉さや「新しい一歩を踏み出せている」覚悟を決めた“第三章”への思いとは
INTERVIEW

朝倉さや

「新しい一歩を踏み出せている」覚悟を決めた“第三章”への思いとは


記者:村上順一

撮影:

掲載:23年09月05日

読了時間:約13分

 民謡日本一の山形県出身のシンガーソングライター朝倉さやが、今年CDデビュー10周年を迎えた。名曲を民謡調・山形弁に編曲カバーし、音楽業界初となるインディーズから日本レコード大賞企画賞を受賞。2023年6月にはメジャー3枚目のアルバム『大開幕』をリリースし、現在全国ツアー『感謝と決意のスペシャルコンサート』を開催中だ。昨年、朝倉を見出し音楽制作など活動の要でもあった音楽プロデューサーのsolaya氏が逝去。大きな柱を失った朝倉は新たな一歩を『大開幕』という力強いタイトルのアルバムで再起。まだ、悲しみが残るなか強い志をもって活動をしている。インタビューでは、solaya氏との出会いから、自身はこだわりが強いと再認識した『大開幕』の制作背景、ここからは第三章だと語る活動への想いに迫った。【取材=村上順一】

ありのままでいいということ

『大開幕』ジャケ写

――朝倉さんの活動を支えてこられたsolayaさんが昨年亡くなられて、本作から新たな一歩を踏み出した感覚があります。

 『大開幕』はsolayaさんがいなくなり、「さあ、どうしていくべ」と思いながら歩き始めた作品です。 2017年から闘病生活をしていて、昨年亡くなられるまでずっと一緒に活動をしてくださって、去年22曲入りのアルバム『Life Song』をリリースしたのですが、それも一緒に作ってくれました。最後の力を振り絞って、本当に命をかけて作ってくれたアルバムになりました。

――solayaさんがいたから今の自分がいるといっても過言ではないくらいの方ですよね。

 上京した時は何もなかったところで、solayaさんに出会ってデビューさせていただきました。solayaさんがいなかったらどういう未来になっていたのかわからない。本当にいい出会いでした。

――solayaさんと接した中で1番の学びはどのようなことでした?

 たくさんありすぎて難しいのですが、「ありのままでいいんだ」ということです。元々自分が持っているいいところをピックアップして音楽やエンタメにつなげてくれたのですが、そこに嘘がなかったんです。それはありのままでいいんだということなんだなと思わせてくれました。

――デビュー前はオーディションなどで歌唱法について問われることもあったとお聞きしています。自分が変わらければと思った瞬間も?

 その気持ちがなかったから探し続けていたんだと思います。そんなにたくさんオーディション受けたわけではないのですが、たまたま受けたところが「一旦その節回しをなくしてからだね」と言われて逆にびっくりして。私はこの節回し、日本の民謡が素晴らしいものだと思っていて、それが自分に残っていることはすごくいいことだと思っていたので、 それをなくしてほしいと言われた時に、“ここは私がいるところではない”と思いました。いろいろな音楽教室に通いながら、どうやって活動していくかを模索している時にsolayaさんと出会ったのですが、私が持っているものを楽しんでくれて、そこから山形弁で歌うことにつながりました。

――『大開幕』は、第三章の始まりとなる作品です。発売されて少し時間が経ちましたが、どのような1枚になってきました?

 solayaさんが生前話していたのが、「第一章が2013年にデビューした時、第二章が民謡と新しい音楽の融合「Future Trax」を生み出し日本レコード大賞をいただいた2015年、僕がいなくなって一人で歩き出したときが第三章かな」とお話ししていたのが記憶に残っています。亡くなられて悲しい、寂しいという気持ちはまったく消えたわけではないのですが、歌い続けていきたいという気持ちは変わらなくて。その一歩目を踏み出していくという気持ちがアルバムの曲たちで、「未来を“大開幕”させるぞ!」という決意がたっぷり詰まったアルバムになりました。

 デビュー10周年というのもすごく大きいです。18歳の時に何もないなか上京した自分を思い出すと、デビューできて10年も歌わせてもらっていることが本当に奇跡だなって。感謝でいっぱいなので、感謝と決意が込められたアルバムになりました。今ツアーをしているのですが、いつまでも立ち止まってはいられない、しっかりやっていかなければという気持ちで曲を書きましたし、ツアーでみんなの顔を見ながら歌っていると、強く一歩を踏み出して良かったと思いました。私の曲を受け取ってくれる人がこんなにたくさんいることがわかり、改めて幸せな歌手人生を歩ませていただいていると感じています。

――コロナ禍でライブが思うようにできなかった時期もありましたが、いま声出しができるようになったり、そういう喜びも感じながらのツアーになっていますよね。

 はい。コロナ禍でステージに立てないという期間もありましたが、『38Movie』という動画をYouTubeで配信していました。そこでコメントがもらえると、ちゃんと音楽で繋がれていると感じることができて嬉しかったです。でも、コンサートは格別だなと思います。 みんなの気持ちが手拍子や声から喜んでくれていることがすごく伝わってきます。心と心でキャッチボールしながらできている感じがあって楽しいです。

――『38Movie』の38は「さや」ですね。ふと思ったのですが、38歳になったときのことは考えていますか。

 いま10周年で大きな節目を迎えていますが、次の大きな節目は38歳だと思っていて、今はそこを目標にがんばっています。さらに38にまつわる奇跡があって、それはsolayaさんが発見してくれたのですが、私は1992年の6月29日生まれで、1 + 9 + 9 + 2 + 6 + 2 + 9 を足していくと38になるんです!

――すごい偶然ですね! さて、『大開幕』ジャケ写は2500枚撮った中から“ビビッときた”1枚を使用されているんですよね?

 そうなんです! 今までジャケ写など『新・東京』以外、2013年からのアルバム、シングル含めてすべてsolayaさんが写真を撮って、ブックレットもジャケットも作ってくださったのですが、ジャケ写などsolayaさんが亡くなってからの悩みの1つでした。写真家の西村彩子さんが素敵に撮ってくださって、ブックレットの作り方もsolayaさんが体調がいい日に教わっていたので、自分でデザインすることができました。それもあって今回ブックレットのSpecial Thanksにsolayaさんが入っているんです。

――感慨深い1枚ですね。朝倉さんの代表的なものとして“Future Trax”がありますが、今どういう変化を感じていますか。

 毎回新しいと思いながら私も楽しんでいます。もともとは私がアカペラで歌った「最上川舟唄」にsolayaさんが新しいアレンジをした音源を送ってもらったのが始まりでした。その時から自分が知っている民謡とはまた違う世界が爆誕している、これはもう絶対歌わせてもらいたいと思い、今日まで歌ってきました。民謡+ボサノバ、民謡+メタルだったり、自分には身近ではないと感じていた音楽も楽しませてもらえるようになりました。

 このFuture Traxは曲なのですが、いつもsolayaさんとセッションしているみたいな感覚があります。民謡の良さと新しい音楽の良さを潰さないように、どちらも活きるように作ってきたので、solayaさんが亡くなってしまい今後続けていくのは難しいかなと思っていたのですが、福田貴史さんが挑戦したいとおっしゃってくださいまいした。

 福田さんから「好きな民謡を3曲あげてください」とリクエストをいただいた中で、私があげたのが今作に収録した「宮津節」なんです。すごく華やかなアレンジで、舞が見えるように感じました。これまではsolayaさんとセッションしていましたが、今は福田さんとセッションさせていただいているような気持ちで歌わせてもらっています。また、福田さんのお兄さんである福田大輔さんがこの曲で尺八を吹いてくださって、その素晴らしい演奏にも癒されました。

すごくこだわりが強い人間なんだということを知った

――歌が大好きな朝倉さん。もし音楽をやっていなかったらどうされていたと思いますか。

 母は民謡が好きで、私が生まれた時からそばにあったのが音楽なので考えられないです。昔から歌うことがすごく好きでしたし、音楽をやっていなかったらというのは想像することが難しいです。

――音楽以外だとモノを作ることはお好きですよね? ファンクラブの会報もご自身で作られていてバイタリティがすごいなと思いました(笑)。

 作ることは大好きです。『大開幕』を作っている時、会報を作るタイミングでもあって、いま思い返すと恐ろしく大変な日々でした。だけど、結局楽しんでやっているんですよね。会報をすごく楽しみにしてくれている人がいると思うと、手を抜きたくないから、こだわりが強くなってどんどん大変になってしまうのですが、年3回の会報の発行は頑張っていきたいです。これまではsolayaさんが一緒にやってくれていたのですが、“朝倉さや編集長”は細かいので、自分はこだわりが強い人間なんだということを知りました(笑)。

――朝倉さんはどなたかのファンクラブに入られたことは?

 ファンクラブに入ったことはなかったので、自分自身がやるならファンクラブがどんなものかを知るために、自分が好きなあるアーティストさんのファンクラブに入ってみました。自分もファンクラブというものを体感してみて、会報が届くことが楽しみですし、そこに本人の直筆の言葉があったものならすごく嬉しくて。愛が詰まっている、本人がちゃんとそれを言っていることが伝わってきて、自分で作ることに意味はあるなと思いました。

――他にも好きなことはありますか。

 絵を描くことが好きです。たとえば子供の時から「じいちゃんばあちゃんちに行くぞ」となったら、お絵かきセットを持っていくくらい。なにか表現することが好きなのかもしれないです。自分は絵が上手いと思っているわけではないんですけど、好きなことをどんどんやっていきたいという気持ちは強いです。ジャケットの『大開幕』のタイトルも手書きにしたのですが、手作り感があるものがすごく好きなのかもしれない。

――そういったこだわりは歌にもでていて。

 歌はもう絶対出ていると思います。でも、歌は自己解決できるので、自分とのやりとりだから、こだわっているとかあまり気づいていなかったのかも。ちょっと自分の体とはまた違うところにある会報作りには、パソコンやソフトとのやりとりがあったので、自分の体とは違うものが間に挟まって、自分はこだわりが強いと気づけたのかもしれないです。

ありのままので歌えた「未来未来」

――そういえば、スピッツのアルバム『ひみつスタジオ』に参加されていましたが、朝倉さんにどのような影響を与えた経験になりましたか。

 スピッツさんは、私がリスペクトしているアーティストさんなので、作品に参加させていただけるなんてすごく夢のような出来事でした。私は歌い続けてきて良かったんだ、そして、これからも歌い続けていいんだと思えた大きな出来事でした。レコーディングでは草野(マサムネ)さんはもちろん、メンバーのみなさん、亀田誠治さんも迎えてくださいました。あの日は緊張しすぎて語彙をどこかに忘れてきたみたいな感じで、ちゃんと喋れたのか半分覚えてなくて...。

――あはは。肝心のレコーディングはいかがでした?

 一番いい状態でいつも自分がレコーディングするような気持ちと言いますか、本当にフラットな状態でありのまま歌えました。皆さんがいらっしゃるコントロールルームに戻ったら拍手で迎えてくださって、すごく嬉しかったのを覚えています。最近ようやく私が参加させていただいた楽曲「未来未来」を普通に聴けるようになりまして、それまでは興奮がおさまらず冷静に聴けなかったです。

――CDは購入されて?

 はい。発売日に購入したいと思い、新宿のタワーレコードに行きました。エスカレーターを登った先に“スピッツさんゾーン”が出きていて、大興奮のなかアルバム『ひみつスタジオ』を購入させていただきました。ついでに自分のCDも置いてあるかチェックしたり(笑)。

――CDなどフィジカルの良いところに、購入した時の思い出話ができるところもありますよね。ダウンロードだとちょっと難しいですよね。

 本当にそうですよね。今回もスピッツさんのCDを購入して感動と喜びをもらえました。『大開幕』はブックレットやジャケットも自分でデザインしているので、音楽ももちろんだけど、ものに対しても愛情がマシマシです。『大開幕』はCDそのものにも愛情が詰まっているので、皆さんに手にとってもらい、何か感じてもらえたら嬉しいです。

改めて言葉で伝えたいと思った「違う歩幅で」

――1曲目の「KADODE」は MVが公開されています。撮影はいかがでした?

 撮影の日は必ず雨が降る予報で、晴れないと言われていました。でも、雨が降ったら降ったでその日のMVとして撮ろうとみんなで決めていたのですが撮影日だけ晴れたんです! 天気も味方してくれて、監督さんの技術もあり、地球に降り立った瞬間の喜びを感じられるような映像で、まさに「KADODE」にぴったりな世界観になりました。この曲の歌詞で<世界はまだまだ広い><地球は自由な住処>と歌っているのですが、歌いたかったことが映像でより鮮明になり、 「KADODE」がマシマシに輝いた素敵なMVになりました。

――「KADODE」の表記をローマ字にされた意図は?

 漢字などすべて試してみて、大文字のアルファベットが一番しっくりきました。今の「行くぞ!」という意気込みにぴったりだなって。ミーティングの段階からMVの監督さんは何度も「KADODE」を聴いてくださっていて、私が表現したかったことがしっかり伝わっていました。「出発だし、大漁旗を振るのもいいかもしれない」と監督さんがおっしゃって、半分冗談で「旗、作りますか?」みたいな空気になったんです。その時に以前ファンの方に大漁旗をいただいたことがあったのを思い出して、MVでその大漁旗を使いました。

――「KADODE」のインストゥルメンタルを収録されたのは?

 インストを1曲収録したいというお話があったので、なら「KADODE」かなと思って。1曲目から5曲目までを聴いてもらって、「おやすみ」という曲で旅が一つ終わって、また新しい旅が始まっていくイメージです。聴いてくれた人の思いものせて「KADODE」のインストゥルメンタルで、“あなたの歌を歌ってください”という意味もあります。「おやすみ」の最後の歌詞に<さてどんな話にしようか>と書いたのですが、その言葉には「ここから始まっていくんだよ」という思いが込められています。そこからの「KADODE」なので、いいスタートが切れるんじゃないかと思い選びました。

――さて、「違う歩幅で」の歌詞はどのようなことがきっかけとなり書き始めたのでしょうか。

 夏海さんが作曲してくれた曲です。曲作りをしている中で、どんな曲がいいか日々話し合っていて、「こんなイメージで書いてみるのはどう?」とこの曲を送ってくれました。曲を聴いてファンの人に向けて手紙を書いてみたいと思い、それがすごくしっくりきました。

 いつも思っていることの1つに、ライブがあるからこの場所にみんなが集まってくれる。でも、一歩ここから離れたら、それぞれがまったく違う生活をしている人たちなんだよなって。生活をしていく中でいろいろなことがあるけど、朝倉さやのライブ楽しみだな、朝倉さやの音楽を聴きたいなと、集まってくれたことを思うと感慨深くて。

 一歩外に出たらいろいろなことがあるから、すべてをわかり合えることは難しいのかもしれないけど、私に「頑張って」とみんなが言ってくれる。でも、私はその何倍もみんなの日々を応援しているのですが、直接言葉にして伝えたことはなかったんです。無理をしないで自分のペースで、違う歩幅でいいからみんな生きていこうね。ここに集まった時くらいは同じような気持ちでいられるといいよね、という気持ちで書いた曲が「違う歩幅で」でした。

――今ツアー中ですが、どのような気持ちで行っていますか。

 今年は10周年なので最新曲はもちろん、これまで大切にしてきた曲もたくさん歌っています。 曲を作っている時は己との戦いだったり、自分の中にあるものを引き出しながら作っているので、自分の曲になっているけど、歌っていくうちに誰かの曲になっていく感じもすごく嬉しくて。同じ歌を歌っていても、公演毎にみんなの思いも違うカタチで伝わってくるので、その日だけのスペシャルなものになっている感じがして、それはコンサートならではだなと思いながら歌っています。その日だけのスペシャルがそこにあって、私はいつでも心で歌っているので、どこでも変わらずウキウキワクワクで来てくれたら嬉しいです。

――朝倉さん、私の中ですごく元気というイメージが強くて、それがコンサートにも出ていますよね。落ち込んでいる姿が想像できないですから。

 いやいや、めちゃくちゃ泣きますよ。落ち込んで泣くけど、それをすべて曲にしているから、立ち上がれるのかもしれないです。あと、飼っているハムスターのおせちがずっと私を見てくれていることも頑張れるきっかけになっています。『大開幕』もおせちがいてくれたから、もう一度笑顔になれるような作品にできたと思います。ブックレットの“Animal Thanks”におせちの名前が入っているので、良かったらクレジットまで見てもらえたら嬉しいです。

――最後にファンの方へメッセージをお願いします。

 初めて私を知ってくださった方は、これまでの歴史というよりは今の私を見て何かを感じてくださっているなと思いました。ステージから「初めてライブに来てくれた人」と聞いたら、半分ぐらいの人が手を挙げてくださったんです。それを見てしっかり新しい一歩を踏み出せている。また新しい出会いがいろいろなところで生まれているんだと思いました。本当みんなのおかげさまで歌い続けられていますし、大開幕、ありがとさまの気持ちで臨んでいるので、ぜひコンサートにも遊びに来てけろな。

(おわり)

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