INTERVIEW

日南響子

裏方志望も何度も引き戻された女優業「それも私の運命」


記者:鴇田 崇

写真:日南響子

掲載:20年07月17日

読了時間:約5分

 女優、別名義「珠麟-しゅりん-」として楽曲制作・配信など本格的に音楽活動もこなす日南響子が、映画『銃2020』で主演を務めた。本作で日南が演じる主人公・東子(トオコ)は、ある日銃をひろったことで、その銃に翻弄され、運命の歯車が狂っていく。作家・中村文則のデビュー作「銃」(河出書房新社)の映画化で2018年に公開された『銃』の、新たな視点で紡いだ本作は、登場人物の全員が狂気に満ちており、映画というフィールドでなければ成立しないような激しい内容にも注目だ。

 日南にとっては8年ぶりの映画主演であり、「どうなるか不安もありながら、どういう話になるのか楽しみでもありました」という想いで参加したと語る。もともと裏方志望にもかかわらず、何度も引き戻されるようにスポットライトが当たる場所に戻ってくる運命に彼女自身、気づいており、8年ぶりの主演作は、ある種特別な意味を帯びていると言っても間違いではない。「女優業はとにかく数をこなしたいですね。おそらく満足することはないと思う」と意欲を新たにする本人にインタビューした。【取材・撮影=鴇田崇】

『銃2020』場面写真

必死だった

――久々の主演でしたが、率直にオファーの時はどういう心境でしたか?

 それまでは事務所がわたしを女優として売るために、主演という舞台を用意してくださっていたと思うんです。それが初めてそうではないところでの主演というオファーだったので、挑戦する上での心構えや緊張感なるものが、いつもとはまったく違いましたね。主演にしてみたけれど、ちょっと違ったと思われても嫌ですし、今回は意味合いが違いました。

――期待と不安が入り混じるような感覚でしょうか。

 8年ぶりの主演と言うこともあり、どうなるか不安もありながら、どういう話になるのか楽しみでもありました。前作であまりにも高く評価していただいたので、その期待値を超えていかないといけない。みんなこのプレッシャーに耐えているのかとも思いながら、頑張らないとと思いました。

――まるで初心に戻ったような?

 10代のピュアな感じでやっている歳じゃないというか(笑)、しっかりしないといけない年齢に入っているので、8年ぶりの主演はチャンスじゃないですけれど、この仕事をモノにしなければいけないという思いで受けましたので、ずっと台本を読み込みましたし、必死でしたね。

『銃2020』場面写真

『銃2020』場面写真

昔の「自分」に似ていた

――演じられた東子ですが、どのようなリクエストがありましたか?

 監督は、前作との連続性を強く意識されていましたね。それは東子の髪型をはじめ、衣装にしても前作のトオルにかぶしていこうとなされていました。

――今回は共演陣も豪華ですよね。

 大先輩たちとご一緒させていただいて、みなさんが東子を輝かすために尽力してくださったので、本当にありがたく思います。みなさん全員プロフェッショナルなので、撮影現場では役に入っていらっしゃいますし、こちらが委縮してしまうのではなくて、自然とそれぞれの関係性をちゃんと築いてくださったので、それはやりやすかったです。

――その東子なのですが、日南さん自身とリンクするような説得力あるキャラクターに見えましたが、この点どう思いますか?

 確かに近かったですね。昔の自分に似ていると思いました。おそらく当てて書いていただいているとは思うのですが、ものすごく的確で、わたしの今までを見ているのかと思うほど、びっくりしました。施設に入ったことはないですし、家庭環境も異なるのですが、弟ばっかり、姉ばっかりと思うことって、絶対あると思うんです。

 わたしの場合も歌を歌ったり絵を描いたりする仕事を弟が見ていて、それがほめられたりすると、彼は自信をなくして落ち込んでしまうような時期があって。これは一歩間違えば、誰もがなり得る話ではありますよね。それと小さい頃から仕事をしていたので、大人の嫌な部分も見てしまう。表に出ている仕事をしていたので学校では仲間に入れないとか、人間不信にちょっとなりかけた時期があって、そうなった時に東子が自分がいやすい空間、自分を守る、自分を肯定する居場所を作っているというところが、当時のわたしと同じで。その共通点の数々にも驚かされましたね。

『銃2020』場面写真

数をこなしたい

――ところで、もともと音楽活動が芸能活動の最初のきっかけだったと思いますが、最近“再始動”されたそうですね。

 そうですね。6年間くらい音楽活動をしていますが、また始めたというところです。いまネットフリックスで配信中のドラマの4話目で「さよならミッドナイト」を担当させていただいたので、そのプロモーションをやろうと思っていた矢先にコロナで身動きがとれなくなってしまいました。

――今後の展望はいかがですか?

 女優業はとにかく数をこなしたいですね。おそらく満足することはないと思うのですが、ほぼいまはリハビリ期間みたいなところがあるんです。もともと裏方でいたい性分なので、わたしが表に出ていいものかという葛藤とともに挑戦していることが多いんです。でも、見てもらわないといけない仕事なので、そこの気持ちの切り替えをしないといけないと思いながら今は仕事しています。

――裏方志望とは意外でした。

 実はそうなんです。でも、何度も何度も女優業に引き戻されていて、それもわたしの運命なのだと思うし、そうやって呼び戻されている間は、やらなくちゃいけないとも思っています。やらなくてはいけないではなくて、わたしにはこれしかないと思えるようになるために、いろいろ探ったりしているところではありますね。

――不思議ですよね。一度や二度じゃないわけですからね。

 普通だったら、戻ってきても居場所はないし、戻ってこれない世界だと思うんです。そんなに甘くはないですよね。それでも引き戻されてくるので、その意味を知りたくなりました。ファンの方にも突っ込まれるんです(笑)。ですが、ただただ、ありがたいことだと思っています。

――その戻ってきた今の姿が、この映画の中にあるわけですよね!

 出てくる人たちが全員クレイジーです(笑)。最近では、なかなかこんな映画はないのでは、と思うほどです。お芝居をする上で大事に想っていた東子のバックグラウンドじゃないですが、そういうものがスクリーン上ににじみ出ていてほしいという願いはあるので、その重みを持って帰ってほしいです。

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