INTERVIEW

広瀬香美

「安心安全の広瀬香美!」ハッピーになれる曲を!新たな挑戦「プレミアムワールド」


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:23年03月09日

読了時間:約8分

 広瀬香美が昨年11月にリリースした楽曲「プレミアムワールド」が、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の日本版イメージソングに起用されている。製作・配給スタジオ「A24」の最新作。「マルチバース」と「カンフー」が融合したカオスな世界観で繰り広げられる壮大な物語で、アカデミー賞では作品賞を含む10部門11ノミネートされている。この「プレミアムワールド」はデビュー30周年を記念して作られた楽曲だが、広瀬香美を連想させるようなこれまでの曲調とは一線を画す。そこに秘められた思いとは。また30年前に一世を風靡した「ロマンスの神様」は時を超えていま若年層の間で再びブームになっている。こうした反響をどう捉えているのか。【取材・撮影=木村武雄】

今後の作品作りに影響も

――歌の魅力は、感情や描写などを伝えることが出来る圧倒的な情報量を備えていることとの趣旨を話していましたが、今回の作品も情報量が多く、その魅力は何だと思いますか?

 今話題のメタバースの世界。時空を超えていろいろな時代やいろいろな世界に行ける。そしてミシェール・ヨーさんが演じるエヴリンが七変化、いや十変化、二十変化と変わられる。それを一つの作品に線のように繋ぐのが私の楽曲制作に似ていると思いました。繋ぎ目が分かるんです。繋ぎ目がプチプチと切れていたら一つの作品としてハマりませんし、あれだけのいろいろなパーツをよくぞあんなにも綺麗に詰め込んで一つの作品にしたなと感動し、感銘を受けました。今後の私の作品作りにも影響が出ると思います。

一線を画す新曲、詰めた30年の成長

――その楽曲制作で言えば、日本版イメージソングに起用された「プレミアムワールド」はこれまでにない曲調ですが、何か心境の変化みたいなものはあったんですか?

 デビュー30周年の新曲を作るという事で、スタッフとどんな作品にしようかと話し合った時に、スタッフの大半は「節目なので感謝の気持ちをバラードで歌った方がいいんじゃないか」と言って。でもなんか面白くないなと思う自分がいて、それって広瀬香美らしくないんじゃないかと。「今流行っていることは何だろう?」という所から始まり、TikTokやK‐POPが流行っていることから見てもやっぱりダンスなんだよなって。それならそれをやるか!って。でも本当にカオスで(笑)。ダンスも詰め込む、K-POPもやる、TikTokもやるって一つの作品にするにはどうするの?って(笑)。最初はメロディを作って、それからはまさにこの映画と同じようにパーツパーツを繋ぎ合わせました。苦労はすごくしたんですけど、これを綺麗に繋ぎ合わせることはデビューの時には出来なかったことだなと思って。デビューの時はそれぞれのパーツを一つに繋ぎ合わせるような音楽は出来なかったと思うんです。だから大変でも努力してやってみる甲斐はあると。30年間いろんな楽曲に携わらせて頂いて、これを繋ぎ合わせることによって「私は技術を身に着けて成長したんだ」ということを自分の中で感じることが出来るんじゃないかなと思いました。本当に苦労しましたけど、一つの新しい作品が出来て挑戦して良かったと思っています。

広瀬香美

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原型の半分に

――出来上がったものを聴いてもかなりの“情報量”で、まとめ上げる時に音などを省く引き算の作業も大変だったんじゃないかと思います。アレンジという部分も含めてどうですか?

 おっしゃる通りで、たくさんのパーツがあって「これもやりたい」「あれもやりたい」となって。(両腕を上下に広げて)最初は詞がこれぐらいたくさんあって(両腕を左右に広げ)曲もこれぐらいなっちゃって。自分としては苦労しているから、これで一つの作品だと思って一度プロデューサーに提出したんですけど、次の日に戻ってきたらパッツパツに切られていて(笑)。これをこっちに持ってきて、こうしてって言われて(笑)。「いやー、私めっちゃ積み木を立てて建設して、一個にしたのに何でそんなにパツパツ切るの!」って(笑)デビューの頃のように泣きが入って「2、3日遠出します!」ってちょっと郊外のリゾートに行って頭を空っぽにしてからもう一回チャレンジしました。そういう意味ではデビューの頃、いろんな方にお仕事を教わって作り上げたという作風に似ている感覚はあります。(パーツの)半分以上は半分以下にされました。それであれです(笑)

一人では歌えない

――そうした経緯があったんですね。聴いた時はまさにカオスで誰も歌えないんじゃないかと思うぐらいでした(笑)

 いやホント、歌えないです(笑)。K-POPで4人で歌うことをテーマにしていたので、歌のパートが全部重なっているんです。(歌割が4人分あるように作ったので)歌うパートと歌わないパートがあって一人では全部は歌えないです。

――こうした楽曲が作れたということは、これまでのカバーや楽曲制作の積み重ねがあった、いわばいろんな音楽を経由し吸収してきたからこそとも言えそうですね。

 そうですね。YouTubeでも披露していますけど、人のいいなと思った楽曲を取り入れて、自分なりに解釈して「こんなふうにいいんだよね」って自分で演奏してアウトプットするのが昔から大好きで。そういうことをずっと繰り返してきましたから、そういった蓄積が今回の「プレミアムワールド」という楽曲で、私の新しい部分を見せてくれたんだなと思って。記念すべき30周年の集大成。そして幕開けの楽曲になっていると思います。

広瀬香美

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音楽活動30年、一言で

――広瀬さんは過去に「歌は時を超えられる、気持ちを入れ替えることができる」とおっしゃっていましたが、今回の「エブエブ」はまさに時を超えているわけで。「ロマンスの神様」から30年。一言でいうとこの30年はどういうものでしたか。

 まさに「プレミアムワールド」ね(笑)。人生は想定外の連続で、想像していた通りの明日は来ない。振り返ってみると私は今の自分を想定していなくて。それは私だけじゃなくて地球上のみなさん全員がそうなんだろうなって思うんです。想定外を予測しながら楽しみながら、そして夢を見ながら。自分も想像していない全然違う未来が必ず待っているんだという事を教わっています。

ポジティブに歌える天才

――ところでご自身は「マイナー調やネガティブな曲もポジティブに歌える天才」という趣旨の事も話されていましたが、それは幼少期の体験が影響されていますか?

 音楽漬けというか音楽しかやらせてもらえなかったというか、音楽が得意だったから親も先生達も一心に音楽家として導いたと思うんです。でも思春期は「音楽家になりたくない」「ピアノの練習をしたくない」と反抗をたくさんしてきました。だからこそこの道は想定外ですが続けてきて良かったという気持ちもあります。

――絶対音感があって空気の音が和音に聴こえ、幼少期はその絶対音感があるがゆえに誤解されて友達と馴染めずに控えめな性格になったという趣旨も話されていました。

 つらい時期もずいぶんありました。その時期はつらかったけど、今振り返ってみるとそのときの苦労のおかげで、そのときの礎が今の私を作っていると思えば、想定外の気持ちになれるんだなっていうことはみなさんに伝えていきたいという気持ちはあります。

――歌の魅力が情報量でしたら、人の魅力ももしかしたらそういう経験の積み重ねという情報量の多さかもしれないですね。今、悩んでいる人がいたらどう声をかけてあげたいですか?

 メタバースもあるよって(笑)。そこに頑張ってとどまっている必要はなくて、昔と今は違って、場所を変えたり友達を変えたりということが簡単にできるから、その術を使ったほうがいいと思います。そこで苦しんでいる必要はないし。私が友達になってあげたい。

広瀬香美

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時空を超えた「ロマンスの神様」

――優しいお言葉ですね。今小学生が「ロマンスの神様」を聴きながら歌っている現象が起きていて、時を超えて再び聴かれるというのはどうですか?

 いーや、言葉では言い表せないです。「ロマンスの神様」という曲があのとき流行って、また何十年か後にこのようになるなんて思ってもなかったので。それもぜんぜん違う層の子供たちに刺さっているというのはどういう事なんだろうと思いながらも感謝の気持ちでいっぱいです。そしてこれをみなさんに届けていきたいです。「安心安全広瀬香美!」(笑)。よく娘さんが「『ロマンスの神様』っていう曲いいよ」ってお父さんに言うと、「いいんじゃない!」っていう。YouTube界のヒカキンみたいな、「安心安全広瀬香美」ということを打ち出して、聴いていたら「ハッピーになるよ!」って、お父様お母様が子供たちに教えられるようなそういう音楽を追求して、元気勇気やる気が出るような音楽を世界中のみなさんにお伝えしていけるよう続けていきたいと思います。

もっともっと刺激的なものと

――今後のテーマは「チャレンジ」とも話されていました。楽曲というところで言うとどういったものが見えますか。

 今回はK-POPを混ぜました。私みたいに何十年も作風が確立している人は、打ち壊すくらいの何か刺激がないと壊れないんですよ。「プレミアムワールド」を聴き直してみると、混ぜたつもり、入れ替えたつもりでもやはり私の作品なんですよね。なので、もっともっと刺激的なものとコラボしたり、刺激的なものと混ぜ合わせたりして、自分だけで作るんじゃなくて、人と一緒に作るということに挑戦していきたいと思っています。聴いたことがないような楽器とか、ぜんぜん違う世界の民族楽器の方とか、自分とは普通に生きていたら巡り合わないような音楽をされる方とかと一緒に音楽を作っていくということに挑戦していきたいと思っています。

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(おわり)

『映画エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は絶賛公開!
公式サイト:https://gaga.ne.jp/eeaao/ 
配給:ギャガ  © 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

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