平川美香「人生は何度だってやり直しは出来る」“平川のおじさん”で見えた景色
INTERVIEW

平川のおじさん


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年04月24日

読了時間:約12分

 “平川のおじさん”という名で活動している歌手がいる。平川美香だ。名の通り、おじさんの容姿になって歌っている。しかし、ひとたび歌えばその姿から想像もできない、歌唱力で聴くものを引き込む。沖縄うるま市出身でHY・仲宗根泉とは従姉妹。過去にはユニットを組んだこともある。しかし、なぜ彼女は“おじさん”の格好をして活動しているのか。そこには秘めた思いがあった。【取材=村上順一】

バッシングもあった平川のおじさん

「平川のおじさんです。」ジャケ写

――ポジティブな方に見えますが、過去には心が折れたこともあったみたいですね。

 まだ、“平川のおじさん”をやる前、お金もなくてその辺の草をむしって、それを自分で打ったうどんに練り込んで食べていた時代がありました。そのなか、ある事務所と契約出来ることになったんです。でも、「HYの従姉妹」と表記出来る許可が取れれば、すぐにデビュー出来るという条件付きのものでした。でも、HYからは許可が下りなくて「平川美香として頑張って」と、(仲宗根)泉に背中を押されました。その旨を事務所に伝えたら2秒で断られまして…。最初は歌もすごく褒めて下さっていたので、それがなくても大丈夫かなと思ったんですけど、結果はダメで…。渋谷のハチ公前の改札のところで号泣しました。もう沖縄に帰ろうと思いました。それが人生で一番の挫折でした。

――それはショックですよね…。

 でも、そのタイミングで半身麻痺になってしまった友人から電話が来て。それはリハビリが辛いという内容で、半身麻痺ということもあり辿々しい口調で「美香の歌を聴いたら頑張れるから」と言ってくれて…。私はその時に泣きながら歌いました。2月の寒い日でしたが、こんなに胸が熱く震えのるかというくらい熱くなって、まだまだやれることがあるんじゃないかとその時に思いました。

――考え方が変わったんですね。

 友人の言葉を聞いて、私は歌がダメだと言われただけで、なんでこんなにクヨクヨしているんだと思えて。その中で誰もやっていないことをやってみよう、オーディションなどでは誰にも見てもらえないなら、セルフプロデュースで見てもらえるように頑張ろうと思いました。

――そこから立ち直って、平川のおじさんとしての活動が始まるわけですが、おじさんというキャラが生まれたきっかけは?

 もともとプライベートで、みんなを笑わせるためにおじさんの格好をしました。ある日、江ノ島に行くことになったんですけど、沖縄では海に入るときにビキニなど露出の多い水着は着ないんです。なので、「どんな格好をして行こうかな?」と考え、海らしい格好ということで釣りをするおじさんをしたのが最初でした。

――でも、バッシングもあったみたいで。

 HYで頑張っている泉と(名嘉)俊が身内にいたので、それを見ていた家族も私のおじさんというスタイルが、ふざけてやっているようにしか見えなかったみたいです。泉からも「おじさんである必要があるの?」と言われたこともありましたし、アーティスト仲間にも歌を馬鹿にしてるのかと言われたこともありました。私は歌を届けたいと思って「プライドを持っておじさんの格好をしています」と話しても、なかなか理解されるのは難しくて。でも、初めて見る人に対してはすごくキャッチーなんです。歌とおじさんとのギャップで「なんだあいつ」と思ってもらえるようになって、徐々に広まっていきました。

 でも、最初の1、2年は賛否両論でした。でも、自分は諦めないでおじさんで歌を歌い続ける姿を見て、母も応援してくれるようになりましたし、諦めないでやり続けるというのは大事で、人の意見で辞めてしまったらダメだなと思いました。責任を持つこと、それは私にとっておじさんをやり続けるということなんです。

――その友人の方がいなかったら、今の平川さんはいないわけで。もし、歌を辞めて沖縄に帰っていたら何をしていたと思いますか。

 なんだろう? もともと教師をしていたので、先生かな。そこでバスケを教えたりとか。沖縄でライブをすると、その友人とお母さんが観に来てくれるんです。今でもその友人に会うと泣きそうになります。この子がいなかったら、今歌えていなかったという感謝があります。

――ちなみにおじさんのモチーフやロールモデルはあったのでしょうか。

 沖縄に川満シェンシェー(川満 聡)というタレントさんがいるんですけど、その方のイメージがどこかにあったのかなと思います。私が思うおじさんのイメージは川満シェンシェーなんです。

――それから4年ほど経ちましたが、これは失敗したなと思ったところはありましたか。

 やっぱり女性がやっているということもあって、たまにオネエっぽい感じなってしまうんです。「設定がブレてるよね」と、そこは多々指摘されるところです。でも、みんなが可愛いと言ってくれるので、そうなっちゃうんですけど(笑)。

――でも、それが武器になっていますからね。さて、昨年はミニアルバム『平川のおじさんです。』をリリーされましたが、反響はいかがでしたか?

 作品を出すのが初めてだったので、みんなが手にとってくれて嬉しかったです。面白かったのが、CDショップに買いに行ってくれた知り合いがいたんですけど、「平川美香の『平川のおじさんです。』を下さい」と店員さんに尋ねたらしいんです。店員さんが「アルバム名は何ですか」と尋ねてきて、知り合いが「平川のおじさんです。」と答えたら、また店員さんが「アーティスト名ではなくアルバム名はなんですか」、その答えに知り合いが「平川のおじさんです。」と、押し問答になったみたいで(笑)。

――ややこしいですからね(笑)。

 そうなんです(笑)。あと嬉しかったのは、私はショッピングモールなどでライブをすることも多いんですけど、その時に初めて私を知ってくれる方も多いんです。その中で3、4歳のお子さんとお母様が来てくれて、その子が自分のお年玉で私のCDを買いたいと言ってくれたのが、涙が出るくらい嬉しかったです。それは、おじさんだから足を止めてくれたというのもあったと思うので。

――自分でお金を出して買った初めてのCDは記憶に残りますよね。『平川のおじさんです。』はサンバからバラードまで音楽の振り幅がすごいですよね。

 よくジャンルは何? と聞かれるんですけど、自分自身がジャンルだと思って歌っています。曲を作るときは適当な英語でゴスペルみたいな感じで作ることが多いんです。なので根本にはそういった音楽があるのかなとは思います。

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