INTERVIEW

宮藤官九郎

「自分を試す場所に」「自分を試す場所に」ウーマンリブシリーズに臨む姿勢


記者:村上順一

写真:

掲載:23年03月25日

読了時間:約10分

 宮藤官九郎が作・演出を手掛けるウーマンリブvol.15『もうがまんできない』が、4月14日より東京・本多劇場で上演される。同作はもともとウーマンリブvol.14『もうがまんできない』として2020年に上演される予定だったが、コロナ禍により有観客での公演は中止。舞台を収録しWOWOWで放送されるという、これまでとは違ったカタチの公演となった。3年の時を経て、仲野太賀や永山絢斗ら新たなキャストと共に上演される『もうがまんできない』は、訳ありな人々がたまたま出会い、ワンシチュエーションで交差し、ノンストップで駆け抜ける物語。街の一角を舞台に人々の想いが交錯するノンストップ痛快作。インタビューでは、「やっぱりお客さんがいないとダメ」だと語る宮藤に、同作の再演にかける想いから、ワンシチュエーション作品の醍醐味、いま追求していることを聞いた。【取材=村上順一】

皆さんにウケるかウケないかを試したい

宮藤官九郎

――3年前、この作品を作るきっかけとなった着想は?

 色んなものが集まってのことなのですが、最初はシチュエーションのような気がしています。スマホのゲームアプリ、『ポケモン GO』なんですけど、そのゲームのために街に集まってきた人たちを見て、最初はなぜそこに集まっているのか疑問でした。そこからドラマが生まれて、屋上を舞台にしたら面白いなと思って。大河ドラマ『いだてん』が終わってからの1作目だったので、ミニマムなところから始めたいと思いました。お笑い芸人とスマホのゲームユーザーを重ねて、日常で感じたことが一つの作品になったということだと思います。

――3年前に上演予定だったものが中止になって、収録となったときのお気持ちは?

 全国的にイベントが中止になって、自分だけではなくみんな急に(娯楽を)とり上げられたという感じだったんですけど、収録だったらやれるんじゃないかとなって。WOWOWさんが協力してくださって、だいぶ落ち着いてから収録しました。

 稽古で完成したものお客さんがいないところで上演してみて、やっぱりお客さんがいないとダメなんだと思いました。収録はドラマみたいな撮り方をしたので、いま思えばそれも貴重な映像になったと思います。でも、舞台でお客さんの前でやることを前提に作ったものなので、「やっぱり生でやらないとダメだ」と再確認したような公演で、お客さんの笑い声や反応で作品は完成するんだと思いました。

――この作品の出来栄えはいかがでした?

 お客さんがいる中でやれていないので、点数はつけられないんです。稽古は冷静に完成度を高めていく作業ではあるけど、お客さんの反応があったことで突き動かされていくものなので、映像作品としてはともかく、舞台作品とは思えない。たとえ一回も笑わないお客さんだったとしてもいてほしいくらいで、僕は一体何のためにやっているんだと思いましたから。芝居の完成度が上がれば上がるほど、その思いが強くなった気がしています。終わった後に阿部(サダヲ)君や荒川(良々)君が「ちゃんとお客さんの前でやらないとダメですね」と言っていて、僕も「そうだよな」と思いました。何も返ってきていない感じが体感としてあって、お客さんにウケるということが少なからず大きな要因なんです。

――前回からの大きな変化は?

 やっぱりキャストが変わることが一番大きいです。脚本を書き直すつもりはなかったけど、(仲野)太賀君と(永山)絢斗君が入ることで、2人が演じるお笑いコンビのネタは、今の時代のお客さんの気分を考えると変わると思います。そこが変わるとお芝居全体にも影響してくるので、自然と変わってくる部分もあると思います。お客さんの前でやっていないので、あまり物語自体はいじらない方がいいと思っていて、この作品が皆さんにウケるかウケないかを試したいんです。

――新たに参加されるキャストの印象はいかがですか。

 太賀くんの役は、僕自身が反映されていて、客観的に見たらこんな嫌なところ自分にはあるよなって(笑)。この役は青臭い考え方を持っている役だと思うので、くすぶっている芸人設定だし、若い方がいいかなと思い、太賀君にお願いをしました。太賀くんはナーバスなお芝居がとても良い感じで、可愛げもあり暗くならないのが魅力です。

――永山絢斗さんはいかがですか?

 太賀くんに合わせて相方を考えたときに、絢斗君と一回お芝居をやって、力一杯バカなことをやってくれるところが凄く好きなんです。この役の、黙っていればいい男に見えるけど、喋ると途端に馬鹿っぽく見える感じは、絢斗君が良いんじゃないかなと思いました。

――そして、皆川猿時さん。

 松尾スズキさんの代わりは、もう皆川君しかいないと思いました。皆川君とは、『大パルコ人』や『ロミオとジュリエット』をやっていたから、3年前の『もうがまんできない』はお休みしてもらったんです。でも、今回松尾スズキさんが参加できないとなって、これはもう皆川君しかいないんじゃないかなと思いました。改めて考えると皆川君は僕と同い年、50代半ばで父親として哀愁がある役をやるのも悪くないんじゃないかなって。

全部ウケるようになったらやる意味がなくなる

ウーマンリブvol.15『もうがまんできない』

――ワンシチュエーションの舞台ですが、その魅力、そして難しさというのはどこにあると思いますか。

 僕は制約はない方が好きなんですけど、世の方々は制約の上に成り立っている僕の作品を褒めてくれるので、制約があった方が良いのか、ない方がいいのかよくわからなくなってきてます(笑)。ワンシチュエーションで時間経過もなく、脚本を書くのはすごくしんどいんですけど、やってみるとそんなに嫌じゃなくて。ワンシチュエーションは場面転換や演出の工夫ができないので、会話とかで何かしら動いていないともたない。大変ではあるのですが、出来上がった作品は毎日やっても不思議と飽きないんです。ギミックがないので、その時の調子がダイレクトに出ます。セリフに頼るところも多いですし、間など役者に掛かる負担も大きい。今回2時間弱のお芝居ですけど、飽きないというのは、役者として凄く好きなカタチです。スケールを広げるのも好きなんですけど、最近の傾向として長い芝居が多いなと感じてますが、僕が演出するウーマンリブシリーズは、コンパクトになるといいなと思っています。

――3時間以上となるとまた変わってきますか?

 そうじゃなければできない表現というのも絶対にあると思うので否定はしません。ただ、自分がやるときに舞台で3時間もある脚本は、なかなか作れないんじゃないかなと思います。というのも、『ウーマンリブ』に関してはなるべくチケット代を抑えたくて、カジュアルに観に行けるものとしてありたいと思っているからなんです。

――若い方にも観てもらいやすいです。

 どんどんお芝居の敷居が高くなっていく一方なので、なるべく気楽に観に行ける公演にしたくて。そういうところで試したこととか、後に映像作品とかで活かされることもすごく多いんです。例えば、舞台でご一緒した役者さんに映像作品に出ていただいたり、太賀君と絢斗君は逆で、映像の現場が先だったりするのですが、循環していくという意味合いもあります。興行だからしっかりやらないといけないのですが、自分を試す場所にもなっています。

――お客さんの前でやる醍醐味は?

 「あれ? ここでお客さんは笑わないんだ」とか、そういうのもあったりするところです。稽古場でウケるところが本番ではちょっと違うところが好きなんです。これが稽古と同じところでお客さんが全部ウケるようになったらやる意味がなくなるんじゃないかなと思っていて、そこは永遠にズレていてほしいところです。伝わらなかったことが次の作品への原動力になっています。特に『ウーマンリブ』はダメな自分を出せるところといいますか、荒削りなものを面白がる場なのかなと思っています。

健康になりたいという気持ちに我慢できない

宮藤官九郎

――再演が苦手とのことなのですが、それはなぜですか。

 『熊沢パンキース03』を再演して、難しいと一度思ってしまったから、再演はやらなくなってしまったんです。『熊沢パンキース03』は凄く気に入っていた作品で、公演期間が短かったこともあって、観れなかった人もいたので、もう一回やりたいと思って。再演するにあたって改めて脚本を見直したりするとダメなところしか見えてこなかったのも理由です。なんか過去の自分を否定して前に進んでいるような気がするんです。あれがダメだったからもっと面白くしなければダメだとか。僕は皆さんに褒められたり、成績が良かったものは印象に残らないという損な性格なんだなと思います。良かったからもう一回やろうという感覚になかなかなれない。凄くもったいないなとは思うんですけど。

――ここまでのお話を聞いていて、破壊と再生みたいな感覚がありました。宮藤さんは破壊と再生、どう考えられていますか。

 僕は形にしては壊すということをずっとやっています。特に芝居は終わったら何も残らないものだから。まるっきりその人たちがそこに集まることなんかないわけで、今回もそうですし、いずれなくなるものだというところがあります。それを30年以上やってると、 完成するということが怖いといいますか。自分で作ったものを自分で壊さないと先がないと思っていて、残らないものにすごくいいなと思う部分はあります。

――今回の再演は音楽で例えると、過去の曲を新録するような感覚もあります。同じ曲を今の自分たちで作り直すというのが、すごく近い感覚もあるのかなと思いました。

 グループ魂で『グループ魂のGOLDEN BETTER ~ベスト盤じゃないです、そんないいもんじゃないです、でも、ぜんぶ録り直しましたがいかがですか?~』を出す時に「ベストアルバムっていうほどのものじゃないから、 これは“ベターアルバム”なんじゃないか」と思い、全部録り直しことがありました(笑)。ベストアルバムって、基本的には人に頼まれて作るものだと思うので、自分たちでやるんだったら 今の状態でやり直した方がいいだろうと思って録り直したんですよね。でも、キーを落としてたりすると、みんながっかりするじゃないですか。

――その傾向はあります。

 ファンって意外と保守的なんです。過去のものはそのままの方が良かったという。 ただ、それを僕らが「そうでしょ」と言ってはいけないような気がして。今のテクニックで演奏したら、もしくは演じたらこうなる、今見せられるのはこれしかないというのが大事なんじゃないかなと思います。「変わってませんよ」と言うのは簡単だけど、先に行ってない感じがして。変わっちゃってますけど、という方が僕は健全な気がしています。

――この3年間を経て、ご自身の変化はありますか。

 がまんできないという芝居を作ろうとしてるのに、こんなこと言うと変ですが、がまん強くなったような気はします(笑)。逆に我慢できないところはより強固になってます。それ以外は「もういいよ。こんなことで腹立ててもしょうがない」と思うようになったから、 その違いはあるかもしれないです。

――1番我慢できないことは?

 健康になりたいという気持ちが我慢できない、抑えきれないです(笑)。普段からランニングをしているんですけど、ロケ中なんかは朝早いから走らなくてもいいんだけど、健康じゃなくなるのが嫌で、ついつい走ってしまうんです。 他のスタッフに走ってるところを見られたくないから、どんどん早起きするようになってしまって。でも結局バレて「朝から走ってるらしいですね」と言われた時は恥ずかしくて(笑)。それは、まだまだやりたいことがあるあるから、 ちょっとでも長生きしたいという気持ちの表れなんですけどね。

――そんな宮藤さんが追求してること、探求していることはなんでしょうか。

 釣りかな。これまでこれといった趣味がなくて、全部仕事に吸収されていって、本当の趣味と呼べるものがなかったんです。釣りを始めたのですが、これは絶対に仕事にならないというものがすごく貴重だなと思っています。でも、早く釣りの仕事が来ないかなって思っている部分もあって、いろんなところで釣りのことを小出しにしているんですけど(笑)。

――(笑)。

 気がつくと釣りの動画とか見ているんです。撮影現場でも、釣りをやっている役者さんに会うと「釣り、やってるんですよね」とか話しかけて、「今度一緒に行きましょう」なんて言うと、もうドキドキしちゃって。「やばい俺、本当に釣りの人になっちゃう」みたいな(笑)。なので、気がつくと探求しているのは釣りです。

――この記事を見た方が釣りに誘ってくださるといいですね。最後に、この舞台を楽しみにされている方に一言お願いします。

 パワーアップしたものを見せられると思います。つらい現実を忘れるために、フィクションを楽しむ演劇もあると思うんですけど、今作は「あなたたち、こういうところありますよ。私たち、こう見えてますよ」と鋭い切り口ではないけれど、そういうところを突きつけるようなつもりで書いていたので、ヒリヒリする演劇体験になってほしいなと思います。

(おわり)

公演概要

ウーマンリブvol.15『もうがまんできない』

【東京】2023年4月14日(金)~5月14日(日) 本多劇場
【大阪】2023年5月18日(木)~31日(水)サンケイホールブリーゼ
【作・演出】 宮藤官九郎
【出演】阿部サダヲ 仲野太賀 永山絢斗 皆川猿時 荒川良々 宮崎吐夢 平岩紙 
少路勇介 中井千聖 宮藤官九郎
【公式HP】 https://otonakeikaku.net/stage/3078/

ウーマンリブvol.15『もうがまんできない』

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