俳優・安藤政信が、短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season1』(17日公開)の一編『さくら、』で監督を務めた。自身演じる友人Aの死を引き金に、主人公(山田孝之)とAの恋人(森川葵)の男女3人の友情がゆがんでいくさまを描く。日が暮れる夕日の中間色に魅力を感じるという安藤は本作では感情のグラデーションを表現した。芸術的感性が全面に表れた本作。どのように臨んだのか。そして「人間嫌い」という発言の真意とは。【取材・撮影=木村武雄】
人間好きの裏返しが人間嫌い
――劇中で使われる音楽もかっこいいですね。あれはビオラか何かの逆再生ですか?
音楽は、KM/Brodinski & Modulawがやってくれました。ラマ教の御経をイメージして作りたかったんですよ。それをお願いしました。
――不協和音というのは、今回の映画では大事だったんですか。
感情と感情と感情のもつれ。亡くなった友人Aを埋葬するような感じとか。そういう事を表現する上でも不協和音は必要でした。
――作品の捉え方は観る人の自由だと思いますが、何を思いどう描こうと思ったのか。伝えたかった事はなんですか。
人間の感情で、愛するという事、求めるという事、倫理を超えるという事。分かっていても踏み外すという事。その中に罪と罰があり、結局人間というのは分からない生きものという事を散りばめた感じです。
――それはもともと思っていたものをこの作品で表現した感じですか?
これからもし映像を撮れるとしたら、人と人の求め合う感情や快楽、異性を求める肌の質感、匂いを嗅ぐ、嘆く事、喜ぶ事。そういう事をずっと描き続けたいなと思っているんです。
――若い頃は「人間なんてクソくらえ」と言っていたのに、人間に興味があるのは不思議ですね。
今もガンガン言っていますよ。「クソ野郎ー!」って(笑)。俺は人間を好きじゃないって、いつもどこでも言っているんですよ。来世は猫になりたいって。まあ、冗談で言っているんですけど。だけど、人間にもすごく興味を持って、人間に惹かれている。だから疲れるんだと思うし、真剣に考えて見ているから、本当に面倒くさいなこの野郎みたいな感じになると思うんですよ。いい加減に接したくないから。
――ピュアで真面目なんですね。
真面目です。俺は人に興味を持って、人の感情に興味を持って、どうしてなんだろうとずっと考えているんですよ。だからそういう言葉になるんじゃないですかね。まったく人間に関して不干渉で、興味がなかったら、そういう言葉は出てこないと思う。
――それは昔からですか?
昔から、人に対してはずっと一緒です。
感情のグラデーション
――人間の魅力って何だと思いますか。
朝日と夕日、その紫とそのオレンジの変化していく繊細なグラデーションって美しいじゃないですか。すぐ消えちゃうし、でもまた現れて同じループで繰り返していくというのが、人間の関係ってなんかそういう感じなのかなって。感情の中に、本当に生きているからこそ呼吸があって、愛しむということや、欲するという事、快楽だったり、そういうことのグラデーションの中で、ずっと水の綺麗なきらめきのようにそう動いていると思うんですよ。
――赤青黄という原色ではなく、変化していく過程の中間色に魅力を感じるんですね。
そうなんです。赤は赤なんですけど、赤と青、赤と白の単色と単色が混じり合って、綺麗な紫になったり、桜色になったり。そういう事を俺はちゃんと入れているんです。赤という単色の中でも、色々なグラデーションの赤があって、それが感情だったり、怒り、警戒色だったり、赤でも色んな感情があるじゃないですか。それなんです。一個じゃないんですよね。
――この人は悲しい、この人は怒っている。でもこれが混ざりあう瞬間があって、それが紫になっている場合もあるということですね。今回の映画はそれを表現している部分があると。森川葵さんが演じる恋人が理性で押し殺している感情が爆発するあの瞬間は危険であり、面白いと思いました。
自分の感情の中でここまで抑えて、こういうふうにここで爆発してとか、彼女はそこも計算であって、女性のすごさと懐の多さで、本当は死のうと計算しているんです。あのシーンで葵演じるさくらは、主人公に自分を殺めて欲しいという願いで怒りをぶつけているものの、一方の主人公は、彼女が友人A(安藤政信)を追って死のうとしていることを察している。主人公はそれがわかるから、殺そうとせずに部屋を出ていくんです。そしてこのシーンでこだわったもうひとつの部分は、友人Aとのシーンで彼の手を握っていたさくらが、主人公の手は握っていないというところ。肉体と精神的な繋がりもちゃんと計算しているんです。それは葵にもちゃんと伝えています。
――パラレルワールドのような世界観もあって。今のお話しですと肉体と精神では別の世界があるということですか?
別々だったりもするし、一緒だったりもする。それが混じり合ったり離れたり、離れたり混じり合ったり。それが結局は一つになったりする。
――それは安藤さんが惹かれるグラデーションもそこに?
俺の中ではそういうことなんです。
――そう振り返ると、あの不協和音も映像と混ざることによってまた捉え方は変わってきますね。
不協和音から入っていって、自分なりにきちんと計算して、こういうイメージでって言う事はちゃんと音楽監督には伝えました。
孝之と葵には「のめり込んじゃう」
――森川さんと山田さんをキャスティングした理由は。
孝之は、俺はダチ(友達)だと思っているし、大事な奴だし、最高の俳優です。それに、孝之から言われたことだから、俺は孝之を撮りたいってずっと言っていて。孝之の映画を作りたいという事で今回それが実現して。葵に関しては、この作品が三角関係で快楽の話だから、そういう独りの女性を撮りたいと思っていた時に、プロデューサーから推薦されて。葵のことは知っていたけど、彼女が出演している作品を観たことがなかったから、どういう芝居をするのか分かっていなかったんだけど、衣装合わせで会った時に、本当にすごく素敵だった。そこからこの人撮りたいなという事で、どんどん彼女に向かって行ったよね。この2人にはのめり込んじゃいます。
――森川さんの感情の爆発具合がとてつもなくて。それはある程度計算されたんですか。
計算もありましたね。その後、カーテンに行った時の音。あそこもちゃんと計算しています。自分で編集したし、音の入れ方も全部自分のタイミングでやっていったので。
――安藤さんは映画監督であり、クリエイターでもあり、ある種アーティストみたいな感じもします。普段生活の中でどういったものに惹かれますか。
いつも惹かれることは、本当に綺麗事でもロマンチックでもないんだけど、本当に夕日が好きなんですよ。全然嘘じゃないんです。とにかく夕日に惹かれてて、あまりにも綺麗な光を見ると、そこに美しい女性に立ってもらって、叙情的に一枚写真を撮りたいって思うんです。それだけで本当に贅沢なんですよね。
――『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』の舞台挨拶(今年6月)で、これから平手友梨奈さんの大事なシーンを撮るところで「ちょっと待って。写真を撮らせて」という話も出ていました。あれはどういうことだったんですか。
愛しているという事だったんじゃないですか。
――美しいと思ったということですか。
友梨奈は素敵な人だし、『Numero』という雑誌で撮らせてもらったんですけど、感性や表現がとてつもなく素晴らしい人なんですよ。だから写真にしたいと思って、本能的にシャッターを押したくなるんですよ。葵にもそうで、本能的に写真にしたくなる。自分はカメラマンだし。理由はないというか。
山田孝之は信用している
――理由はないということですが、人のどういうところに惹かれるんですか?
惹かれるといったって、結局は人だと思っていて。パーソナルというか、そこに惹かれると思うんです。容姿が綺麗だからといって、人間的な魅力がなければ、自分は惹かれないと思うし。2人(山田孝之、森川葵)とも心が本当に美しいなって思うんです。「例えば?」と言われても言葉は出ないんだけど。でも、一番美しいのは山田孝之なんじゃないですか。孝之は面白いですよ。すごく真っすぐだし、こっちも進みやすいタイプなんですよ。孝之はすごい強い男だし、デリケートだし、本当に魅力的で俺は信用しています。孝之と、板垣李光人はダチだと思っているけど、これでダチじゃなかったら、人間関係って何だったんだって。それこそ人間なんて信じられないってなります(笑)。
――グラデーションが好きで、一つ一つの感情にも着目されていて、今後どのような芸術作品が生まれるか楽しみです。
その感情をずっと描き続けたいと思います。いろんな赤でも絵画だったり、日本画だったりとか、『コード・ブルー』の時は脳外科医の役だったから、麻酔で寝かされて、承諾書を書いて、お互いサインして、麻酔で寝かされた人を手術して、中開けて、悪い所を切除して、閉じて、麻酔が切れるまでというのを2回見たんだよね。体内にある赤は色んな赤があるなと思ったし、血液が骨に重なったときはピンク色で、人間の体全体が色彩豊かで感情的にも豊かなんだと思ったというか。
――「さくら、」にも繋がるような、人間の体はもっと神秘的なものなのかもしれないですね。
顕微鏡で見た世界とか、宇宙で見た世界ってそんなに変わらないなって思うんですよ。だから花を撮る時も、自分が見た脳だったり、体内だったり、体液をイメージしているんだろうなと思う。何かに置き換えてというか。感情と物質そうやって俺は写真撮っていますね。
(おわり)
ヘアメイク:田中美葉
スタイリスト:川谷太一
撮影協力:Fogg Inc.
<衣装>
カットソー ¥17600-
パンツ ¥50600-
ベルト ¥22000-
YOHJI YAMAMOTO/ヨウジヤマモト
問い合わせ先
ヨウジヤマモト プレスルーム
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