INTERVIEW

大西桃香

「黒マスクの美女」の素顔に迫る


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年10月05日

読了時間:約8分

 AKB48の58thシングル「根も葉もRumor」選抜メンバーに、チーム8奈良県代表/チーム4兼任の大西桃香(24)がいる。音楽特番で「黒マスクの美女」と話題を集めた彼女の素顔に迫る。【取材・撮影=木村武雄】

『音楽の日』に出演したAKB48。左奥にいる黒マスク姿が大西桃香(C)AKB48

黒マスクの美女

 7月17日、TBS系音楽番組『音楽の日』で58thシングル「根も葉もRumor」が初披露された。激しいロックダンスを決めるメンバーのなかに黒マスク姿の大西桃香がいた。出演後、「黒マスクの美女は誰?」と話題を集めた。

 「反響は嬉しかったです! もともと私の衣装には黒色の皮マスクが付いていたんです。マスクが大好きなので『これ、付けられるんだ!』って嬉しくて。この衣装はチェーンが付いていたり、腕まくりしているジャケットや色味も含めて私好みで、着られるのが本当に嬉しくて。でもマスクを付けて出演するかは迷っていました。久々の新曲で久々の選抜。少なくとも私のファンの方は顔を見たいだろうなって(笑)」

 最近は歌番組に出演する機会も増え、「興味を持ってもらうため」のインパクトを与えられないか考えていた。そんな時にたまたまあったのが「黒マスク」だった。こう振り返ってみると彼女の半生は、計算ではなく“たまたま”とった行動が良い結果に結びついていることが多い。

大西桃香

朝5時半の女

 幼少期はAKB48に憧れた。

 「『マジすか学園』を見てかっこいいなと思い、AKB48が好きになりました。なかでも推しメンは大島優子さんです!」

 その多くは、ステージ上で歌う姿や明るい表情に憧れを抱くものだが、大西は芝居をしている姿に惹かれた。現在は舞台など役者としても精力的に活動している彼女だが、コンパスの針はこの時すでに役者の道を指していたように思える。

 その後、チーム8のオーディションを受けた。当時15歳だった。

 「AKB48に入りたいとは思っていましたが、オーディションがいつ開催されるかも分からないですし、もし受かっても東京だから無理だろうなと。でも、母に『AKB48 Team 8 全国一斉オーディションがあるよ』と言われ、父は絶対にダメと言うだろうなと思いながらも締め切りギリギリに応募しました」

 合格し、チーム8のメンバーとしてデビューした。しかし、大所帯のグループ、個々に日が当たる機会はそう多くはない。だが大西は「朝5時半の女」として注目を集めることになる。

 AKB48がSHOWROOMでの配信を解禁したタイミングで朝5時半から毎日、配信する試みを行ったのだ。そこに打算的な考えがあったわけではない。

 「ファンの方と交流する機会が少なかったので始めました。当時は握手会も全日程参加するメンバーもいますが、私は1日か2日と少なかったんです。そんな時にSHOWROOMが解禁されて面白そうだなって。やりたいから始めて、気づいたらいろんなところからチャンスを頂けてありがたいです」

自由に

 2017年3月発売のAKB48の47thシングル「シュートサイン」(センター・小嶋陽菜)で初選抜となり、『AKB48 49thシングル 選抜総選挙 × SHOWROOM』では1位を獲得、SHOWROOM選抜として「プライベートサマー」のセンターを務めた。彼女の環境は大きく変わった。

 「ある目的のためにこれを頑張っておこうというよりかは、楽しそうだからやってみようという感じです。もちろんざっくりした目標みたいなものはあります。例えば『写真集を出したい』とか『選抜に入りたい』とか。でもこれをやったらあの仕事に繋がるかもということはあまり考えていないです。楽しいからやっている、そうしたらたくさんの方が応援して下さったという感じです」

 あえて地図は広げず、目の前にある道を歩く。そうした打算的ではない少女のまま大人になった彼女にファンは惹かれているのだろう。

 「親には箱入りに育ててもらいました。好きなことをさせてもらいましたし、否定されたこともありません。ずっと味方でいてくれたから今も自由に好きなように生きられているのかなって思います。そんな私が好きですし、それを受け入れてくれるファンの方にも感謝しています」

責任を持って

 「根も葉もRumor」は、「シュートサイン」以来のシングル選抜入りで、4年ぶりの復帰となる。

 「次のシングルこそは選抜に入りたいと思っていました。でもAKB48単独コンサート(「AKB48単独コンサート〜好きならば好きだと言おう〜」5月23日開催)では外周メンバーになってやっぱり入れないかなと思っていた時に、みんなが集められて急きょ選抜メンバーを発表しますと。次々と呼ばれていき、途中で自分の名前が呼ばれた気がして。ずっと頭は真っ白でした。それからじわじわと実感が湧いてきて、本当に良かったなって」

 嬉しさと同時に別の感情も湧いてきた。選抜入りが発表されたその日、彼女はツイッターに「責任を持って精一杯努力します」と綴った。

 「24歳の自分が入っていいのかなって思いました。同い年や年上の方々もいますが昔から選抜に入っているメンバーなので、私のような立場がいいのかなと。ファンの方は喜んでくれると思いますが、AKB48のファンはどう思うだろうと途中からネガティブになって。でもいまこのタイミングで自分が選抜に入る意味はきっとあるだろうと切り替えるようにして、選抜にいる意味を見つけてそれを出していきたいです」

 小さい頃は控えめで、自分の意見を持たず人に流されるタイプだった。しかし、AKB48を通じて様々な経験を踏み、自分の考えを持つようになった。経験は彼女を変化させ、そして成長させる。今回の選抜入りもまた彼女に大きな影響を与える。

 「今回の選抜入りという経験は自分のなかで大きなものになるんだろうなと思っています。このタイミングで入れたということ、ダンスが難しくメンバーが苦戦する曲での選抜入りは特別な意味合いがある気がします。まだはっきりと分かりませんが、これまでとは違う自分になれそうだなって期待しています」

ここから一問一答。

大西桃香

一生懸命にやってこそ伝わる

――舞台『真・三國無双 ~荊州争奪戦 IF」では小喬を演じました。学びも多かったそうですね。

 今までの舞台と比べ、殺陣やアクションが8割を占めていました。それもあって、立ち止まることも多くて、小喬になったと実感できたのは本公演2日目。でも、演出家の西田大輔さんと、周瑜役の平野良さんに大切なものを教えて頂きました。いろんなことが掴めた、何か答えみたいなものを得た気がしました。

――どのようなことを学んだんですか?

 殺陣が中心だったので失敗してはいけない、迷惑をかけてはいけないというのが頭にありました。でも平野さんが「舞台の上では制約を持ち込まない方がいい」とアドバイスして下さって、稽古場でやってきたものを舞台でやるのはもちろんですが、「舞台で起きたことが正解」だからと。今回の殺陣は舞うように綺麗に見せるものが多くて、普段はステージに立って歌って踊る身なのでいかに綺麗に見せるかというのが体に浸み込んでいました。でも西田さんは「舞台はお披露目会ではない生き様を見せる場。ただ役として一生懸命に生きることが大切」と。お二人のアドバイスを聞き、考え方が変わりました。

――それはAKB48の活動にも活かされますか?

 今回の舞台が乱世の三国志ともあって、登場人物みんなが一生懸命に生きているんです。一生懸命にやっている人を見ると心が動いたり、何かしら感じるものがあると思います。AKB48では、可愛い曲は可愛く、セクシーな時はセクシーに、かっこいい時はかっこよくとそうして見せるのも大事ですが、そこに何か一生懸命さ、生きている姿を見てもらえるようにしたいです。

――初期メンバーががむしゃらにやってきた気持ちを今の世代がどう引き継ぐかが焦点でもあって、それは今年5月のAKB48単独コンサートにも表れていました。

 AKB48は団体戦のように見えますが、全体で見ると個人戦だと私は思っているんです。チーム8は団体戦に近いですが、どうやって上に上がっていこうというのはありました。それでAKB48内ではない外の舞台もそれぞれの事務所から集まってくるので個人戦だと思っていたら、団体戦だったんです。稽古場の空気感や場の空気を和ませたり明るくさせたり、一つの作品を作るために意識を一つにしていく過程がすごく良いなって思えたんです。こういう空気感でAKB48も一つのものを作り上げたらめちゃくちゃ強くなれると思いました。そうしたなかで迎えた単独コンサートでした。実際にやってみたらみんなの思いが一致した感じがあって。私もそう感じていたし、ほかのメンバーもそう言っている人が多くて。それで単独コンサートからの今回の新曲がそれこそ一つの作品を作り上げる感じで。ダンスも難しいですし、いままで一番苦戦した曲。それでも一生懸命、毎日レッスンして、みんなで作り上げた感じがあって、このままの勢いでやっていけたら昔とは違ったAKB48になれると思いました。

――それを経ての「根も葉もRumor」はどういう印象ですか?

 曲調もめちゃくちゃいいなって。AKB48の有名な曲、「恋するフォーチュンクッキー」や「大声ダイヤモンド」、「言い訳Maybe」みたいな感じになりそうだなって。選抜の顔ぶれもいままでの選抜とちょっと違った印象もあるように思うし、ポジションもこれまでのものとは違う感じがあって。シングル曲をリリースする、この作品を作る本気度を感じました。

――MVの撮影は?

 黒マスクはきつかったです(笑)。3日目に校庭で撮ったんです。数回踊って。黒マスクは熱を吸収するので熱い空気を吸っている感じで…(笑)。メッシュ入っているんですけど、きつかったです(笑)。でも撮影はすごく楽しかったです。青春を感じられました。8メンバーと修学旅行に来ている感じもあって。それと今回三重高校の生徒さんと一緒に踊りましたが、もう青春過ぎて、控室で休んでいる時に、生徒さんが場当たりしていて、それを見ていました。暑いからスプリンクラーが回っていて、噴射される水を男の子たちが追いかけていて「青春やな、いいな」って(笑)。キラキラしたものを見て元気をもらいました。

大西桃香

(次回に続く)

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木村武雄

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