堀内まり菜「等身大のサイズを表現したい」様々な表現を経て辿り着いた答え
INTERVIEW

堀内まり菜

「等身大のサイズを表現したい」様々な表現を経て辿り着いた答え


記者:榑林史章

撮影:

掲載:21年03月10日

読了時間:約11分

 堀内まり菜が10日、ソロデビューアルバム『ナノ・ストーリー』をリリース。成長期限定ユニットさくら学院(今年8月に活動終了)での活動を経て、現在は声優・女優などマルチに活動。『ナノ・ストーリー』では歌唱だけでなく、全曲の作詞作曲をシンガーソングライターの新津結衣と共作。音楽に対する溢れんばかりの思いが詰め込まれている。これまでの軌跡を振り返ってもらいながら、音楽についての並々ならぬ熱意を語ってもらった。【取材=榑林史章】

“自分にとっての本当”を残したい

『ナノ・ストーリー』通常盤ジャケ写

――昨年10月にソロデビューを発表後、11月26日に所属レーベルのイベントで何曲か歌唱しましたが、その時はどういう気持ちでしたか?

 初めてソロで立つステージだったので、緊張と言うよりも、とにかく一人なんだということを実感しました。今まではユニットなどで必ず仲間が隣にいて、仲間を信じることでステージに立てていたんだと改めて思いました。

 それに、前向きな熱い思いを伝えたいと気負ってしまっていて。私が表現したいサイズは等身大なのに、表現がよりオーバーになったり上手く歌おうとしてしまったり、自分が持っている以上のものを出そうとしてしまって。ステージで等身大を表現するのは、すごく難しいということにも気づけました。

――そうした経験も踏まえてリリースされるソロデビュー作ですが、収録曲の中で最初に出来たのが「ナノ・ハナ」だったそうですね。この曲を作ったきっかけは?

 私は中学3年生までさくら学院に所属していて、成長期限定ユニットなので、中学卒業と同時にさくら学院も卒業したんです。高校生になってから、周りの子たちは自分のやりたいことに対して“負けたくない”という闘志を全面に出して、オーディションで受かったり、階段をどんどん駆け上がっていって。そういう姿を見て、私には覚悟がまだ足りないのかもしれないなって、ちょっと焦ってしまっていました。

 そんな中で、私は歌が好きだから自分の言葉で自分の気持ちを歌にしていきたいと思うようになって、そこから歌詞を書き始めたんです。その時の根本にあった気持ちが、「ナノ・ハナ」には込められています。諦めたくないという気持ちと、だけど無気力になってしまう時もあるといったような、狭間での葛藤を歌にしました。

――高校1年の時ですか?

 高校1年の時に周りが変わり始めていることに気づいたけど、2年生になってもまだ自分は変われなくて落ち込んでしまって。3年生の後半、自分の進路をいよいよ決めないといけないというタイミングで、自分は歌が好きだという気持ちを信じてみようと思ったんです。それで音大に進んで、音楽について学んだり作曲したりするようになりました。

――アルバム『ナノ・ストーリー』では、作詞作曲をシンガーソングライターの新津結衣さんと共作されています。歌詞は、高校生の時に書きためていたものを元にしているんですね。

 はい。高校生の頃はつねに言葉をメモしていて、授業中筆箱に紙を隠しながら書いていたこともあります(笑)。アルバム収録曲の歌詞は、ほとんど今回のタイミングで書き下ろしたものですけど、先ほどお話しした「ナノ・ハナ」や私が大好きなモノレールをモチーフにした「Midnight Rail」の世界観は、当時書いていたメモを元にしていて。「優しい人」など、当時の経験を思い出して書いたものもあります。

――気持ちをメモしたり歌詞を書くことは堀内さんにとって、どんな意味を持つんでしょうか?

 自分自身の気持ちを整理するみたいな感覚があります。普段から日記みたいな感じで気持ちをノートに書きだす習慣があるのですが、今回の制作では共作してくださった新津さんから、歌にしようと思わなければ気づけなかった気持ちや出てこなかった言葉を、たくさん引き出してもらいました。それによって自分自身を、より客観的に見られるようになったんじゃないかと思います。

――歌詞などを書く時はノートに?

 ノートやルーズリーフなどです。いろんなノートを作っていて、歌詞を書くための「歌詞ノート」、思いついた時に書く「雑記ノート」、夢で見た内容を書き留める「夢日記」などあって、夢日記は小学生の頃から書いています。

――何種類ものノートを使い分けているんですね。

 だから荷物が重くなってしまうんです。いつ思い浮かぶか分からないから、いつでも書けるように全部持ち歩いているので。それで肩が凝ってしまって(笑)。

――「ナノ・ハナ」のMVも公開されていますが、中でも印象に残っているシーンはありますか?

 このアルバムにおいて、菜の花は私自身を投影した重要なモチーフになっているのですが…。MVでは最初に一輪だった菜の花が、自分が一歩を踏み出すことで、最後には無限の菜の花が咲く1枚の絵が完成するというストーリーです。自分自身でもすごく勇気をもらえる映像です。

――白い壁に菜の花畑の絵が完成する、最後の筆入れを堀内さん自身が行ったわけですが。

 はい。1度塗ったらやり直しがきかない一発勝負だったので、緊張とドキドキの気持ちいっぱいで撮影に臨みました。その場にいた全員に見守られる中で、その一筆によって自分自身も一歩踏み出すという気持ちでした。

――また「ナノ・ハナ」のデモバージョンの動画では、堀内さん自筆のイラストも公開しています。作詞作曲や絵を描くことなど、堀内さんにとってモノを作ることは重要なんですね。

 ほかの人と違うことを残したいと言うか…。自作のキャラクターを描いたりもしているんですけど、“自分にとっての本当”を残したいみたいな感じかもしれません。“証し”みたいな。そう考えるときっと私は、いろんな自分になりたいとか、もっと冒険したいと思っているのだと思います。

――お好きな画家などはいるんですか?

 個人的には、はいだしょうこさんのイラストがすごく好きです。

――決して上手いとは言えないと思いますが(笑)。

 味と言うか、個性のあるものに惹かれるんです。

――「ナノ・ハナ」をはじめ、いくつかの曲はYouTubeでデモバージョンを先行公開していて、アルバムで完成バージョンを聴かせるという手法を取られています。ここには、制作過程や変化を楽しんでほしいという気持ちがあるんでしょうか。

 はい。やっぱり曲が生まれた瞬間は、それを早くみなさんに聴いてほしいという気持ちがあってYouTubeにアップしていたのですが、新津さんをはじめいろいろな方との出会いもあって、音楽に対するとらえ方や、自分自身の歌い方なども日々変化し成長しています。デモと完成形の両方を聴いてもらうことで、音楽の可能性やどんなふうに変わっていくのか、ワクワクする気持ちを感じてもらえたらなと思います。

――自分の中の音楽観は、人との出会いでも変わっていくわけですね。

 そうですね。新津さんからは「もっと音に頼っていいんだ」と教えていただいたり、たくさんアドバイスをいただきました。

――音に頼るというのは?

 歌詞や気持ちを歌っているのは私だけではなく、メロディや楽器の音もちゃんと歌っているんだということです。それらといっしょに、横に並んで歌う感覚を覚えました。そういうアドバイスをいただく前のYouTubeのデモバージョンと、アドバイスをいただいて収録したアルバムバージョンはぜんぜん違うものになっていると思うので、ぜひ聴き比べてもらえたらうれしいです。

アルバムのテーマは「始まりの冒険ストーリー」

堀内まり菜

――また「ココロインク」という曲は、気持ちをインクに例えていて面白いなと思いました。

 言葉や絵を描く習慣があったことから、心の熱量とペンのインクがリンクするなと思いついたんです。書いているうちに気づいたら手にすごく汗をかいていることもあって、ペンと感情は一心同体なんだなと。熱量が筆圧に出ることもありますし。燃える思いとか、変わりたいとか、「あの子いいな」って憧れたりする気持ちを、全部吐き出そうと思って作った曲です。

――心をインクに例えるなどの発想の原点は何ですか?

 歌詞の比喩表現は、ノートをつける習慣で育まれたものなのかなと思います。ただ、最初はやっぱりぜんぜん出てこないですよ。歌詞を書こうと思って、いつもルーズリーフ1枚目に何となく書いてみるんですけど納得いかなくて、2枚目3枚目と何枚も書いていくうちに何となく、<おつかレモネード>とか<ココロインク>などの言葉が出てくる感じです。

――先ほども、いくつもノートを使い分けているという話が出ましたが、ノートをつけるようになったきっかけは何だったんでしょうか。

 中学生になると同時に、さくら学院に入ったことがきっかけです。自分の意見を周りに伝えなければいけない瞬間が多くて、そういう時に自分は言葉で伝えることが苦手だったので、まずノートに言葉を書きだしてみようと思ったのが、いろんなノートをつけるようになったきっかけです。そういうやり方で、自分の気持ちを確かめるようになったんです。

――堀内さんは、好きなものには一直線というタイプだと思いますが、こだわりが強すぎて友だちに迷惑をかけてしまったなんていう経験はありますか?

 ありますね。好きなアニメや映画をよく友達に薦めるんですけど、その時の熱量がすごいらしくて、友達からは「変態的だ」と言われます(笑)。アニメは見るだけじゃなくグッズも集めるし、テーマパークも好きで一時期は年間パスポートを買って通い詰めていました。ロックフェスでUNISON SQUARE GARDENさんと出会った時も、一直線みたいな感じで好きになって。

――ちなみに好きなアニメは?

 『新世紀エヴァンゲリオン』のシリーズです。中学2年生の時に初めて見て、その時はお話の細かいところまでは理解できなかったけど、綾波レイの「絆だから」というセリフがすごく胸に刺さったんです。その言葉を忘れたくなくて、学生証の最後のページに書いてお守りにしていました。

――きっと歌詞の発想には、そういうものからの影響もあるのかもしれませんね。そんな堀内さん自身の物語が、今回のアルバム『ナノ・ストーリー』では表現されていて。

 私の中で、ソロデビューする時はこういう世界観がいいなと思い描いていたものがあって、それが「始まりの冒険ストーリー」というものです。デビューのお話をいただいた時に、どういう曲を作っていくかテーマやコンセプトになるものをスタッフさんと話し合う場があって。収録曲の各曲を虹の7色にたとえて、その虹を渡りきった先で、また新しい自分に生まれ変わっていたい。そんな未来への希望を抱いた1枚のアルバムにしたいと、その時に提案させていただきました

――虹は7色で、インストを除いて全部で9曲なのですが。

 終盤に収録している「菜心歌」と「ユメ日記」は、制作が始まった当初は考えていなかったものなんです。虹を渡りきった先で新しい自分に生まれ変わっていたいと思っていたけど、制作を通して結局自分は自分自身にしかなれないんだなということに気づきました。等身大のままで良いんだという、今の自分を前向きに受け入れる気持ちを歌ったのが「菜心歌」で、言うなれば7色の虹を渡る冒険を終えて自分のお家に帰ったような立ち位置ですね。それで、その日の夜に見る夢が、最後の「ユメ日記」という曲です。

――真っ白なジャケット写真は、背伸びをしない等身大が表現されているわけですね。

『ナノ・ストーリー』初回限定盤ジャケ写

 まだ何にも染まっていないことをイメージして、写っている小物などもすべて真っ白にして作っていただきました。

――また、堀内さんは礒部花凜さん、熊田茜音さん、吉武千颯さんとの4人でヒーラーガールズという声優ユニットでも活動されています。3月26日にはデビューミニアルバム『Voices vol.1 ~アニソンコーラスカバーアルバム~』をリリースされるということで。こちらの活動についてはいかがですか?

 4人で生み出すハーモニーが最高に気持ち良くて、ヒーラーガールズとしての活動も楽しくてしかたがないです。ソロとユニットの両方で、歌を歌える喜びを噛みしめながら毎日を過ごしています。メンバーの3人はみんな歌がすごく上手いので、それこそ「ココロインク」で歌っているような、私ももっと成長したいという気持ちが溢れて、とても刺激をもらっています。

――とくにお好きなアニソンはありますか?

 ヒーラーガールズでカバーさせていただいた、茅原実里さんの「優しい忘却」という曲が好きですね。劇場版『涼宮ハルヒの消失』のテーマソングなのですが、三拍子のワルツっぽい曲調で、まるでオルゴールを聴くような魅力のある曲です。カバーさせていただいたことをきっかけに、すごく好きになりました。それこそ自分の中にある劇場に一人で上演するような、孤独だけどどこか温かさのある世界観です。ヒーラーガールズのアルバムで、私たちのハーモニーをぜひ聴いていただきたいです。

 私という小さな世界をテーマにしたソロデビューアルバム『ナノ・ストーリー』、アニソンの名曲を4人のハーモニーで再構築した『Voices vol.1 ~アニソンコーラスカバーアルバム~』。それぞれ違った魅力があるので、両方楽しんでいただけたらうれしいです。

(おわり)

作品情報

堀内まり菜
1stデビューアルバム『ナノ・ストーリー』
3月10日発売
【初回限定盤】LACA-35856/5000円+税
【通常盤】LACA-15856/3000円+税
Lantis

<収録内容>
01.ナノ・ハナ
02.ヴァイオリン幻想曲
03.ねぇ星よ
04.空っぽの私
05.ふう  *instrumental
06.優しい人
07.ココロインク
08.Welcome to Nanoland
09.Midnight Rail
10.わあ  *instrumental
11.菜心歌
12.ユメ日記

公演情報

ヒーラーガールズ 1st LIVE 『Voices』
4月30日(金) 東京・harevutai

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