和楽器バンド「東京から世界に向かって届けたい」新譜に込めた意思
INTERVIEW

和楽器バンド

「東京から世界に向かって届けたい」新譜に込めた意思


記者:編集部

撮影:

掲載:20年10月16日

読了時間:約12分

 詩吟や和楽器とロックを融合したサウンドで人気の和楽器バンドが14日、ニューアルバム『TOKYO SINGING』をリリース。今作は米バンドEVANESCENCEのボーカルAmy Leeをゲストに迎えた「Sakura Rising with Amy Lee of EVANESCENCE」や、レーベル移籍第一弾EP『REACT』に収録されている「Ignite」、現代における東京らしさやコロナ過の現状を含め感じたことを落とし込んだ「Tokyo Sensation」などバラエティに富んだ全13曲を収録。最新の和楽器バンドのサウンドを感じられる1枚となった。インタビューではステイホーム期間で考えていたこと、Amy Leeとの制作背景、アルバムに込めた想いなど多岐にわたり、鈴華ゆう子(Vo)、黒流(和太鼓)、神永大輔(尺八)の3人に話を聞いた。

それぞれのステイホーム期間

――ステイホーム期間はどのようにお過ごしでしたか。

鈴華ゆう子 今作アルバム制作が決まっていた中この期間に入ったので、メンバーでリモート会議しながらそれぞれ楽曲制作をしていました。私は川沿いに散歩に行った時に自分のステージに立っていた姿とかを思い返しながら書いたり。それまでずっとデビューをしてから走り続けて、久しぶりに自分と向き合う時間ができました。いつもはゆっくりできなかったこと、映画を観たり本を読んだりという時間も多かったです。

――「休め」と言われないと休まないタイプ?

鈴華ゆう子 そうだったんですけど、ここ最近はゆっくり休んだ方がよりいいものを作れるということに気づきました。

――黒流さんはいかがでしょう。

黒流 表現者としては、この状況なので逆に明るいことをとにかく出していこうかなと。そう心に決めて自分がどういう状況であろうとも、出すものは全部ポジティブにしていけばと思いました。僕自身も音楽で力をもらった過去がたくさんあったので、自分の中で無理やりギアを上げて明るいものだけを出していこうと。その期間は作曲をずっとしていたので、そこで自分は何を伝えたいのか、それを世に出すにはどうしたらいいか、というのを常に考えていました。

 和太鼓奏者なので、同業者も含めて家の中にいてもこの状況だと何もできないんです。和太鼓は音楽スタジオでも苦情がきてしまうほど音が響くので。ただ今回は電子太鼓があって、それを自粛期間中は叩いて、いぶくろ聖志(筝)と一度も会わずに曲を作ってみました。昨年母が亡くなり、一周忌の時期と重なって、その想いを表現したいなという気持ちもあって、ちょっと前だったら絶対できない和太鼓と琴筝が一度も会わずに自宅で録って世に出すというのを、この機会だからやってみました。

 時間があるからできることはいっぱいあると思うので、今まで和楽器奏者としてできなかったことを新しくやってみようという時間でした。何もしないとやはり実力は落ちていくし。個人的には体を鍛えたり、この期間でしっかりと体を作り上げて今まで痛めていたところとか、内側からも治していこうみたいな。この期間でいつでも世に出られるように常に保つことがモチベーションというか。最年長の僕が何もしないでいたら他の7人に迷惑をかけてしまうし、そうじゃなくしっかりと自分を見つめ直す期間でした。有意義な時間を過ごせたと思います。

――和太鼓のV-Drums(電子ドラム)のようなものが?

黒流 はい。試作品を提供して頂いたので、それで何か表現したいなと思って。今までそういった物はなかったんですよ。それをプロの僕が世に出すことが、いま太鼓が打てていない若い次の世代が「こういう風に表現できるんだ」と感じてもらえると思っていたので、それはプロとして必要なことなのかなと思いました。

――神永さんはいかがでしたか。

神永大輔 僕も他のミュージシャンの方とコラボした動画を作って配信したりということはありました。あとは尺八を教えたり新しい尺八を作ってみようとか、そういうところで尺八のためのオンラインの講座みたいなのを設けてみたり、せっかくだから海外の人と色々トークショーをしようかとか。尺八作りに関しても海外の方と情報交換したりしていたんですけど、どちらかというと僕はアウトプットというよりインプットに力を入れようかなと。

 一つはこのバンドの中でより音楽を理解できるようになるために、弾き語りの練習をしてみようと思いました。それから、歌を理解しようと思いました。どうしても尺八という楽器なので、音楽を聴いても歌以外のパートの方にいつも耳がいっちゃって「ちゃんと歌のことを考えられているかどうか」というところがあったので。ピアノ弾き語りで歌ってみたりとか、ギターでも弾き語りたいと思ってギターの練習もチャレンジしたり。インプットとしてはここ何年も本を読みたい、ゲームがしたい、勉強したいとか、そういうこともやっていなかったので、たっぷりやりました。

――神永さんは教える立場のお仕事もあって、教わる方もそういう時間が持てなかったりとか。

神永大輔 おそらく一番難しいのは自宅で音が出せるという方が少ないことだと思います。あと、どうやって楽器を続けるモチベーションを維持するかというのは、生徒さんや世間一般の楽器をやっている方みなさんそうだと思います。だから楽器をやっている人達で集まってとりあえずオンライン飲み会を開催したり、仲間の存在があるだけでも楽器を続けるモチベーションにはなると思うんです。

――繋がっているという感じを維持しないとだめですものね。

神永大輔 そうですね。人によって色々だと思うんですけど、やっぱり人との繋がりでモチベーションになっていくところもあると思うので。

――今作8曲目「Tokyo Sensation」は、コロナ禍での東京の姿、そういった気持ちが表れているのでしょうか?

鈴華ゆう子 今回5曲書き下ろしがあるんですけど、全てにおいてコロナ禍で自粛の最中に書いているので、どの目線からもその状況の影響があると思います。「Tokyo Sensation」はアルバムが色んな目線の東京、東京は日本の縮図だと思っているので、東京らしさって何だろうと考え、私が5曲携わっている中で、インスタ映えだったりYouTubeだったり、若者とかの目線も入れて、コロナ禍の現状も考えながら書いた曲です。

――「生きとしいける花」「月下美人」「宛名のない手紙」などがミディアムバラードだったので、いつもとそれぞれ違うメッセージ性が強いと思っていました。

鈴華ゆう子 原点の和楽器バンドのサウンドというのを、色んな経験を経た今どういうサウンドになるのか、という挑戦が裏テーマとしてありました。昔はアップテンポでただ音を重ねてごちゃごちゃって1枚にしていたのが、今お互いを知り洗練された中で同じようにやったらどうなるのかというものです。

 けっこう勢いのある曲が多かったんですけど、打合せを重ねる中で「ちょっとミディアムバラードが少ないね」となったので、私は「この楽曲の中でバラードを入れるならこういう感じがいいんじゃないかな」と書き下ろした曲が採用されました。「生きとしいける花」は散歩の時間に普段だったら目に止まらなかったような、道端のアスファルトの中に咲いているちょっとした花に目がいって、そこから今の想いを描いてみたり。花のテーマがたまたま私の曲で3曲続くんです。

 「月下美人」に関してはオペラの中の主人公が月下美人になるみたいな、ちょっと幻想的な雰囲気を残しつつ花を擬人化したような目線で書いていて、それぞれ同じ花でもテーマが異なっています。「宛名のない手紙」はさっき言っていためちゃめちゃ気分が落ちていた日に「落ちるところまで落ちて書いてみよう」と思って書いた曲です。

「Sakura Rising」の制作背景に迫る

『TOKYO SINGING』ジャケ写

――さて、「Sakura Rising with Amy Lee of EVANESCENCE」はどういう手順で制作したのでしょうか。

鈴華ゆう子 もともとAmyとの出会いは、私達のオーケストラとのコラボレーションライブの映像を観たAmyが凄く興味を持ってくださって、会ってみたいと言って下さって。その頃、Amyがちょうどオーケストラと一緒にまわっているツアーをしていたので、私とギターの町屋の2人でロスまで観に行かせていただきました。ご挨拶した時に「いつか一緒にコラボしよう」と繋話をしたことがはじまりです。

 今年の2月に大阪城ホールで開催した2回目のオーケストラとのコラボレーションライブの時に、今度はAmyを招待して一緒にライブをしたんですEVANESCENCEさんの「Bring Me To Life」と「千本桜」の2曲だけライブで一緒にコラボして。そのライブの翌日にAmyとスタジオに入って曲を作り始めたんです。セッション方式で音にしていきながら、私と町屋とAmyの3人で大枠を作っていきました。

 そのあとAmyが帰国後はコロナ禍になってしまったので、全てオンラインでやりとりしていたんですが、時差も言葉の壁もあったので大変でした。このアルバムの中では一番時間がかかっている楽曲で、オーケストラがサウンドに入っていることもあり、凄く新しい挑戦でもあったので「やっとできた」という感覚です。

――詞のコンセプトは話し合いながら?

鈴華ゆう子 はい。今回のコンセプトは、もともとは他にテーマがありました。でも詞を書き始めてこういう状況になってしまい、大きく方向性が違うわけではなかったんですが、会えないけど繋がっているこの状況をもっと描こうというところで、お互い日本語と英語の訳をしながら作っていきました。

 国によって緩和の仕方など、状況がそれぞれ全く違っていたんですけど、我々が今エンターテインメントを提供していくことが難しい中で、それぞれの国で歌を紡ぐボーカリストとして、その芯にあるものというのを季節の桜で表現して。春頃にはまた繋がって一緒に会えたらいいねとか、Amyの部屋に桜の絵が飾ってあったり、日本といえば桜というのもあって、こう言った楽曲になりました。

――「Bring Me To Life」はEVANESCENCEのヒット曲ですが、こんなにも和楽器バンドとコラボすると音の感じが違うんだなと。

鈴華ゆう子 今は基本的にはアレンジの大枠をギターの町屋が作るようになったので、好き勝手に音を出し合うのではなく、大枠がしっかり決まるようになりました。今回のコラボでも、EVANESCENCEの曲も最初にある程度「こんな感じかな」と提案があり、そこからみんなが自分のアレンジを入れていくという感じでつくり上げていきました。

――そういう作業はいかがでしたか。

黒流 初期の頃は「とにかく楽しそうだからやってみよう」からスタートしたところなんですけど、今は町屋が音楽的な設計図を作ってくれるので、僕らの住み分けができているんです。和楽器がこれだけいて、バンドがいて、オーケストラがいて、ボーカルがいて、それでも全員が聴こえるという本当に完成されたものなんです。綺麗な段階の音を常に和楽器バンドで作れるようになったので、最新アルバムでは久しぶりに激しい曲もあるんですけど、前とは全然音のすみわけが違うので「今の和楽器バンドが作るとこうなる」というのを凄くいい形で作れたのではないかと思います。設計図が出来ているのでその中で僕らは自由に暴れることができるし、楽しくやらせてもらって、さらに完成度が高くなっているという感じです。

神永大輔 あまり窮屈感は感じていなくて。コラボでもAmyが入ることによってボーカルパートが増えるんですけど、その中で奪い合いということではなく相乗効果を生んで楽曲を作ることができるようになっていきました。

――とても情報量の多い曲だとは思いますが、仰っているように混み合っている感じはしなくて。各パートが一つずつ形のまま聴こえてきます。

鈴華ゆう子 ミックスの時に、和楽器バンドのステージをライブで見ている位置を考慮して定位の場所まで変わっているので、そういった部分も楽しんで頂けるかもしれません。Amyと私も実際の立ち位置にいます。全ての曲がそうなんです。

黒流 全員の音が聴こえるように出来ているので、何度も聴くと違うパートが聴こえると思うんです。それは僕らも楽しめるというか。

東京から世界に向かって届けたい

――『TOKYO SINGING』というアルバムタイトルは全ての曲が揃ってから決めたのでしょうか。

鈴華ゆう子 ユニバーサルミュージック移籍第一弾アルバムということで、今年は東京オリンピックも予定されていたこと、世界中が東京に注目するタイミングだろうということで、東京をテーマにしたアルバムを作ろうというのはコロナ禍前から決めていました。東京から世界に向かって届けたいという想いがふさわしいタイトルなんじゃないかと決まりました。それぞれが今の現状をどう見ているかという、そんなタイトルです。

黒流 ポジティブなものを出していきたいなと。ダークな曲も好きなんですけど、今の状況としてはこういうものを世に出していきたいと思いました。和楽器の音色とか形とか、お祭りの部分もあるんですけど物悲しさもやっぱり基本的にあったり。だからEVANESCENCEのダークな部分と合うと思うんです。プラス、明るい部分があると思いますので、今回はそれをまた出していきたいなと。

鈴華ゆう子 和楽器バンド自体が日本というものを色んな視点から見やすい、今の日本を音楽で表現できるバンドなんじゃないかなと私は思っていて。衣装も和洋だし、今の日本は和と洋が融合してきて、原宿とか浅草っぽい日本らしさとか、京都とかも雅な感じとか。

アルバムだと「オリガミイズム」は粋な感じだったり、和楽器がよく立っている楽しみがあると思うんです。メンバーそれぞれがバンドの中で自分の役割をなんとなく認識しているんです。その中で「オリガミイズム」も凄く和楽器バンドらしさ、日本らしさの1曲としてこのアルバムの中に入ってきました。あと曲順というのもアルバムにおいて非常に重要なポイントだと思うので、「『Ignite』は1曲目ではないね」とか。「じゃあ1曲目になる曲って今のところないから、書き下ろそう」とアルバムのカラーを提示できる曲として「Calling」が出来上がりました。

――「この曲のここに注目してほしい」というポイントは?

鈴華ゆう子 「月下美人」は(NHK)『みんなのうた』の曲として書き下ろしたので、アニメーションを作っている最中で私達もまだ観ていないんですけど、このような本格的なアニメーションとのコラボをできることが嬉しく、個人的には非常に楽しみにしています。あと、サビの最後は2オクターブ声が飛ぶんです。そういうところも楽しんで聴いて頂きたいです。「月下美人」に関してはミュージックビデオも制作するので我々の実写とアニメーションと双方の目線からも楽しめるようになったりもしますので。

 「生きとしいける花」はそのうち合唱曲みたいにアレンジしたものをやってくれる人が出てきたら素敵だなとかイメージしながら、私はピアノでも曲を作るのでピアノバージョンもいつかやりたいという妄想もあったりします。「ゲルニカ」は凄くまっちー(町屋)が好きな世界観、渋谷の上空の戦闘機とかそういう感じがあります。この曲はサビ中で転調を繰り返す非常に難解な曲でして。エンジニアさんもこういうの大好きみたいで盛り上がっていました(笑)。アルバムの真ん中くらいにあるとハッとするような楽曲です。

 あと、今回デジタル盤限定で、久々にボーカロイドのカバーをバンドでしまして。あえてちょっと懐かしみもある「ロキ」にしたんですけど、歌い方を変えていて、バンドメンバーも凄く楽しんでやっていたので、その姿が音から見えてくるんじゃないかな。デジタル盤でないと聴けないのですが、ぜひ聴いてほしい1曲です! ライブではアルバム全曲をやる予定でして、もちろん「ロキ」もやろうと思っているので、みなさんには予習してもらえたら嬉しいです。

――24日から始まる東名阪ツアー『Japan Tour 2020 TOKYO SINGING』では全曲聴けるのですね。

鈴華ゆう子 まだ一回もメンバー全員で合わせたことがないんです。今回全曲難しいのでライブでちゃんとできるのかなという不安は正直あって…。お互いが信頼し合ってそれぞれが練習をして決められた回数の中で、理想のパフォーマンスまでもっていけるかどうか、というのは、私達にとっては勝負、挑戦です。

(おわり)

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