INTERVIEW

優希美青

この仕事に就けて良かった。
主演『NO CALL NO LIFE』で再出発


記者:鴇田 崇

写真:鴇田 崇

掲載:21年03月05日

読了時間:約7分

 女優の優希美青が、映画『NO CALL NO LIFE』で井上祐貴とダブル主演を果たした。本作は壁井ユカコの同名小説を実写映画化したミステリー・ラブストーリーで、親からの愛情を知らずに育った主人公の女子高校生・有海(優希)と、同じ境遇の不良少年・春川(井上)が織りなす痛いほどに切ない物語となっている。

 優希は、第37回ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを受賞し、2019年7月5日に公開された映画「GOZEN 純恋の剣」でヒロインを演じて注目を集めるなど、女優として着実にキャリアを重ね、本作でホリプロ60周年記念作品という大役をまっとうした。「キャスティングしていただいた期待を裏切りたくない」「ここからが再出発」と並々ならぬ決意で参加したという本人に話を聞いた。【取材・撮影=鴇田崇】

当初は不安も、役と一体になった瞬間

――非常に心に残る物語でしたが、最初に出演が決まった時の印象はいかがでしたか?

 最初は本当にうれしかったです。でもうれしい感覚は一瞬のことで、その後はクランクインするまで永遠に不安みたいな気持ちになりました。所属事務所の60周年記念という節目の作品ですし、その主演はもちろんうれしいし、ありがたいなと思ったのですが、わたしに演じきれるのかという不安が強すぎました。

――どの辺りが不安要素でしたか?

 いつも台本を読むと自分なりにすぐに役をつかめるのですが、今回はつかめなさすぎました。有海ってどんな子?って言われたら、自分の言葉で説明できなかったんですよね。なので本当に役作りができるのかなって、有海という子を演じきれるのかなって不安になってしまって……。脚本を何回読んでも理解できないということは、わたしに演じられないのではないかって不安になってしまいました。

――彼女が自分にしっくり来たのは、いつくらいでしたか?

 本読みが終わった後、監督と二人でお話する機会をいただいた時に監督が「有海は優希さんそのものだとわたしは思っています」とおっしゃったんです。監督から見たわたしには闇があるそうで、それが有海にぴったりだと言われていました。

――その指摘もすごいですね。

闇があるからその闇の部分を表に出したら、それが有海につながると思うとおっしゃっていました。だから役作りをせず、わたし自身で自然に演じたらそれでいいと思うと言われていました。わたし自身も自然体で演じようと思ってはいたのですが、監督も素を求められていたようです。実際に演じてみたら、わたしの闇の部分が確かに有海のそういうところに似ているなと思うこともあり、今回は特別な感じがしました。

(C)2021 映画「NO CALL NO LIFE」製作委員会

――ちなみに、ご自身に闇がある自覚はあったのですか?

 演じていくうちにつれて、有海はいつも考えごとをしているというか、友だちと話していても心ここにあらずみたいな、適当な返事をしてしまう子だと気づいたんです。でもそれってわたしもプライベートでよくしていて、集中していないんですね。そういうところも似ていますし、地味に頑固なところも。春川に花火をしようって言われて嫌だと言うシーンでは、わたしも怒り出すと受け付けなくなるので、そういうところも似ています。最初は共通点が何もないと思っていたけれど、いざ始まってみるとまったく違う人間どころか、共通点しかなかったんです。

――確かに今回はお芝居っぽくない、そういう印象がありました。

今回、お芝居をしてはいけないという演出が前提にあったので、今までで一番自然な演技になっていると思います。芝居はするな、現場に美青ちゃんでいてくれと言われたから、お芝居をしないと決めていました。なのでセリフも台本とは異なる言い回しになってしまったのですが、台本よりいいという判断で変更になることもあったので、本当に自然でしたね。

――役柄を生きるという感覚?

確かに、そうだったかもしれません。セリフもあるのですが、自然に口から出てくるようなイメージです。いつもなら覚えられなくて大変な思いをすることもあったけれど、今回は朝から晩まで撮影をして家に戻ってセリフを覚える時間がなかったはずなのに、次の日になったら覚えているんですよね。それくらい不思議な感覚の作品でした。自信がないまま寝ても、起きたら覚えているような、それくらいすっと入ってきた作品なんです。

――しかも本作はホリプロ60周年記念作品ということで責任もある一方で、女優を続けてきて、そこにめぐり合うという、この状況は今、どう受け止めていますか?

 60周年という貴重な作品にわたしでいいのだろうかという不安は、大きかったですね。それは今でも感じています。そこにキャスティングしていただいたという期待を裏切りたくない。ここからが再出発じゃないけれど、せっかくこれほど素敵な作品にめぐり会えたので、頑張ろうと思いました。しかも、もっと自分がナチュラルにいられる作品があるんだって本当に思えた現場だったので、その役がそこで生きているようなお芝居ができるようになりたいなって、また新たな目標もできました。

(C)2021 映画「NO CALL NO LIFE」製作委員会

この仕事に就けて良かった

――そういえば女優でなければ、警察官になりたかったんですよね。

 そうですね。わたし、名探偵コナンが大好きで、コナン君が初恋の人でした。一緒にお仕事できるのはなんだろうって思ったら、警察官だったんですよね(笑)。

――子どもの頃の夢だったんですね。

 そうでもないんです(笑)。震災の時に福島にいて警察の方に元気づけられたんです。震災で福島へ支援物資がなかなか届かない時、他県の何々県警の文字を見て、他県からヘルプで来てくださっているんだと。それで元気をいただいたので、その時も警察官になりたいという夢はありました。でもオーディションを受けてグランプリをいただいてからは、警察官になる夢はあきらめてしまいましたけど。

――今の仕事では壁にぶつかったような大変な時期はありましたか?

 デビュー後、7、8年でしょうか、大変な時期は多かったです。今まで今回の作品のような闇がある子というか、影のある子だったり、そういう役が多かったので、プライベートでの悩みを、そのまま役にいかせることも多かったんです。なので、それもお芝居の一個のタネになるなって、ポジティブに捉えて乗り越えてきました。今回もそういう気持ちを活かすことができたので、よかったなって思います。大変なことはあったけれど、すべてはこのためにつながった。今回、過去の感情とリンクする部分もあったので、続けていてよかったなと思いました。

――それは具体的には?

 有海は親の愛情を知らなくて、わたしはそうじゃないけれど、中学生で今の仕事を初めてから母と一緒には暮らしていたのですが、朝から夜まで家にいなかったんですね。学校行ったまま仕事へ行ったり、一日中仕事だったり、家に一緒に住んでいるのに会う機会がほぼなかったんです。思春期にお母さんとあまり会話をしなかったので、そういう意味では有海の気持ちがわかるなと思いました。

――俳優は人生経験豊富なほうがよさそうですが、この仕事はいかがですか?

 良かったなって思います。みんな作品を観ることを楽しみにしてくれているし、今回の映画も楽しみにしてくれている人がたくさんいます。お母さんとは小さい頃、コミュニケーションがあまり取れていなかったけれど、作品を観ることでわたしの頑張りを知ってくれていたんです。たぶん素敵な作品に出会っていくことが恩返しだと思うので、大変なことはあるけれど、この仕事に就けて良かったなって思っています。

鴇田 崇

優希美青

『NO CALL NO LIFE』
2021年3月5日(金)テアトル新宿ほか全国公開
配給:アークエンタテインメント
(C) 2021 映画「NO CALL NO LIFE」製作委員会

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