中島 愛「とりとめのない感覚を声にする」大人だからこそ表現できる曖昧さ
INTERVIEW

中島 愛「とりとめのない感覚を声にする」大人だからこそ表現できる曖昧さ


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年11月06日

読了時間:約14分

 声優で歌手の中島 愛が11月6日、Wタイアップシングル「水槽」(TVアニメ『星合の空』オープニング主題歌)と、「髪飾りの天使」(TVアニメ『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』エンディングテーマ)をリリース。今作には新藤晴一(ポルノグラフィティ)を始め、トオミヨウや清竜人など豪華なアーティスト陣が参加。ソロアーティストとして11年目というキャリアならではの、大人の女性としての魅力や柔軟性が表現された作品になった。「声と感情のコントロールに尽きるレコーディングだった」と話す彼女。参加アーティストとのやりとりやレコーディングのこだわりなどについて話を聞いた。【取材=榑林史章】

ストイックなレコーディングが楽しい

「水槽/髪飾りの天使」星合盤ジャケ写

――まず「水槽」はTVアニメ『星合の空』のオープニング主題歌ですね。ソフトテニス部が舞台のアニメで、部活もののアニメはアッパーで爽やかな感じの曲が一般的ですが、「水槽」はそれとは少し違ってバラードではないですが、しっとりとしたムードの曲ですね。

 アニメのオープニングテーマ曲と言うと、たいていは明るくテンポ感が良い曲になるのがセオリーと呼べる部分があって、今まで私が歌わせていただいてきたオープニングテーマもそういう曲がほとんどでした。ところが今回は、暗くもないけど明るいわけでもない曲です。こういうちょっと曖昧さがある曲がオープニングテーマになるのは、私も面白いと思いましたね。

――独特な浮遊感がある曲ですね。

 あえて、どこか掴み所がない曲になっています。TVアニメ『星合の空』は、青春ものでありながら人間ドラマとしての側面も強い作品なので、こういう曲調のほうがよりマッチするのではないかと思いました。歌詞はソフトテニス部の少年たちの目線で、彼らの心の内側に潜ったような内容になっています。

――作詞はポルノグラフィティの新藤晴一さん。昨年中島さんがリリースしたアルバム『Curiosity』に収録の「サブマリーン」も、晴一さんが作詞していましたね。

 それ以来になります。「サブマリーン」の時はタイアップ曲ではなかったので自由に書いていただいて、今回は『星合の空』のシナリオを読んでいただいた上で書いていただきました。でも自分の内側に入って行くような感覚があるのは、「サブマリーン」の時と共通していて、「サブマリーン」も「水槽」も水ですし。私の声から、そういう水っぽいイメージを感じ取ってくれているのかもしれないなと思いました。

――歌声も、どこか息苦しい感じがずっと続いて、曲の後半になってやっと前を向く感じになりますね。

 歌詞の流れがそうなんです。1番から2番、2番から3番と段階を経て少しずつ光を得ていくような感じの構成で、登場人物の心情ととてもマッチした歌詞になっているので、通して聴くとより物語を感じていただけると思います。短い小説みたいな感じで、さすがだなと思いました。

――「水槽」というタイトルは、学校や家族といった枠組みを水槽に例えていて。

 主人公たちを魚になぞらえています。<真水の水槽に放たれた熱帯魚のよう>という歌詞も出て来るので、だいぶ息苦しさを感じているのでしょうね。学生時代が楽しかったという方、あまり良い思い出がないという方、両方いらっしゃると思いますけど、きっと思春期はどちらもこういう苦しさを抱えているものだと思います。晴一さんから直接うかがったわけではありませんが、晴一さんもきっとそうだったのかなと想像しました。自分自身を振り返っても、そうでした。そういう部分ではすごく普遍的で、誰でも共感出来る部分ではあるんですけど、それでもけっこう攻めた歌詞で胸をえぐってきます。どの年代のどんな方がどういう感想を持ったか、みなさんの反応が楽しみです。

――作曲が矢吹香那さん、編曲がトオミヨウさん。水の中に潜っているような感覚のサウンドで、こういうジャンル分け出来ない浮遊感のあるサウンドは、トオミヨウさんならではですね。

 トオミさんとは今回初めましてだったんですけど、菅田将暉さんやあいみょんさん等、J-POPのど真ん中のアーティストの方も手がけていらっしゃるので、きっと私にとって新しい風を吹かせてくださると思いました。

――実際にボーカルのレコーディングでは、どんな新しい風が吹きましたか?

 とてもストイックなレコーディングでした。例えばAメロとBメロは無感情と言うか、ちょっと身を固めているみたいな様子をイメージして、サビではその感情を解き放って爆発させる。グラデーションを描いていくように歌うのが難しくて、思い描いたものになるまで何度も歌い直しをしました。ストイックではあったけど、私はもともと考えて歌うことが好きなので、とても楽しいレコーディングでした。

――ミュージックビデオは巨大な水槽の前で歌っていますね。あれはどこかの水族館で撮影したのですか?

 撮影したのは『アクアワールド大洗』です。私は茨城出身で水戸に住んでいたので、子どもの頃によく遊びに行っていたところなんです。昔は『大洗水族館』と呼んでいて、リニューアルして『アクアワールド』になったんですけど、大水槽やクラゲの水槽があることで人気です。久しぶりに行きましたけど、懐かしかったしいろんな魚が見られたのも楽しかったです。

――水の感じと差し込む光が幻想的で、きれいな映像ですね。

 はい。今回のMVは光が肝になっていて。照明さんに光を作っていただいたので、実際の水族館の灯りとは違うのですが、すごく美しく撮っていただきました。

――歌詞の<もうちょっと>のところで、フッと振り返る表情が良かったです。

 ありがとうございます。ずっと暗めの映像が続いて、間奏で初めてちゃんと水槽に光が差し込むんですけど、それが希望の光で、それに合わせて表情も明るくなるという流れでした。基本的には自由演技だったんですけど、映像の仕事の経験が少ないのでどういう表情をしていいか分からなくて。どこで振り返ろうかと、必死に考えながらやっていました。必要最低限の演出のみで、純粋に水と光と私と魚たちみたいな。そういったところにも注目して、ご覧いただけたら嬉しいです。

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