マーティ・フリードマン、リードギターが良く聴こえる秘訣とは
INTERVIEW

マーティ・フリードマン

リードギターが良く聴こえる秘訣とは


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年12月02日

読了時間:約10分

 ギタリストのマーティ・フリードマンが、カバーアルバム『TOKYO JUKEBOX 3』をリリース。2009年に第一弾をリリースし、2011年の『TOKYO JUKEBOX 2』から約9年ぶりとなる本作。当初応援ソングをコンセプトに選曲したが、コロナ禍により当初とはまた意味合いの違う応援ソングへと変わっていったという。アルバムにはLiSAの「紅蓮華」やOfficial髭男dismの「宿命」など、誰もが知っているヒット曲からオリジナル曲の「The Perfect World(feat あるふぁきゅん)」や「日本遺産」テーマソング「JAPAN HERITAGE OFFICIAL THEME SONG」など全12曲を収録。インタビューでは、今作の制作背景について、自分らしさをカバー曲で表現するためのこだわり、インスト音楽の魅力を伝えるための飽くなき情熱に迫った。【取材=村上順一】

Perfumeの日本武道館ライブは鳥肌ものだった。

『TOKYO JUKEBOX 3』ジャケ写

――ステイホーム期間中はどんなことをされていましたか。

 僕の場合、スタジオ以外の仕事もたくさんあるし、音楽に集中出来ないことがあるんですけど、仕事が一切無くなってしまったので、楽曲制作に集中出来ました。流れを妨げずに制作出来たのは良かったなと思ってます。一緒にやりたいミュージシャンやエンジニアなどのスタッフも仕事がなかったので、すぐに来てくれて。世界は大変でしたが、ある面ではメリットがありました。

 あと、考える時間がいつもより多くなりました。レコーディングしたものを聴いて、微妙だなと思ったら納得のいくまでブラッシュアップさせることが出来ました。いつも、僕はギターを弾いている時間よりも聴いている時間の方が長いんです。デモを作ったら日常生活の中でずっと聴いて、気になったところをやり直すんですけど、それを今回は何回も繰り返し行えたので、今作は完璧に磨いた作品になりました。

――一切の妥協がないんですね。自粛期間でライブが出来なかったことに関してはいかがでしたか。

 それは、本当につらかったです。今回もストリーミングでライブをやるんですけど、今作はライブにすごく向いている作品なので、やりたくて仕方がないんです。配信だと普通のライブとは聴き方、見せ方、やり方が違うので、この機会に新しい解釈で届けたいと思っています。常に新しいことに挑戦していきたいです。上手くいけば本当に面白いものが生まれると思いますが、いつもの倍ぐらい頑張らないといけないんです。

――マーティさんにとって、ライブとはどういった場所ですか。

 僕にとってのライブは、エネルギーを交換する場所です。僕のエネルギーをお客さんにあげたい、元気を与えたいし、鳥肌を立たせたいと思って演奏しています。それは僕にもあって、他のアーティストの曲やライブを観ている時にもあるんです。癒されたり、力になったりします。今作はカバーなので皆さんがすでに知っている曲だから、インスト音楽ってこんなにすごいんだ!と、魅力を味わって欲しいんです。

――インストの魅力を伝えるために心がけていることはありますか。

 実は僕、ボーカルが入ってないとあまり聴く気がおきないんですけど、その自分を基準にして、ボーカルがなくてもさびしいと思われないように、というのを心掛けています。

――マーティさんが鳥肌が立った、すごくエネルギーを感じたライブはどなたのライブでしたか。

 沢山あるんですけど、今思いついたのはPerfumeの日本武道館のライブでした。それは、ギターがないライブでこんなにガツンと来るライブは初めてでした。僕はギターが入ってないと盛り上がらないんですけど、Perfumeはそれを覆しました。ギターがなくても感動出来るのは、クラシックのコンサートぐらいなので。

――久しぶりの『TOKYO JUKEBOX』ですが、前作から9年も期間が空いたのはなぜですか。

 ずっとやりたいなと思ってはいたんですけど、他のプロジェクトもあったので難しかったんです。以前の作品はワールドツアーで沢山披露しました。外国人の前で日本の曲を弾くのは、面白いんです。そこから、外国のファンの皆さんが原曲を発見して聴いてくれたら嬉しい。この楽しみ方は僕しか味わえていないと思うんです。自分の国ではない曲を自分なりに表現して、全世界に届けることは本当に楽しいです。

――今作の制作はいつ頃から始まったのでしょうか。

 今年の1月に選曲しました。アルバムは応援ソングのコンセプトでした。当初は東京マラソンに向けたアルバムにしたいなと思っていたんです。僕はここ何年か東京マラソンのオープニングセレモニーでギター弾かせて頂いたりしていたので、その流れで「負けないで」を入れたんです。でも、コロナ禍で違う意味での応援ソングになってしまって。

―その「負けないで」は途中でハッとさせられるアレンジのセクションがありますが、ここはどのようなイメージで作られたのでしょうか。

 「負けないで」というテーマはすごく良いなと思っていて、困難を乗り越えるようなイメージを音楽で作りたかったんです。なので、地獄に落とされるようなところを作りたいなと思いました。

――インストは言葉がないので、アレンジでストーリーを作っていくんですね。

 言葉の武器が使えないので、インストではアレンジはすごく大事なところです。オリジナルをただギターでカバーしただけではつまらない。ギターでボーカリストの存在感を実現させつつ、曲の意味を言葉なしで伝えられるようにしてます。

――またアレンジで面白いなと思ったのが、Little Glee Monsterの「ECHO」なんです。オリジナルのAセクションはハーフテンポですが、マーティさんは逆に疾走感を出すアレンジで。

 そういった細かいところはすごく考えました。オリジナルとは違うところで何かを感じてもらえたら、というのが僕がカバーする目的でもあるので、そこに気づいてもらえてすごく嬉しいです。

ギターがよく聴こえる秘密は伴奏にあり

――そのアレンジに加えて、マーティさんのエモーショナルなリードプレイが説得力を増しているわけですが、どんなところにこだわって弾いていますか。

 エモーショナルに弾くことはすごく追求しています。そこで大事なのはプレイバックする時に、演奏者としてではなく、リスナーとして判断する事が重要なんです。泣いている、叫んでいる、優しい、恐ろしいなどをギターで表現したくて。例えばSEKAI NO OWARIの「サザンカ」は非常に繊細で、いきものがかりの「風が吹いている」はアグレッシブ、というのをただ解釈するだけではなく、気持ちが乗っているものにしたいと思っていて。そして、常にやったことがないことにチャレンジしたいんです。みんなが知っている曲だからこそ、そのチャレンジ、違いがわかるようにしたいんです。

――今作で一番チャレンジだった曲は。

 「紅蓮華」ですね。まず、この曲は色んな方が既にカバーしていますから、カバーすること自体は新鮮ではないんです。そして、メロディが細かくて早い。僕のプレイの長所はロングトーンやビブラート、コブシの様なニュアンスだと思っているんですけど、それが早いメロディだと活かしにくいんです。それに加えて原曲はメロディをハモっています。なので、ハモらないと寂しい感じがしますけど、ギターでハモるとうるさい感じになってしまう。でも、その中でマーティらしさをどう出すか、というのはすごく苦労しました。

――今のお話を聞いて思ったのですが、敢えてロングトーンを使って表現しているところは、マーティさんらしさを出すためだったんですね。

 鋭いです(笑)。僕の長所を入れたかったので、敢えてそういうアレンジにしています。でも、メロディを崩しすぎてはダメなので、そこはすごく気をつけているところで、センス良く長所を入れることが大事なんです。強引に入れることも可能だけど、それはすごくダサいです。どれだけインパクトがある入れ方が出来るかをすごく考えます。それは何度もデモを聴いた結果でもあります。

――ニュアンスというところでは、マーティさんの独特なピッキングスタイルも影響はありますか。

 ピッキングによる影響はないですね。それよりもノート(音符)の選択やモチーフ、フレージングの方が、直接影響を与えていると思います。右手のフォームは昔からの癖なんです。ギター初心者だった時の映像を観ても、最初からこのピッキングフォームでしたから「変わってないじゃん」って(笑)。

――ギターテクニックという面についてはどのように捉えていますか。

 僕はテクニックについてはほとんど考えていなくて、解釈、フレージング、新しさ、エモーションをどうするか、ということしか考えていないんです。あと、伴奏にすごく力を入れています。僕のギターがなぜよく聞こえるのか、というとその秘密は伴奏にあるんです。

――と言いますと?

 伴奏に関してはリードの10倍くらい頑張っています。絵画で例えると、豪華な額縁に良くない絵を入れても、そこそこよく見えると思うんです。それと同じことを音楽でもやっていて、伴奏という額をすごく磨いています。その上に気持ちよくギターを乗るようにしているんです。今の僕のレコーディングメンバーは、僕が想像することをすべて形にできる人たちです。みんな、僕が上手いと思っているかもしれないですけど、それは錯覚で伴奏が良いからなんですよ。

マーティが思うJ-POPの進化

――さて、今作にはボーカルに+α/あるふぁきゅんさんを招いて、前作『B: The Beginning THE IMAGE ALBUM』から「The Perfect World」をセルフカバーされています。

 1曲セルフカバーをやりたかったんです。通常のカバーと違うところは、僕ならこうしたい、というのがカバーには出てくるんですけど、セルフカバーに関してはそれがないことが大きな違いです。それで、どう変えようかというところで、オリジナルとは違う方に歌ってもらうことでした。あるふぁきゅんは不思議なボーカリストで、どのキーでも完璧に歌えてしまうぐらい音域が広いんです。なので、考えられるすべてのキーで一度歌ってもらいました。そうすると、キーによって彼女のキャラクターが変わるので、その中から自分が良いなと思ったキャラを選んで、ゼロからアレンジし直したんです。でも、キーが変わったことで、ギターが大変なことになったんですけど(笑)。

――+α/あるふぁきゅんさんは日本と外国のハイブリッドのような歌声で、面白いなと思いました。

 彼女の英語の発音も素晴らしいです。日本人でも受け入れられるような英語になっていると思うので、理想的な歌い方になっていると思います。最初のバージョンもすごく気に入っているんですけど、今回のバージョンはまた違う次元にいったような感覚があります。この曲はミュージックビデオも公開するので、楽しみにしていてください。

――楽しみにしています。マーティさんは数多くの日本の楽曲をギターで奏でてきましたが、J-POPはどのように進化してきたと思いますか。

 嬉しい進化の仕方をしてきたと感じています。悲しい話ですけど、他の国ではメロディが消滅してきていると思います。でも、日本は全然そういった傾向になっていないと思うんです。例えば今回収録したOfficial髭男dismの「宿命」は、メロディが強くて濃いんです。日本人はどんなジャンルでもメロディを大事にしているのが伝わってきています。僕はメロディが大好きなので、その傾向はどんどん強まって欲しいと思っています。なので、J-POPの進化はメロディを大事にしつつ、現代のテクノロジーとトレンドを持ってきて融合しているところです。

――そのJ-POPをマーティさんがプレイすることで世界への架け橋になっています。

 そういってもらえて嬉しいです。海外でプレイすると周りのミュージシャン達からヤキモチを焼かれるんですよ。やっぱり世界のほとんどはメロディが無くなってきているみたいで、日本のようにメロディがしっかりしている音楽に囲まれていることを当たり前だと思わないで欲しいって。

――海外ではどんな曲が特に反響がありますか。

 いきものがかりの「帰りたくなったよ」は、演奏するたびに反響があったので、もうセットリストの中に使命として入れていて、毎回演奏しているんです。ライブで一番盛り上がるんですよ。でも、みんな僕のオリジナル曲だと思い込んでいて、いきものがかりの曲だと知って、そこから日本の曲に興味を持ってもらえているので、非常に楽しい展開です。そして、外国人が日本語で歌ってくれるんですけど、その瞬間は鳥肌が立ちます。

――私も嬉しいです。最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。

 『TOKYO JUKEBOX 3』は自分の好みが反映された作品になっていて、僕の音楽コレクションを味わえる作品になったと思います。このアルバムから日本の持つ独特のメロディセンス、メリハリなど感じて欲しいです。僕を経由して感じてもらえるのがベストなんですけど、そうじゃなくても日本の音楽を味わってもらいたいです。これからはストリーミングライブや新しい企画で、新鮮に感じられるものをみんなに伝えたいので、自分自身もどんどんパワーアップしていけたらと思っています。

(おわり)

ライブ情報

Marty Friedman NewYear 配信LIVE

「TOKYO JUKEBOX LIVE Worldwide 2021」
マーティ・フリードマン初のエンターテイメント配信ライブショーで驚きと
感動を大観して、A Happy ROCK Year, 2021にしよう!
世界的ギタリストのMartyFriedmanと、世界から注目を集める映像クリエイター花房伸行が最新のLEDシステムを駆使して演出するモーショングラフィックスで多次元的ROCKサウンドで空間を創出する。

202012月3日からチケット販売開始
詳しくはこちらから
https://martyfriedman.zaiko.io/_item/332651

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