2022年10月、実に4年振りのリリースとなったアルバム『Harvest』を引っ提げ「Harvest tour 2022-2023」と題し全36公演に及ぶツアーを完走した04 Limited Sazabys。ツアーファイナルは彼らの地元である名古屋はZepp Nagoyaにて2月15日、16日の2DAYSで開催された。

名古屋公演初日

名古屋公演初日(撮影=ヤオタケシ)

 昨年10月より2か月間に渡って行われた対バンシリーズ、そして2023年1月より行われてきたワンマンシリーズと、36公演を経て4人が耕してきたものがどんな物語として着地するのか、ツアーが発表された事からずっとワクワクしていた。それは対バンツアーにラインナップした次世代バンドの顔ぶれも含め、04 Limited Sazabysがシーンを耕すべく撒いた種がどんな芽を出すのか、彼らがバンドシーンに対して自覚する意識のようなものも数年前とは確実に変わっていることにも興奮したし、バンドとして彼らがそのフェーズに立っていることも誇らしく思ったりした。

 飲み込めない現実はいつだっていきなり目の前に現れる。この数年のことを思ってもそう。次から次へとやってくる困難にどう立ち向かっていけばいいんだろうって試行錯誤して、凝り固まった思考を削除して、前だけを向いてここまでやってきた。だけど全く違う角度から現実だけをズドンと突きつけられて、正直今この瞬間の目の前のライブをどう受け止めたらいいのか、この日ばかりは分からないでいた。何度も書き直していることを前提に読んで欲しいのだけれど、04 Limited Sazabysにとって、ライブハウスシーンにとって、カルチャーにとって、僕にとって、きっとあなたにとって、とても大切な存在であるミュージシャンの訃報が名古屋公演初日であるこの日のライブ当日に届いた。それを無視してライブが出来るような関係性でないことは04 Limited Sazabysのファンであれば分かるはずだ。大団円のツアーファイナル前日、神様がいるとしたら04 Limited Sazabysに与えられたものはとてつもなく大きなことだと思う。だけどやはりそこはライブバンド。お馴染みのSEの「Enjoy」の掛け声が今日に至っては「行こうぜ!」と肩を組んでくれるような力強さを感じさせるものであったし、じゃあ今目の前のファンをいかにエンジョイさせるか、その使命感の中で彼らが見せてくれたのは、どんな現実を前にしても決して戦う拳を忘れないという強い心だった。

 ツアー初日。すっかり「感染」という言葉に敏感になってしまった世界の中で「観戦同士行こうぜ」とライブに対する不安や葛藤やありもしないイメージを払拭してくれる「Every」でライブが始まった。この数年間、規制の対象となったライブハウスで本当にみんなよく戦ってきた。そんな中でライブハウスは、前に戻るのではなく、新しい価値観と在り方で2023年を迎え、状況が変わってきたと思う。それは満員のZepp Nagoyaであったり、思い思いの声援を飛ばしながらステージに愛と鼓動を飛ばすオーディエンスの姿に全部現れていた。観戦同士、行こうぜ。観えてきたゴールを決めるのは誰かひとりじゃなくて、04 Limited Sazabysと僕らだ。世界はいつの間にか膨らんじゃって、関係ないふりしていたってどう考えても当事者で、もうずっと歌い続けてきた「Now here, No where」だって2023年の今のメッセージとして突き刺さる。重圧がそびえ立ったって鼓動を止めず動き回る。大事なことは衝動と創造だって「Cycle」が教えてくれる。その説得力が4人にはある。だってずっとそれを繰り返してここまで来たんだから。だけど戦ってきたのは4人だけじゃない。

名古屋公演初日(撮影=ヤオタケシ)

 04 Limited Sazabysという船には沢山の仲間が乗っていて、「fade」でZepp Nagoyaを覆った照明だって、「Finder」「Predator」でバンドの演奏を立体的に作り上げた音響だって、その姿は見えなくとも「ここは俺に任せろ!」とフロアに必殺技を叩きつける。こうやってみんなで戦ってきたのだ。そうやってみんなで目指した理想郷が目の前に見えてきたのが2023年、今なのだ。「Utopia」で見えた未知の先の未来がいよいよ現実のものになろうとしていることを実感する。36℃で命を沸かせてて、本能に宣戦布告して、夢の中から飛び出して現実を謳歌したい。だけどみんな優しいから、誰かの為に我慢して、誰かの為に戸惑って躊躇って、でもそれって勇気に似ているって、この数年ずっと思っていた。今日のライブハウスがあるのはみんなの優しさ。絶対って言葉はあまり使わないようにしているんだけど、これは絶対だ。土壌を作ってるのは何もバンドだけじゃない。みんなだ。そんなみんなのリーダーが04 Limited Sazabysなのだ。

 同じ時代に生きて、同じ傷を負って、それがかさぶたになって、やっと取れていく感じ。「Night on」から感じるのはもはや04 Limited Sazabysと僕らは運命共同体なのかもということ。このツアーが始まって、その中でもグラデーションかのように少しずつ状況が変わっていく中、待ちくたびれた再会のタイミングはその都度あったと思うけど、地元名古屋で声を出せる状況で再会出来たこと、これだって前だったら当たり前のことだし、少し前だったら当たり前じゃなくなったことでしょ。「Lost my way」で歌っていた「日々に帰ろう」というメッセージが今になってこんな聴こえ方をするなんて、これもコロナ禍を経て新しく芽生えた受け取り方だったりするんだけど、そうやって起きたことに意味を持たせてプラスに解釈していくことで僕たちは前に進めるんだと思う。決して忘れないし、消しても意味はない。全部抱きしめて先に進みたい。先導してくれるのは04 Limited Sazabys。4人がいて、みんながいて、またここに帰ってきたなって「Milestone」を一緒に歌いながら考えていた。

 「hug」「Honey」の包容力も今の04 Limited Sazabysの強さだと思う。「悲しまなくていいよ でも泣いたっていいよ」なんて言葉もこの日だけは優し過ぎて困る。永遠なんてないことは分かっている。分かっているんだけど今日の「hello」は永遠を信じられるパワーを放っていた。コロナ前、みんなで歌っていた「hello」はコロナで少し形を変え、2023年の「hello」としてまたその形を変えていた気がする。そうやってきっとこの曲は04 Limited Sazabysと僕らと一緒に永久にふわり付き合っていくことだろう。そういう曲に出会えたことも今日感じた軌跡のひとつだ。GENが「触れるけど」と前振りをして話した言葉、会場に居た人にはしっかり届いたと思うけれど、僕らはみんな誰かに影響を受けて生きてきて、それはきっとGENだって、HIROKAZだって、RYU-TAだって、KOUHEIだって一緒で、そうやって誰かの存在の下で僕らは考えて、悩んで、学んで、自分というものを作り上げていくんだと思う。『SOIL』という土壌に撒かれた『SEED』、つまり種こそが04 Limited Sazabysで、それが『Harvest』で実ったのだ。もうはっきり書くけれど、その栄養素であり、全ての根源にあるのが04 Limited Sazabysにとって、僕にとって、Hi-STANDARDなのだ。

 今日という日にライブハウスに居ることが出来て良かった。04 Limited Sazabysが地元である名古屋でライブをしてくれていて良かった。そしてそれはライブをした04 Limited Sazabysだってステージに立ちながら思っていたんじゃないだろうか。聞きたくないことも知りたくないことも増えるし、飲み込めない現実は容赦なくやってくるけれど、涙を飲み干して、手を伸ばして、何処までも行きたい。涙はとめどなく出てしまうけど、それでもライブハウスを出る頃には笑顔で上を向いて帰りたい。そうさせてくれた04 Limited Sazabysは間違いなく僕らの時代のヒーローだ。大収穫のツアーファイナル前日、名古屋公演初日。

名古屋公演2日目

名古屋公演2日目(撮影=ヤオタケシ)

 名古屋公演2日目、ツアーファイナル。もう何が起きたって不思議じゃないし、逆に何でも起こりうる時代を僕らは生きている訳で、そこにどう向き合って、どう前を向くことが出来るかで、その先の未来は大きく変わっていくのだと思う。前に前に進むために何が必要で何が要らないか。誰かが決めた不要不急なんてもう関係ない。見極めて削ぎ落して、やってきたのは諦めの悪い僕らの反逆のターン。「土壌に種を撒く、そして耕す」ってことはアルバムを通して、このツアーを通して、きっと何度も言ってきたことだと思う。何が実るかなんて掘り起こしてみないと分からないけど、ツアーを回ってきたことで04 Limited Sazabysと僕らの大収穫が明日の希望になったことは、あの場に居た人なら確信していると思う。前日2月15日のライブは感情を何度も持っていかれそうになりながらも、涙がこぼれ落ちないように上を向いてみんなで肩を組んで乗り越えたようなライブだった。そこに04 Limited Sazabysがいて良かったし、地元名古屋で彼らのライブがあって本当に良かったと何度も思った。

 しかし会場に到着すると少し異変を感じた。何故か今日のZepp Nagoyaでは日本のカルチャーのひとつであるヴィジュアル系の名曲たちが会場BGMとして流れていることがどうしても気になる。その瞬間に感じた予感が本物だったことは、BGMがX(現X JAPAN)の「Silent Jealpusy」のギターソロに差し掛かる直前のことだった。Zepp Nagoyaを包んだのは、優しさを孕みつつも破滅に向かう刹那を感じるピアノの音だった。歓声が静寂を切り裂くと、ステージに現れたのは「ネオ名古屋系」ともいえるヴィジュアル系バンド、La Vie en Crisisのパーシー北村、朧月影丸、ローズ石川、ダークオブ田中の4人。会場に緊張が走る。彼らは今回のツアーに「JAPAN TOUR 2023 ~FIGHTING ANGRY LOVE~」と名付けている。そのタイトル通り、彼らは今日、名曲「F.A.L」をなんと2回も披露してくれたのだ。この愛の深さ、戦う姿勢、さすがLa Vie en Crisisである。特筆すべきは彼らを形成しているものが90年代初期、2000年代、2010年代のそれぞれのヴィジュアル系要素を兼ね揃えていることだ。それは楽曲だけでなく、その容姿にも顕著に表れていて、まさに「ヴィジュアル・ショック」の名に相応しい存在感を放つパフォーマンスがZepp Nagoyaに華を咲かせた。La Vie en Crisisが演奏したのは「F.A.L」のみ。まさに瞬間の美学である。この後、今回のツアーのクロージングアクトとして登場した04 Limited SazabysはLa Vie en Crisisにとって運命共同体。クロージングアクトだと言っておきながら、ここから2時間弱ライブをした04 Limited Sazabysの気合いだって、しっかりとZepp Nagoyaに伝わったと思う。

名古屋公演2日目La Vie en Crisis(撮影=ヤオタケシ)

 冗談はここまでにして(いや冗談ではないけれど)いよいよ04 Limited Sazabysだ。前日の名古屋1日目の本編ラストは「Just」だったけれど、2日目である今日がその「Just」から始まった意味を考える。飲み込めない現実を知った前日。その現実は怖いし痛い。だけど、僕らは涙を飲み干してここからまた先に進まないといけない。昨日が今日になって、何も変わらないけど、何かを変えることが出来るのは自分自身だけだ。僕らはひとりじゃない。そこに04 Limited Sazabysがいる。留まるより先に行く。そんな僕らの決意表明なんじゃないかと思わせてくれるスタートダッシュに握った拳が固くなる。「Just」でも「climb」でも「ここまで来たら」という言葉をGENは発してる。そう、ここまで来たんだ。名古屋の小さなライブハウスから始まって、色んな経験をして、その経験を以てしても太刀打ちできない時期を経て、攻撃再開の狼煙が上がったのが「Harvest tour」なんだと思う。声が出せなくなった時期を超え、ライブハウスに鳴り響く本当の声。声が出せなかった時期があったからこそ「Chicken race」も特別に聴こえるから音楽って面白い。

 僕たちはきっとこれからも色んな困難にぶつかると思う。判断に間違うことだってあると思う。だけど何十回だって軌道修正出来るんだって「Jumper」で背中を押してくれるから何十回だって挑戦しようと思える。起きたことをなかったことにするには犠牲が大きすぎると思っていて、全てがあの頃に戻るっていうのだったら、亡くなった人がひとり残らず生き返らなきゃ元に戻ったなんて言えないと思う。だからこそ踏み出す1歩が大切で、それを04 Limited Sazabysは「新しい歩幅で進む」と歌う。この数年で僕らは新しい僕らになった。La Vie en Crisisのダークオブ田中がライブ中に「運命共同体」という言葉を口にしたけれど、本当にその通りなのだ。こんな時代を共有していて、そんな時代から愛と光を放とうとしている04 Limited Sazabysと僕たちは運命共同体そのものだ。

 「Galapagos II」から「Galapagos」への流れも嬉しかった。ライブハウスで当たり前に楽しむことを何処か後ろめたく思ってしまう時期もあったし、今でもライブハウスに行くことを隠さないといけない人だってまだいると思う。でも答えはきっとひとつで、自分で決めればいいんだと思う。僕と君と君と君は違う人だからああすればこうだとかそれもきっと違う。その違いを、人の数だけある違いを受け入れることがラブ&ピースの第一歩なのだ。誰かを意識し過ぎて自分の幸せを見逃したくない。そんなのちっとも面白くないし、そんなのとっても退屈だ。進行方向を見失ったって、混乱したって、ヒアウィーゴーで始めたらいいのだ。先頭を突っ走るのは04 Limited Sazabys。何処までだって着いていくから、何処までも連れてってくれ。

名古屋公演2日目(撮影=ヤオタケシ)

 「あなたに会いたい」と歌う「Letter」、「ずっと二人でいたい」と歌う「hug」、そして「君が好き」と歌う「Honey」を並べて聴くとスイートな印象も受けるけれど、愛を伝えることって、その前に現実を突きつけられたりもするから面白い。悲しまなくて良いし怖がらなくていい。そして泣いたって良い。最後に笑えたらそれで良い。昨日の今日で、じゃあどんなライブになるかなと思ったりもしたけれど、物語が戻れないなら進むだけなのだ。心配を安心に変えてくれたのは、ライブハウスで戦い抜いた04 Limited Sazabysだし、あの街この街のライブハウスだし、信じて足を運んでいるあなた自身だ。信じることって難しいかもしれないけど、それでもこのアルバムで、このツアーで、僕らが信じてきたのは爆音で鳴り続ける音楽を楽しむってことだ。音楽を止めないこと。「ベントマン」や「でえたらぼっち」との約束だ。「coco壱」を食べて元気100倍だ。何かあったら「近藤産興」が全部貸してくれる。今出てきたのはGENがステージで口にした名古屋企業やCMの一部であり、彼らに力を貸してくれる業種も超えた名古屋パワーだ。それもこれも04 Limited Sazabysの軌跡があってこそだ。足の向く方角へ走ろうとしたとき、沢山の仲間が並走していることに気付いて加速する。そうやってずっと走っていけたら最高だ。

 僕たちはヒーローをずっと追ってきた。それは04 Limited Sazabysだって一緒だと思う。追って追って辿り着いて、だけど近くなればなるほどその大きさに気付いて、憧れて、焦がれて、また追いかける。そういう存在がいることって人生を豊かにするものだと思う。そして今、04 Limited Sazabys自体が追われる立場となって、その下にまた新しい芽が出ようとしている。信じた未来、夢見た夢が溢れているのは、その芽が実った未来で04 Limited Sazabysが泳ぎ続けているからだ。未来に種を撒いた04 Limited Sazabysがこのツアーで収穫したもの。目に見えなくたって、そのリアリティはしっかりと受け取らせて貰った。「Harvest tour」全36公演、各地で芽生えたものが芽吹く2023年はまだまだ始まったばかりだ。さあ、次はYON FES。ヒアウィーゴー。【text by 柴山順次(2YOU MAGAZINE)】

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