高橋優「いずれ負ける日が来る...」“ever since
INTERVIEW

高橋優

「いずれ負ける日が来る...」“ever since"に込めた様々な想い


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年05月14日

読了時間:約11分

 高橋優が、4月16日に新曲「ever since」をリリースした。昨年メジャーデビュー10周年を迎え、同年10月に7th Album『PERSONALITY』発売し、11年目も「悟らずに転がり続けたい」と意欲を見せた。アルバムから約半年ぶりのリリースとなった「ever since」は、作詞家・コラムニスト・ラジオパーソナリティと幅広く活動する“独身のカリスマ“ことジェーン・スー氏の同名の著書(新潮社)が原作のテレビ東京 ドラマ24『生きるとか死ぬとか父親とか』オープニングテーマとして書き下ろされた曲。インタビューでは同曲の制作背景に迫るとともに、この曲のテーマになっている家族、そして結婚観について話を聞いた。【取材=村上順一】

一日を最愛の恋人のように愛してあげる

「ever since」ジャケ写

――SNSでその日の目標を掲げていますが、どんなきっかけがあったのでしょうか。

 一日が何も考えないとすぐに過ぎてしまうと思いました。人と話していても内容のない話であっという間に夜になっていることもあると思います。それが怖いなと思ったのがきっかけでした。一日を最愛の恋人のように愛してあげないとダメだなと思って、一日のテーマを考えるようになりました。中には“踊り明かす”とか変な目標を掲げてしまって達成できていない事も多いんですけど。

――このコロナ禍というのも関係しています?

 あります。僕は特に用事がなくても家族や友達に連絡を取ることがあって、それはすごく大事なことだと思っています。僕の歌を聴いてくれる方やSNSをフォローしてくれている方に「今日も高橋、元気にやってます」といったようなニュアンスもこの目標を発信することに含まれていて、みんなのリプライを見て「みんなも元気だな」と僕も安心するみたいな。

――お互いの生存確認みたいな感じですね。さて、4月16日に新曲「ever since」がリリースされました。今作は3拍子の楽曲なのですが、高橋さんが3拍子を書く時はどんなイメージがありますか。

 3拍子の曲というのはバラードでも、少し体を揺らせる感じのあるリズムだと思うんです。このドラマの曲を制作するにあたって打ち合わせをした時に、ドラマのスタッフの方々がバラードを求めているような印象があり、僕も台本を読ませて頂いてしっとりと歌うイメージがあったのですが、どこかしっくりこなかったんです。それがもしかしたら3拍子というリズムに結びついたのかも知れないです。

 でも、僕は曲を作る時に楽譜は書かないんです。レコーディングの時に1小節に音がいくつ入ってるとか判明するぐらいの感じで。今回はイントロのリフから出来ていったんですけど、なんかリズムが取りにくいなとは感じていました。デビュー曲の「素晴らしき日常」は6/8拍子なんですけど、当時もそのリズムの曲を作ろうと思っていたわけではなくて自然にそうなってしまって。このドラマの原作者であるジェーン・スーさんのラジオに出演させていただいたんですけど、この曲の感想に「ゆったりした曲だけど乗れるよね」と話して下さって。その言葉を聞いて自分もこの曲の完成形を見た感じがしました。

「ever since」に込めた想いとは

――今作の作詞作業はいかがでしたか。

 今回は先にメロディがあって、そこに詞を乗せて行きました。僕は家族とか大切な人に向けて書くというのはもともとそんなに得意ではないので、そこと向き合うのに時間は掛かりました。うわべだけを飾るような歌詞は書きたくないし...。実は最初もっと刺々しい歌詞でした。あなたのところに生まれたかったわけじゃない、というような言葉が連なっていて。それは一度振り切ってみようと思って、そこから紆余曲折して今の歌詞に落とし込んでいきました。

――そういうのは珍しいんですか。

 自分が思ってもいない一番キツい言葉を書いてみるというのは僕はよくやる手法なんです。ラブソングでも一度極論を書いてしまって、あとから「これは歌えないでしょ」というところをオブラートに包んだり、違う言葉に差し替えていく事もあって。2013年にリリースした「オナニー」とか、<いやはや馬鹿ばっかりだ>とオブラートに包まずそのまま出してしまった曲もあるんですけど、その辺りのバランス感覚はちゃんと探っていて、それも曲作りの楽しさでもあります。

――歌詞の変化を感じている部分はありますか。

 自分では気づいてはいないんですけど、曲を書く頻度はどんどん増していて、去年と今年で100曲ぐらいデモは作ったと思います。その中から昨年はアルバムとして15曲ぐらい皆さんに聴いてもらったんですけど。今の自分のモードとして、現在自分が思っている事、見た事などをとにかく書いていって、自分の傾向を知りたいと思っていて。それによっていま自分が書きたい事がそこからわかってくるんじゃないかなと。なので自分の変化というのはもう少し先にわかるんじゃないかなと思っています。

――それを知りたい自分もいて。

 そうなんです。もっと面白い歌詞を書きたいですし、自分の表現力を広げたいと思っていて。経験を積んでいくと思い込みだけでしゃべったり、仕事ってこういうもんだと決めつけてしまうのは嫌だなと。自分がなりたくない大人というのはわかった気になってしまう人で、そうならないためには工夫し続けなければいけないんです。例えば5歳児が言ったことにもショックを受けられるかどうか、例えば「子供ってどうやって生まれるの?」という問いに対してコウノトリが連れてくるといったような、どこかの誰かが考えた話をするのではなく、自分でしっかり考えて話してあげたいというのもあるんです。

――考えることが重要なんですね。さて、今作のタイトル「ever since」はどのような想いを込めてつけられたのでしょうか。

 「あの時は大変でしたね」と話せる人というのは貴重だと思うんです。歳を重ねて行く度にそういうことを話せる人はあまり多くないなと思いました。「ever since」というのは「あれからね」という意味で“since”だけよりも“ever”が付くことで強調されます。そう言い合える人のことを歌った曲で、その人を想像してほしいという想いがありました。

 あと、若い子たちに負けたくないという気持ちが僕にはすごくあります。前に22歳と18歳の姪と「暗記しりとり」をやったんですけど、脳のピークをとうに過ぎている僕が、脳が全盛期の姪に勝利することができたんです。いま脳トレもやっていて僕は20代と同じ脳年齢に留めているんですけどで、いずれ負ける日が来るという意味もこの「ever since」という言葉の意味にあると思います。

優しさが下手な人とは

――<あなたの背中が少し小さく見えた>というのがそれに当たるかも知れないですね。さて、歌詞の中でキーになった言葉はありましたか。

 どの言葉も言いたかったことで、フレーズ一つひとつが大事だと感じています。なのでどこかを取り出すのは難しいですね。しいて言うならAメロ、Bメロがこの曲を象徴的に物語っている気がしています。

――<優しい人だけど 優しさが下手な人>という言葉は興味深いです。

 器用に優しいことをしていたら優しいことに気がつかないと思いました。例えば学校の先生や用務員の方だったり。特に僕は用務員さんは学校の縁の下の力持ちだと思っていて、そのやってくれていたことをあまり知らずに卒業してしまうじゃないですか。僕が優しいなと感じる人は、優しくしようとして不器用になってしまっている人がそうだと思うことが多くて。僕の両親はとくにそういった感じで、優しくしようとするけどどこか空回っているような人なんです。

――ご両親とはどんなエピソードがあるんですか。

 クリスマスの出来事なんですけど、子どもにとってクリスマスプレゼントはすごく楽しみじゃないですか。僕が小学校2年生の時にゲームボーイをサンタさんに手紙でお願いしたんです。忘れもしない12月18日、父の車の助手席に乗った時にシフトレバーのところにプレゼント用に梱包されたゲームボーイが置いてあったんです。それで僕が「何であるの!」と聞いたら父が慌てながら「実はサンタクロースと友達でな...」と話し始めて。何でもおもちゃが多様化したことで、ゲームボーイがこれで合っているのか父のところに確認しに来たと言うんですよ。

――お父さん、考えましたね(笑)。

 そうなんです。「これはまだ優のものではないからあげられない」と冷や汗をかきながら話していたのをいまだに覚えています。でもそれは僕にサンタクロースの存在を信じさせ続けるための愛だと思います。でも、本当に優しい人ならそこにゲームボーイは置かなかったと思うんですけど、その優しさの下手さも悪いものではないなと思ったんです。家族なら誰でもあるようなエピソードや優しさとはというのもこの曲の一つのテーマになっています。

――そして<色んな人に出会うたび鏡のようさ 僕のなにもかもがあなたを写している>とあるんですけど、この言葉の真意は?

 僕は話していて鼻の下を触る癖があります。よく見ると父親もやっていたり、些細なことなんですけど、そんなところを受け継ぐなんて嫌だなと思うこともあると思うんです。ドラマの中でも血は争えないというシーンもあって、それは全人類そうなんじゃないかなと思うんですけど、それは自分では気づかなかったりして。鏡の要素をこの曲に盛り込みたかったのは、子どもから親へ向けて歌うというのもそうなんですけど、そこに限定せずどちらとも取れるようなものにしたかったんです。表裏一体という気持ちがここにはあります。

――このドラマには結婚の話題も出てくると思うんですけど、高橋さんは結婚についてどう考えていますか。

 「結婚は人生の墓場だ」という有名な言葉があるんですけど、僕もそれを信じている部分はあります。でも、結婚への憧れはずっとあります。僕の中で墓場というのはネガティヴではなくて、骨を埋める場所というニュアンスだと思っています。実際、そこが地獄だとは言ってはいないと思うんです。自分が骨を埋められるくらいの場所が出来るのであれば嬉しいなと。でもちょっと嫌なことがあって、例えば同級生で当時カッコ良かった人が結婚して幸せ太りしたり、どんどんオジサンになって行くんですけど、それは嫌なんです。僕は結婚してもそうはならないように頑張りたいなと思っていて。

――よく結婚されたり幸せになるとアーティストや芸人は丸くなって良くないみたいなことを聞きますが、それはあると思いますか。

 僕の周りでもそれで別れたカップルはいます。でも幸せになれたならそれはそれでいいと僕は思ってます。僕は音楽を作ることが幸せなんですけど、もし僕に食事を作ってくれる人が現れてそれが美味しくて幸せだったら、それはそれで良いかなと思っていて。もしそれで僕のファンの方から「高橋優は結婚して面白くない曲を書くようになったな」と、もし言われたとしても、それで良ければ僕の人生はハッピーなんです。

 僕と一緒に切磋琢磨していたミュージシャンで途中で諦めていった人たちが沢山いました。それは結婚した方が幸せ、何か違うことをする方が幸せだと感じたからだと思うんです。そういうこともあると思うので僕もレーベルの人たちに「僕が幸せになるために曲を書かなくなる日がいつかくるかもしれない」ということはいつも話しています。でも、僕がそういった事を話すと「これでまた面白い曲を書いてくるぞ」とみんな嬉しそうにするんですよ。

――なるほど(笑)。

 10年経っても良いのか悪いのかはわからないんですけど、作風は変わっていないので、結婚したとしてもあまり変わらない気はしています。最悪ですけど奥さんの悪口を書いたりするかも知れないですし(笑)。僕は日本武道館や、横浜アリーナでやった時もこれで成功したとは思えていないので、結婚しても変わらない気がしているんです。これは根深い問題ではあるんですけど。

――高橋さんにとっての成功とは?

 もちろん大きな会場で歌うことへの憧れはあります。でも、武道館もアリーナも幸せだと感じられるのは翌日の昼くらいまでです。僕は『秋田CARAVAN MUSIC FES』という音楽フェスをやらせてもらっていて、汗なのか涙なのかわからない液体が顔中を埋め尽くすくらい最高なんです。ライブが終わった後もライブの余韻をホテルのシャワールームで泣きながら幸せを噛み締めているくらい。でもすぐに反省点だったり来年の事を考えてしまいます。例えば今回の「ever since」も完成して幸せなんですけど、これからどうやって歌っていこうとか、ライブではどこに組み込もうなど次の課題が生まれてきてますから。

――さて、5月からツアー『ONE STROKE SHOW 2021 ~ NICE TO MEET U ~』も始まりますが、弾き語りツアーは初めてなんですよね。なぜ、このタイミングで弾き語りツアーを?

 ファンクラブではやったことはありましたけど、一般の方も観れるツアーというのは初めてです。僕の中で弾き語りというのは路上ライブのような親密な感じがあるので、ファンクラブの中だけでしかやっていなくて。でも今回はコロナ禍で声を出して盛り上がることも出来ないですし、だったら静かに聴ける弾き語りで全国を回ることに意味があると思いました。タイトルは『NICE TO MEET U』という“初めまして”というものにしているんですけど、今はこういう現状なのでライブに来る事が必ずしも正解ではないと思っています。もちろん来ていただけることはすごく嬉しいですけど、ライブに行かないという選択肢も一つの答えだと思います。でも会えたら精一杯歌を皆さんに届けたいと思っていますし、今回のライブに行かないと選択した方達にもいつか絶対届けるための大切な一歩だと思っているので、来てくれた人にも、行かないと決めた人たちにも「ありがとう」と言いたいです。

(おわり)

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