INTERVIEW

横山由依

もっと心の声に素直に。
笑顔に表れた変化。
「東京喜劇 熱海五郎一座」でドラム演奏に挑戦


記者:木村武雄

写真:

掲載:21年04月29日

読了時間:約8分

 「もちろんお客さんに楽しんで頂くのが一番ですが、私自身も楽しみたいです。私にとって大切な作品になると思います」

 5月30日に新橋演舞場で幕が上がる新橋演舞場シリーズ第7弾!! 東京喜劇 熱海五郎一座『Jazzy(じゃじぃ)なさくらは裏切りのハーモニー 〜日米爆笑保障条約〜』に出演する。舞台はこれまで何度も踏んできたが、喜劇は初めてだ。

 「三宅裕司さんが主宰されているSET(劇団スーパー・エキセントリック・シアター)の舞台を観させて頂きました。もう面白くて。劇場が一体になって笑いに包まれていました。出演者の一人としてそうした空間を体感できること自体、初めての経験になると思うので楽しみです」と新たな挑戦に期待を膨らませる。

 もともと昨年の同じ時期に上演される予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、稽古前に中止が決定した。しかし、いま見せる晴れやかな表情は1年越しに幕が上がるという期待感の表れでもある。

 「こうして上演されることが決まって本当に嬉しかったです。コロナ禍でAKB48の活動も、有観客での劇場公演やコンサートは難しい状況なので、みなさんともう一度モノづくりができるということの幸せを実感しています」

 そう語る表情は穏やか。何か満たされているようにも感じるが、それには理由がある。

横山由依

変化が表れた2019年

 2019年8月、埼玉県川越市内のコンサート会場のステージに立っていた。汗を流しながら爽やかな表情を見せている。何よりも楽しそうにパフォーマンスしている姿が印象的だった。

 この年の夏に開催された『AKB48全国ツアー2019〜楽しいばかりがAKB!〜』はAKB48としては4年ぶりの全国ツアー。横山としては総監督を向井地美音にバトンタッチして迎える初めてのコンサートだった。

 「確かに、何も考えずに楽しめている自分がいました。素で楽しんでいるような。肩の荷が下りた感じだったかもしれません。『楽しい』ということが分からなくなるときってないですか?やりたい仕事をしているのに、いっぱいいっぱいになって余裕がなくなるとか。当時はそれが解けた感じでした」

 いま振り返れば、「横山由依」はこの頃から変わり始めていた。翌年3月に、「自分自身を発信したい」とYouTubeチャンネル「Yuihan Life」を開設した。開設から2カ月が経った当時、本媒体の取材にこう語っていた。

 「もっと自分を知りたい、発信していきたいと思い、始めて約2カ月です。いつのまにか深く掘り下げることをやめていた自分が、好きなことに少しずつ触れていけていると思います」

 このチャンネルで様々な自分の姿を発信した。大嫌いだったファッションにも興味を持つようになった。自分を発信することを通じて新たな自分を発見していた。

横山由依

もっと素直に、視野を広げて

 「もっと心の声に素直になって、やりたいと思うことに挑戦していきたい」

 この1年で変わった考えだ。

 「今までは、何にしても一つに絞らないとだめだと思っていました。考え方も、ひとつこう思ったらずっと思っていて。AKB48ですと、リーダー(総監督)としてこうしなきゃいけないんじゃないかとか。でも出演した舞台でいろんな方と話す中で、いろいろな考えがあっていいんだと思えるようになりました。趣味はなかったけど最近はフィルムカメラを始めました。初めは楽しいという感じだけでしたが、こういうふうに撮られるのがいいのかなとか、逆に学ぶこともありました。何かを始めることでいろんなものが見えるようになってきています」

 そんな横山の「私らしさ」とは。

 「私らしさ…。そう聞かれて答えがなかなか出てこないけど、一つじゃなくていいのかなって思う。楽しいと思えることをやれたらいいなって。その時に感じたり、やりたいと思ったことを少しずつ集めていって、それが自分になっていくのかなと思います」

 そう積み重ねたもののなかに、本作の喜劇がある。

 「お声がけいただいたのもすごく嬉しいですし、何がきっかけか分からないですけど、いろいろなチャンスや仕事をいただけているのを、一個一個楽しんでやっていくなかで得るものがすごく多いと思っています。この舞台もすごく楽しみです」

横山由依

音楽の楽しさを実感、12年ぶりドラム演奏

 本作の舞台は、第二次世界大戦後の米サンフランシスコ。「もし日本が勝ったら」を仮定し、アメリカで実施されていく日本化計画のなかで演歌や歌謡曲を強制される日系アメリカ人ジャズバンド「ツインズ」の姿を描く。横山が演じるのはそのジャズバンドのドラマーだ。

 「通常の舞台よりも2倍大変だと思っています(笑)。日系アメリカ人の役なので、どこまで自分で考えていけるかというのもあります。それとジャズバンドなので、バンドの仲間がいるというのは自分と重なる部分でもあるので、そこから役に寄っていけたらと思っています」

 劇中で、演奏を披露する場面もある。横山自身は小学生までドラムを習っていた過去がある。「エレクトーンはすぐに飽きちゃったんですけど、ドラムは続けられて」。ただ、ドラムを披露するのは12年ぶりだ。今は練習に励んでいる。

 「昔やっていた叩き方とジャズの叩き方は違うので難しいです。三宅さんがスティックの持ち方を教えてくださって。リズムや叩き方も実際にやって教えて下さるので、心強いです。昔は強く叩くことを意識していましたけど、ジャズは緩急や抑揚があるのでそこが課題です。本番までに仕上げて、本番中も楽しみながら演奏したいと思います」

 三宅は、横山の印象を「総監督だったから全体を見渡せる視野があるので期待したい」と話していた。バンドの要であるドラム。それを演じる横山への期待の高さがうかがえる。

 そんな横山に自身を「楽器」で例えてもらった。

 「私は…興味がいろいろとあるので、ドラムです」

 その心は?

 「ドラムは、スネアやハイアット、シンバルなど様々なパーツがあるので、そういう意味でのドラムです!」

 多趣味とパーツの多さをかけてといた。そのドラムとは相性が良いという。

 「久しぶりにドラムを叩くきっかけをくれたことに感謝ですし、音楽は楽しいと思っています。バンドの練習で、私が何となく叩いたら、ピアノが入ってきて、そのうちギターも入ってきてセッションになって。そういうのが楽しいなって。お芝居もそれに似たようなところがあるので、楽しみたいです」

横山由依

コメディエンヌの道

 そんな横山に舞台は自身にとってどういう存在かを聞いた。

 「一つのモノを作るというのがとても好きで、今回は特に、芸能界としても人生としても大先輩の方々とやらせていただけるので勉強の毎日です。舞台をやると自分ができないこととか悔しい思いをたくさんするんです。それを、稽古を重ねて解消したり、本番のなかで変えていったり、教えていただいたりして改善していくんです。今回は私にとって初めての喜劇なので、とても大切なお芝居になると思います」

――不安とワクワク感が入り混じっているような?

 「ワクワク感のほうが強いです。昨年行われていたら不安や緊張が勝っていたと思います。コロナ禍でいろんな事を考えたりする中で、舞台を観に行ったりコメディを観たりいろんなエンターテインメントに触れる事ができました。そこで思ったのは、みなさんその時にできる最大限をやられているということ。今までは、それ以上の事をやらないといけないと構え過ぎた結果、なにもできないとか、自分の実力以下のものになってしまうこともありました。舞台に立てることが幸せなので、そこで何を残していけるのかというのをしっかり一回一回やっていきたいので、不安というより楽しんでやれたらいいなと思います」

――そこで、ためらうこともあった?

 「ためらうというか、できないと思い込んじゃってできないみたいな。グループの中でも緊張しすぎて練習してきたことができないことがありました。でも、もうそういうのからは卒業して、皆さんと一緒に良いモノを作りたいという気持ちで挑めたらなと思います」

――過去に取材で「一緒に作る過程で楽しさや面白くなる瞬間が好き」と言っていましたが、まさに今回の喜劇はあてはまる?

 「三宅さんは、やりながら変えていくっておっしゃっていて、ほかの舞台でもちょっとした変更はありますが、ギャグ自体を変えるってすごい大きな事じゃないですか。私自身も経験がないので、日々お客さんの反応で変っていくんだろうなと思いますし、直に反応を受けるので、楽しみですけど、私が笑いに関わるシーンでどういう反応になるのかドキドキしています(笑)」

――そういう横山さんの姿を見てAKB48のメンバーが刺激を受けてくれたらいいですね。

 「そうなれるように頑張りたいです。それと、もっと個人でも活躍できたらいいなって」

――演劇部というのを作りたいとも言っていましたね。

 「お芝居が好きなので、そういうのもできたらいいですね!これを機にコメディができる女優になりたいです。笑いの間とかも勉強させていただきながら、実践という感じでやっていきたいです」

横山由依

【取材・撮影=木村武雄】

【取材協力】
ヘアメイク:大場聡美
スタイリング:林峻之

(おわり)

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