INTERVIEW

前田敦子

充実の役者人生。過去の自分に言ってあげたい「変わらずそのままだよ」。
『死神さん』南川メイ役


記者:木村武雄

写真:冨田味我

掲載:21年09月28日

読了時間:約7分

 前田敦子がHuluオリジナル「死神さん」(Huluで独占配信中/毎週金曜、新エピソード配信<全6話>)に出演する。大倉崇裕氏の同名小説を原作にした痛快ミステリードラマ。“死神”と呼ばれる再捜査専門のクセモノ刑事・儀藤堅忍(田中圭)が、事件ごとに相棒を替えながら冤罪事件を再捜査し、徹底的かつ真摯に真実を明らかにしていく。前田が演じるのはドラマオリジナルキャラクターで儀藤の“連絡係”として捜査をサポートする、広報課所属の巡査長の南川メイ。儀藤が選んだ相棒の元に突然現れてSっ気のある言動で困らせたり、視聴者に向かって語りかけたりと儀藤に負けず劣らずの濃いキャラクター性を持つほか、ストーリーテラーの役割も担うなど重要な役どころだ。堤幸彦監督から「頼るべき役者」と全幅の信頼を受ける前田敦子はどのように演じたのか。そして、30代という節目を迎え新たなスタートを切った彼女の今の心境とは。【取材=木村武雄/撮影=冨田味我】

(C)HJホールディングス

儀藤とのアンバランス意識

――堤監督作は過去にも出られていますが、臨む前に楽しみにしていたことはありますか。

 堤監督とは仲良くさせて頂いているので、現場ではずっと話していました。いつも明確なものを持っていらっしゃるので、自分でどうこう考えていくよりかは、監督の指示にいかに応え、乗れるかが一番大事だと思っています。今回も役作りをせず、その場で監督が無茶ぶりしてくることを上手くキャッチできるように頑張りました。監督の無茶ぶりはとても多いので、監督の楽しんでいることにどこまで乗っかれるかが大事です。監督は楽しんで演出されているので、それを楽しめないと、損をする現場だと思います。

――かなり濃いキャラクターですが、演じるのにあたって意識した点は。

 メイのキャラクターは、演じる時に躊躇すると観ている方も恥ずかしくなると思いましたので、まず声を大きく出すことを意識しました。周りを気にしないで喋る人物で自分を貫き通すという部分も含め、声量の部分ではボソボソと話す儀藤と真逆に行った方がいいと思いました。2人の会話が成立しているようで、成立していないアンバランスさが台本でも巧妙に描かれていましたので、それをうまく表現できるように意識しました。セリフ自体が、普通ではなかったですし、真顔ではついていけるようなものでもなかったので、不自然にならない程度で大げさにやるのがちょうどいいかなと思い、その辺のバランスも考えました。

――役に入れた、手ごたえを掴んだ瞬間はありましたか。

 一人で喋るシーンから一気に撮っていきました。その時に、監督からアドバイスを頂いたので「ここまでやっていいのか」というバランスは早い段階で掴めました。

――改めて堤監督作に出演してどう思いますか。

 堤監督のもとでは、「私こんなんでいいのかな」と思うぐらい等身大、普通ではないキャラクターしか演じたことがなくて(笑)。それは自分のなかでは違和感がありますが、ある意味、新しい自分を作ってもらえているとも思えて。「普通のいい女の子をやって下さい」というよりかは、ちょっと癖のある役を演じる方が楽しいと感じています。

冨田味我

変化のはじまりは3年前

――最近は雑誌などで、30歳という節目、そして転機を迎えた心境を語られていますが、2019年公開の映画『旅のおわり世界のはじまり』を改めて観た時に、変化はこの時から始まっていたのではないかと思いました。

 そう言って頂けて嬉しいです。その撮影で1カ月ちょっと海外に行き、黒沢清監督と過ごしたのは相当な経験になりました。その頃の心情がちょうど、あの映画の話と色々とマッチしていました。帰国して結婚して、出産して、そして公開という感じでしたので、独身最後の作品でもありますし、すぐにではないにしても「帰ったら結婚するんだろうな」とどこかで思っていました。そういう意味も含めて色んなものが重なった瞬間があの映画の撮影にはあって、「あの時から変化が起きていた?」と言われたら、そうかもしれないです。意識したことはありませんでしたが、いま気づきました。

――テレビ番組の取材のためウズベキスタンに訪れた前田さん演じる女性レポーターが現地の文化に触れながら成長していく姿を描いていますが、言葉が通じない孤独感などリアルに描かれていましたので、その経験は大きかったのではないかと。

 実は…ウズベキスタンは本当に良い人ばかりで、しかもみなさん日本語がお上手なんですよ。だから日本語だけでも暮らしていけるくらい困った事は一つもなくて…(笑)。どちらかというと、監督がその孤独感を出そうと意図して不安な環境を作ったり、英語も片言で喋ってほしいと言われて。なので、その意図がうまく伝わったようなので良かったと思います(笑)。

――そうだったのですね(笑)。そう思うと監督の意図もそうですが、改めて前田さんの演技力の高さを感じました。

 そう言って下さって嬉しいです(笑)。

前田敦子

空気感を一番大事に

――堤監督作の出演作には『イニシエーション・ラブ』もありますが、前田さんの芝居を観ているとナチュラルというか、良い意味で無邪気さや無垢さがあるように思えます。普段、演じる時に気を付けていること、あるいは現場から離れた時に心がけていることはありますか。

 私は、特にオンもオフもないので、あまり考えすぎない事が一番良いのかなと思います。私の場合お芝居しているなかで、準備しすぎて良いことはないんです。ガチガチに固めていくと、一緒にお芝居している方が見えなくなります。せっかく2人でキャッチボールするはずが独りよがりになってしまうのは、とってももったいない事だと思いますので、セリフを丸暗記すること以外はやらないようにしています。後は、監督が言う事に、どこまで付いて行けるかが、一番大事だと思っているので、特にオンオフを作らないようにしています。本当にそのまんまです。

――役に引っ張られることもないんですね。

 ないです。ガッと集中したほうが、特にシリアスなシーンは成立しやすいと思います。お芝居の現場はちょっと物足りなかったかなぐらいの方がちょうど良かったりするんですよね。じゃないと、本当に独りよがりになってしまって、自分勝手な人みたいになってしまうので。その場での空気感を一番大事にしようと思っています。

――そう思えたのは、AKB48在籍時も含め割と早い段階から芝居をする機会があったからですか?

 若い頃に「反省点」を経験してきたからこそなのかなと思います。時間のない中で作品にも参加させて頂いていたので、当時はそれが私にとってはネックでした。今は時間があるからこそ、しっかり向き合えますし、怒涛の日々のなかでお芝居もしていたという経験があるからこそ今があるのかなと思います。だから卒業しようとたぶん思ったんでしょうし、その時に思ったことを、後悔のないようにと今はずっと思いながらやっています。

――卒業スピーチでは、不安もいっぱいあると話されていました。でも、新しい挑戦を続けるというのは当時から一貫しています。当時の「私」に声をかけるなら?

 その頃から、とりあえずやってみようという気持ちは変わっていないです。私はずっとそうなんだろうなって思います。いま事務所も独立して第二の卒業をしましたが、当時の私に声をかけるなら「変わらずそのままだよ、良かったね」と言いたいです。

前田敦子

子供から学び

――それと多くのインタビュー記事の文脈からは感じるのは、前田さんはすごく良いママということで、お子さんを現場に連れて行ったりととても良い経験をさせていると思います。

 それは本当に一番の英才教育だなと思います。子供が現場でどんどん吸収して、一緒に帰っていく姿を小さい頃から見ているので。どこに行っても全然躊躇がないんです。誰にでも「遊ぼう!遊ぼう!」とやっている姿を見ていると私も勉強になります。「そうだよな、こうやって人の輪にポンって入っていけば、入られた側って嬉しいよな」って。大人になると、お互い探り探りになって、もっと早く打ち解けたはずなのに、それがなかなか出来なくなっていくと思うんです。自分の子供を見ていると、それがないんですよね。それこそ時間がもったいないって、こうやって生きられたらもっと物事がスムーズになるだろうな、ということを最近子供から教えてもらっています。

――ご自身も現場に入る時は積極的に?

 いま個人事務所で一人でやっていますので、現場にも一人で行くことが多いんです。この間も舞台を4カ月間ほどやらせて頂きましたが、現場の送り迎え以外はほぼ一人でした。なのでコミュニケーションは、入れるところからポン、ポン、ポンと入っていくのが一番だなって思いました。

――初めは、孤独を感じるかもしれないですね。

 でも、みなさん同じような感じでいらっしゃるので、誰がそれを最初にやれるか、ということなんです。一人がそうなれると、みんなが一気に輪になって、家族みたいになっていきます。そこまでに至るまでのもったいない時間を、違うことに使うようにしたいと思っていて、そうなれるようにいま頑張っています。

(おわり)

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