アコギを伴奏したつんく♂

 【取材雑感】ミュージシャンのつんく♂が4月3日に、都内でおこなわれた、クミコ with 風街レビューのライブに出演した。クミコが歌う楽曲「砂時計」を、つんく♂はアコースティックギターを演奏、コーラスを歌うように大きく口を開けていた姿が印象的だった。

 クミコ with 風街レビューは、歌手のクミコと音楽家の松本隆、そして、気鋭のソングライター達によるプロジェクト。昨年9月に松本が作詞、シンガーソングライターの秦基博が作曲した第1弾シングル「さみしいときは恋歌を歌って」をリリース。この日披露した「砂時計」はその第2弾で、作詞を松本、作曲をつんく♂が担当している。

 このイベントは「砂時計」の発売を記念しておこなわれたもので、クミコは全11曲を歌い上げ、そのアンコールで「砂時計」を初披露した。

 そのアンコールでは、クミコがまず、会場で観覧していた松本をステージ上に呼び込み、さらにこの日来場したつんく♂がステージに上がった。つんく♂は、黒いセットアップにクリーム色のスカーフを巻き登場。

 つんく♂は2014年に喉頭がんの手術のため、声帯を摘出。以来、声を失っている。この日は、つんく♂がノートブック型パソコンに言葉を打ち込み、それをタブレット端末で受け取ったクミコが代弁する形で“会話”がおこなわれた。松本は「僕が話すより早いですからね…考え込んでぼそぼそ話すんで(笑)」と冗談を交えながら、3人での“会話”は和やかな雰囲気だった。

 そして「砂時計」を観客の前で初披露。つんく♂は赤いアコースティックギターを抱え、アルペジオを爪弾き、サビではギターをかき鳴らした。このなかで、コーラスを歌うように大きく口を開けていた姿が印象的だった。

 もしかしたら、僅からながらも声が出ていたのかもしれないが、ステージから数十メートル離れていた、記者席からは歌声を聞き取ることはできなかった。しかし、その姿からは本当に音楽を心から楽しんでいるようだった。そして、そこには力強さも同居していた。

 つんく♂は、口や鼻から取り込んだ空気を逆流させ、食道入り口の粘膜のヒダを声門の代わりに振動させて発声するという食道発声法の訓練中で、関係者によると「小さな声は出せるようになりつつある」ようだ。4月1日には母校である大阪・近畿大学で同校の校歌の合唱に参加、大きく口を開け歌うようにギターを弾いていたという。

 松本もクミコも、つんく♂とまた仕事をしたいと希望を語っていた。そのつんく♂の音楽活動は変わらず活発で、術後も楽曲提供などをおこなっている。昨年には小室哲哉とも、作詞でNHKの音楽番組『J-MELO』のテーマソングを共作している。

 その小室は、同テーマソングの発表会見時、つんく♂を「一回りも二回りも大きくなっている。空気感だけで大きくなっていることを感じる。日々の生活のなかでも愛というテーマは常に彼のなかにはあると思う。愛のオーラが出ている」と語っていた。

 新たに目標を掲げて邁進する彼の芯の強さに改めて敬服した。(取材=松尾模糊)

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