俳優の大杉漣(本名=大杉孝)さんが21日、急性心不全のため66歳で急逝した。亡くなる直前まで、現在放送中のテレビ東京のドラマ『バイプレイヤーズ 〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら〜』の撮影に参加。突然の訃報に業界問わず多くの関係者や、ファンからその死を悼む声が聞かれている。

 大杉漣さんは、舞台俳優を経て1993年に北野武監督の『ソナチネ』に出演して以来、北野作品には欠かせない俳優として活躍。以後、SABU監督、周防正行監督、黒沢清監督、三池崇史監督らの作品など多くの映画、テレビドラマへ出演しその名を知られるようになった。1999年には、『ブルーリボン賞』で「助演男優賞」を受賞するなど、数多くの日本映画界での賞も受賞している。

 学校長からヤクザ、心優しい人物からサイコパスまで幅広い役柄を演じ、『バイプレイヤーズ』でも共演した田口トモロヲ、松重豊、光石研、遠藤憲一などとともにまさに“バイプレーヤー”、名脇役の牽引的存在として日本の演劇界をリードしてきた。そんな大杉さんの芸名は、大のフォーク好きで知られる彼が敬愛するフォークシンガーの高田渡さんの長男でマルチ弦楽器奏者・高田漣の名から拝借したもの。

 大杉さんは1998年に、俳優仲間である大森南朋、田中要次と組んだ「大杉漣バンド」をきっかけとして音楽活動もおこなっている。2001年からは出身地の徳島で定期的にライブを開催、1月21日にも徳島・阿波市のアエルワホールでコンサートをおこなっていた。2007年のライブはDVD『FURIDASHI LIVE!』としてリリースされている。ここではBOROの「大阪で生まれた女」や、泉谷しげるの「白雪姫の毒リンゴ」など往年のフォークソングの名曲が歌われている。その歌声は味わい深く、奏でるブルースハープも哀愁を感じさせて彼の音楽愛がにじみ出ていているようだ。

 大杉さんが出演する連続ドラマとしては遺作となった『バイプレイヤーズ 〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら〜』。テレビ東京が“朝の連続ドラマ(朝ドラ)”『しまっこさん』を制作することになったという設定で大杉さん、田口トモロヲ、松重豊、光石研、遠藤憲一が本人役で出演。離島での撮影という設定で、5人の島での共同生活中のドタバタ劇と、毎回迎える豪華ゲスト俳優との共演が見どころ。オープニング曲「Fin」をロックバンド10-FEETが、エンディング曲「ゴミ箱から、ブルース」を竹原ピストルが歌う。

 昨年放送された、シリーズ第1作『バイプレイヤーズ 〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』でもOP曲「ヒトリセカイ」、ED曲「Forever Young」を、ともに同2組が担当していた。大杉さんが今月18日まで更新していた公式ブログでは、昨年12月に竹原ピストルのライブに訪れたという大杉さんが「ひとりステージに立つ彼の姿、生きることと歌が寄り添うように、その言葉たちが 刺さるようでした」とそのステージについて綴っている。竹原ピストルは大杉さんの訃報を受け、公式ブログで「ご冥福をお祈り致します。」というタイトルで彼への想いを綴っている。

 また、今月10日にはドラマ撮影現場に10-FEETが訪れたことも記されており、大杉さんはメンバーとともに撮影した写真とともに「バンド結成20年。とてもいい時間でした!!」と彼らの訪問を喜んでいる様子が窺えた。10-FEETのTAKUMA(Vo、Gt)は大杉さんの訃報を受け、冥福を祈るとともに当日を振り返り、Twitterで「先日ドラマの撮影でご一緒した際、慣れない僕らを終始気遣ってくれました。撮影中は“ヒトリセカイ”をずっと口ずさんでくれていました。親戚の叔父さんの様な親しみで包んでくれました」と大杉さんとのエピソードを明かしている。

 テレビ東京によると『バイプレイヤーズ 〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら〜』の残る第4話、第5話(最終回)の放送について、遺族、事務所、キャストからの理解を得て、予定通り放送することを決定したという。

 21日の放送ではカラオケのシーンで「Forever Young」を熱唱したり、酒の席でギターを手にした大杉さんの姿がとても印象的だった。残りの2回で彼が俳優として人生最後の演技をどのように演じたのか、そしてドラマを彩るOP曲とED曲を併せて楽しむことが大杉さんの役者人生に対する最高の弔いとなるのではないだろうか。

 心より大杉漣さんのご冥福をお祈りします。【松尾模糊】

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