アナログ盤ならではの苦労、試行錯誤から生まれたマスタリング
12日にNHK-FMで放送された『今日は一日“アナログ・レコード”三昧』は、アナログレコードファンには興味深い内容だった。番組前半のMCにLittle Glee Monsterのmanaka、後半のMCにGLIM SPANKYの松尾レミと亀本寛貴を招き、ゲストお気に入りのレコード、貴重盤、名盤、珍盤を高音質で再生しながら、12時15分から22時45分まで約10時間に渡って放送するという企画で、様々なエピソードと音楽が送られた。
番組後半の19時台でゲストとして登場した、日本を代表するマスタリングエンジニアの小鐵徹氏の話は非常に興味深かった。
日本でマスタリングという概念が生まれたという点では、同氏曰く、海外盤と日本盤でのレコードの音の違いから始まったという。なぜ同じソースで音が違うのか、海外ではレコードの溝を生成、カッティングする時にエンジニアだけでなく、アーティストも参加し音を調整しているという情報から、日本でも見よう見まねで始まったと話す。
確かに海外盤と日本盤で音が違うとは良く耳にする話題ではあったが、「そういうことだったのか」と目から鱗が落ちる話だった。
そして、山下達郎の1980年リリースの「RIDE ON TIME」でのカッティングの苦労話も興味深かった。関係者から有線などで掛かった際に他の楽曲に音量で見劣りしないようにと、音量レベルを上げて欲しいとの注文が入ったという。
レコードの音量を上げるには溝を太くしなくてはならないが、収録時間が限られているレコードでは簡単なことではないと話す。しかもある一箇所のドラムのタムタムのところだけ溝が大きくなり、針飛びを起こしてしまうという。全体の音量を下げればクリアできるが、この音量は下げたくないと試行錯誤を繰り返し、その箇所のみリミッター(音のピークを抑える機器)を使用し、理想の音量で収録出来たというエピソードには、現在にはない大変さが垣間見れた。
一発勝負のカッティングでその部分だけリミッターを掛ける緊張感は、デジタルが主流の現在ではなかなか体験出来ないだろう。常にカッコイイ音を目指していると話す小鐵氏。日本の音響の歴史が聞けた感慨深い番組だった。【村上順一】
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