アイスランドのシンガーソングライター・ビョークが11月30日、都内でおこなわれた「KIMONO ROBOTO」ライブインタビューに生中継で参加。最新ミュージックビデオで日本の着物を着た経緯や日本のファッションについてインタビューに応じた。
「KIMONO ROBOTO」は、マカオで統合リゾートを運営するメルコ・リゾーツ&エンターテインメントがプロデュースする、日本の伝統文化に刺激を受けた世界的アーティストによる「着物×ロボット」のエキシビジョン。全国各地に残る伝統的織物技術を用い、人間国宝や皇室ご用達の着物作家など日本を代表する職人たちの手による13点の着物のコレクションが一堂に並ぶ。そして、現代写真家のピーター・リンドバーグ氏などが写真でその着物を用いた作品を展開している。
ビョークは11月24日に発売した最新アルバム『ユートピア』の表題曲のミュージックビデオでエキシビジョンのメインの展示物である、2年の歳月をかけてをかけて製作した着物を着用している。このMVのフルバージョンが観れるのは、世界に先駆けここだけとなる。エキシビジョンは12月1日から10日まで、表参道ヒルズ本館B3Fスペース オーで開催される。
今回のプロジェクトや日本への特別な想いなどを以下のように語った。
テクノロジーも伝統も根幹は同じ
――なぜこの「KIMONO ROBOTO」プロジェクトに参加したのでしょうか?
このプロジェクトのお話を頂いた時、とても嬉しかったです。着物は以前から着ていましたし、色んな巡り合わせでこのコラボレートが実現したと思っています。共通の愛情が生み出した結果です。
――「ユートピア」の発想はどこから来たのですか。
このアルバムは2年半前から制作に取り掛かっていました。「ユートピア」というテーマは自分がリハーサルだったり、スタジオなど音楽活動をおこなう中で常に考えていた、鳥が飛んだり植物が生い茂っている自然の美しい世界を実現しようと思って作った曲です。
――常に最新のテクノロジーを用い音楽を表現してきたと思いますが、ビョークさんにとって「伝統」とはどのようなものですか。
テクノロジーは、2つのギリシャ語、芸術や工芸や手法を意味する「Techne」と、 言葉や対話や知識を意味する「Logos」が含まれています。英語で言うと「Techne」は“Craft”ですね。日本語で同じ解釈ができるのかは分かりませんが、私の中では古代のものも、最新のものもテクノロジーとして捉えています。私はテクノビーツや最新のプログラミングを多用していますが、古代の伝統とモダンな伝統、どちらも“Craft”として認識しています。
――今回のロボットのように、最新のテクノロジーが伝統的な文化に寄与できると思いますか。
このプロジェクトのイメージを頂いた時、とてもインスピレーションを受けました。男性が畑を耕しているシーンなどにとても力強い印象を受けました。私は伝統というものはタイムレスなものだと思っています。ヴァイオリンの楽器なども美しい音を奏でるまでとても時間がかかりますが、普遍的に深みのある音色を発する物だと思います。テクノロジーがどんなに進んでも、私たちには人間が話す前から発していた声という音があります。
私はその声をベースに色んな音をテクノロジーも含めて、一つの素晴らしい楽曲に仕上げていくことを考えています。それは、着物も同じだと思います。素晴らしい技術とロボットの融合は革新的で、“Craft”は敵同士ではなくて味方だと感じています。
日本でアニメを学ぼうと思った時期も
――独特のスタイルで音楽を発信しているビョークさんですが、日本のファッションについてはどう思いますか?
日本とはすごく昔から縁があると思っています。80年代から日本には来ていますし、18歳の時には日本のアニメーションの学校に進学しようと思ったこともありました。最終的には音楽の道を進むことになりましたが(笑)。
日本のファッションはとても好きです。『コムデギャルソン』は大好きなブランドです。このマスクやMVも日本からインスピレーションを受けています。仏教の日本への伝来も、アイスランドへのキリスト教伝来もどちらもそれを拒むのではなく、受け入れて融合していった過程にとてもシンパシーを感じます。人間の自然な道のりではなかったのかと。
国だけではなく、人間も同じで自然と融合できると信じています。そういう意味で、日本はとても尊敬できる国です。いつも近くに日本を感じております。
――またすぐに日本においでになることを願っています。このプロジェクトでどのような刺激を受けましたか?
今回のMVでは美しい着物を着させて頂きました。パターンや技術がより良く見えるように気を使いました。ユートピアをモチーフにしているのでメイクもそれを意識しています。ある島に人間と鳥と植物が融合したハイブリットな生物が存在する…そういう世界観を表現したかったのです。
鳥の羽や、フルーツなどの要素をふんだんに取り入れたハイブリットなミュータントを想像してそこに着物を足して、新しい世界観と伝統的な織物を掛け合わせて作りました。
――最後に日本のファンにメッセージを。
メリークリスマス! 日本の皆さんには伝統の日本の技術をもっと楽しんで欲しいです。自分たちがここまでその技術を革新的に飛躍させて来たことを誇りに思って下さい。これからもその革新的な技術の進歩を望んでいます。
【取材・撮影=松尾模糊】